2020
■HELLO, NEW WORLD!
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4月1日、公立向島大学では入学式が執り行われる。今日が入学式で明日はガイダンス、そして明後日に健康診断と履修登録がある。新入生はこの3日間で粗方の準備を済ませ、来週月曜日から本格的な大学生活を始めるのだそうだ。そしてその3日間で在校生のやることは、学業、バイトと並んで大学生活の一角と言えるサークルへの新入生勧誘活動だ。
放送サークルMMP、向島メディアパークもその例外でなくメンバー総出でビラ配りをする。入学式を行っている建物の前には同じ目的の在校生が大量に押し寄せていて、戦いの空気を感じる。来る者は程よく選び、去る者は追わないなどとこれまでの年度のようなことは言っていられないので、真面目にやりましょうという話になっていた。
「やァー、完全に出遅れヤしたわァー」
「この人混みの中に割り入るのもなかなか難しそうですね。土田さん、どうします? これは場所の変更なども視野に入れた方がいいのでは」
「ノサカが紙切るん遅かったから場所取れんかったやん」
「裁断機すら使えなかったヒロに言われる意味がわからない」
「野坂先輩ヒロ先輩ッ、仲良くしてくださいッ」
MMPは3年生が4人、2年生が1人の5人で活動している。今期の勧誘目標としては、4年生の先輩が3人いらっしゃったのでせめて同じ3人は取りたいということ。ただ、それだと来年度が割と真面目にヤバいので、3人で満足せずに攻めようという話でまとまった。他にもパートの話とか、細かいことはあるけど今はとりあえず入ってもらうことが最優先だ。
放送サークルは具体的に言うとラジオ放送の制作・放送を行っている。食堂で昼放送を流させてもらったり、他大学の同じ放送系団体さんとの交流や、一般の方に向けた番組を行う機会を設けての活動が主な所だろうか。番組のテイストとしては一般的なラジオ番組に近いかもしれない。トークと音楽を中心に娯楽を届けると言えば聞こえはいいだろう。
このサークルを束ねるのが代表の土田律。1年の頃から謎の貫禄があったけど、今では学年相応の落ち着きになった。総務が自称ウザい界のアイドル、神崎耕太。総務の仕事は油断すると悪ふざけに走りがちなMMPメンバーへのツッコミが基本だ。サークルの財政を握る会計が佐久間ヒロ。だけど、とにかく自由で緩いので、会計の仕事は金に細かいこーたが実質的に担っている。機材管理担当が俺、野坂雅史。その名の通り機材の管理が仕事。この3年4人と書記の2年生、岡島奈々の5人が現在のメンバーだ。
「あの、りっちゃん先輩ッ」
「どーしヤしたか奈々」
「あのですね、あの伝説のヤツをうちもやってみたかったんですけど、先輩たちにも付き合ってもらっていっすか」
「伝説のヤツ? ってーと、どれスかね」
「“ゲッティングガール☆プロジェクト”の号令っす!」
「う、うわ~、出た~、誰得プロジェクト~」
「何でですか野坂先輩ッ! 春風の似合うぽわぽわして可愛い女子はやっぱり必要ですよッ」
「いらねー……そんなモン探すとか時間と労力の無駄でしかない」
「野坂、今の菜月先輩に密告しときヤすわ」
「やめろ律!」
「確かにデジャヴではあるんですがねえ」
“ゲッティング☆ガールプロジェクト”というのは去年行われたMMPの新入生勧誘方針を示したプロジェクト名だ。その名の通り、女子に狙い撃って勧誘を行ったのだけど、その結果は惨敗。今年はとにかく人数を入れる方針だというのは先述の通り。ちなみに、向島大学は男子の方が多い大学なので「春風の似合うぽわぽわして癒される可愛い女子」なんかがそう都合よく現れるはずもなく。だからイケメンを獲りに行こうって言ってたのに。
「いいかい奈々~、今年はゲッティングガールとかじゃなくて、とにかく人の形をしたものを片っ端から引きずり込まなきゃいけないんだよ~」
「うっすうっす。わかってます。人を入れなきゃ後で死ぬのはうちっすからね。でも、うちも菜月先輩のように高らかに号令をかけてみたかったんですッ」
「こーたが人の形をしたものを引きずり込むとか言うと沼の妖怪か何かにしか見えない」
「軽くホラーすね」
「悪い子はいねぇが~」
「こーたウザいよ」
……とまあ、油断すると悪ふざけが発生するし、収拾がつかなくなるからどうしようもないんだ。結局、ゲッティングガールプロジェクトの号令はなしということで落ち着いた。奈々も本気で女子ばかり狙うと言うよりは、単に菜月先輩の真似っ子をしたかっただけとのことらしい。
「さて、茶番はそれくらいにして。野坂、今何時スか」
「10時45分。予定ではあと15分後に終わって1年生が出て来るはずだ」
「そしたらその波に乗じてビラを押し付けに行くしかなさそースね」
「そうだな。でも、また密集度が高まった気がする」
「自分とこーたは横幅の問題で隙間を縫うには難有りなンで、野坂とヒロであっこに攻めるッてーのはどースか」
「いや、待てよ。そう言って楽しようとしてるだろ」
「やァー、自分とこーたは話術が武器なンで? 後ろの方でテキトーにホラでも吹きながら捌きヤすわ」
「そうだそうだー、私と土田さんに口で勝てるとでも?」
何はともあれ、MMPの新歓戦線がいよいよ本格化した。今年は頭数を増やすことが第一目標。そしていよいよサークルの現役としては最高学年になるし、この1年をどう過ごしていくかが問われるだろう。俺もイケメンを重点的に狙いに行きたいのはグッと堪えて、とにかくビラを捌くことを考えよう。
end.
++++
今年度から始まったナノスパ新章、スタートは向島からです。今年からは1つ進級した彼らの様子をお送りします。ノサカらもいよいよ3年生です。
さて、例によってMMPの新歓はグダグダですが、何気にここは危機を迎えているので例年よりは真面目なのかな?
それでもやっぱりゲッティングガールの文言はお話の中に入れて行きたい。って言うかノサカがこの件をディスり過ぎよ
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4月1日、公立向島大学では入学式が執り行われる。今日が入学式で明日はガイダンス、そして明後日に健康診断と履修登録がある。新入生はこの3日間で粗方の準備を済ませ、来週月曜日から本格的な大学生活を始めるのだそうだ。そしてその3日間で在校生のやることは、学業、バイトと並んで大学生活の一角と言えるサークルへの新入生勧誘活動だ。
放送サークルMMP、向島メディアパークもその例外でなくメンバー総出でビラ配りをする。入学式を行っている建物の前には同じ目的の在校生が大量に押し寄せていて、戦いの空気を感じる。来る者は程よく選び、去る者は追わないなどとこれまでの年度のようなことは言っていられないので、真面目にやりましょうという話になっていた。
「やァー、完全に出遅れヤしたわァー」
「この人混みの中に割り入るのもなかなか難しそうですね。土田さん、どうします? これは場所の変更なども視野に入れた方がいいのでは」
「ノサカが紙切るん遅かったから場所取れんかったやん」
「裁断機すら使えなかったヒロに言われる意味がわからない」
「野坂先輩ヒロ先輩ッ、仲良くしてくださいッ」
MMPは3年生が4人、2年生が1人の5人で活動している。今期の勧誘目標としては、4年生の先輩が3人いらっしゃったのでせめて同じ3人は取りたいということ。ただ、それだと来年度が割と真面目にヤバいので、3人で満足せずに攻めようという話でまとまった。他にもパートの話とか、細かいことはあるけど今はとりあえず入ってもらうことが最優先だ。
放送サークルは具体的に言うとラジオ放送の制作・放送を行っている。食堂で昼放送を流させてもらったり、他大学の同じ放送系団体さんとの交流や、一般の方に向けた番組を行う機会を設けての活動が主な所だろうか。番組のテイストとしては一般的なラジオ番組に近いかもしれない。トークと音楽を中心に娯楽を届けると言えば聞こえはいいだろう。
このサークルを束ねるのが代表の土田律。1年の頃から謎の貫禄があったけど、今では学年相応の落ち着きになった。総務が自称ウザい界のアイドル、神崎耕太。総務の仕事は油断すると悪ふざけに走りがちなMMPメンバーへのツッコミが基本だ。サークルの財政を握る会計が佐久間ヒロ。だけど、とにかく自由で緩いので、会計の仕事は金に細かいこーたが実質的に担っている。機材管理担当が俺、野坂雅史。その名の通り機材の管理が仕事。この3年4人と書記の2年生、岡島奈々の5人が現在のメンバーだ。
「あの、りっちゃん先輩ッ」
「どーしヤしたか奈々」
「あのですね、あの伝説のヤツをうちもやってみたかったんですけど、先輩たちにも付き合ってもらっていっすか」
「伝説のヤツ? ってーと、どれスかね」
「“ゲッティングガール☆プロジェクト”の号令っす!」
「う、うわ~、出た~、誰得プロジェクト~」
「何でですか野坂先輩ッ! 春風の似合うぽわぽわして可愛い女子はやっぱり必要ですよッ」
「いらねー……そんなモン探すとか時間と労力の無駄でしかない」
「野坂、今の菜月先輩に密告しときヤすわ」
「やめろ律!」
「確かにデジャヴではあるんですがねえ」
“ゲッティング☆ガールプロジェクト”というのは去年行われたMMPの新入生勧誘方針を示したプロジェクト名だ。その名の通り、女子に狙い撃って勧誘を行ったのだけど、その結果は惨敗。今年はとにかく人数を入れる方針だというのは先述の通り。ちなみに、向島大学は男子の方が多い大学なので「春風の似合うぽわぽわして癒される可愛い女子」なんかがそう都合よく現れるはずもなく。だからイケメンを獲りに行こうって言ってたのに。
「いいかい奈々~、今年はゲッティングガールとかじゃなくて、とにかく人の形をしたものを片っ端から引きずり込まなきゃいけないんだよ~」
「うっすうっす。わかってます。人を入れなきゃ後で死ぬのはうちっすからね。でも、うちも菜月先輩のように高らかに号令をかけてみたかったんですッ」
「こーたが人の形をしたものを引きずり込むとか言うと沼の妖怪か何かにしか見えない」
「軽くホラーすね」
「悪い子はいねぇが~」
「こーたウザいよ」
……とまあ、油断すると悪ふざけが発生するし、収拾がつかなくなるからどうしようもないんだ。結局、ゲッティングガールプロジェクトの号令はなしということで落ち着いた。奈々も本気で女子ばかり狙うと言うよりは、単に菜月先輩の真似っ子をしたかっただけとのことらしい。
「さて、茶番はそれくらいにして。野坂、今何時スか」
「10時45分。予定ではあと15分後に終わって1年生が出て来るはずだ」
「そしたらその波に乗じてビラを押し付けに行くしかなさそースね」
「そうだな。でも、また密集度が高まった気がする」
「自分とこーたは横幅の問題で隙間を縫うには難有りなンで、野坂とヒロであっこに攻めるッてーのはどースか」
「いや、待てよ。そう言って楽しようとしてるだろ」
「やァー、自分とこーたは話術が武器なンで? 後ろの方でテキトーにホラでも吹きながら捌きヤすわ」
「そうだそうだー、私と土田さんに口で勝てるとでも?」
何はともあれ、MMPの新歓戦線がいよいよ本格化した。今年は頭数を増やすことが第一目標。そしていよいよサークルの現役としては最高学年になるし、この1年をどう過ごしていくかが問われるだろう。俺もイケメンを重点的に狙いに行きたいのはグッと堪えて、とにかくビラを捌くことを考えよう。
end.
++++
今年度から始まったナノスパ新章、スタートは向島からです。今年からは1つ進級した彼らの様子をお送りします。ノサカらもいよいよ3年生です。
さて、例によってMMPの新歓はグダグダですが、何気にここは危機を迎えているので例年よりは真面目なのかな?
それでもやっぱりゲッティングガールの文言はお話の中に入れて行きたい。って言うかノサカがこの件をディスり過ぎよ