2019(04)
■質にも量にも欲張りたい
++++
「よーし、肉だ。食うぞ」
「……ユーヤ、本当に来ちまったぞ」
「ンなコト言ったってどうなる。なるようにしかならねえだろこの際」
「……チッ、誰だよこんな時に電話なんか。あ、お前らは先入っててくれ」
「はーい」
星港市内某所焼肉店。よくある大衆焼き肉チェーン店の食べ放題とかではない、それはもういい肉が出てくるんだろうなというような店だ。本来焼き肉を食うとなるとそれはもう楽しみなはずなのだが、今回に関しては楽しみより恐怖の方が先に来る。入り口を前に足が止まる太一にしても、同じ気持ちのようだ。
The Cloudberry Funclubの新規音源を作りたいという壮馬の思いつきで始まった話は、今日で無事収録を終えて一段落ということになった。TCFのオリジナルメンバーは言い出しっぺの壮馬に俺と拳悟の3人。それからサポートメンバーにベースの拓馬さんとキーボードの太一を迎えた布陣でやっていた。
学生の俺たちはともかく、社会人でそれも超ド繁忙期真っ只中の拓馬さんには本当にハードスケジュールの中予定を縫いに縫いに縫ってもらって参加してもらっていた。拓馬さんは収録が終わるとグロッキーになって座り込んでしまった。それくらいには日々の仕事で疲れていたのだろう。
だけど、壮馬の野郎が「どうせやってるならこの曲の拓馬さんがボーカルとってるバージョンもやりたい」とか言い出したんだ。突然何を言い出すんだこのバカ犬は、と思ったが、拓馬さんがそれに条件を付けた。一つが、収録終わりに焼き肉を食いに行くこと。もう一つが、コーラスに太一を置くこと。で、バカ犬が「焼き肉なら全額奢ります!」と宣言して現在に至る。
「ソーマ、ガチで全額出す気なのかな」
「出させとけ。バカに付ける薬の代金としては足りないくらいだけどな」
「あーあ、いくらトリプルメソッドが売れてきてるっつってもソルの食う量をナメてると破産するだろマジで」
「つか拓馬さん式焼き肉の恐ろしいところは本人の食う量よりも周りに食わせる量だろ」
「それな。え、なあユーヤ、クラファンのメンバーはどれくらい食えんの?」
「俺らはみんなそこそこ食うから拓馬さんに怒られはしないと思うけど」
「まーソーマもケンゴもデケーもんな。見るからに食いそう」
「太一お前、まさか小食か?」
「小食って程じゃないけど、大食いでもないからなー。え、もしかしなくても俺が一番食わない?」
「その可能性は高い」
「マジかよ!」
疲れたときやイベント上がりの拓馬さんと言えば肉。この方程式を知っている俺と太一は、拓馬さんの焼き肉発言にもやっぱりかと思ったくらいで驚きはしなかった。だけど、拓馬さんの肉の食い方を知っているから自分はどうした物かと考えるワケで。前述の通り、拓馬さんは人にも量を食わす傾向があるのだ。
スラップソウルの打ち上げに顔を出させてもらった時も、拓馬さんは延々と肉を焼いては食い、焼いては食わせを繰り返している。小食の長谷川が早々に根を上げるとあからさまに不機嫌になるという図は何度も見てきた。量を食わすだけならまだいい。拓馬さんと同じ食べ方でその網は統一しなければならないという暗黙の空気もあるのだ。
実は拓馬さんはかなりの偏食だ。好き嫌いが多いとかっていう偏食じゃなくて、とにかく単一の物しか食べないというタイプのそれ。焼き肉に来ても基本は同じ肉ばかりを焼き続けている。周りが野菜やサイドメニューなんかを挟もうとすれば、それは邪道だと吐き捨てる。そのルールを破れる人間を俺は1人しか知らない。
「ああ~!キョージュ~! 助けてくれ~!」
「俺も今、真面目にあの変な院生が来てくれねえかと願ってる」
太一がキョージュと呼ぶあの変な院生……拓馬さんの元同居人だというその人が、唯一焼肉での拓馬さんルールを回避出来るのだ。夏に焼肉を食いに行ったときも、あの人がふらりと現れて玉子スープとキュウリのたたきを注文したときはマジかよと素でビビった。あの人なら不機嫌な拓馬さんもいなせるのではないか、そう思ったものだ。
「おーいお前ら、食うモンは決まったか」
「とりあえず肉っす。このメンツなら10人分くらい一気に行っても余裕だと思うんすけど、大丈夫ですかね?」
「おっ、いいじゃねえか。そうしようぜ」
「それじゃあこの牛の盛り合わせと~、あっ、拳悟君何食います?」
「とりあえず肉っていう路線でいいと思うよ。せっかくいい店だし、普段食べないような肉も食べたいよね」
「俺シャトーブリアンとか食ってみたい!」
「太一お前、言ってみたかっただけだろ」
「いや、ここに載ってんだって。ほら」
「あ、ホントだ。確かにこれは食ってみてえな。あとはやっぱこれか。A5ランク黒毛和牛」
「あ~…! いいな! 学生には夢のまた夢だわ~、ソーマが食わしてくれんのか~、あざーっす!」
シャトーブリアンとか、A5ランク黒毛和牛とか、聞いたことはあっても実際に見たことも食ったこともないそれがメニューに載っているとなれば、興味くらい沸くのは仕方ないことだろう。拓馬さん式焼き肉に対する恐怖は覚えていても、基本的に肉は好きだしどれだけでも食いたいからな。ただ、俺は米も挟みたいというだけで。
「ちょっと待って!? 確かに奢るとは言ったけど、悠哉君太一君ちょっと一旦冷静になりません?」
「普通の大学生のユーヤはともかく、チータはお前、自分の音楽の収入でシャトーブリアンは食えるだろ」
「しーっ! 音楽の稼ぎは音楽に使うって決めてんだよ!」
「えっ、太一君音楽で飯食ってるんすか?」
「ちげーよ、俺も普通の大学生! それで飯は食ってない! ちょっと趣味で音楽作ってイベントに出してるだけだっつーの! ソルお前ぜってーわざと大袈裟に言ったろ!」
やいやいと太一が騒がしくしているその裏で、あくまで一般的範疇の中で食いたい物に目星をつけていく。言ってしまえば、何千円とか1万超えとかの肉じゃなくても俺が普段食っている物より十分上等なのだ。何を食っても贅沢には違いない。なんなら今日は米を挟まずに肉を楽しんだ方が得なのでは、とすら思う。あれ、そしたら怯える理由はなくなったな。うん、これでいい。
「最初の盛り合わせ食ったら次、この壺に入ったヤツ食いたいな」
「了解っすー。漬けられてるんすね、味がしみてうまそーっすね!」
「目標は壮馬の財布を空にするまで食うことだ」
「悠哉君ならやりかねないのが怖いっす」
end.
++++
TCF打ち上げ焼き肉回です。塩見さんを前に高崎とカンDがただただビビってるだけのヤツ。とことん食べさせられるからね、こわいね
そうなると、USDX焼き肉などはどうなるんだろうなあ。プロ氏いるから自由度は高そうだし、バネレイも量は食べるから平和なのかしら。
高級なお肉が食べたい!ってなってる一般の学生たちであった。シャトーブリアンとかA5ランクのお肉とか、口に出すだけでも夢があるよ!
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「よーし、肉だ。食うぞ」
「……ユーヤ、本当に来ちまったぞ」
「ンなコト言ったってどうなる。なるようにしかならねえだろこの際」
「……チッ、誰だよこんな時に電話なんか。あ、お前らは先入っててくれ」
「はーい」
星港市内某所焼肉店。よくある大衆焼き肉チェーン店の食べ放題とかではない、それはもういい肉が出てくるんだろうなというような店だ。本来焼き肉を食うとなるとそれはもう楽しみなはずなのだが、今回に関しては楽しみより恐怖の方が先に来る。入り口を前に足が止まる太一にしても、同じ気持ちのようだ。
The Cloudberry Funclubの新規音源を作りたいという壮馬の思いつきで始まった話は、今日で無事収録を終えて一段落ということになった。TCFのオリジナルメンバーは言い出しっぺの壮馬に俺と拳悟の3人。それからサポートメンバーにベースの拓馬さんとキーボードの太一を迎えた布陣でやっていた。
学生の俺たちはともかく、社会人でそれも超ド繁忙期真っ只中の拓馬さんには本当にハードスケジュールの中予定を縫いに縫いに縫ってもらって参加してもらっていた。拓馬さんは収録が終わるとグロッキーになって座り込んでしまった。それくらいには日々の仕事で疲れていたのだろう。
だけど、壮馬の野郎が「どうせやってるならこの曲の拓馬さんがボーカルとってるバージョンもやりたい」とか言い出したんだ。突然何を言い出すんだこのバカ犬は、と思ったが、拓馬さんがそれに条件を付けた。一つが、収録終わりに焼き肉を食いに行くこと。もう一つが、コーラスに太一を置くこと。で、バカ犬が「焼き肉なら全額奢ります!」と宣言して現在に至る。
「ソーマ、ガチで全額出す気なのかな」
「出させとけ。バカに付ける薬の代金としては足りないくらいだけどな」
「あーあ、いくらトリプルメソッドが売れてきてるっつってもソルの食う量をナメてると破産するだろマジで」
「つか拓馬さん式焼き肉の恐ろしいところは本人の食う量よりも周りに食わせる量だろ」
「それな。え、なあユーヤ、クラファンのメンバーはどれくらい食えんの?」
「俺らはみんなそこそこ食うから拓馬さんに怒られはしないと思うけど」
「まーソーマもケンゴもデケーもんな。見るからに食いそう」
「太一お前、まさか小食か?」
「小食って程じゃないけど、大食いでもないからなー。え、もしかしなくても俺が一番食わない?」
「その可能性は高い」
「マジかよ!」
疲れたときやイベント上がりの拓馬さんと言えば肉。この方程式を知っている俺と太一は、拓馬さんの焼き肉発言にもやっぱりかと思ったくらいで驚きはしなかった。だけど、拓馬さんの肉の食い方を知っているから自分はどうした物かと考えるワケで。前述の通り、拓馬さんは人にも量を食わす傾向があるのだ。
スラップソウルの打ち上げに顔を出させてもらった時も、拓馬さんは延々と肉を焼いては食い、焼いては食わせを繰り返している。小食の長谷川が早々に根を上げるとあからさまに不機嫌になるという図は何度も見てきた。量を食わすだけならまだいい。拓馬さんと同じ食べ方でその網は統一しなければならないという暗黙の空気もあるのだ。
実は拓馬さんはかなりの偏食だ。好き嫌いが多いとかっていう偏食じゃなくて、とにかく単一の物しか食べないというタイプのそれ。焼き肉に来ても基本は同じ肉ばかりを焼き続けている。周りが野菜やサイドメニューなんかを挟もうとすれば、それは邪道だと吐き捨てる。そのルールを破れる人間を俺は1人しか知らない。
「ああ~!キョージュ~! 助けてくれ~!」
「俺も今、真面目にあの変な院生が来てくれねえかと願ってる」
太一がキョージュと呼ぶあの変な院生……拓馬さんの元同居人だというその人が、唯一焼肉での拓馬さんルールを回避出来るのだ。夏に焼肉を食いに行ったときも、あの人がふらりと現れて玉子スープとキュウリのたたきを注文したときはマジかよと素でビビった。あの人なら不機嫌な拓馬さんもいなせるのではないか、そう思ったものだ。
「おーいお前ら、食うモンは決まったか」
「とりあえず肉っす。このメンツなら10人分くらい一気に行っても余裕だと思うんすけど、大丈夫ですかね?」
「おっ、いいじゃねえか。そうしようぜ」
「それじゃあこの牛の盛り合わせと~、あっ、拳悟君何食います?」
「とりあえず肉っていう路線でいいと思うよ。せっかくいい店だし、普段食べないような肉も食べたいよね」
「俺シャトーブリアンとか食ってみたい!」
「太一お前、言ってみたかっただけだろ」
「いや、ここに載ってんだって。ほら」
「あ、ホントだ。確かにこれは食ってみてえな。あとはやっぱこれか。A5ランク黒毛和牛」
「あ~…! いいな! 学生には夢のまた夢だわ~、ソーマが食わしてくれんのか~、あざーっす!」
シャトーブリアンとか、A5ランク黒毛和牛とか、聞いたことはあっても実際に見たことも食ったこともないそれがメニューに載っているとなれば、興味くらい沸くのは仕方ないことだろう。拓馬さん式焼き肉に対する恐怖は覚えていても、基本的に肉は好きだしどれだけでも食いたいからな。ただ、俺は米も挟みたいというだけで。
「ちょっと待って!? 確かに奢るとは言ったけど、悠哉君太一君ちょっと一旦冷静になりません?」
「普通の大学生のユーヤはともかく、チータはお前、自分の音楽の収入でシャトーブリアンは食えるだろ」
「しーっ! 音楽の稼ぎは音楽に使うって決めてんだよ!」
「えっ、太一君音楽で飯食ってるんすか?」
「ちげーよ、俺も普通の大学生! それで飯は食ってない! ちょっと趣味で音楽作ってイベントに出してるだけだっつーの! ソルお前ぜってーわざと大袈裟に言ったろ!」
やいやいと太一が騒がしくしているその裏で、あくまで一般的範疇の中で食いたい物に目星をつけていく。言ってしまえば、何千円とか1万超えとかの肉じゃなくても俺が普段食っている物より十分上等なのだ。何を食っても贅沢には違いない。なんなら今日は米を挟まずに肉を楽しんだ方が得なのでは、とすら思う。あれ、そしたら怯える理由はなくなったな。うん、これでいい。
「最初の盛り合わせ食ったら次、この壺に入ったヤツ食いたいな」
「了解っすー。漬けられてるんすね、味がしみてうまそーっすね!」
「目標は壮馬の財布を空にするまで食うことだ」
「悠哉君ならやりかねないのが怖いっす」
end.
++++
TCF打ち上げ焼き肉回です。塩見さんを前に高崎とカンDがただただビビってるだけのヤツ。とことん食べさせられるからね、こわいね
そうなると、USDX焼き肉などはどうなるんだろうなあ。プロ氏いるから自由度は高そうだし、バネレイも量は食べるから平和なのかしら。
高級なお肉が食べたい!ってなってる一般の学生たちであった。シャトーブリアンとかA5ランクのお肉とか、口に出すだけでも夢があるよ!
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