2019(04)
■New pattern of Spring
++++
「やァやァ愚民共と奈々、集まりヤしたね」
「毎度の事ながら我々は見事に愚民扱いですね」
「しかも奈々は愚民にカウントされてないっていうな」
向島大学でも健康診断だ履修登録だと来年度に向けた動きが見え始めた中、俺たち愚民と奈々が律から召集されて至る現在である。こうして緊急召集がかかるとまた何か重大な何かを忘れていたのかと冷や冷やする。4年生追いコンの存在を忘れていたり、3年生追いコンを結果送られる圭斗先輩に主導してもらうなど、律と愉快な愚民たちはなかなかに詰めが甘いのだ。
「それで律、本題は?」
「そースね。毎年恒例、コイツの季節がやってきヤしたよ」
そう言って律が俺たちの目の前にひらひら翳すのは、何かが書かれているような感じの薄い紙だ。それを受け取り内容を確認すると、まさか、とうとう俺たちはこの季節を神なしで迎えてしまったのかと絶望感すら漂うのだ。俺は言葉をなくしたまま、その紙をこーたに回す。こーたもこれはダメなヤツですと押しつけるようにヒロに回した。
「ヒロ先輩、何だったんですか?」
「新歓のビラやね」
「新歓ですかッ! 新しい1年生を勧誘するワケですねッ! 可愛い子が入ってきたらいいなあ」
「やァー、そーすね。奈々には希望に溢れる紙に見えているよーで結構スわ」
「奈々、その紙の意味がわからないか」
「ビラですよねッ! りっちゃん先輩が作ってくれたんじゃないんですか?」
「や、自分にビラを作らせるときっと壊滅しヤす、いろいろと。ちなみにこれは去年菜月先輩が作ってくれた去年仕様のビラの原本でして、今年の分はこれから作らないといけないっつーワケすわ」
「去年のヤツをそのまま使っちゃダメなんですか?」
去年、それから一昨年とこのテの作業は菜月先輩が一挙に引き受けて下さっていたので、現役生は誰もそのノウハウがない。新歓のビラ数パターンとポスター5枚をすべて手書きで作っていたというのも意味が分からないんだけど、その作業量と素晴らしいクオリティ故「装飾の神」とまで呼ばれた菜月先輩不在で迎える春の絶望感だ。
去年の物をそのまま使えないのかという奈々の質問には、愚民3人が全員乗っかった。この話を仕切る律も含めて、MMPの人間にこのテの作業は期待出来ない。奈々がワンチャンあるかって感じだけど、ビラはともかくポスターを5枚作るのは今からだとなかなかに厳しい物があるだろう。
「学生課に確認したンすけど、去年のハンコが押された物の流用は不可だそうスわ。しかも、今年はこういう時勢なンで、毎年のようにハイエナが群がるようなビラ配りをやらないそーなンす?」
「やった! 授業ないんに出て来んくていーんや!」
「ヒロさん、みんな同じように思ってますけど、第一声でそれはまさに愚民のそれですよ」
「なあ律、ビラを配らないってことはポスターだけでの宣伝になるのか?」
「何か、今年は新入生向けにサークル紹介サイトっつーのを作るそーなンすわ。そこに掲載する文言なり、画像だの動画だのがあるならそれを用意しろっつーコトになったらしーンすよ」
「また急だな!?」
「本当に最近決まったコトらしーンでね、ご愛敬スわ。で、我らがMMPは一応サークル棟に部屋をもらえてる団体っつーコトで、その知らせが届いたのも早い方だったとはお知らせしときヤす」
どうやら、今年は新入生の勧誘の仕方も例年とはまた違う様相になるのだなと愚民と奈々は納得した。ただ、サークル紹介サイトなるものを大学側が作ってくれるとは言え、学内に掲示するポスターに関してはこれまで通り規定の最大5枚を作らなければならない。
ただ、こちらが伝えた文言をサイトに掲載してもらえるということは、俺たちの読めるか読めないかわからない字で書かれたビラだの何だのよりは圧倒的に伝わりやすい。それに、画像や動画なども活動の参考として掲載することが出来るのであれば、放送サークルとしてはなかなかにオイシイのではないか。
「一応ここにテンプレートがありヤして、ここに必要事項を記入すればサークル紹介サイトにアップロード出来るらしースね。サークル名とか活動日とかの必要事項は事実をそのまま、PR文は去年のビラに書かれたのを流用、で、問題はここス」
「活動参考メディアの項目か……」
「写真なり動画なり音声なり、の項目スね。どースか機材管理担当」
「音声だったら一応俺が個人的に鑑賞する目的でMP3に変換した菜月先輩との昼放送とか、あとはこないだの番組制作会で録音したのがあるけど」
「番組制作会っつって、あれは基本他校の人と班を組んでるヤツすし、ミキサーならともかくアナウンサーの声を使うとなると権利云々も面倒スわ」
「ヒロがピントークだったしそれでいけないか?」
「何でこんなときばっかりボクのこと利用しようとするん! ノサカ新歓の制度変わるんとか全部知っとってクジに細工したやろ!」
「言いがかりもいいところだ。でも、権利どうこうのことを言われると、普段の番組だとBGMがまずアウトになるだろ」
「それなンすわ。商用利用じャないンでセーフだとは思いたいンすけどね」
「何にせよ、番組サンプルを上げるとすればフリー音源をBGMにした簡易番組を作る必要がある、と」
「そーゆーコトすね。あと、番組制作と並行してポスターも作ってもらいたいンすね。何も菜月先輩クオリティは求めてないンで、1パターンを5枚でもいーンすわ。2班に分かれてやる感じで」
サークルを紹介するための文言はどうにでもなる。問題は、こんなことをやってますと具体的に紹介するためのサンプル制作。あとはポスター制作。さて、チーム決めはどうする。
「とりあえず、ヒロは自動的に番組班に決定スわ」
「あー、アナがボクしかおらんからみたいなコト?」
「そースね。それから、情報系の授業でグラフィックデザイン系の授業があったっつって聞いたンで、野坂はポスター班で頼みヤす。履修してたっつーコトはS評価のはずなんで、ソフトの扱いなんかはチョロチョロのチョロすね」
「どんな理由だよ! いや、ソフトは使えてもデザインは出来ないぞ…?」
「ダイジョーブすよ。菜月先輩の過去作を渡しヤすし奈々がいるンで。女子の感性を生かして頑張ってくーださい。で、自分とこーたで番組班のミキサーをやりヤす」
「わかりました」
「っつー感じで、明日までに上げられるように頑張りやしょー」
「おー」
「手ェ抜いたヤツは漏れなくギタギタにするンでぇー、ヨロシクおなしゃーす」
end.
++++
りっちゃんと愉快な愚民たち、それから奈々のMMP新歓戦線が始まりました。どうやら時代に合わせた方法に新歓もシフトする方向になった様子。
手書きのビラなどは到底作れるようなメンバーではないので、この方式の方が良かったのかもしれない。サンプル番組に関してはまあ、頑張れ。
そして菜月さんがいないことでこのテの作業の大変さを思い知った愚民たちなのだけど、それをまた秋になって思い知ることになるんだろうなあ!
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「やァやァ愚民共と奈々、集まりヤしたね」
「毎度の事ながら我々は見事に愚民扱いですね」
「しかも奈々は愚民にカウントされてないっていうな」
向島大学でも健康診断だ履修登録だと来年度に向けた動きが見え始めた中、俺たち愚民と奈々が律から召集されて至る現在である。こうして緊急召集がかかるとまた何か重大な何かを忘れていたのかと冷や冷やする。4年生追いコンの存在を忘れていたり、3年生追いコンを結果送られる圭斗先輩に主導してもらうなど、律と愉快な愚民たちはなかなかに詰めが甘いのだ。
「それで律、本題は?」
「そースね。毎年恒例、コイツの季節がやってきヤしたよ」
そう言って律が俺たちの目の前にひらひら翳すのは、何かが書かれているような感じの薄い紙だ。それを受け取り内容を確認すると、まさか、とうとう俺たちはこの季節を神なしで迎えてしまったのかと絶望感すら漂うのだ。俺は言葉をなくしたまま、その紙をこーたに回す。こーたもこれはダメなヤツですと押しつけるようにヒロに回した。
「ヒロ先輩、何だったんですか?」
「新歓のビラやね」
「新歓ですかッ! 新しい1年生を勧誘するワケですねッ! 可愛い子が入ってきたらいいなあ」
「やァー、そーすね。奈々には希望に溢れる紙に見えているよーで結構スわ」
「奈々、その紙の意味がわからないか」
「ビラですよねッ! りっちゃん先輩が作ってくれたんじゃないんですか?」
「や、自分にビラを作らせるときっと壊滅しヤす、いろいろと。ちなみにこれは去年菜月先輩が作ってくれた去年仕様のビラの原本でして、今年の分はこれから作らないといけないっつーワケすわ」
「去年のヤツをそのまま使っちゃダメなんですか?」
去年、それから一昨年とこのテの作業は菜月先輩が一挙に引き受けて下さっていたので、現役生は誰もそのノウハウがない。新歓のビラ数パターンとポスター5枚をすべて手書きで作っていたというのも意味が分からないんだけど、その作業量と素晴らしいクオリティ故「装飾の神」とまで呼ばれた菜月先輩不在で迎える春の絶望感だ。
去年の物をそのまま使えないのかという奈々の質問には、愚民3人が全員乗っかった。この話を仕切る律も含めて、MMPの人間にこのテの作業は期待出来ない。奈々がワンチャンあるかって感じだけど、ビラはともかくポスターを5枚作るのは今からだとなかなかに厳しい物があるだろう。
「学生課に確認したンすけど、去年のハンコが押された物の流用は不可だそうスわ。しかも、今年はこういう時勢なンで、毎年のようにハイエナが群がるようなビラ配りをやらないそーなンす?」
「やった! 授業ないんに出て来んくていーんや!」
「ヒロさん、みんな同じように思ってますけど、第一声でそれはまさに愚民のそれですよ」
「なあ律、ビラを配らないってことはポスターだけでの宣伝になるのか?」
「何か、今年は新入生向けにサークル紹介サイトっつーのを作るそーなンすわ。そこに掲載する文言なり、画像だの動画だのがあるならそれを用意しろっつーコトになったらしーンすよ」
「また急だな!?」
「本当に最近決まったコトらしーンでね、ご愛敬スわ。で、我らがMMPは一応サークル棟に部屋をもらえてる団体っつーコトで、その知らせが届いたのも早い方だったとはお知らせしときヤす」
どうやら、今年は新入生の勧誘の仕方も例年とはまた違う様相になるのだなと愚民と奈々は納得した。ただ、サークル紹介サイトなるものを大学側が作ってくれるとは言え、学内に掲示するポスターに関してはこれまで通り規定の最大5枚を作らなければならない。
ただ、こちらが伝えた文言をサイトに掲載してもらえるということは、俺たちの読めるか読めないかわからない字で書かれたビラだの何だのよりは圧倒的に伝わりやすい。それに、画像や動画なども活動の参考として掲載することが出来るのであれば、放送サークルとしてはなかなかにオイシイのではないか。
「一応ここにテンプレートがありヤして、ここに必要事項を記入すればサークル紹介サイトにアップロード出来るらしースね。サークル名とか活動日とかの必要事項は事実をそのまま、PR文は去年のビラに書かれたのを流用、で、問題はここス」
「活動参考メディアの項目か……」
「写真なり動画なり音声なり、の項目スね。どースか機材管理担当」
「音声だったら一応俺が個人的に鑑賞する目的でMP3に変換した菜月先輩との昼放送とか、あとはこないだの番組制作会で録音したのがあるけど」
「番組制作会っつって、あれは基本他校の人と班を組んでるヤツすし、ミキサーならともかくアナウンサーの声を使うとなると権利云々も面倒スわ」
「ヒロがピントークだったしそれでいけないか?」
「何でこんなときばっかりボクのこと利用しようとするん! ノサカ新歓の制度変わるんとか全部知っとってクジに細工したやろ!」
「言いがかりもいいところだ。でも、権利どうこうのことを言われると、普段の番組だとBGMがまずアウトになるだろ」
「それなンすわ。商用利用じャないンでセーフだとは思いたいンすけどね」
「何にせよ、番組サンプルを上げるとすればフリー音源をBGMにした簡易番組を作る必要がある、と」
「そーゆーコトすね。あと、番組制作と並行してポスターも作ってもらいたいンすね。何も菜月先輩クオリティは求めてないンで、1パターンを5枚でもいーンすわ。2班に分かれてやる感じで」
サークルを紹介するための文言はどうにでもなる。問題は、こんなことをやってますと具体的に紹介するためのサンプル制作。あとはポスター制作。さて、チーム決めはどうする。
「とりあえず、ヒロは自動的に番組班に決定スわ」
「あー、アナがボクしかおらんからみたいなコト?」
「そースね。それから、情報系の授業でグラフィックデザイン系の授業があったっつって聞いたンで、野坂はポスター班で頼みヤす。履修してたっつーコトはS評価のはずなんで、ソフトの扱いなんかはチョロチョロのチョロすね」
「どんな理由だよ! いや、ソフトは使えてもデザインは出来ないぞ…?」
「ダイジョーブすよ。菜月先輩の過去作を渡しヤすし奈々がいるンで。女子の感性を生かして頑張ってくーださい。で、自分とこーたで番組班のミキサーをやりヤす」
「わかりました」
「っつー感じで、明日までに上げられるように頑張りやしょー」
「おー」
「手ェ抜いたヤツは漏れなくギタギタにするンでぇー、ヨロシクおなしゃーす」
end.
++++
りっちゃんと愉快な愚民たち、それから奈々のMMP新歓戦線が始まりました。どうやら時代に合わせた方法に新歓もシフトする方向になった様子。
手書きのビラなどは到底作れるようなメンバーではないので、この方式の方が良かったのかもしれない。サンプル番組に関してはまあ、頑張れ。
そして菜月さんがいないことでこのテの作業の大変さを思い知った愚民たちなのだけど、それをまた秋になって思い知ることになるんだろうなあ!
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