2019(04)

■新世界へと掃き出そう

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「まさか、本当にオークションが始まるのか……」
「さすが緑ヶ丘としか言えないわ、これは」
「緑ヶ丘マジパねえ!」

 MBCCサークル室に高々と積み上げられていた機材群を一旦下ろし、これはもうさすがに使わないだろうというものは他大学さんに分配してみようかという話になった。ウチは使わない機材を処分出来るし、他大学さんは機材をタダでもらえてどっちにも得になるんじゃないかと考えた結果だ。MBCCには佐藤ゼミからどんどん機材のお下がりがやってくる。今後それを積み上げる場所もないし、どうにかしないといけないとは思っていたんだ。
 そこで、他大学さんのミキサーまたは代表に連絡を取って、いついつに緑ヶ丘で機材の分配をやるのでぜひ来てくださいというお知らせを出した。俺個人の話になるけど、青女さんはMDデッキの脚が壊れているのを直に聞いて知っていたし、向島もCDデッキが壊れかけだとか、星ヶ丘はラジオが出来る機材一式があれば持ってくよ、という風には聞いていたから需要はあるとわかっていたから強気に出れたという事情も少し。

「機材の動作チェックは俺と五島でバッチリやってあるし、緑ヶ丘大学の備品っていうシールも全部剥がしてあるはずだから何の問題もなく使えると思うんだ」
「えっと、このオークションてどう進むの?」
「あー……とりあえず、こっちで何があるかのリストは作ってあるから、これを見てもらって何が欲しいかそれぞれ言ってもらって、競合が無ければそのままどうぞになるし、競合したら話し合うなりジャンケンするなりしてもらえばいいかな」
「それじゃあリスト貼るねー」

 今日来てくれているのは向島から野坂、星大はツカサ、青女は直、星ヶ丘がつばめ、そして青敬からハマちゃんだ。果林が貼ってくれたリストを各人が確認して、ウチはこれが欲しい、ウチはこれが欲しいなあなどと希望をすり合わせている。ラジオ一式が欲しいんです、とはつばめとハマちゃんがそれぞれ主張している。これこれこういう事情があるんですと説明をすれば、他のメンバーもわかったよと了承している。
 と言うか、星ヶ丘と青敬の2校にラジオ一式をそれぞれ渡してもまだ配れるだけの機材を積んでいた、というのもぶっちゃけどんだけだよっていう話で。アンプにコンプ、ミキサーにデッキにと……しかし佐藤ゼミってのはどんだけ買い物してるんだっていう恐怖すら覚える。果林が言うには佐藤教授の気紛れでポンと機材を買い替えるそうなんだけども、社会学部、それか佐藤ゼミってのは金が有り余ってんのか? 1台5万のインカムマイクを何台も揃えてるらしいし。

「それじゃあ、つばめとハマちゃんが確保したの以外で改めて分配始めようかー」
「野坂、どれが欲しい?」
「ウチはCDデッキが最優先かな。他はもし残ってればMDデッキとマイクスタンドがあれば嬉しいかな」
「直は」
「ウチはMDデッキを頂ければ助かるな。それからコンプレッサーがあれば」
「ツカサは?」
「ウチはマイクとかケーブルとかの小物類があれば欲しい」
「そしたらこの3校は特に競合はない感じかな」
「そうだね。そしたら平和的に分け合ってもらって」

 それぞれが優先的に欲しいものを分け合って、余った物はさらにまた分配。あれだけ高かった壁は見事に崩されて、サークル室には大きな空間が出来ていた。この機材の壁を崩してしまえばこちらのもの。本格的な大掃除に取り掛かることが出来る。1年使っていない物……は要相談だけど、2年使ってない物は容赦なく処分してやる。そうしないと新しい物を置けないし整理整頓もしにくいし、空間をより効率的に使うことが出来ないんだ。

「青敬さんはこれからラジオのこともやっていくような感じ? 定例会じゃ映像作品を公開するチャンネルを作ったって言ってたよね」
「メインはあくまで映像だけど、俺とあやめがインターフェイスの活動にも出るし、いろいろなことをやれた方がサークルに人が来てくれるかなって。入り口を広くしときたいって言うか。そのための取っ掛かりって感じだな!」
「青敬さんの事情はわかるけど、星ヶ丘の事情が修羅過ぎるっていうな」
「直クンは夏合宿の練習でウチに来てたらしいから知ってるかもだけど、ウチって機材使う時にいちいち幹部に申請しなきゃいけなくて、いつ、誰が、何の目的で、何分使うかみたいなことを機材使う度に言うのもめんどいじゃん。だったら自前で機材持っといて、好きなように練習しまくりたいっていうね。ウチの環境だと下の子たちにまともに練習させてもあげられないし」
「あー、それで夏の時にゲンゴローをよろしくっていうアレだったんだね」
「そーそー。なっちサンとりっちゃんが向島を開放してくれてマジで助かった」

 他の大学の事情を聞いていると、それぞれにいろいろな活動があって、それぞれの方針でやってるんだなということがよくわかる。同じラジオメイン校だと言われているウチと向島、それから星大さんの3校でも活動の毛色は大分違うし。だけど、ここにある機材でそれぞれの活動の手助けになるならそれはいいことだと思うし、機材たちにとってもここで眠っているよりは使ってもらった方が断然いいだろう。

「みんな、機材を引き取ってもらって本当にありがとう。これでウチは本格的な掃除に取り掛かることが出来る」
「え、もしかしてこの機材オークションて掃除のために開催された?」
「まあそうだな。この機材の壁があるおかげで部屋の隅が掃除出来ないし、大掛かりな掃除をしようという気を皆から削いでたっていう点もあると思うんだ。機材が無くなった今、使ってない物を捨てて、机や棚を部屋から出して、絨毯を洗って、掃除機をかけてクイックルして、天井も綺麗にして……夢は広がるな! 果林、五島、掃除の日程を決めようぜ!」
「はいはい、後で決めような」
「果林、もしかしてL、ずっとこんな調子?」
「代替わりしてからずっとこう。いい加減大掃除して静かになってもらいたいですよねー」


end.


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MBCCの機材分配回。機材の壁がとんでもないことになっていたようですが、無事にみんな嫁入りした様子。よかったね。
この機材の壁を崩すのは大掃除をするためというLらしい目的ですが、今後MBCCサークル室の衛生状況は良くなっていくのか!
星ヶ丘と青敬の事情が結構大きい?ような感じで、他のみんながそれだったら機材持ってっていいよって言ってるのが2年生の和を感じる

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