2019(04)
■お茶で刻む日常のリズム
++++
「ミドリー」
「あっ、ユキちゃん。来てくれてありがとう」
「ううん、ごめんね。待たせちゃって」
「俺も今来たところだよ」
世間的には明日がホワイトデーだけど、明日はインターフェイスの番組制作会がある。だからそういう用事は今日のうちに済ませといた方がいいかなと思ってユキちゃんに連絡を取って会うことになった。ユキちゃんからはバレンタインデーにチョコをもらってたんだよね。だからそのお返しをしたいなって思って。だって、1回目のアレは事故だったと言え、2回もバレンタインをやってもらったワケだから。
バレンタイン当日にはもし俺が手作りとかダメな人だったらっていう配慮で手作りの箱と市販の箱の2つを用意してくれてたんだけど、俺はありがたく手作りの方を受け取って。それでさっそくひとついただきまーすと口に放り込んだら、一見普通のチョコかと思ったそれを噛んだ時に中からぐにゅって何か、チョコレートと合わせちゃダメなんだろうなって物が出て来て。どうやらそれは、ユキちゃんのお姉さんが作ったポテトサラダ入りチョコレート。
ユキちゃんは4人兄弟で、一番上のお兄さんの他にはお姉さんと妹さんがいる。女の子3人でバレンタインチョコを作ってたみたいなんだけど、お姉さんが作ってたのが完全にネタと言うか嫌がらせと言うか……とにかくまともじゃない。間違えちゃってゴメンねと、後日ユキちゃん本人が作ったチョコレートでリベンジしてくれたという経緯がある。ユキちゃんが作ってくれたほうじ茶チョコは美味しかったなあ。
「えっと、お茶でもしながら話そうか」
「そうだね」
ユキちゃんと会う時に行くカフェは決まって来ているように思う。星大と青女の間くらいのところにある落ち着いた雰囲気のお店で、俺個人としてはほうじ茶ケーキが好きでよく食べている。ユキちゃんはフルーツケーキを食べてる印象が強い。この街自体も工房とショップを兼ねたようなお店や雑貨屋さん、それからアトリエなんかが多くて一緒に見て歩くのがとても楽しいなーって。
「えっと、バレンタイン、ありがとうございました。これ、良かったら」
「わー、ありがとう。そっか、ホワイトデーだっけ」
「うん。明日だとバタバタしちゃうと思って」
「見ていい?」
「どうぞ」
「わー、かわいい。あっ、中は紅茶なんだ」
「うん。パッケージはかわいいけど、中は普通のティーバッグだね」
「ありがとー、あたし家でも紅茶飲むから嬉しいよ」
「よかったー、どういたしましてー」
お返しとして渡したのは、パッケージがハードカバー本のようになった紅茶の詰め合わせ。表紙のデザインが不思議の国のアリスみたいな雰囲気だったかな? それで、ティーバッグが確か50個くらい入ってたはず。何せバレンタイン当日には変なの食べさせてゴメンねと市販のチョコをもらって、後日リベンジとしてほうじ茶チョコをもらって、2回バレンタインをやってもらったからお返しも2回分くらいの規模で。
だけどこういうのって趣味を外すと本当にがっかりされると思うから、難しかったよね。いろんな商業施設にホワイトデーギフトの催事場が出来てたけど、2回分のお返しの規模だとどういうのがいいのかなって見て回ると、大きいお菓子の箱とかになっちゃうし。実は1回タカティ(果林先輩に2回バレンタインやってもらったんだって)とも一緒に見に行ったんだけど、俺は「さすがに多すぎるよね」と、タカティは「量の割に値段が……」って頭を抱えちゃって。
結局、俺の場合は相手がユキちゃんだということもあって少し趣味を知ってたっていうのもあって紅茶に落ち着いた。だけど需要のある物をピンポイントで渡すにしても、好きな子かつ趣味の話が出来る相手にあげる物だから多少自分のセンスも見せて行きたいと言うか。ものづくりとか雑貨とかが好きっていう、同じ趣味だからこそ設けたハードルなんだけど。これが林原さん相手だったら普通にリプトンのティーバッグ100個入りの黄色い袋をポンと渡すんだけど。
「そう言えばさ、ミドリって誕生日4月だって言ってたよね」
「あれっ、言ってたっけ」
「誰の誕生会だったかな、最近だからタカティだったかな。ミドリの誕生日って聞いたことなくないみたいな話になったじゃん。それで、4月だからみんなと知り合った頃にはもう過ぎてたよって」
「あー、そんな話もしてた気がするね」
「ミドリの誕生日にはさ、またこうやって一緒にお茶したいね」
「えっ!? あっ、うん、そうだね!」
あー、びっくりしたぁ~。誕生日にお茶? 嬉しいけど唐突過ぎて不審な反応にならなかったかな? そわそわしちゃうよ。
「でも、ファンフェスの前だし準備とか入って来ちゃうかな」
「……って言うか、ファンフェスってやれるのかな。そこまで大規模じゃないにしても、一応は人がそこそこ来るイベントじゃん」
「5月上旬だよね。その頃にはどうなってるかは正直わかんないけど、まだ中止だって言われてない以上はそこに向けて準備はしなきゃだしね。ほら、今青女でも植物園ステージに向けて準備してるんだけど、その植物園は今休館中でさ。ステージ自体は5月末の予定だけど、正直どうなるかまだわかんなくて。でも、やれるようにはしとかなきゃだし」
「あー……うん、そうだよね。ごめんね、変な事言って。暗くなっちゃった」
「ううん、心配になっちゃうよね。その気持ちは、わかるから。あたしも、本当にやれるのかなってビクビクしながらステージの台本書いてる。やるんだっていう強い気持ちを持たなきゃとは思うんだけど、なかなかね」
「きっと大丈夫だよ。何も、絶対春じゃないと出来ないってこともないでしょ? いつまた普段通りの生活が戻って来てもいいように、手を増やしとくのは悪くないよ」
「うん、そうだね。5月じゃなくても、6月でも7月でも、12月だっていいんだもんね! よーし、がんばるぞ」
そう言ってユキちゃんはフルーツケーキをフォークで大きく切り分け、頬張った。まるでエネルギーを得るように。俺はただのアナウンサーで、自分で台本を書いたりっていうようなことはほとんどない。UHBCで番組を作る時は大体プロデューサーさんがやってくれることだから。だから台本を書く苦労なんかは計り知れないけど、せっかく頑張ってるんなら、最後まで作り上げられた方がいい。中途半端な状態で頓挫してしまうよりは、作った状態でお蔵入りになる方が、まだ悔いは残らないかなって。俺の個人的な考えだけど。
「ねえユキちゃん、俺も何か力になれないかな」
「うーん……そしたら、たまにこうやって息抜きに付き合ってくれる?」
end.
++++
厳密にはホワイトデー前ですが、明日は制作会なのでここでやるよね。久々にミドユキです。今年度あんまやってないけど。
そういやポテサラチョコの件も今年やってなかったし、タカミドがホワイトデーの催事場を眺めてたのもいつの年度の話だっけ……
これからの青女ではステージの台本を書くのがユキちゃんの仕事だというように決まったようですね。しばらくは啓子さんもいるので修行ですね
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「ミドリー」
「あっ、ユキちゃん。来てくれてありがとう」
「ううん、ごめんね。待たせちゃって」
「俺も今来たところだよ」
世間的には明日がホワイトデーだけど、明日はインターフェイスの番組制作会がある。だからそういう用事は今日のうちに済ませといた方がいいかなと思ってユキちゃんに連絡を取って会うことになった。ユキちゃんからはバレンタインデーにチョコをもらってたんだよね。だからそのお返しをしたいなって思って。だって、1回目のアレは事故だったと言え、2回もバレンタインをやってもらったワケだから。
バレンタイン当日にはもし俺が手作りとかダメな人だったらっていう配慮で手作りの箱と市販の箱の2つを用意してくれてたんだけど、俺はありがたく手作りの方を受け取って。それでさっそくひとついただきまーすと口に放り込んだら、一見普通のチョコかと思ったそれを噛んだ時に中からぐにゅって何か、チョコレートと合わせちゃダメなんだろうなって物が出て来て。どうやらそれは、ユキちゃんのお姉さんが作ったポテトサラダ入りチョコレート。
ユキちゃんは4人兄弟で、一番上のお兄さんの他にはお姉さんと妹さんがいる。女の子3人でバレンタインチョコを作ってたみたいなんだけど、お姉さんが作ってたのが完全にネタと言うか嫌がらせと言うか……とにかくまともじゃない。間違えちゃってゴメンねと、後日ユキちゃん本人が作ったチョコレートでリベンジしてくれたという経緯がある。ユキちゃんが作ってくれたほうじ茶チョコは美味しかったなあ。
「えっと、お茶でもしながら話そうか」
「そうだね」
ユキちゃんと会う時に行くカフェは決まって来ているように思う。星大と青女の間くらいのところにある落ち着いた雰囲気のお店で、俺個人としてはほうじ茶ケーキが好きでよく食べている。ユキちゃんはフルーツケーキを食べてる印象が強い。この街自体も工房とショップを兼ねたようなお店や雑貨屋さん、それからアトリエなんかが多くて一緒に見て歩くのがとても楽しいなーって。
「えっと、バレンタイン、ありがとうございました。これ、良かったら」
「わー、ありがとう。そっか、ホワイトデーだっけ」
「うん。明日だとバタバタしちゃうと思って」
「見ていい?」
「どうぞ」
「わー、かわいい。あっ、中は紅茶なんだ」
「うん。パッケージはかわいいけど、中は普通のティーバッグだね」
「ありがとー、あたし家でも紅茶飲むから嬉しいよ」
「よかったー、どういたしましてー」
お返しとして渡したのは、パッケージがハードカバー本のようになった紅茶の詰め合わせ。表紙のデザインが不思議の国のアリスみたいな雰囲気だったかな? それで、ティーバッグが確か50個くらい入ってたはず。何せバレンタイン当日には変なの食べさせてゴメンねと市販のチョコをもらって、後日リベンジとしてほうじ茶チョコをもらって、2回バレンタインをやってもらったからお返しも2回分くらいの規模で。
だけどこういうのって趣味を外すと本当にがっかりされると思うから、難しかったよね。いろんな商業施設にホワイトデーギフトの催事場が出来てたけど、2回分のお返しの規模だとどういうのがいいのかなって見て回ると、大きいお菓子の箱とかになっちゃうし。実は1回タカティ(果林先輩に2回バレンタインやってもらったんだって)とも一緒に見に行ったんだけど、俺は「さすがに多すぎるよね」と、タカティは「量の割に値段が……」って頭を抱えちゃって。
結局、俺の場合は相手がユキちゃんだということもあって少し趣味を知ってたっていうのもあって紅茶に落ち着いた。だけど需要のある物をピンポイントで渡すにしても、好きな子かつ趣味の話が出来る相手にあげる物だから多少自分のセンスも見せて行きたいと言うか。ものづくりとか雑貨とかが好きっていう、同じ趣味だからこそ設けたハードルなんだけど。これが林原さん相手だったら普通にリプトンのティーバッグ100個入りの黄色い袋をポンと渡すんだけど。
「そう言えばさ、ミドリって誕生日4月だって言ってたよね」
「あれっ、言ってたっけ」
「誰の誕生会だったかな、最近だからタカティだったかな。ミドリの誕生日って聞いたことなくないみたいな話になったじゃん。それで、4月だからみんなと知り合った頃にはもう過ぎてたよって」
「あー、そんな話もしてた気がするね」
「ミドリの誕生日にはさ、またこうやって一緒にお茶したいね」
「えっ!? あっ、うん、そうだね!」
あー、びっくりしたぁ~。誕生日にお茶? 嬉しいけど唐突過ぎて不審な反応にならなかったかな? そわそわしちゃうよ。
「でも、ファンフェスの前だし準備とか入って来ちゃうかな」
「……って言うか、ファンフェスってやれるのかな。そこまで大規模じゃないにしても、一応は人がそこそこ来るイベントじゃん」
「5月上旬だよね。その頃にはどうなってるかは正直わかんないけど、まだ中止だって言われてない以上はそこに向けて準備はしなきゃだしね。ほら、今青女でも植物園ステージに向けて準備してるんだけど、その植物園は今休館中でさ。ステージ自体は5月末の予定だけど、正直どうなるかまだわかんなくて。でも、やれるようにはしとかなきゃだし」
「あー……うん、そうだよね。ごめんね、変な事言って。暗くなっちゃった」
「ううん、心配になっちゃうよね。その気持ちは、わかるから。あたしも、本当にやれるのかなってビクビクしながらステージの台本書いてる。やるんだっていう強い気持ちを持たなきゃとは思うんだけど、なかなかね」
「きっと大丈夫だよ。何も、絶対春じゃないと出来ないってこともないでしょ? いつまた普段通りの生活が戻って来てもいいように、手を増やしとくのは悪くないよ」
「うん、そうだね。5月じゃなくても、6月でも7月でも、12月だっていいんだもんね! よーし、がんばるぞ」
そう言ってユキちゃんはフルーツケーキをフォークで大きく切り分け、頬張った。まるでエネルギーを得るように。俺はただのアナウンサーで、自分で台本を書いたりっていうようなことはほとんどない。UHBCで番組を作る時は大体プロデューサーさんがやってくれることだから。だから台本を書く苦労なんかは計り知れないけど、せっかく頑張ってるんなら、最後まで作り上げられた方がいい。中途半端な状態で頓挫してしまうよりは、作った状態でお蔵入りになる方が、まだ悔いは残らないかなって。俺の個人的な考えだけど。
「ねえユキちゃん、俺も何か力になれないかな」
「うーん……そしたら、たまにこうやって息抜きに付き合ってくれる?」
end.
++++
厳密にはホワイトデー前ですが、明日は制作会なのでここでやるよね。久々にミドユキです。今年度あんまやってないけど。
そういやポテサラチョコの件も今年やってなかったし、タカミドがホワイトデーの催事場を眺めてたのもいつの年度の話だっけ……
これからの青女ではステージの台本を書くのがユキちゃんの仕事だというように決まったようですね。しばらくは啓子さんもいるので修行ですね
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