2019(04)

■春のメンチカツまつり

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「おー! ユーヤじゃねーか! お前何やってんの!?」
「何って、メンチカツ大会にお呼ばれしたから来たんだろうが」
「あっ、みんな適当なところに座ってー。もう少ししたら出来るから」

 諸般の事情での一斉休校要請の結果、春野菜を消費してくださいだの牛乳を消費してくださいだのと省庁が請い始めてしばらく。その流れを受けたのかどうかは知らねえが、伊東主催のメンチカツ大会という物が開かれるという知らせがあった。いつもの無制限飲みのシステムでやるからよければどうぞと言われれば、喜んで出て行く。
 この春で一人暮らしを終える伊東の部屋からは物が少しずつ減っているそうだが、それでも台所だけは代わり映えない。誰が最初に言ったか「要塞」とまで呼ばれたその姿を保っている。もちろん、調理要塞の台所だけではなく、部屋に置かれた電気圧力鍋と真空保温調理鍋にしても健在だ。
 今日はまた変わったメンツが呼ばれているなと思う。俺の他には山口と太一、それから年末の音楽祭で見た覚えのある太一の相棒がいる。山口はサッカー関係だとわかるが、伊東と太一らの関係はなんだ? まあ、星ヶ丘だし山口つてで何かあったか、それともコイツもIFサッカー部とやらの部員なのか。

「えっ、ユーヤってカズの何?」
「何って、普通に同じMBCCだ」
「高崎クンと伊東クンは同じ高校の同級生でもあって~、フツ~に仲良しなんだよ~カンノ君」
「へー、そうなんか」
「こっちからすればお前と伊東の関係の方が謎だ」
「俺たち3人はIFサッカー部だね~」
「薄々そんな気はしてたがやっぱりか。IFサッカー部はIFの活動に出てない奴らも普通にいるっつー話だもんな」
「って言うか~、俺的には高崎クンとカンノ君の繋がりの方が謎なんだけど~」

 俺と太一は音楽関係の繋がりと言うのが正しいだろう。厳密には年末の音楽祭から面識はあるが、知り合いという間柄になったのはつい最近、壮馬が持ってきたTCF新曲レコーディングの話からだろう。ちなみに、太一はサポメンの話を(拓馬さんの圧もあって)引き受けてくれて、今では練習がてらちょこちょこと顔を合わせている。

「へ~、そ~ゆ~コトもやってんだね~。って言うか高崎クンの後輩の子? CD出しちゃうなんてすごいんだね~」
「はーい皆さん、第1陣が揚がりましたー」
「いよっ、待ってました!」
「ちなみに、今日のはキャベツ多めになってるから。それから、これがソース」
「伊東クンこれソースも自分で作った?」
「ソースは普通に市販のウスターソースにケチャップをちょっと混ぜて、軽く味を調えただけ。難しいことはしてないよ。みんな食べてる間に第2陣揚げるし、熱いうちにどうぞ」
「それじゃ、いただきます」

 揚げたてのメンチカツを2つほど皿に取り、ソースをひと匙。思い切りかじると、確かにキャベツが多めではあるものの、肉の存在感も負けてない。一言で言うと美味い。大皿に敷かれたキャベツの千切りも小皿に盛っていく。久々に伊東の作ったモンを食えて、脳がいろいろ思い出しちまった。ビールが欲しい。

「何か意外に食い応えがすげーな。5つ6つは余裕だろって思ったけどキャベツとか食ってたらすぐお腹いっぱいになりそ」
「そのままでも美味しいけど、パンに挟んでも美味しいだろうな」
「あ~! スガ、お前それ反則だろ!」
「メンチカツサンドか。……伊東!」
「はーい、どうかしたー?」
「お前、食パン焼けるだろ。今から焼いたら時間的にはどんなモンだ」
「なる早で?」
「なる早の方が嬉しいな。カツサンドにしてえんだ」
「あー、なるほどね。さすが高ピー。うちのホームベーカリーだったら最短1時間だね。焼く?」
「頼む」
「そしたら次のメンチカツ、パンに合わせて揚げようか、ちょっと遅くなっちゃうけど」
「いいねえ」
「それじゃあ、ちょっと待っててね」

 ――と、MBCC的にはごくごく普通のやりとりをしていたつもりだったのだが、星ヶ丘勢が引き気味なのがわかる。カツをパンに挟んでも美味いだろうなと発した菅野にしても、もしも話のつもりだったのにそれを真に受けるかみたいな顔をしている。だが、この要塞では料理に関する不可能が俺たちの思うよりずっと少ない。
 ガタンガタンと台所から音がしている。そして奴はホームベーカリーを持って部屋にやってきた。電気圧力鍋の方の様子を見て、こっちはもう終わってるねとホームベーカリーのコンセントを差す。そう言えば、こっちは何を作っているのやら。そんな風に眺めていると、ホームベーカリーが動き出した。

「伊東、圧力鍋の方には何が入ってるんだ」
「こっちはロールキャベツだね」
「おっ、いいね」
「材料そんな変わんないしついでだから」
「つかカズさ、いくら野郎5人っつっても作り過ぎじゃね?」
「ゴメンゴメン、MBCCの無制限飲み感覚で作ってたよ。これでもまだ全然作ってないつもりだったんだけど」
「伊東クン麻痺ってるかもだけど~、緑ヶ丘さんて~、食べる量も飲む量も異常だとは言っとくよね~」
「まあ、余っても俺と慧梨夏の晩ご飯になるだけだし、メンチカツは冷凍保存出来るから。あ、ちなみにデザートに牛乳寒天もあるんだけど」
「おっ、デザートまであるのか。至れり尽くせりだな」
「えっ、ユーヤお前まだ食うの? すでにめちゃ食ってるだろ」
「何言ってんだ、まだまだ序の口だろ。早くパン焼けねえかな。ああ、せっかくソースとキャベツあるんだし丼にしても美味いだろうな」

 メンチカツが少し冷めて来て食いやすくなると、食い進めるペースがどんどん上がる。太一は他のメニューも食べたいから今は3つでやめとくと箸を止めた。菅野も「言い出しっぺだしカツサンドは食べないと」と4つで休憩中。山口はと言えば、台所に伊東の作業を覗きに行ってしまった。

「おいお前ら、食わないのか。温度もいい感じで食いやすいぞ」
「……ユーヤがソルの弟分なの、ある意味納得だわ」
「カン、高崎君て塩見さんの弟分なのか」
「ソルのヤンキー時代のナントカって」
「太一、何度でも言うが俺はヤンキーだったことはねえぞ」
「――って聞いてたのかよ!」


end.


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春野菜と牛乳の消費云々の話を聞いて、いち氏が何かやってくれないかなと思った結果こんなことになりました。朝霞Pはどうした(サッカー部の区分だからいないのか?)
MBCCがおかしいだけで、星ヶ丘勢が多分普通。いち氏の作る量もかなりMBCCナイズされてるし、GREENsのイベント規模をどうこうは言えない
で、当たり前のように食パンをオーダーする高崎よ。つかホームベーカリーも絶対いいの使ってるじゃないですかいち氏~~

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