2019(04)
■あの日の覚悟は弛まなく
++++
「ああ、宇部。待たせて悪い」
「いえ、私も今来たところよ」
「それで、話って」
話があると宇部から呼び出され、指定された大学近くのカフェへ。今更宇部が俺に何の用事があるのだろうかと不思議に思ったけど、こうして呼び出されるからにはまた焦臭いことでも起こったのかなと考えてしまうくらいにはこのシチュエーションが懐かしい。
「単刀直入に言えば、追いコンの会計に不正が発見されたわ」
「追いコンの会計に不正…?」
「ええ」
「何故それを俺に」
「先日の追いコンでは、3年が絡む行事だったからという理由で日高が部長面して取り仕切っている風を装っていたでしょう。だから私は“監査”として、現役時代、この手の情報を共有していたあなたに話す必要があると思ったというだけのことよ」
「そうか……それはどうも。で、不正の内容は?」
「日高班の追いコン参加費が部費から計上されていたのよ」
「部費から? 参加費を払うのが通行券代わりだっただろ」
「追いコンの会計を担当していたのは旧日高班の長門よ。帳簿はいくらでも誤魔化せるわ。班ごとにまとめて入場させたのも、日高班の人間が参加費を払っていないのを見られないようにするため」
「なるほどな」
追いコンの時から俺は確かに運営の仕方にと言うか、追いコンってこんな感じだっけっていう違和感を覚えていた。それがこうして実際に不正がありましたよと言われてみても、やっぱりなとしか思えないのだけど。確かにあの日、日高班は重役出勤をしていたように思う。このためか。
「宇部、お前はそれをどうやって見つけたんだ?」
「言い遅れたけれど、この度、文化会の監査に就任したの」
「文化会の監査?」
「ええ。萩さんから引継の話が回ってきて。文化会の監査としての初仕事が、会計と一緒に各部への抜き打ち査察ね。主に、部費の使い方を確認するための」
「金の流れに狙い打ったのか」
「菅野、星ヶ丘大学の文化部で一番焦臭い部がどこか知ってる?」
「全部の部を知ってるワケじゃないからはっきりとはわからないけど、俺の主観では放送部だと思う」
「ご名答よ。私は文化会の監査として、放送部の暗部を白日の下に晒し、膿を出し切ると決めたわ。会計帳簿の確認はその第一歩よ」
去年のことだけでも、放送部のやってきたことが表に出てしまえば部としての体裁を保っていられるかは十分に怪しい。放送部はそれだけの悪いことをやっている部だ。にも関わらず、宇部はそれらを全部洗いざらい暴くのだと言う。それも、去年の分だけではなく、それ以前にまで遡って。
「それで、旧日高班が部費を私的に流用したのはわかった。それはどうしてわかったんだ?」
「日高は足りなくなった分の費用を朝霞班から徴収するだなんてふざけたことを言ってきて、その徴収を私に押しつけてきたのよ」
「いや、そもそも朝霞班は追いコンにいなかっただろ」
「それでも行かなければうるさいから、一応行くだけ行って取らずに帰ってきたわ。朝霞にはこういうことになってるからと忠告だけして。それから、会計帳簿を調べたら消えるペンで細々と書いていたのよ。それらを復元した上で証拠画像を押さえ、会計帳簿を押収した上で部としての方針を示すよう柳井に命令を出したわ」
「柳井か。一応旧宇部班の身内だろ。ばっさり行ったな」
「監査というのはそういう役職よ」
「それで、その話を聞いて朝霞は?」
「それが、相変わらずと言うか何と言うか……」
朝霞の反応を聞いた瞬間、宇部は大きな溜め息を吐いた。日高班が流用した分の部費を朝霞班から取れということが伝わったとき、朝霞は日高に対して怒るとか呆れるとかではなく「この話は俺だけに止めておいてくれ」と宇部に頼んだそうだ。要は、洋平や戸田といった班員には伝えてくれるなということだ。
班員を守るというのは朝霞が班長として掲げていた大切な使命だ。日高から敵視されている以上、何が起こるかわからない。敵視されているのはあくまでも自分だから、他の班員にまで危害が加えられるのを阻止しなければならない。班員にはそんなことよりステージに集中して欲しいという考え方に基づくものだ。
時にはその思いが強すぎてアイツ自身が倒れることもあった。今回の件でも、アイツは洋平や戸田らにその話を伝えず、自分だけで問題を解決する気なのだろう。ただ、請求されている金は決して安くはないはずだ。払わなければいいだけのことだけど、日高がそれを納得するとも思えない。
「菅野、あなた最近朝霞と仲がいいそうじゃない」
「あれ、どこかから聞いたか」
「洋平から聞いたわ。自分ですら朝霞とそうそう遊ばないのにってちょっと拗ねたような感じにも見受けられたわね」
「あー……朝霞はほら、ああいう奴だから。一ヶ所に止めとくのは無理だろ」
「本当にそれなのよ」
最近の朝霞は、それこそ暇さえあればUSDXでやれそうな企画を考えたり、TRPGのシナリオを書いたりしているというような感じらしい。ちょっと油断するとすぐにLINEが入ってくるからコイツいつ寝てるんだとは思うけど、身内にそういうのがもう1人いるから慣れてはいる。1人増えるくらいはどうということはない。
「それで、もし近々朝霞と会う予定があるのなら、この件も少し心に留めておいてもらえないかしら。何をしてくれと言うつもりはないわ。だけど、一応ね」
「わかった」
「朝霞は、班員を守る気持ちが強いのは結構なのだけど、それでどんな無茶をしでかすかわからないところが怖いのよ」
「あー……確かに。アイツの無茶は確かに怖い」
end.
++++
久々に星ヶ丘放送部の暗部についてです。いつの間にか宇部Pが文化会の監査になっていたし、抜き打ち査察も終わっていたようです。
というかスガPの中で朝霞PとカンDの扱いが似たり寄ったりになっているような感じ。本当にカンDみたいなのが1人増えただけみたいな感じであっさりしてますね
そしてちょっと拗ねモードのやまよです。ここからどう拗らせていくのか楽しみですね!
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「ああ、宇部。待たせて悪い」
「いえ、私も今来たところよ」
「それで、話って」
話があると宇部から呼び出され、指定された大学近くのカフェへ。今更宇部が俺に何の用事があるのだろうかと不思議に思ったけど、こうして呼び出されるからにはまた焦臭いことでも起こったのかなと考えてしまうくらいにはこのシチュエーションが懐かしい。
「単刀直入に言えば、追いコンの会計に不正が発見されたわ」
「追いコンの会計に不正…?」
「ええ」
「何故それを俺に」
「先日の追いコンでは、3年が絡む行事だったからという理由で日高が部長面して取り仕切っている風を装っていたでしょう。だから私は“監査”として、現役時代、この手の情報を共有していたあなたに話す必要があると思ったというだけのことよ」
「そうか……それはどうも。で、不正の内容は?」
「日高班の追いコン参加費が部費から計上されていたのよ」
「部費から? 参加費を払うのが通行券代わりだっただろ」
「追いコンの会計を担当していたのは旧日高班の長門よ。帳簿はいくらでも誤魔化せるわ。班ごとにまとめて入場させたのも、日高班の人間が参加費を払っていないのを見られないようにするため」
「なるほどな」
追いコンの時から俺は確かに運営の仕方にと言うか、追いコンってこんな感じだっけっていう違和感を覚えていた。それがこうして実際に不正がありましたよと言われてみても、やっぱりなとしか思えないのだけど。確かにあの日、日高班は重役出勤をしていたように思う。このためか。
「宇部、お前はそれをどうやって見つけたんだ?」
「言い遅れたけれど、この度、文化会の監査に就任したの」
「文化会の監査?」
「ええ。萩さんから引継の話が回ってきて。文化会の監査としての初仕事が、会計と一緒に各部への抜き打ち査察ね。主に、部費の使い方を確認するための」
「金の流れに狙い打ったのか」
「菅野、星ヶ丘大学の文化部で一番焦臭い部がどこか知ってる?」
「全部の部を知ってるワケじゃないからはっきりとはわからないけど、俺の主観では放送部だと思う」
「ご名答よ。私は文化会の監査として、放送部の暗部を白日の下に晒し、膿を出し切ると決めたわ。会計帳簿の確認はその第一歩よ」
去年のことだけでも、放送部のやってきたことが表に出てしまえば部としての体裁を保っていられるかは十分に怪しい。放送部はそれだけの悪いことをやっている部だ。にも関わらず、宇部はそれらを全部洗いざらい暴くのだと言う。それも、去年の分だけではなく、それ以前にまで遡って。
「それで、旧日高班が部費を私的に流用したのはわかった。それはどうしてわかったんだ?」
「日高は足りなくなった分の費用を朝霞班から徴収するだなんてふざけたことを言ってきて、その徴収を私に押しつけてきたのよ」
「いや、そもそも朝霞班は追いコンにいなかっただろ」
「それでも行かなければうるさいから、一応行くだけ行って取らずに帰ってきたわ。朝霞にはこういうことになってるからと忠告だけして。それから、会計帳簿を調べたら消えるペンで細々と書いていたのよ。それらを復元した上で証拠画像を押さえ、会計帳簿を押収した上で部としての方針を示すよう柳井に命令を出したわ」
「柳井か。一応旧宇部班の身内だろ。ばっさり行ったな」
「監査というのはそういう役職よ」
「それで、その話を聞いて朝霞は?」
「それが、相変わらずと言うか何と言うか……」
朝霞の反応を聞いた瞬間、宇部は大きな溜め息を吐いた。日高班が流用した分の部費を朝霞班から取れということが伝わったとき、朝霞は日高に対して怒るとか呆れるとかではなく「この話は俺だけに止めておいてくれ」と宇部に頼んだそうだ。要は、洋平や戸田といった班員には伝えてくれるなということだ。
班員を守るというのは朝霞が班長として掲げていた大切な使命だ。日高から敵視されている以上、何が起こるかわからない。敵視されているのはあくまでも自分だから、他の班員にまで危害が加えられるのを阻止しなければならない。班員にはそんなことよりステージに集中して欲しいという考え方に基づくものだ。
時にはその思いが強すぎてアイツ自身が倒れることもあった。今回の件でも、アイツは洋平や戸田らにその話を伝えず、自分だけで問題を解決する気なのだろう。ただ、請求されている金は決して安くはないはずだ。払わなければいいだけのことだけど、日高がそれを納得するとも思えない。
「菅野、あなた最近朝霞と仲がいいそうじゃない」
「あれ、どこかから聞いたか」
「洋平から聞いたわ。自分ですら朝霞とそうそう遊ばないのにってちょっと拗ねたような感じにも見受けられたわね」
「あー……朝霞はほら、ああいう奴だから。一ヶ所に止めとくのは無理だろ」
「本当にそれなのよ」
最近の朝霞は、それこそ暇さえあればUSDXでやれそうな企画を考えたり、TRPGのシナリオを書いたりしているというような感じらしい。ちょっと油断するとすぐにLINEが入ってくるからコイツいつ寝てるんだとは思うけど、身内にそういうのがもう1人いるから慣れてはいる。1人増えるくらいはどうということはない。
「それで、もし近々朝霞と会う予定があるのなら、この件も少し心に留めておいてもらえないかしら。何をしてくれと言うつもりはないわ。だけど、一応ね」
「わかった」
「朝霞は、班員を守る気持ちが強いのは結構なのだけど、それでどんな無茶をしでかすかわからないところが怖いのよ」
「あー……確かに。アイツの無茶は確かに怖い」
end.
++++
久々に星ヶ丘放送部の暗部についてです。いつの間にか宇部Pが文化会の監査になっていたし、抜き打ち査察も終わっていたようです。
というかスガPの中で朝霞PとカンDの扱いが似たり寄ったりになっているような感じ。本当にカンDみたいなのが1人増えただけみたいな感じであっさりしてますね
そしてちょっと拗ねモードのやまよです。ここからどう拗らせていくのか楽しみですね!
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