2019(04)
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「しかしまあ、不特定多数と接触するワケじゃないとは言え、この時勢によく来たな」
「菜月さんのことだからね、あまり人混みには出ないだろうしそこまで神経質になる必要はないかなと思ったんだよ」
野坂を引き連れ緑風へとやってきた。この時勢、あまり旅行なんかしない方が良かったんだろうけど、大規模イベントに出るとかではなく菜月さんに会うためだけの旅行なのでまあいいかなという感覚でした。野坂が菜月さん成分を切らし過ぎたのが悪い。と言うか、お前らLINEで繋がってんだから電話でも何でもしろっつーの。……まあ、それを言うのも無粋かな。うーん、僕、偉い。
今年の緑風は雪がほとんど降ってなく、何なら気温もこの時期としては凄く高いそうだ。車で来てるから運転のしやすさという意味ではとても助かるね。それでもさすがに向島よりは寒いかなと思ってダウンジャケットで来たけど、昼はこれだと少し暑いね。菜月さんなんかごくごく普通のパーカーしか着てないって何なんだい? これが緑風民の寒さ耐性だというのかな?
元々何をしに来たというワケではないので行き当たりばったりで行く予定だったんだけど、それでなくても緑風に来てから菜月さんに聞きながら行く場所を決めればいいかなと思っていたから何も調べていない。というワケで、菜月さんの案内であまり大きくない喫茶店に入る。あまり大きくはないんだけどなかなか雰囲気が良さそうな感じの店で、ケーキが美味しいそうだ。各々好きな飲み物とケーキを注文した。
「ところで、この時勢だからこそ菜月さんとも話しておきたいことがあってね」
「どうしたんだ」
「卒業式が中止になったのはご存知かな?」
「あ、そうなのか。チェックしてなかったぞ」
「それに伴い、卒コンも本当にやるのかということを僕とりっちゃんと、それから村井のおじちゃんの3人で話したんだよ」
「で?」
「結論としては卒コンも中止になりました、ということをお知らせします」
「ああー……そうか」
大学の卒業式というのはなかなかに大きな規模で行われる行事になる。不特定多数の人間が狭い空間に押し込まれる類の行事は自粛してくれという風潮があるこの頃では、入学式や卒業式が中止になるということも決して珍しくはなかった。話によれば、緑ヶ丘大学の卒業式も中止になったそうだ。緑ヶ丘の卒業式は全国からウン千人とかが集まるから、規模が向島の比じゃないし仕方ないような気もする。
この件に関して村井のおじちゃんは「ちょっと寂しい気もするけどこないだ4年生追いコンをやってもらったし俺たちは全然いいよ」という風に言っていた。一応はガッツリお世話になった先輩だけに最後まで見送りたい気持ちはそれなりにあるのだけど、先輩方がそう仰るのであれば僕たちもその言葉に従います、という感じだ。りっちゃんとの最終会議で中止の方向で行きましょうと決定し、この件はここで閉じられることになった。
「ということは、ええー……どうしよう」
「何がだい?」
「一応卒業式に目掛けて1回帰るつもりでバスを取ってたんだけど、卒業式がないならもうちょっと遅らせてもいいかなあと思って」
「健康診断を目掛けて帰ってくるような感じかな?」
「そうなるかと」
「卒業式と卒コンが中止になったのを受け、3年生追いコンはどうしようという風に律と今度話し合うことになっていまして、その結果が分かり次第またお伝えいたします」
「そっか、3年生追いコンがあったか。いつだっけ」
「21日の予定でした」
「ぶっちゃけ不特定多数の集まる場所に行くとか、そういう行事をやらなければいいんだから、追いコンとは名ばかりの麻雀大会とかで全然いいと思うんだけどね」
「はっ…! 圭斗先輩宅での麻雀大会兼カレーパーティーの復活でしょうか!?」
追いコンと名の付く物は得てして飲み会になりがちだけど、僕たち3年生に関して言えば必ずしも宴席で送ってもらわなければならないワケではなく、昼間に適当な遊びをするとかでも全然大丈夫な学年だ。それこそ僕が今言ったような誰かの家でぐだぐだする的な行事でも全然アリだ。言ってMMPは陰の集団なので、人の来ない場所でこぢんまりやるくらいがちょうど良かったりする。
菜月さんが向島に戻ってくるタイミングの話をしていたのに、野坂がカレーパーティー復活だなんて言い出すから彼女も少し困ったような顔をしている。それでも、それが本当に嫌だというような表情ではなく、まったくとかやれやれというような見守るような顔なのが印象的だ。この感じだと、菜月さんは帰る時期を遅らせたとしても1日か2日くらいかな? この時勢だけに、バスの取り直しもさほど苦じゃないだろう。
「あ、思い出した」
「どうしたんだい」
「マグカップを買わないといけないんだった」
「また唐突だね」
「こっちに帰って来る前にカレーを食べたんだけど、その時に水を飲むのにマグカップを使うだろ。食べ終わって食器を洗おうと思ったら、手が滑ってマグカップを割ってしまったんだ」
「ん、そしたら今買いに行くかい?」
「いや、今買っても持ってくのが面倒だから向こうに戻ってから買う。あと、普通に向こうのが選択肢が多そうだし」
菜月さんと顔を合わせたことで野坂の顔に生気が戻って来たんだから単純と言うか何と言うか。緑風に来た目的はこれだけで達成されているんだけど、せっかく来たのだから僕も何かしたいね。例えば、向島ではなかなか買えないお酒や土産物を買ったりだとかね。ムラマリさんはそうやって個人的に送らせてもらうことにしようか。
end.
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これも毎年の行事になりつつあった野圭の緑風旅行ですが、こちらは決行されたようです。ただ、卒コンは中止になったようです。
菜月さん成分を欠乏させたノサカの精神衛生に関しては、圭斗さんの思うように電話とかでも良かったんじゃないかしら。
そういやホワイトデーとかいう行事もありましたね……果たしてどうなることやら。3倍返し禁止ですよね
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「しかしまあ、不特定多数と接触するワケじゃないとは言え、この時勢によく来たな」
「菜月さんのことだからね、あまり人混みには出ないだろうしそこまで神経質になる必要はないかなと思ったんだよ」
野坂を引き連れ緑風へとやってきた。この時勢、あまり旅行なんかしない方が良かったんだろうけど、大規模イベントに出るとかではなく菜月さんに会うためだけの旅行なのでまあいいかなという感覚でした。野坂が菜月さん成分を切らし過ぎたのが悪い。と言うか、お前らLINEで繋がってんだから電話でも何でもしろっつーの。……まあ、それを言うのも無粋かな。うーん、僕、偉い。
今年の緑風は雪がほとんど降ってなく、何なら気温もこの時期としては凄く高いそうだ。車で来てるから運転のしやすさという意味ではとても助かるね。それでもさすがに向島よりは寒いかなと思ってダウンジャケットで来たけど、昼はこれだと少し暑いね。菜月さんなんかごくごく普通のパーカーしか着てないって何なんだい? これが緑風民の寒さ耐性だというのかな?
元々何をしに来たというワケではないので行き当たりばったりで行く予定だったんだけど、それでなくても緑風に来てから菜月さんに聞きながら行く場所を決めればいいかなと思っていたから何も調べていない。というワケで、菜月さんの案内であまり大きくない喫茶店に入る。あまり大きくはないんだけどなかなか雰囲気が良さそうな感じの店で、ケーキが美味しいそうだ。各々好きな飲み物とケーキを注文した。
「ところで、この時勢だからこそ菜月さんとも話しておきたいことがあってね」
「どうしたんだ」
「卒業式が中止になったのはご存知かな?」
「あ、そうなのか。チェックしてなかったぞ」
「それに伴い、卒コンも本当にやるのかということを僕とりっちゃんと、それから村井のおじちゃんの3人で話したんだよ」
「で?」
「結論としては卒コンも中止になりました、ということをお知らせします」
「ああー……そうか」
大学の卒業式というのはなかなかに大きな規模で行われる行事になる。不特定多数の人間が狭い空間に押し込まれる類の行事は自粛してくれという風潮があるこの頃では、入学式や卒業式が中止になるということも決して珍しくはなかった。話によれば、緑ヶ丘大学の卒業式も中止になったそうだ。緑ヶ丘の卒業式は全国からウン千人とかが集まるから、規模が向島の比じゃないし仕方ないような気もする。
この件に関して村井のおじちゃんは「ちょっと寂しい気もするけどこないだ4年生追いコンをやってもらったし俺たちは全然いいよ」という風に言っていた。一応はガッツリお世話になった先輩だけに最後まで見送りたい気持ちはそれなりにあるのだけど、先輩方がそう仰るのであれば僕たちもその言葉に従います、という感じだ。りっちゃんとの最終会議で中止の方向で行きましょうと決定し、この件はここで閉じられることになった。
「ということは、ええー……どうしよう」
「何がだい?」
「一応卒業式に目掛けて1回帰るつもりでバスを取ってたんだけど、卒業式がないならもうちょっと遅らせてもいいかなあと思って」
「健康診断を目掛けて帰ってくるような感じかな?」
「そうなるかと」
「卒業式と卒コンが中止になったのを受け、3年生追いコンはどうしようという風に律と今度話し合うことになっていまして、その結果が分かり次第またお伝えいたします」
「そっか、3年生追いコンがあったか。いつだっけ」
「21日の予定でした」
「ぶっちゃけ不特定多数の集まる場所に行くとか、そういう行事をやらなければいいんだから、追いコンとは名ばかりの麻雀大会とかで全然いいと思うんだけどね」
「はっ…! 圭斗先輩宅での麻雀大会兼カレーパーティーの復活でしょうか!?」
追いコンと名の付く物は得てして飲み会になりがちだけど、僕たち3年生に関して言えば必ずしも宴席で送ってもらわなければならないワケではなく、昼間に適当な遊びをするとかでも全然大丈夫な学年だ。それこそ僕が今言ったような誰かの家でぐだぐだする的な行事でも全然アリだ。言ってMMPは陰の集団なので、人の来ない場所でこぢんまりやるくらいがちょうど良かったりする。
菜月さんが向島に戻ってくるタイミングの話をしていたのに、野坂がカレーパーティー復活だなんて言い出すから彼女も少し困ったような顔をしている。それでも、それが本当に嫌だというような表情ではなく、まったくとかやれやれというような見守るような顔なのが印象的だ。この感じだと、菜月さんは帰る時期を遅らせたとしても1日か2日くらいかな? この時勢だけに、バスの取り直しもさほど苦じゃないだろう。
「あ、思い出した」
「どうしたんだい」
「マグカップを買わないといけないんだった」
「また唐突だね」
「こっちに帰って来る前にカレーを食べたんだけど、その時に水を飲むのにマグカップを使うだろ。食べ終わって食器を洗おうと思ったら、手が滑ってマグカップを割ってしまったんだ」
「ん、そしたら今買いに行くかい?」
「いや、今買っても持ってくのが面倒だから向こうに戻ってから買う。あと、普通に向こうのが選択肢が多そうだし」
菜月さんと顔を合わせたことで野坂の顔に生気が戻って来たんだから単純と言うか何と言うか。緑風に来た目的はこれだけで達成されているんだけど、せっかく来たのだから僕も何かしたいね。例えば、向島ではなかなか買えないお酒や土産物を買ったりだとかね。ムラマリさんはそうやって個人的に送らせてもらうことにしようか。
end.
++++
これも毎年の行事になりつつあった野圭の緑風旅行ですが、こちらは決行されたようです。ただ、卒コンは中止になったようです。
菜月さん成分を欠乏させたノサカの精神衛生に関しては、圭斗さんの思うように電話とかでも良かったんじゃないかしら。
そういやホワイトデーとかいう行事もありましたね……果たしてどうなることやら。3倍返し禁止ですよね
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