2018
■休日はおうちカフェで
++++
「あっ、来たな浅浦」
「甘くないのも焼くって言うから来てみたけど、何やってんだ?」
「布団干し」
久々にバイトもない日曜日、今日は1日読書をしていようと思ったところにかかってきた電話。パンケーキ焼くからうちに来いよ、と。パンケーキのイメージと言えば、バターや大量のシロップ。元の生地も甘く味付けしてあって、とてもたくさんは食べられない。
ただ、言われるままに来てみれば、肝心の家主は火にかけたままのフライパンを放置したまま布団干しをしていた。そして、その彼女は洗い終えた洗濯物が詰まったカゴをベランダに運び出している。
「おい、火はいいのか。パンケーキ焼いてるんだろ」
「逆に、しばらく放置しなきゃいけないんだよ」
「パンケーキって言うか、ホットケーキだろ。そんな放置するモンだっけ」
「重曹を使わないでふかふかとろとろに焼き上げるには、とろ火でじ~っくり焼きあげなきゃいけないんだと」
「で、待ち時間に布団干しか」
「待ってる間に布団を干してりゃ、片付けまで終わった頃には布団もふかふかにならないかなー的な?」
布団を干し終えて、伊東は一度台所へと戻って行った。だけどフライパンに被せた蓋を開けることはまだしない。ここは我慢が必要な時なんだとか。せっかくの日曜だから、時間をたっぷり使って優雅なパンケーキパーティーを。そう思い立ってからは早かったそうだ。
「俺たちは甘いのだけど、お前のは甘くないのにしてあるし、サラダもマッシュポテトもソーセージも準備出来てるぜ。チーズソースはこれからだけど」
「至れり尽くせりだな」
「ランチプレート的なパンケーキにも憧れはあるんだよ。隠れ家カフェ的な」
「俺を実験台にするみたいなことか」
「後で一口分けてくれ」
俺の甘くないパンケーキには、チーズフォンデュに使うようなソースを上からかけてくれるそうだ。俺は甘い物が食べられないけどしょっぱい系は割と好きだし、チーズは普段からよく食べている。これならパンケーキも美味しくいただけそうだ。
伊東の凄いところは、これというイメージに実際の調理で近付けていく能力だろう。俺も料理はよくするし得意な方だと思うけど、俺の料理はレシピに忠実ではないし、分量や手順も基本的にアバウトだ。伊東はその真逆を行く。とにかくレシピに忠実に。
「宮林サン、アンタは何をやってるんだ?」
「うち? 洗濯物を干してるんですよ」
「物干しを覚えたのか」
「洗濯物を干すくらいは出来ますぅー」
いくらこの人が家事全般を苦手にしていると言っても、調理よりは物干しの方が失敗は少ないかもしれない。今更だけど、まるで新婚夫婦の新居にお邪魔しに来たような、そんな錯覚さえ覚える。と言うか2人でいちゃついていればよかったものを、どうして俺を呼んだ。いや、いいんだけど。
部屋には、パンケーキの匂いが漂っている。とろ火でじっくり焼いているそれは、どれほどまでに膨らんでいるのか。フライパンの蓋を開ければ、通気口を通って部屋の前の通路にもこの匂いが広がることだろう。たまにあるもんな、どこかの部屋でカレー食べてるな、とかって匂いでわかることが。
「カズ、うちのお皿にもマッシュポテト乗っけてね」
「わかったよ」
「あ、でもソーセージもいいな~。甘いしょっぱいを交互に食べたいかも」
「そしたら、付け合わせも全部別の皿に乗っけて出しとくし、好きに食ったらいいよ」
「絶対写真撮る! 浅浦クンのサラダプレートもオシャレになるだろうなー、これ、飯テロ素材になるよね」
「まあ、なるだろうな」
そろそろかな、と伊東はフライパンを蓋の上から覗き込む。2枚焼いているうちの1枚の蓋を開け、竹串を突き刺す。串に生の生地がついてこなかったから、これでよしと火を止めた。俺は甘い組が食べる付け合わせのサラダとマッシュポテト、それからパリッと焼いたソーセージの皿を持ち部屋へと戻る。
きっと台所では伊東がそれこそ隠れ家的オシャレカフェ風の、SNS映えしそうなパンケーキプレートを盛り付けていることだろう。バターとメープルシロップも忘れずに。こうと決めたらこだわり抜く男だから、きっとどこかで見た写真のようなプレートになっているはずだ。
「わっ、カズ、すごーい!」
「こっちがお前ので、こっちが浅浦の。熱いうちに食えよ」
「お前は?」
「うちコンロ2口しかないじゃんな。俺のはこれから焼く」
「何か、悪いな。と言うか俺を呼ばなかったらこの人と一緒に食べられたんじゃないか?」
「いや、いいんだ」
宮林サンが写真を撮ったのを確認して、ふっくらとしたパンケーキにナイフを入れる。ふっくら、とろとろ。チーズのソースが絡んで美味しそうだ。
「ん、美味い」
「浅浦、一口」
「ん」
「はー、我ながら美味っ」
「えっ、浅浦クンのを2人でシェアしてるとかこれって燃料投下的な何か? ごちそうさまです!」
「違う」
「今年は作業時間が増えるからね、そこで頑張りますからどうぞ2人でいちゃついてもらって」
end.
++++
唐突に開催されたパンケーキ大会です。いちえりちゃんの大会に招待された浅浦雅弘であった
去年のクリスマス辺りにタカりんもじっくりことこと待ってるタイプのホットケーキを焼いていたのですが、多分それよりオシャレなんだろうなあ
そういやいち氏って重曹の魔術師だった。料理に掃除に洗濯にと重曹が大活躍しているお話をいつかやりたいので知識を仕入れねば
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「あっ、来たな浅浦」
「甘くないのも焼くって言うから来てみたけど、何やってんだ?」
「布団干し」
久々にバイトもない日曜日、今日は1日読書をしていようと思ったところにかかってきた電話。パンケーキ焼くからうちに来いよ、と。パンケーキのイメージと言えば、バターや大量のシロップ。元の生地も甘く味付けしてあって、とてもたくさんは食べられない。
ただ、言われるままに来てみれば、肝心の家主は火にかけたままのフライパンを放置したまま布団干しをしていた。そして、その彼女は洗い終えた洗濯物が詰まったカゴをベランダに運び出している。
「おい、火はいいのか。パンケーキ焼いてるんだろ」
「逆に、しばらく放置しなきゃいけないんだよ」
「パンケーキって言うか、ホットケーキだろ。そんな放置するモンだっけ」
「重曹を使わないでふかふかとろとろに焼き上げるには、とろ火でじ~っくり焼きあげなきゃいけないんだと」
「で、待ち時間に布団干しか」
「待ってる間に布団を干してりゃ、片付けまで終わった頃には布団もふかふかにならないかなー的な?」
布団を干し終えて、伊東は一度台所へと戻って行った。だけどフライパンに被せた蓋を開けることはまだしない。ここは我慢が必要な時なんだとか。せっかくの日曜だから、時間をたっぷり使って優雅なパンケーキパーティーを。そう思い立ってからは早かったそうだ。
「俺たちは甘いのだけど、お前のは甘くないのにしてあるし、サラダもマッシュポテトもソーセージも準備出来てるぜ。チーズソースはこれからだけど」
「至れり尽くせりだな」
「ランチプレート的なパンケーキにも憧れはあるんだよ。隠れ家カフェ的な」
「俺を実験台にするみたいなことか」
「後で一口分けてくれ」
俺の甘くないパンケーキには、チーズフォンデュに使うようなソースを上からかけてくれるそうだ。俺は甘い物が食べられないけどしょっぱい系は割と好きだし、チーズは普段からよく食べている。これならパンケーキも美味しくいただけそうだ。
伊東の凄いところは、これというイメージに実際の調理で近付けていく能力だろう。俺も料理はよくするし得意な方だと思うけど、俺の料理はレシピに忠実ではないし、分量や手順も基本的にアバウトだ。伊東はその真逆を行く。とにかくレシピに忠実に。
「宮林サン、アンタは何をやってるんだ?」
「うち? 洗濯物を干してるんですよ」
「物干しを覚えたのか」
「洗濯物を干すくらいは出来ますぅー」
いくらこの人が家事全般を苦手にしていると言っても、調理よりは物干しの方が失敗は少ないかもしれない。今更だけど、まるで新婚夫婦の新居にお邪魔しに来たような、そんな錯覚さえ覚える。と言うか2人でいちゃついていればよかったものを、どうして俺を呼んだ。いや、いいんだけど。
部屋には、パンケーキの匂いが漂っている。とろ火でじっくり焼いているそれは、どれほどまでに膨らんでいるのか。フライパンの蓋を開ければ、通気口を通って部屋の前の通路にもこの匂いが広がることだろう。たまにあるもんな、どこかの部屋でカレー食べてるな、とかって匂いでわかることが。
「カズ、うちのお皿にもマッシュポテト乗っけてね」
「わかったよ」
「あ、でもソーセージもいいな~。甘いしょっぱいを交互に食べたいかも」
「そしたら、付け合わせも全部別の皿に乗っけて出しとくし、好きに食ったらいいよ」
「絶対写真撮る! 浅浦クンのサラダプレートもオシャレになるだろうなー、これ、飯テロ素材になるよね」
「まあ、なるだろうな」
そろそろかな、と伊東はフライパンを蓋の上から覗き込む。2枚焼いているうちの1枚の蓋を開け、竹串を突き刺す。串に生の生地がついてこなかったから、これでよしと火を止めた。俺は甘い組が食べる付け合わせのサラダとマッシュポテト、それからパリッと焼いたソーセージの皿を持ち部屋へと戻る。
きっと台所では伊東がそれこそ隠れ家的オシャレカフェ風の、SNS映えしそうなパンケーキプレートを盛り付けていることだろう。バターとメープルシロップも忘れずに。こうと決めたらこだわり抜く男だから、きっとどこかで見た写真のようなプレートになっているはずだ。
「わっ、カズ、すごーい!」
「こっちがお前ので、こっちが浅浦の。熱いうちに食えよ」
「お前は?」
「うちコンロ2口しかないじゃんな。俺のはこれから焼く」
「何か、悪いな。と言うか俺を呼ばなかったらこの人と一緒に食べられたんじゃないか?」
「いや、いいんだ」
宮林サンが写真を撮ったのを確認して、ふっくらとしたパンケーキにナイフを入れる。ふっくら、とろとろ。チーズのソースが絡んで美味しそうだ。
「ん、美味い」
「浅浦、一口」
「ん」
「はー、我ながら美味っ」
「えっ、浅浦クンのを2人でシェアしてるとかこれって燃料投下的な何か? ごちそうさまです!」
「違う」
「今年は作業時間が増えるからね、そこで頑張りますからどうぞ2人でいちゃついてもらって」
end.
++++
唐突に開催されたパンケーキ大会です。いちえりちゃんの大会に招待された浅浦雅弘であった
去年のクリスマス辺りにタカりんもじっくりことこと待ってるタイプのホットケーキを焼いていたのですが、多分それよりオシャレなんだろうなあ
そういやいち氏って重曹の魔術師だった。料理に掃除に洗濯にと重曹が大活躍しているお話をいつかやりたいので知識を仕入れねば
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