2019(04)
■バイトリーダーの憂鬱
++++
「元々が春休みですし、さすがに人は少ないですよね」
「そうだな。大学の施設自体は平常通り開放されているが、自宅にネット環境やパソコンがないなど、余程のことでもない限り来る必要などないからな」
星港大学ホームページでは今後の学内行事の開催予定についてとか、新型ウイルスに関する大学としての対処についてというページが用意され、情報センターではそれらの知らせをプリントアウトして掲示してくれという風に学生課から言われている。卒業式や入学式の開催については現在協議中であること、不要不急の外出やサークル活動、合宿、イベントなどへの参加は自粛するよう要請があった。
しかし、図書館や情報センターなど学内施設は平常通り開放されており、それらの施設にはアルコール消毒液が設置されるなど一定の対策がなされている。そして情報センターでは一定時間おきに換気をし、パソコンのキーボードやマウスなど不特定多数が触れた機器を消毒液を含んだ布で拭くなどの措置が取られるようになった。それらについて利用者に理解を求めるよう壁にデカデカと張り紙がなされている。
受付に「ただ今自習室機器清掃中」の立て看板を置き、オレと川北はキーボードなどの拭き掃除にかかる。学校柄、消毒用の薬品などは十分に備蓄がある。学生課からもらったそれを用いての清掃活動だ。キーボードなどには次亜塩素酸ナトリウムの方がいいと思うのだが。情報センターの自習室は60席ある。それらをひとつひとつ片付けていくのは何気に手間がかかる。その間換気のために窓は開けっぱなしだ。ウイルス対策としてはいいが花粉症の者には辛いだろう。
「林原さ~ん、この作業、地味に大変ですよねえ、時間もかかりますし」
「そうだな」
「今は利用者も少ないですし、人が使ったマシンだけでいいんじゃないかと思うんですけど」
「今はそれでもいいかもしれんが、繁忙期になっても続けねばならんのかと考えるとな」
川北とマシンを1台1台確認、清掃し、それらを終えれば立て看板を外し事務所へと戻る。清掃こそするが、今は利用者が少ない故に清掃時間から清掃時間の間に利用者がないこともザラだ。長期休暇はスタッフ1人でも回せないこともないが、この清掃作業があるということで2人体制を敷くことになっている。卒業間近のはずの春山さんの名前も未だにセンタースタッフとして登録されている。
「雄介さーん」
「……む。綾瀬か。どうした」
「公演が中止になって、部活もしばらく休みになったので顔を出しに来ました。これ、差し入れです」
「そうか。有り難くいただこう」
「演劇部だとやっぱりそうなっちゃいますよね。人に来てもらってこその活動みたいなところがありますし」
「そうなのミドリ君。でも休むと声が出なくなっちゃうし体も動かなくなるから鈍らないようにするのに大変なの」
「へー、影の努力があるんですねー」
情報センターの研修生を自称する綾瀬の扱いについては、バイトリーダーを交代した頃から春山さんにチクチクと刺され続けてはいた。スタッフの人数はいつだって足りない。機械音痴だろうが何だろうが、使えるところで使って今いる人間の負担をいかに分散するかを考えるのもバイトリーダーの手腕だと。いい加減に綾瀬を正式採用しろと言われ続けているのだが、現段階ではそれはまだだ。
採用するとしてもA番専だ。それは別にいい。オレ自身B番専みたいなところがあるし、人のことを言う資格はないと常々春山さんから言われているそれを理解している。だが、採用するに当たって改めて何が出来ないのかの理解が必要であるのと、研修生でなく正式にスタッフとなった後の扱いについて考える必要があった。一般的に履修コマ数の少なくなる文系の新3年をスタッフにする利点はそれなりに大きい。そろそろその時期に来ていた。
「何か、物騒な感じになっちゃいましたよね。いつまでこんな感じなんでしょうか」
「どうだろうな」
「雄介さん、詳しそうですけど」
「感染症の話は専門ではないとは言っておく」
「今日は何かすることはありますか?」
「自習室の清掃もやったばかりだからな」
あとは強いて言えば大学からのお知らせの新規の物の印刷・掲示とプレッツェルの処理などがあるが、これらは特に今どうこうしなければならないことでもないし、特に印刷・掲示などは2分もあれば終わってしまうことだ。プレッツェルの処理……つまり未だ事務所を圧迫するこれらを食い進めるにしても、とてもすぐに終わる量でもない。
「そうだ。綾瀬、お前はまだ情報センターのスタッフになる気はあるのか」
「もちろんですっ! とうとうスタッフに採用してもらえるんですか!?」
「いや、まだだ。無条件には採用しない」
「どうしたらいいんですか?」
「試験をする。まず、A番の受付業務を9割9分理解し実務をこなせるかの確認。次に、B番の自習室業務の内容を粗方理解しているかを確認し、何が出来ないのかを明らかにする目的だ」
「B番のお仕事もあるんですか…!?」
「B番の試験は飾りのような物だ。仮にお前にその気があるのならB番業務も教える必要がある。指導方針を固めねばならんからな。尤も、A番の業務が出来なければそれを考える必要もなくなるワケだが」
「どっちにしても、試験を受けないことには採用の道はないってことですよね! いつですか! 今からですか!」
「さすがに今ではない。試験の日時はまた後日伝えるが、それまでに精々復習でもしておけ」
「はいっ!」
相変わらず返事だけは勢いがいい。さて、これをどうしたものか。
「あの、カナコさんへの試験とは関係ないんですけど、林原さんちょっといいですか?」
「どうした川北」
「自習室は定期的に掃除してますけど、受付のマシンなんかは掃除しなくて大丈夫ですかね…?」
「……それは、気付いた者が掃除すればいいのではないか」
end.
++++
どこもかしこも自粛とか中止とかと言っていますが、通常運転なのが星大情報センターです。閉鎖しないんだね
というワケで、仕事内容もちょっと増えているような感じでリン様とミドリがお掃除などをしています。
そういやカナコの扱いについても動き出すのはこの頃でした。果たして試験はどうなるんでしょう
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「元々が春休みですし、さすがに人は少ないですよね」
「そうだな。大学の施設自体は平常通り開放されているが、自宅にネット環境やパソコンがないなど、余程のことでもない限り来る必要などないからな」
星港大学ホームページでは今後の学内行事の開催予定についてとか、新型ウイルスに関する大学としての対処についてというページが用意され、情報センターではそれらの知らせをプリントアウトして掲示してくれという風に学生課から言われている。卒業式や入学式の開催については現在協議中であること、不要不急の外出やサークル活動、合宿、イベントなどへの参加は自粛するよう要請があった。
しかし、図書館や情報センターなど学内施設は平常通り開放されており、それらの施設にはアルコール消毒液が設置されるなど一定の対策がなされている。そして情報センターでは一定時間おきに換気をし、パソコンのキーボードやマウスなど不特定多数が触れた機器を消毒液を含んだ布で拭くなどの措置が取られるようになった。それらについて利用者に理解を求めるよう壁にデカデカと張り紙がなされている。
受付に「ただ今自習室機器清掃中」の立て看板を置き、オレと川北はキーボードなどの拭き掃除にかかる。学校柄、消毒用の薬品などは十分に備蓄がある。学生課からもらったそれを用いての清掃活動だ。キーボードなどには次亜塩素酸ナトリウムの方がいいと思うのだが。情報センターの自習室は60席ある。それらをひとつひとつ片付けていくのは何気に手間がかかる。その間換気のために窓は開けっぱなしだ。ウイルス対策としてはいいが花粉症の者には辛いだろう。
「林原さ~ん、この作業、地味に大変ですよねえ、時間もかかりますし」
「そうだな」
「今は利用者も少ないですし、人が使ったマシンだけでいいんじゃないかと思うんですけど」
「今はそれでもいいかもしれんが、繁忙期になっても続けねばならんのかと考えるとな」
川北とマシンを1台1台確認、清掃し、それらを終えれば立て看板を外し事務所へと戻る。清掃こそするが、今は利用者が少ない故に清掃時間から清掃時間の間に利用者がないこともザラだ。長期休暇はスタッフ1人でも回せないこともないが、この清掃作業があるということで2人体制を敷くことになっている。卒業間近のはずの春山さんの名前も未だにセンタースタッフとして登録されている。
「雄介さーん」
「……む。綾瀬か。どうした」
「公演が中止になって、部活もしばらく休みになったので顔を出しに来ました。これ、差し入れです」
「そうか。有り難くいただこう」
「演劇部だとやっぱりそうなっちゃいますよね。人に来てもらってこその活動みたいなところがありますし」
「そうなのミドリ君。でも休むと声が出なくなっちゃうし体も動かなくなるから鈍らないようにするのに大変なの」
「へー、影の努力があるんですねー」
情報センターの研修生を自称する綾瀬の扱いについては、バイトリーダーを交代した頃から春山さんにチクチクと刺され続けてはいた。スタッフの人数はいつだって足りない。機械音痴だろうが何だろうが、使えるところで使って今いる人間の負担をいかに分散するかを考えるのもバイトリーダーの手腕だと。いい加減に綾瀬を正式採用しろと言われ続けているのだが、現段階ではそれはまだだ。
採用するとしてもA番専だ。それは別にいい。オレ自身B番専みたいなところがあるし、人のことを言う資格はないと常々春山さんから言われているそれを理解している。だが、採用するに当たって改めて何が出来ないのかの理解が必要であるのと、研修生でなく正式にスタッフとなった後の扱いについて考える必要があった。一般的に履修コマ数の少なくなる文系の新3年をスタッフにする利点はそれなりに大きい。そろそろその時期に来ていた。
「何か、物騒な感じになっちゃいましたよね。いつまでこんな感じなんでしょうか」
「どうだろうな」
「雄介さん、詳しそうですけど」
「感染症の話は専門ではないとは言っておく」
「今日は何かすることはありますか?」
「自習室の清掃もやったばかりだからな」
あとは強いて言えば大学からのお知らせの新規の物の印刷・掲示とプレッツェルの処理などがあるが、これらは特に今どうこうしなければならないことでもないし、特に印刷・掲示などは2分もあれば終わってしまうことだ。プレッツェルの処理……つまり未だ事務所を圧迫するこれらを食い進めるにしても、とてもすぐに終わる量でもない。
「そうだ。綾瀬、お前はまだ情報センターのスタッフになる気はあるのか」
「もちろんですっ! とうとうスタッフに採用してもらえるんですか!?」
「いや、まだだ。無条件には採用しない」
「どうしたらいいんですか?」
「試験をする。まず、A番の受付業務を9割9分理解し実務をこなせるかの確認。次に、B番の自習室業務の内容を粗方理解しているかを確認し、何が出来ないのかを明らかにする目的だ」
「B番のお仕事もあるんですか…!?」
「B番の試験は飾りのような物だ。仮にお前にその気があるのならB番業務も教える必要がある。指導方針を固めねばならんからな。尤も、A番の業務が出来なければそれを考える必要もなくなるワケだが」
「どっちにしても、試験を受けないことには採用の道はないってことですよね! いつですか! 今からですか!」
「さすがに今ではない。試験の日時はまた後日伝えるが、それまでに精々復習でもしておけ」
「はいっ!」
相変わらず返事だけは勢いがいい。さて、これをどうしたものか。
「あの、カナコさんへの試験とは関係ないんですけど、林原さんちょっといいですか?」
「どうした川北」
「自習室は定期的に掃除してますけど、受付のマシンなんかは掃除しなくて大丈夫ですかね…?」
「……それは、気付いた者が掃除すればいいのではないか」
end.
++++
どこもかしこも自粛とか中止とかと言っていますが、通常運転なのが星大情報センターです。閉鎖しないんだね
というワケで、仕事内容もちょっと増えているような感じでリン様とミドリがお掃除などをしています。
そういやカナコの扱いについても動き出すのはこの頃でした。果たして試験はどうなるんでしょう
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