2019(04)

■生きる体と環境整備

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 MBCCサークル室の掃除をしたいということで、有志が集められることになった。2年生の先輩たちで話していたときにL先輩が提案したのだという。これは正直想像に難くないし、割と常々そんなようなことを言っているような気がするから全然驚かない。今やるんだって感じ。朝食代わりのカロリーメイトを食べながらMDストックのリストを眺めていると、どたどたとやって来たのは大きな荷物を抱えた果林先輩。

「タカちゃんおはよー」
「あ、果林先輩おはようございます」
「タカちゃんさてはまた朝ご飯抜いたな?」
「わかりますか」
「カロリーメイト買うお金でパン2つ買った方がいいよ」

 果林先輩が提げてきたコンビニ袋を見ると、中にはパンが大量に入っているようだった。果林先輩の食べる量は並大抵じゃない。1年弱見てきてようやく慣れたけど、両手いっぱいに提げてきたこの袋の中身もきっと一人で平らげるんだと思う。それでもきっと満腹には程遠いはずだ。果林先輩からは少し前に某パンまつりの皿を2枚もらったけど、このペースでパンを食べていればそりゃあ始まった直後にもうお皿になるよなあと。
 新型ウイルスどうこうの影響でいろんなイベントが中止や延期に追い込まれる中、パンまつりは平常通り開催してるからねと果林先輩はコンビニ袋の中からパンを取り出して点数のシールを台紙にぺたぺたと貼り始めた。25点でお皿が1枚。今年の皿は深さも少しあってカレーやパスタを食べるのにもちょうどいいそうだ。パンまつりガチ勢によればランチパックは得点効率があまり良くないとのこと。ランチパック結構食べるんだけどな。まあ、点数に関しては果林先輩がいるし。

「果林先輩も今食べるんですね」
「Lが来る前に食べちゃわないとね。絶対めんどくさいし」
「ミキサー席近辺じゃなきゃいいと思いますけど」
「アイツこの部屋に食べくず落ちてたら絶対アタシの所為にするじゃんね。みんなこの部屋で食べてるじゃん!」
「スイマセン」

 あのキレイ好きはもはや病的でしょ、とブツブツ言いながら果林先輩は袋の中からチョコチップメロンパンを取り出した。アタシは落としても3秒ルール内でちゃんと拾うしダメならダメでちゃんとすぐ片付けてるのに、と冤罪にご立腹のようだ。確かにL先輩はサークル室で食べ屑を見つけると真っ先に果林先輩を疑う。だけど、果林先輩の言うようにみんなこの部屋でしっかり食べてるんですよね、俺も含めて。

「まあ、食べてる印象が強いですからね果林先輩は」
「タカちゃんも1個食べる? カロリーメイトだけじゃ人間は生きれないよ」
「あ、でも熱量自体は結構とりました」
「タカちゃん絶対もっと取ってオッケーだから。パン食べな」

 そう言って俺に袋を差し出す果林先輩が言うには、俺が先輩の食べっぷりに驚くのと同じくらい俺の食べなさに驚いているらしい。俺は食べたくなくて食べないワケじゃないんだけど、台所事情と言うか、食事と睡眠なら睡眠の方が大事と言うか。寝ていれば別に空腹を意識しなくて済むし、何もしないからお金も減らないっていうのが大きい。そんな難しいことを抜きにして寝てる時間が幸せなのもある。

「あ、じゃあウインナーロールをいただきます」
「食べな食べなー」
「でも果林先輩、一人で全部食べることを前提に買ってくるんですよね」
「そうだよ」

 とか言っている間にも袋は軽くなっていく。俺と話しながらもパクパクとパンを食べる手と口が止まってない。確かに、果林先輩は食べるのが上手い。技術的な意味で。見た感じ、床にクズなんて全然落ちないんだ。

「おはよーございまーす」
「あ、Lじゃん」
「果林お前また食ってやがる! 掃除しとけよちゃんと」
「アタシ汚してないんだけど!」

 パンを食べてる果林先輩を見るなり掃除のスイッチが入ってしまう辺り、L先輩もそう簡単には変わらなさそうだ。ミキサー席周辺どころかサークル室全体の衛生状態は上がりそうではある。ところで、今日の本題はサークル室の掃除をしたいという話だったはずだ。サークル室の衛生状況についてはエイジもコロコロだけじゃ足りないって言ってるしL先輩に賛同する立場なんだよなあ。俺の部屋の掃除をしながらよく愚痴を言っているように思う。
 そもそもL先輩が大規模な掃除をしようと思ったのは、歴代の佐藤ゼミ生がもらって来ていた機材で築き上げられた壁のことだとか、昨今の新型ウイルスへの対策という意味合いもあるとかないとか。エイジがホコリでクシャミを飛ばしたのもそのきっかけだった。とにかく、何年も大規模な掃除をしていない部屋というのがL先輩からすれば既に耐えられないらしい。これまで春は伊東先輩の花粉症で窓を開けることすら出来なかったけど、その伊東先輩が引退した今がその時だと。

「つかそのパン差し入れ?」
「全部アタシのご飯だし」
「高木も食ってるからそう思うじゃんか」
「タカちゃんは特例! アンタ小食じゃん!」
「あ、そうだ高木お前だ」
「はい?」
「ここでカロリーメイト食うのはいいけど箱捨てるとき潰すか破くかしてくれ。あとたまに袋に入ってない」
「スイマセン」

 とりあえず他のメンバーが来る前に、食べ物と掃除に関するサークル室内のルールをちゃんと定めないといけないかな、とL先輩がため息をひとつ。食べ物と掃除に関するサークル室内のルールか。ミキサー席での飲食禁止の他に必要かなあとはちょっと思うけど。こぼしたら拾うとかそういう最低限で問題なくないかな。L先輩とエイジ的にはそれだけじゃ足りないんだろうなあ。

「とりあえず、掃除に関しては俺が法律だから」
「うわっ、ご飯マズくなる。それより今日って掃除だよね?」
「掃除だな。それからこないだ言ってた機材についてのガチな話し合い。ミキサーは出来ればこの機材群の選別をしたい。そもそも機材を動かさないとガチ掃除が出来ないから」
「えっ、どこまでの規模でやるつもり?」
「ウン年ものの埃が白日の下にさらされるだろうとは。だから一応手作りマスクキット用意してきたし」
「えっ、デマで売り切れって聞いたけど、よくキッチンペーパーなんかあったね?」
「俺が行ったドラッグストアでは少ないなりにまだあった」
「へー、じゃあマスク作った方がよさそうだね」


end.


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MBCCの掃除に向けた打ち合わせですが、タカりんのごはんの話がメインっぽい感じになりました。
掃除は年度末MBCCの恒例行事のようになっているのでここらで一発。ただ、ウン年ものの埃が出て来るのでマスクがほしいところ。
掃除に関しては自分が法律だと言い切ったLですが、来年度からはどういうサークル運営をしていくのか! 掃除以外の面でね!

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