2019(04)
■人混みを避けつつ自粛しない
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不要不急の外出はしないようにとか、人混みを避けるようにと言われるようにしばらく。元々インドア派の私はひたすら趣味の手芸に勤しむ日々を送っていた。手芸の材料はインターネットでも買うことが出来るけれど、パソコンやスマートフォンの画面で見るのと実際に自分の目で見るのではいろいろ違って来るから、それは極力お店に行って買いに行きたいと思っていて。だから不要不急の外出をしないための外出をする。
ここである程度の資材調達をすれば、今後はある程度家の中で作業が出来る。その他にも出かける用事はあるけれど、ここまで話が大きくなってくると、少しは大人しくしていた方がいいと思うから。災害などで起こって来る過度な自粛ムードに関して言えば、そこはむしろ楽しめる人は楽しんで、盛り上げてくれる人が盛り上げてという空気にもなりつつある。だけど、人が集まるということが問題を広げる可能性があるのが伝染病。
マフラーやセーターを作るにはもう時期が過ぎてしまった感がある。だから今回はアクセサリーや小物類を中心に作って行こうと思う。私はハンドメイドイベントにも出店していたのだけど、最近の流れを受けてそれもどうなるのかわからない。次回イベントの開催は状況を見ながらその判断がされるそうだけど、不特定多数が集まるイベントだけに、行くとすればいろいろな対策をしていかなければならないな、とは。
「minaさん」
「……さとさん…?」
「はい、そうです。こんにちは」
いつかのように私に声をかけてきたのは大きなメガネにマスク姿のさとさん。やっぱりこんな時世だからか街を行く人もマスクをしている人が多い。私もマスクをすることは多いけど、今日は手芸屋にしか来るつもりがなかったから、節約も兼ねて。大学に行くときや星港中心街への買い物、それからバイトの時はマスクをするのだけど、まだまだ品薄状態が続いているからガンガン使うには手元にある在庫では心許なくて。
「次のクラフトタイム、開催されるんですかね」
「……わからない……」
「ですよね」
「会場に消毒用アルコールを置いたり、マスクの着用を促すなどすることで開催したイベントもあるとは聞いたけれど……」
「ちょっと、怖いですよね。普段から手洗いとうがいはしてますけど、それだけで防げるような物でもないですし。かと言って日常生活をやめるわけにもいきませんし」
「本当に、そうですよね……」
店の中にも「手作りマスクの作り方」なんていうポップが貼られていて、時世だなあと思う。新型ウイルスの件がなくてもインフルエンザの対策として掲げられていた物であるかもしれないけれど、インフルエンザの流行時よりも需要が高まっているように思う。特効薬のない未知の疫病と言うと、国家のひとつやふたつくらいは軽く滅亡に追いやれるくらいのイメージがある。
「あの、minaさんが良ければお茶でもしませんか!?」
「……私と…?」
「忙しければいいんです。お店の中で立ち話をするのも難かなと思って。この近くに、いい喫茶店があるんですよ」
買う物を買って、さとさんと一緒に喫茶店へ。星港駅から徒歩10分くらいのところにあるその店は、大通りからは少し外れているけどいい雰囲気で落ち着けそう。店内には必要以上の照明はついてなく、窓からの光で店の明るさを確保している。観葉植物がいくらか置かれていて、ジャズの流れる空間。隅の方には小さなピアノが置かれているけど、これはただの置物かもしれない。
「コーヒーが美味しいそうなんです。私はいつもお紅茶なんですけど」
「それじゃあ、私はコーヒーを……」
「すみません、注文いいですか? オレンジティーとシフォンケーキが1つ」
「水出しコーヒーのホットと、スコーンを……」
水出しコーヒーのホットという、一見矛盾したかのようなメニューを不思議に思って店員さんに聞くと、水出しで抽出したそれを湯煎であっためて出している物だという答えだった。興味深かったのでそれを注文することに。そんなメニューには他の店で出会ったことがない。
「いい店をご存知ですね」
「バイト先の方に教えてもらったんです。それで、一度来てシフォンケーキにハマっちゃって」
「さとさん、シフォンケーキが好きなんですね」
「はい。自分でもよく作るんですよ」
「……ところで、以前話していた腹巻は、どうでした…?」
「はい、結果としてはとても気に入ってもらえて」
「良かったです」
「今度は夏用の腹巻が欲しいなってリクエストもされてるんです。冷房で冷えちゃうからって」
「……私も、今年は夏用腹巻の導入を考えてみようかな……」
さとさんが作るのは確か男性用腹巻だったかなと思って少し話を聞いてみる。すると、その話し方がとても穏やかで、優しくて。あまり人のプライベートを詮索するのもなと思いつつも、さとさんの顔が分かりやすいものだから、恋の話も聞いてみたく思う。でも、やっぱり、あまり詮索するのはやめておこう。
「ところで、minaさんのマスクケースは、どうでした?」
「友人には、喜んでもらえて……あと、イベントで出した分も、季節柄、よく出ました。ただ、こうまでの状況になると、ケースの抗菌機能に少し不安が……」
「難しいですよね。でも、その辺りは個人個人で何とかするしかないですよね。除菌ウェットティッシュとかを使える素材であれば、積極的に使ったりして」
「今後はイベントに出るか、通販にシフトしていくか……」
「お店に委託していくか、難しいですよねえ。早く収束してくれればいいんですけど」
「……本当に」
end.
++++
ナノスパ手芸組がお茶をしてるだけのお話。まだしばらくお休みなので美奈は引きこもって雑貨を作るようです。
さとちゃんがどこからこのお店を聞いたのかは萩さんを想定していたのだけど、そういや萩さんて夏以来かんなとの話をやってないけどどうなった
さとちゃんシフォンケーキ好きよね。作るのも好きだけど元々あるのを食べるのも大好き。
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不要不急の外出はしないようにとか、人混みを避けるようにと言われるようにしばらく。元々インドア派の私はひたすら趣味の手芸に勤しむ日々を送っていた。手芸の材料はインターネットでも買うことが出来るけれど、パソコンやスマートフォンの画面で見るのと実際に自分の目で見るのではいろいろ違って来るから、それは極力お店に行って買いに行きたいと思っていて。だから不要不急の外出をしないための外出をする。
ここである程度の資材調達をすれば、今後はある程度家の中で作業が出来る。その他にも出かける用事はあるけれど、ここまで話が大きくなってくると、少しは大人しくしていた方がいいと思うから。災害などで起こって来る過度な自粛ムードに関して言えば、そこはむしろ楽しめる人は楽しんで、盛り上げてくれる人が盛り上げてという空気にもなりつつある。だけど、人が集まるということが問題を広げる可能性があるのが伝染病。
マフラーやセーターを作るにはもう時期が過ぎてしまった感がある。だから今回はアクセサリーや小物類を中心に作って行こうと思う。私はハンドメイドイベントにも出店していたのだけど、最近の流れを受けてそれもどうなるのかわからない。次回イベントの開催は状況を見ながらその判断がされるそうだけど、不特定多数が集まるイベントだけに、行くとすればいろいろな対策をしていかなければならないな、とは。
「minaさん」
「……さとさん…?」
「はい、そうです。こんにちは」
いつかのように私に声をかけてきたのは大きなメガネにマスク姿のさとさん。やっぱりこんな時世だからか街を行く人もマスクをしている人が多い。私もマスクをすることは多いけど、今日は手芸屋にしか来るつもりがなかったから、節約も兼ねて。大学に行くときや星港中心街への買い物、それからバイトの時はマスクをするのだけど、まだまだ品薄状態が続いているからガンガン使うには手元にある在庫では心許なくて。
「次のクラフトタイム、開催されるんですかね」
「……わからない……」
「ですよね」
「会場に消毒用アルコールを置いたり、マスクの着用を促すなどすることで開催したイベントもあるとは聞いたけれど……」
「ちょっと、怖いですよね。普段から手洗いとうがいはしてますけど、それだけで防げるような物でもないですし。かと言って日常生活をやめるわけにもいきませんし」
「本当に、そうですよね……」
店の中にも「手作りマスクの作り方」なんていうポップが貼られていて、時世だなあと思う。新型ウイルスの件がなくてもインフルエンザの対策として掲げられていた物であるかもしれないけれど、インフルエンザの流行時よりも需要が高まっているように思う。特効薬のない未知の疫病と言うと、国家のひとつやふたつくらいは軽く滅亡に追いやれるくらいのイメージがある。
「あの、minaさんが良ければお茶でもしませんか!?」
「……私と…?」
「忙しければいいんです。お店の中で立ち話をするのも難かなと思って。この近くに、いい喫茶店があるんですよ」
買う物を買って、さとさんと一緒に喫茶店へ。星港駅から徒歩10分くらいのところにあるその店は、大通りからは少し外れているけどいい雰囲気で落ち着けそう。店内には必要以上の照明はついてなく、窓からの光で店の明るさを確保している。観葉植物がいくらか置かれていて、ジャズの流れる空間。隅の方には小さなピアノが置かれているけど、これはただの置物かもしれない。
「コーヒーが美味しいそうなんです。私はいつもお紅茶なんですけど」
「それじゃあ、私はコーヒーを……」
「すみません、注文いいですか? オレンジティーとシフォンケーキが1つ」
「水出しコーヒーのホットと、スコーンを……」
水出しコーヒーのホットという、一見矛盾したかのようなメニューを不思議に思って店員さんに聞くと、水出しで抽出したそれを湯煎であっためて出している物だという答えだった。興味深かったのでそれを注文することに。そんなメニューには他の店で出会ったことがない。
「いい店をご存知ですね」
「バイト先の方に教えてもらったんです。それで、一度来てシフォンケーキにハマっちゃって」
「さとさん、シフォンケーキが好きなんですね」
「はい。自分でもよく作るんですよ」
「……ところで、以前話していた腹巻は、どうでした…?」
「はい、結果としてはとても気に入ってもらえて」
「良かったです」
「今度は夏用の腹巻が欲しいなってリクエストもされてるんです。冷房で冷えちゃうからって」
「……私も、今年は夏用腹巻の導入を考えてみようかな……」
さとさんが作るのは確か男性用腹巻だったかなと思って少し話を聞いてみる。すると、その話し方がとても穏やかで、優しくて。あまり人のプライベートを詮索するのもなと思いつつも、さとさんの顔が分かりやすいものだから、恋の話も聞いてみたく思う。でも、やっぱり、あまり詮索するのはやめておこう。
「ところで、minaさんのマスクケースは、どうでした?」
「友人には、喜んでもらえて……あと、イベントで出した分も、季節柄、よく出ました。ただ、こうまでの状況になると、ケースの抗菌機能に少し不安が……」
「難しいですよね。でも、その辺りは個人個人で何とかするしかないですよね。除菌ウェットティッシュとかを使える素材であれば、積極的に使ったりして」
「今後はイベントに出るか、通販にシフトしていくか……」
「お店に委託していくか、難しいですよねえ。早く収束してくれればいいんですけど」
「……本当に」
end.
++++
ナノスパ手芸組がお茶をしてるだけのお話。まだしばらくお休みなので美奈は引きこもって雑貨を作るようです。
さとちゃんがどこからこのお店を聞いたのかは萩さんを想定していたのだけど、そういや萩さんて夏以来かんなとの話をやってないけどどうなった
さとちゃんシフォンケーキ好きよね。作るのも好きだけど元々あるのを食べるのも大好き。
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