2019(04)

■その傍らに人がある

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 今週は何かバタバタしてたなと思って、久々にゆっくりと玄に飯を食いに来た。いつも通りに店に行くと、いつも通りに山口が出迎えてくれる。いつもの席に座って、いつものように注文をする。今日は三種盛りの気分。串を減らした分、野菜を増やす。塩キャベツとピリ辛キュウリ、それからもやしのナムルを。何か、空気が穏やかと言うか、落ち着くと言うか。とにかくホッとする。

「朝霞クン、ここで会う度に久し振りだね。IF3年会でも全然喋らなかったもんね」
「ああ、そうだな。でも、あの会はあの会で普段会わない人と話せて楽しかったな」
「ホントだよね。遠目に見てたけど、朝霞クンの卓本当に珍しい取り合わせだなって思ったもん。誰いたっけ?」
「緑ヶ丘の岡崎君と星大の坂井さん、それから青女のヒメだな。結局ヒメって何者だったのか」
「水鈴さんと同じ事務所の愛川姫乃チャンでしょ?」
「それ、明らかに芸名だよな」
「本名は山田ちえみチャンだね。俺も知らなかったけど高崎クンと議長サンが言ってたから確実っしょ」
「山田って顔と芸名じゃねーな」
「本人も名前にコンプレックスあるみたいだからね。もしまた機会があればヒメちゃんて呼んであげてね」

 現在時刻は午後6時過ぎ。時間が時間だから静かなんだと思ってたけど、小上がりには「予約席」の札が置かれている。15人くらいの席が確保されているのを見るに、どうやら今日はここで宴会が開かれるようだ。きっと山口もこの宴会で出す料理の準備をしているのだろう。俺が来るときは基本少人数だから好き勝手に頼むしコース料理の内容は知らないけど、玄のメニューにハズレはない。コースにしても満足度は高そうだ。

「そう言えば朝霞クン、最近カンノ君と仲良い感じ?」
「ああ、最近別の友達つてに話すようになって、アイツが作った曲とか素直に褒めてたら懐かれてたって感じ」

 班長会議とかで顔を合わせていた菅野すがのはともかく、菅野かんのとは部活の現役中もほとんど話すことがなかった。だから部活を引退した今になって学部的にも交わるとは考えにくい俺たちが仲良くなってるということに山口は驚きを隠せないらしい。USDXのことは伏せたまま、その経緯を話していく。アイツの書いた曲とかチータというキャラクターのことを褒めたら「心の友」にされてたんだから今思えばとんでもない話だ。

「朝霞クンとカンノ君て似てるトコもあるから、分かり合える部分もありそうだとは思ってたけどね」
「似てる? 俺とアイツがか」
「朝霞クンなら物書きだしカンノ君なら音楽? 書き始めたときの集中力とか作業スタイルなんかそっくりだよ。俺、スガノ君とその辺のことを話したコトあるけど、作業に没頭すると食事も睡眠もすっ飛ばして手を止めない相方を心配する気持ち? 痛いくらい理解出来たもんね。スガノ君も俺ならきっとわかってくれるよねって前置きしてからの話がまあどこかで聞いたような話だったよ?」
「あっ。それはいいんだけど、お前菅野かんのに何か喋っただろ」
「何かって?」
「俺が歌上手いとか、歌って踊るとか! IFサッカー部で集まってた時とかに喋っただろ」
「なんかそんな話になったような気もするけど、それがどうかした?」
「どうかしたってお前……それで俺がどんな酷い目に遭ったか! その話を確かめるためとか言ってカラオケに拉致られて延々と歌わされ続けたんだぞ! 挙句俺の歌い方だの何だのを分析してるうちにメロディーが降って来たのか曲を書き始めて結果放置されるって言うな! いや、お前は曲書くのに集中してるかもわかんねーけど放置された俺はどうしろと!? 話しかけても邪魔すんなって怒られるし」
「言ってカンノ君のやってることはいつも朝霞クンがやってることと何も変わんないよ」
「え、マジか」
「マジで。朝霞クンもそういうトコある」
「……そうかー……そうなのか。ガチ反省案件じゃねーか」

 人の振り見て我が振り直せとか反面教師とはまさにこの事かと俺は今になって学習した。俺のそういう面の被害に一番遭って来たであろう山口が言うのだから間違いないと思われる。菅野かんのがどうこうと言う前に俺は自分が何をしてきたかを顧みろということなのだな。当時は本当に若かった、青かったんだなあと思う。今と何も違わないなら、今後もそういうことがあるかもしれない。もしそうなりそうだったら、一歩踏み止まって考えよう。
 物書きに集中し過ぎて周りを蔑ろにしていたのがガチ反省案件だと気付いて肩を落としていた俺に、山口は「それでも俺は嫌じゃなかったけどね」と宥めるように語りかけるのだ。それどころか、それが嫌だったら3年も一緒にやっていられない、と。菅野かんのに対する菅野すがのを見ていても思うけど、好き勝手に作業に没頭出来る裏では誰かが見守ってくれてるモンなんだなと。俺の場合、それは山口だったんだろう。

「つか、俺もあんな感じだったとしたならお前よく3年も耐えたな。菅野すがのなんか現在進行形だし、懐の深さみたいなモンは軽く尊敬レベルなんだが」
「んー、ただただああいう扱いをされるのは嫌なんだけど、朝霞クンとカンノ君の共通点は、その結果凄い物を出してくれるってトコなんだよ。俺なら朝霞クン、スガノ君ならカンノ君が書き上げた物を楽しみにしてるから待つことが出来るし、ムチャしてるなと思って心配するけど結局書く手を止められないっていうね。次は何を見せてくれるのかな、何をやらせてくれるのかなっていう楽しみが勝っちゃうから」
「なあ山口」
「なに?」
「仮にだけど、俺と菅野かんのが一緒にひとつの物を作り上げたとしたら、どんなモンが出来ると思う」
「お互い我が強いから絶対1回はケンカになると思うけど、妥協点を見つけてっていうのもらしくないから難しいよね」

 菅野すがのとは現時点でUSDXでやる新しいミニゲームの企画を考えたりしてるんだけど、菅野かんのと何か作るのかっていうのは現段階では仮定の話でしかない。それこそUSDXで本当に歌物アルバムを出すことになればワンチャンって感じで。USDXに加入してしみじみと思ったのは、あの団体は一人一人がクリエイターとして何が出来るのかを理解して、その能力でやりたいことをどう実現するかを日々考え、努力しているということだ。俺も企画立案、そして物書きの能力で貢献したいところ。

「ああ、朝霞クン」
「ん?」
「そこの小上がりだけど。青敬のハマちゃんてわかる? 長野っちの後輩の」
「ああ、確か「マジパねえ」のだろ」
「そう、そのパねえのハマちゃん。今日、ここでハマちゃんの誕生会やるんだって」
「へえ、そいつはめでたいな。つか、ここでやるってことは戸田が幹事か」
「そういうことなんで、このままの食事ペースだったら鉢合わせると思うしそこのところよろしく」


end.


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というワケで、やる度に久し振りの洋朝です。言って今年度は純粋に洋朝の話が少なめですね。これまでが多すぎたんや
朝霞PとカンDの共通点だとか、そういった人たちに振り回される側の人たちのことをチラリ。少し似たトコがある洋朝とスガカンです。
そして思い出したようにハマちゃんの誕生会の話をチラリ。しばらくハマちゃんの誕生日って祝日だから休みなんだなあ

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