2019(04)
■血と伝統は争えない
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「2、3年生は3500円、1年生は3000円の会費をいただきます」
今日は部活の4年生追いコンが開催される。星ヶ丘大学放送部はそれなりの規模だから、こういう宴会となると50人近くが集まる大部屋になることが多々だ。飲み会の参加費は酔う前に回収しろとはよく言ったもので、部屋の中に入る前に通行料的な感じで支払うシステムだ。
一応全体の集合時刻は設けられているものの、部屋に入るのは班ごとだ。宇部班から順に菅野班、鎌ヶ谷班……と続き全ての班が揃ってから日高班が重役出勤してくるという流れになる。というワケで、宇部班が部屋に入ったので次は菅野班。もしここで誰かが欠けていれば、他の班はいつまで経っても部屋に入れず待つことになる。
4年生追いコンは基本4年生が会費を出すことはない。2、3年生が少し多め(今回なら500円)の会費を払って賄うという慣例がある。1年生はそのまま純粋にかかった分だけの参加費を払う。今回なら3000円だ。ただ、それを素直に受け止めきれないほどにはこの部のことが信用ならない。
一応代替わりが済んでいるとは言え、現3年が絡む行事ということで“部長”扱いされるのは現部長の旧宇部班・柳井ではなく前部長の日高らしい。この会費を集めているのは旧日高班の長門だ。長門は坂戸の後を引き継いで部の会計に就任した。金を握るのが相変わらず日高の息がかかった人間だけに、という焦臭さ。
「今日のコースは3000円くらいかー。ま、先輩との話を楽しむだけの会って感じになりそうだな」
「そうだな。小川さんと中村さん、元気かな」
「死んだって話は聞かないし元気だろ」
部の全体の追いコンとは言え席は班ごとに固められているし、4年生も元々在籍していた班の卓に席が決まっている。だから実質班ごとの食事会のようなものだ。俺たちが菅野班になる前は小川班という名前で活動していたのだけど、ステージのスタイルは小川班もその前もこうだったから、奏でて踊るのは班の血だ。
ちなみに小川さんと中村さんはそれぞれギタリストだ。小川さんの音はそれこそソロでも映えるゴリゴリのロックテイストの音だし、中村さんの音はどんな曲にも合わせてくる、縁の下の力持ち的な役割の音だった。同じギタリストと言ってもスタイルが全然違って本当におもしろかった。
「おっ、独裁者のお出ましだ」
「……カン、聞こえると面倒だぞ」
「わーってるよ」
1年から3年までの全ての参加者の後に日高が部屋に入ると、それまでは各々好き勝手に喋っていたのに空気が張り詰める。「やあやあお前ら、相変わらずシケた面だな」などと一般の部員を一言貶さないと気が済まないのだ。日高が来るまでに全ての参加者が注文をまとめておかなくてはならないという謎ルールもある。
わかっていたけど、一応は部の行事にも関わらず朝霞班の姿はない。先日、USDXで生放送をしようという話になってスケジュール調整をしていたんだけど、俺とカンは追いコンがあるからと今日の放送をキャンセルしたんだ。そのとき朝霞が「追いコンなんかあるんだな、いってらっしゃい」と他人事のような反応をしていたから、このことを知らされてすらいないのだろう。
朝霞にだって越谷さんという送るべき先輩がいるはずだけど、朝霞班は個別にやるから問題ないと言っていた。言って朝霞班は変わり者の集団だ。個別に会を開いてやりたいようにやる方がいいのかもしれない。少なくとも、窮屈なこの場所にいるよりずっといいだろう。俺たちも個別にやれるならライブバー追いコン、スタジオ追いコンくらいの方が理想だ。
「スガ、何考えてんだ」
「……いや、何でも」
「ほら、4年生が来るぞ」
「そっすよ泰稚さん。せっかくの会なんすから難しいことは抜きにしましょうよ」
「ああ、そうだな」
朝霞班がこの会から除外されていることは想定内だからともかく(朝霞はハブられる以前に会の開催を知っていても自分から遠慮するタイプではある)、他にも気になることはいくらかある。例えば、2、3年生は一律3500円とされている参加費が本当に全員3500円なのか、と。
須賀班、魚里班、朝霞班に対する部費の追加徴収が行われていた事実もある。それから考えると、その3班……いや、朝霞班はいないから須賀班と魚里班か。その2班の参加費は3500円どころじゃ済んでいないんじゃないかと思えて仕方ない。日高班の参加費をそこから賄おうと考えたって不思議じゃない連中なんだ。……後で星羅に聞いてみるか。
「おいお前ら、俺が率先して4年どもを追い出してやってるんだ、俺を讃えろ、俺を崇めろ!」
「聞けば聞くほど意味がわかんねーな。お前がこれまで何かしたことあったかよ」
「……カン、この場ではやめとけ」
「割と真面目に生放送に行きてーわ」
「それは俺も同じだ。2時間、3時間……我慢だ。それが終わればアイツと顔を合わせるのも卒コンだけだ」
4年生の入場ですと宇部が場を進行し、今日この場に呼ばれている4年生が続々と部屋に入ってくる。席順に関する説明も受けているようで、それぞれ縁のある班員のいる卓へとまっすぐにやってくる。俺たちのところにも。他の班の先輩にも多少はお世話になったとは言え、部の全体で追いコンをやる意味はあまりない。
「小川さん中村さんお久し振りです」
「久し振りだな。菅野はもう引退したんだろ、今って何班になったんだ?」
「俺の後はヤスに引き継いだので、小林班ですね」
「コバがとうとう班長にまでなったか!」
「班長っすよ~!」
「あれっ、でも太一も引退したんだったら曲って今後どうすんだ? って言うかステージのスタイルとか」
「それなんすよね~。音楽やって踊ったりするスタイルは守りたいんで一応今の1、2年でやれるだけやるつもりっすけど、やっぱカンさんいないのがツラいっす! 曲はもし来年作曲出来る子が来なければカンさんがこれまで書いてくれたのを大切にやっていくって感じで」
「ほーう。ヤス、俺はいなくてもいいっていうことだな」
「そうは言ってないっす! 泰稚さんの存在もデカいっす! ほら、やっぱ長年一緒にやってる仲じゃないすか~、ねっ! 4年やってるリズム隊の呼吸ってヤツっす! だから機嫌直してくださいよ」
「冗談だよ。そもそも怒ってもない」
「って言うか小川さんとも中村さんとも久々に一緒にやりたいっす! ホントに卒業する前に1回やりましょ? ねっ、泰稚さんカンさんやりましょうよ!」
「あ、それは俺からもぜひお願いしたいです」
先輩たちと積もる話に入ってしまえばそれまで怪訝に思っていたことも一旦は脇に措いておけるんだけど、今日の生放送のアーカイブを見るときっと思い出すんだろうな。音を鳴らして踊る個別追いコン、もといセッションの予定は先輩たちがオッケーなら詰めていきたいんだけど。
end.
++++
星ヶ丘の4年生追いコンという行事が行われているようですが、例によって朝霞班は除外されているようです。朝霞班は洋平ちゃんのお店で好き勝手にやるよ
そして同日、USDX生放送も行われている様子。某社畜キャラの人は参加出来ているのでしょうか……プロバネレイの3人放送かしら。
スガP的にはやっぱり部のお金事情なんかが信用できないようなので、また内偵が始まるのかしら。文化会入りするであろう宇部Pの動きにも注目ですね。
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「2、3年生は3500円、1年生は3000円の会費をいただきます」
今日は部活の4年生追いコンが開催される。星ヶ丘大学放送部はそれなりの規模だから、こういう宴会となると50人近くが集まる大部屋になることが多々だ。飲み会の参加費は酔う前に回収しろとはよく言ったもので、部屋の中に入る前に通行料的な感じで支払うシステムだ。
一応全体の集合時刻は設けられているものの、部屋に入るのは班ごとだ。宇部班から順に菅野班、鎌ヶ谷班……と続き全ての班が揃ってから日高班が重役出勤してくるという流れになる。というワケで、宇部班が部屋に入ったので次は菅野班。もしここで誰かが欠けていれば、他の班はいつまで経っても部屋に入れず待つことになる。
4年生追いコンは基本4年生が会費を出すことはない。2、3年生が少し多め(今回なら500円)の会費を払って賄うという慣例がある。1年生はそのまま純粋にかかった分だけの参加費を払う。今回なら3000円だ。ただ、それを素直に受け止めきれないほどにはこの部のことが信用ならない。
一応代替わりが済んでいるとは言え、現3年が絡む行事ということで“部長”扱いされるのは現部長の旧宇部班・柳井ではなく前部長の日高らしい。この会費を集めているのは旧日高班の長門だ。長門は坂戸の後を引き継いで部の会計に就任した。金を握るのが相変わらず日高の息がかかった人間だけに、という焦臭さ。
「今日のコースは3000円くらいかー。ま、先輩との話を楽しむだけの会って感じになりそうだな」
「そうだな。小川さんと中村さん、元気かな」
「死んだって話は聞かないし元気だろ」
部の全体の追いコンとは言え席は班ごとに固められているし、4年生も元々在籍していた班の卓に席が決まっている。だから実質班ごとの食事会のようなものだ。俺たちが菅野班になる前は小川班という名前で活動していたのだけど、ステージのスタイルは小川班もその前もこうだったから、奏でて踊るのは班の血だ。
ちなみに小川さんと中村さんはそれぞれギタリストだ。小川さんの音はそれこそソロでも映えるゴリゴリのロックテイストの音だし、中村さんの音はどんな曲にも合わせてくる、縁の下の力持ち的な役割の音だった。同じギタリストと言ってもスタイルが全然違って本当におもしろかった。
「おっ、独裁者のお出ましだ」
「……カン、聞こえると面倒だぞ」
「わーってるよ」
1年から3年までの全ての参加者の後に日高が部屋に入ると、それまでは各々好き勝手に喋っていたのに空気が張り詰める。「やあやあお前ら、相変わらずシケた面だな」などと一般の部員を一言貶さないと気が済まないのだ。日高が来るまでに全ての参加者が注文をまとめておかなくてはならないという謎ルールもある。
わかっていたけど、一応は部の行事にも関わらず朝霞班の姿はない。先日、USDXで生放送をしようという話になってスケジュール調整をしていたんだけど、俺とカンは追いコンがあるからと今日の放送をキャンセルしたんだ。そのとき朝霞が「追いコンなんかあるんだな、いってらっしゃい」と他人事のような反応をしていたから、このことを知らされてすらいないのだろう。
朝霞にだって越谷さんという送るべき先輩がいるはずだけど、朝霞班は個別にやるから問題ないと言っていた。言って朝霞班は変わり者の集団だ。個別に会を開いてやりたいようにやる方がいいのかもしれない。少なくとも、窮屈なこの場所にいるよりずっといいだろう。俺たちも個別にやれるならライブバー追いコン、スタジオ追いコンくらいの方が理想だ。
「スガ、何考えてんだ」
「……いや、何でも」
「ほら、4年生が来るぞ」
「そっすよ泰稚さん。せっかくの会なんすから難しいことは抜きにしましょうよ」
「ああ、そうだな」
朝霞班がこの会から除外されていることは想定内だからともかく(朝霞はハブられる以前に会の開催を知っていても自分から遠慮するタイプではある)、他にも気になることはいくらかある。例えば、2、3年生は一律3500円とされている参加費が本当に全員3500円なのか、と。
須賀班、魚里班、朝霞班に対する部費の追加徴収が行われていた事実もある。それから考えると、その3班……いや、朝霞班はいないから須賀班と魚里班か。その2班の参加費は3500円どころじゃ済んでいないんじゃないかと思えて仕方ない。日高班の参加費をそこから賄おうと考えたって不思議じゃない連中なんだ。……後で星羅に聞いてみるか。
「おいお前ら、俺が率先して4年どもを追い出してやってるんだ、俺を讃えろ、俺を崇めろ!」
「聞けば聞くほど意味がわかんねーな。お前がこれまで何かしたことあったかよ」
「……カン、この場ではやめとけ」
「割と真面目に生放送に行きてーわ」
「それは俺も同じだ。2時間、3時間……我慢だ。それが終わればアイツと顔を合わせるのも卒コンだけだ」
4年生の入場ですと宇部が場を進行し、今日この場に呼ばれている4年生が続々と部屋に入ってくる。席順に関する説明も受けているようで、それぞれ縁のある班員のいる卓へとまっすぐにやってくる。俺たちのところにも。他の班の先輩にも多少はお世話になったとは言え、部の全体で追いコンをやる意味はあまりない。
「小川さん中村さんお久し振りです」
「久し振りだな。菅野はもう引退したんだろ、今って何班になったんだ?」
「俺の後はヤスに引き継いだので、小林班ですね」
「コバがとうとう班長にまでなったか!」
「班長っすよ~!」
「あれっ、でも太一も引退したんだったら曲って今後どうすんだ? って言うかステージのスタイルとか」
「それなんすよね~。音楽やって踊ったりするスタイルは守りたいんで一応今の1、2年でやれるだけやるつもりっすけど、やっぱカンさんいないのがツラいっす! 曲はもし来年作曲出来る子が来なければカンさんがこれまで書いてくれたのを大切にやっていくって感じで」
「ほーう。ヤス、俺はいなくてもいいっていうことだな」
「そうは言ってないっす! 泰稚さんの存在もデカいっす! ほら、やっぱ長年一緒にやってる仲じゃないすか~、ねっ! 4年やってるリズム隊の呼吸ってヤツっす! だから機嫌直してくださいよ」
「冗談だよ。そもそも怒ってもない」
「って言うか小川さんとも中村さんとも久々に一緒にやりたいっす! ホントに卒業する前に1回やりましょ? ねっ、泰稚さんカンさんやりましょうよ!」
「あ、それは俺からもぜひお願いしたいです」
先輩たちと積もる話に入ってしまえばそれまで怪訝に思っていたことも一旦は脇に措いておけるんだけど、今日の生放送のアーカイブを見るときっと思い出すんだろうな。音を鳴らして踊る個別追いコン、もといセッションの予定は先輩たちがオッケーなら詰めていきたいんだけど。
end.
++++
星ヶ丘の4年生追いコンという行事が行われているようですが、例によって朝霞班は除外されているようです。朝霞班は洋平ちゃんのお店で好き勝手にやるよ
そして同日、USDX生放送も行われている様子。某社畜キャラの人は参加出来ているのでしょうか……プロバネレイの3人放送かしら。
スガP的にはやっぱり部のお金事情なんかが信用できないようなので、また内偵が始まるのかしら。文化会入りするであろう宇部Pの動きにも注目ですね。
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