2019(04)

■創造主の暴風域

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「おい朝霞、何か歌えよ」
「は? 突然何だ菅野かんの
「いいから歌えよ」
「そんな、急に歌えって言われても」
「じゃカラオケだな! USDX21歳組カラオケ大会~! ドンドンパフパフー!」

 ――というワケで、大学近くのカラオケ屋に半ば強制的に放り込まれ、マイクを握らされ至る今だ。突然菅野かんのが何を思ったのかはわからないけど、彼是5、6曲は連続で歌わされている。これに付き合わされている菅野すがのとリン君も何が何だか分かっていない様子。そりゃそうだよな。菅野かんのの野郎が何も言わないんだから。
 当の菅野かんのはと言えば、俺が歌っているのを聞きながら何やらメモをしている様子。何がそんなに面白いのか、それとも音楽的に俺に興味があるのかはわからないけど、菅野かんのの行動は謎すぎる。仮に音楽的に興味があるんだとしても、俺はただ歌ってるだけの素人だ。バンドでベースボーカルをやってるという塩見さんとは次元が違う。

「よーし朝霞、次行くぞ!」
「ちょっと待て、少し休ませろ。30分くらい歌いっぱなしだぞ」
「ヒトカラだったらそれくらい余裕だろ」
「ヒトカラあんまやんねーし」
「たまにはやるんじゃんか。まだまだ余裕余裕!」
「いいから休ませろ」
「それでカン、何を考えてるんだ?」
「よくぞ聞いてくれたスガ! これはUSDXの展望にも関わる話だぞ!」
「朝霞の歌がUSDXとどう関係するんだ」

 聞いていた話では、USDXはキャラクター遊びを基盤としたゲーム実況グループだということになっている。その中では、俺はTRPGのシナリオなど物書きの能力を持ちボードゲームや戦略ゲームが得意だけども、その他のゲームでは途端にへっぽこになるゲーム初心者・レイというキャラクターを担当することになった。
 俺が初心者であることを逆手に取り、バネことリン君がゲームの基礎を手取り足取り指導してくれる「初心者に教える」シリーズも始まった。基礎を教えてくれつつ笑いのエッセンスも入れて楽しく見られる物になっている。俺の下手くそ振りに関しては「共感する」と「イライラする」と「かわいい」が現時点で5:3:2とはエゴサの鬼・菅野かんの談。

「ほら、新年会で投げ銭めっちゃもらったからUSDXの音源を出すって話になっただろ」
「そういやそうだな。本当に出す段階まで来てるんだな」
「俺が打ち込んだサントラだけでもいいんだけど、プロの第九の件でもみんなバンドマンならメンバー全員版がいいみたいな意見もあったし、せっかくだったらUSDX生音音源も出したくね? って思って」
「待て、カンノ。それはSDX時代の話だろう。オレはピアノがあるからともかく朝霞はどうするんだ」
「そこでだよ! 俺の打ち込みサントラ、メンバーのスタジオライブ音源に加えて歌物ミニアルバムでも作ったら朝霞が死ぬこともないじゃんなっていう考えよ! ソルとレイのツインボーカル的な?」
「それで朝霞の歌唱力を試していた、と」
「カン、そう簡単に歌物って言うけど歌詞は誰が書くんだ」
「そりゃ彗星の如く現れた物書きだろ」
「――って俺かよ!」
「ちなキョージュの了承は得てるからな。で、朝霞がどういう歌い方なのか知ってないと曲が書けないし。ソルに関しては大体わかってるから大丈夫なんだけど。あと、朝霞は歌が上手いとか歌って踊れるって聞いて音源の話を抜きにして見てみたかったっていうのもある」
「歌って踊る…? 朝霞がか」
「歌が上手いのはわかったけど、踊る…?」
「いやいやいや、待てよお前等引くんじゃない。つか菅野かんのはその話をどこから聞いたんだ」
「洋平とカズから」
「だろうな!」

 菅野すがの菅野かんのは山口がカズと共同で代表を務めているインターフェイスの派生サークル・IFサッカー部の一員として活動している。実際にインターフェイスの活動に参加しているかどうかはサッカー部の参加資格には関係なく、ただみんなで楽しくサッカーと見たりやったりするためのサークルだ。
 俺がカラオケなんかで掴みのためとか場をあっためるための持ちネタ的な物を用意しているのを知ってるのは、最近ではやっぱりインターフェイスの人間になる。それでも俺はインターフェイスの行事に皆勤してたワケでもないから、それを知っている人間の方が少ないくらいだ。山口の野郎、今度会ったらぶん殴ってやる。

「まあでもやっぱ声のパワーはソルのが上だな」
「現役のベースボーカルと比べてやるな」
「塩見さんより上とか言われてもお前の耳と感性を疑うぞ」
「や、でも朝霞には朝霞の良さはあんだよ。声の伸びとかクリアさとかさ。ソルは一息が長くて、かつどこでブレスしてんのかパッと聴いただけじゃわかんないから滑らかに聞こえんだよ。ブレス音すら聴かせるボーカリストもいるにはいるんだけど、その域に達する奴ってそういないし。で、ソルの特徴っつったら音域がとにかく広いっていうな。だけども! 音域の広さで言ったらソルほどじゃないにせよ、朝霞はソルより上までイケるってことが今この観察でわかった。その広い音域の上の方でソルが歌う、そのさらに上で朝霞がハモる、みたいなイメージで完成した! さすが俺! で、俺が下ハモで入ればこう、あ~、いい! これはイケる! よーし、書くぞ~!」

 スイッチが入ったらしい菅野かんのは、俺の歌を観察するのをピタッとやめて作曲を始めてしまった。いつどこで、どんなメロディーが降ってきてもいいように書くための道具は肌身離さず持ち歩いているそうだ。その気持ちはとてもわかるけど、それまでは歌え歌えと言われていたのにいきなり放置された俺の身にもなってほしい。

「……スガノ、カンノはこうなると止められないヤツか」
「うん、止められない。こうなると食事も睡眠も忘れるタイプ」
「ちゃんと飯を食って寝ないと体に悪いぞ。菅野すがの、お前も大変だな。この調子だと菅野かんのの身を案じてばっかりだろ」
「多分な、カンもそれを朝霞にだけは言われたくないと思うんだ」
「何で俺が出てくるんだ」
「物書きに集中してるときの朝霞はカンと全く同じだって聞いてる。食事も睡眠も飛ばして書くことしかしないって」
「誰から、って、聞くまでもないな」
「想像の通り、お前の身を一番案じてた奴からだよ」


end.


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USDXの音楽活動についてはちょこちょこと言われるようになると思うのだけど、そうなるとこっちでも初心者になる朝霞Pの扱いね
音楽面では完全にカンDが牛耳ってる感じだといいわね。実際の運営はプロ氏、システムのコンちゃん、音楽のチータ君てな感じで
そして延々と歌わされる朝霞Pの裏で、リン様とスガPはそれをただ聞いていたのかしら。本当に巻き込まれてるって感じの2人です。

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