2019(04)

■新米ちゃんを全力サポート!

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 2月もいよいよ後半に入り、青葉女学園大学放送サークルABCでは来期に向けた動きを本格化させていく頃合いを迎えていた。ABCでは毎年5月最終週か6月第1週かの土曜日に、植物園で子供を対象にしたステージをやらせてもらっている。それに向けて動いて行くのに今日は全員集合、改めてサークルとして動いて行くことを確認する日になっている。
 この植物園ステージは、2年生が中心となって回していくというのが毎年の決まり事。厳密に言うと、今の時期なら新2年生と言う方が正しい。ボクたちも去年の今頃は3人で頑張ってねと言われてどうしようかと頭を抱えたっけ。ボクたちはたまたま適材適所みたいな感じで綺麗に役割分担をすることが出来た。啓子が台本を書き、ボクが舞台装置なんかを用意して、沙都子が衣装を作る、と。さて、今の1年生はどうする。

「Kちゃん先輩たちはどうしてたんですか?」
「アタシたちは基本完全分業制っていう感じでアタシが台本を書いて、直が舞台装置を用意して、沙都子が衣装って感じで」
「大体学祭で見てたような感じですね」
「そうだね。自分たちでやれるところはやって欲しいけど、仕事を割り振るのも重要だからねユキちゃん、くれぐれもお願いね。アタシたちも使っていいんだから」
「どうして当然のようにあたしに任されるんですかね」
「なっちゃんはまだサークルに入って日が短いし、あとは……ねえ」

 チラリと啓子が目をやったのは、マイクを握って歌い踊っているサドニナ。今日は2月17日でニイナデーだからという理由で繰り広げられるサドニナオンステージに、啓子は不安しかないらしい。その気持ちはわからないでもないし、ボクが啓子の立場でも全体のまとめみたいな仕事はサドニナよりユキちゃんに頼むだろうから、どうしてっていうユキちゃんの問いには同じように答えるしかない。
 それでユキちゃんの方も納得してるみたいだからこの場はこれでいいとして納得。だけど、ボクたち現2年生のように何かに能力が特化しているということもない1年生は何をどうやって回していこうかとユキちゃんが頭を抱えている。一応なっちゃんはミキサーは頑張るからねとユキちゃんを励ましているけど、未だ歌い踊ることをやめないサドニナがやっぱりちょっと不安なようだ。その時が来ればちゃんとしてくれると思いたいけど。

「えっと、必要なものは台本と、大道具に小道具、衣装……何においてもまずは台本ですかね」
「そうだね」
「台本って、誰が書くんですか」
「まあ、この場合ユキちゃんかサドニナだろうね」
「Kちゃん先輩、それって必然的にあたしが書けってことじゃないですか」
「まあそうとも言うね」
「どう書いたらいいんですか?」
「これまでの台本はこっちの戸棚にあるからそれを参考にしてもいいし、ユキちゃんは前回のステージも見てるからああいうイメージでなぞってくれても大丈夫。いくらでも相談してくれていいんだからね。1人で頑張ろうとしちゃダメだよ」
「ありがとうございます」

 ユキちゃんに関しては啓子の手厚いサポートがありそうだから何とかなりそうかな。ボクはと言えば、なっちゃんにミキサーのことを教えてあげたりするのが今年の主な仕事になるかな。毎年ボクは着ぐるみの中に入ってるけど、今年はどうなるかな。去年は紗希先輩がいたから何とかなったけど、ミキサーの側にはやっぱり2人いた方がいいとは思うし。その辺はユキちゃんとなっちゃん次第かな。

「サドニナの扱いには本当に困っちゃいますよ」
「まあ、あんなんでも一応はステージの上でだけはそれなりに……まあ、自分が目立とうとしなければ少しは役に立つんだろうけど、準備段階ではあんまり期待出来ないのがね……」
「でも、本番しか期待できないって結構めんどくさくないです?」
「台本や衣装に口を出すだけ出して文句ばっかりっていうのがこれまでの基本だからね」
「ユキちゃんがこれからどう立ち回って行きたいかにもよるけど、自分がステージに立つのと台本を書いたり裏側に回るのとっていう割合? みたいなことも考えていかなきゃね。台本を書くのに向いてそうなのが今の1年生だとユキちゃんしかいないっていう都合だけど」
「あたしはどうあっても100%ステージ上でバリバリ、というタイプでもないんで多少裏に回ることは別にいいんですけど、台本を書ける気がしないっていうのがやっぱりちょっと」
「アタシも最初はそうだったし、なんなら今のうちに何でも聞いて」
「ありがとうございます」

 いつもだったら歌い踊るサドニナを力尽くで矯正しようとしていた啓子だけど、サドニナは捨てて……と言うと語弊があるかもしれないけど、今はとにかくユキちゃんのサポートに全力を注ごうとしているのかもしれない。沙都子も「あたしのことも好きに動かしていいからね」とユキちゃんを励ましている。2年生が中心になるとは言っても、1年生や3年生が何もしなくていいワケじゃない。力を合わせて作り上げるのがステージだ。

「あの、直先輩」
「うん。どうしたのなっちゃん」
「あの、私も、ミキサーの練習をたくさんしないといけないので、よろしくお願いします」
「うん、よろしく」

 そうか、ボクも下の子たちに教える立場になってるんだなあ。ちゃんと教えられるようにボクもちゃんと練習しておかないと。

「なっちゃん、とりあえず今日はそこのマイクとBGMのフェーダー落とすところから始めてもらえる? そろそろサドニナが本気でうるさい」
「え、あ、はい」
「Kちゃん先輩が通常運転になってる……」
「まあ、啓子はこれくらいがちょうどいいよ」
「ちょうどいいんですか」


end.


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思い出したようにニイナデーとかなんとかってやってますけど、肝心のサドニナがこの話では完全に空気。
青女では他の大学さんより一足早く活動を開始して新2年生が中心になっていくような感じですね。ユキちゃんがんばれ。
今回はユキちゃんのサポートに回ってますけど、啓子さんはやっぱりサドニナを絞め上げてるくらいがちょうどいいっすね

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