2019(04)
■ゆかりのたまご
++++
「おーい、そっちもういいかー!?」
「はーい、オッケーでーす!」
「そしたら今日はもういいぞー! お疲れさーん!」
「お疲れさまでーす!」
今日も今日とて向西倉庫には荷物がどんどんどんどん運び込まれてくる。これは今度の春夏の製品で、去年の年末くらいからずーっと大量に入ってきてる。それがこれからどんどんどんどん出荷されるのに忙しくなってくるってワケ。こうして土曜日も出勤続き。言っても俺は学生バイトだから、社員さんはもっと大変なんだろうけど。
「ふー、今日も大量だな」
「ホントですよね。塩見さん、まだしばらく続くんですかね」
「少しずつ少なくなってるけど、もうしばらくはこんな感じだろうな」
「よーし、働くぞー」
「そうか、千景お前、大学が春休みに入ったのか」
「そうですね。なのでいつでも入れます」
「そりゃ頼もしい」
宮本主任や所長はまだもう少し作業をしているようだけど、俺のようなバイトや塩見さんのような普通の社員さんはこれで解散。今の時間は朝の9時半。荷下ろしだけの出勤だと、7時半から始まって今くらいの時間に終わる。早起きの結果、1日を有効活用できる気がして実は嫌いじゃない。
「9時半ならまだたまご園は朝食メニューの時間帯だな。俺は飯でも行くかな」
「あっ、塩見さん、俺も一緒にいいですか? お腹空いちゃって」
「そしたら俺の車に乗ってくか」
「お願いします」
――というワケで、塩見さん行きつけの卵農園併設のお店へ。こないだ朝霞たちと一緒にオムライスを食べに来たお店で、ここは時間帯によってメニューがいろいろ違ってたりする。朝なら朝食メニューだし、昼は親子丼とかがある。で、夜はオムライスがメイン。俺は親子丼が一番好きだなあ。
朝食メニューはよくある和食の朝ご飯か洋食の朝ご飯が選べる。和食だと卵焼きと温泉玉子(5個まで)が、洋食だとスクランブルエッグとゆで卵(5個まで)が卵を使ったメニューで、和洋共通なのが目玉焼き。他は鮭とかベーコン、ごはんかパンかっていうそれらしい付け合わせがあるような感じ。俺は和食を、塩見さんは洋食を注文。
「いただきまーす」
「飯は逃げねえんだ、落ち着いて食えよ」
「もー、塩見さんまで兄さんみたいなこと言うじゃないですかー」
「今はいいにしても、いつまでもその食い方してたら将来喉に食いもん詰まらせて死ぬんじゃねえかっつって心配してたぞ千晴君」
「えっ、もうそんな心配されてるんですか俺」
「千晴君はお前の親代わりなんだ。弟っつーより実質子供だ。心配にもなるんだろ」
「じゃあ、そういうところから気をつけて行かないとですね」
兄さんからはいつまで経っても子供扱いされるなあと思ってたけど、よく考えたら実際親代わりになってくれてたんだし小さいところが気になって心配にもなるのかもしれない。細かいことで心配をかけてるうちは俺もまだまだ子供なんだと思う。まずはご飯の食べ方から少しずつ直していこう。よく噛んで。朝霞のイメージで。もぐもぐ。
「そうだ塩見さん、忘れる前にちょっと用事を済ませたいんですけどいいですか?」
「用事?」
「はい。えっと、こないだバイトに来てくれてたなっちのことは覚えてますか? 女の子の」
「ああ、菜月だろ。覚えてるぞ」
「そのなっちからですね、塩見さんにって預かってるものがありまして」
「俺に?」
昨日、実家から帰ってきたっていうなっちから呼び出されて言付かった物がある。塩見さんに用事があるようだったけど、さすがに本人の連絡先は知らないし恐れ多いから俺にということで。そして明日(今日)バイトだし塩見さんに渡せるよーとそれを預かってるんだ。
割れ物だからくれぐれも扱いには気をつけてくれと聞いていたし、家では冷蔵庫に入れてくれとも。きっと食べ物関係なんだろうけど、何だろうね。ちなみに、そのお使いを頼まれてくれたからという理由で俺もなっちから緑風土産のお煎餅をいただいたので、それは兄さんとお店のみんなと美味しくいただく予定。
「これなんですけど。どうぞ」
「サンキュ。……あー、そういうことか」
「えっ、何だったんですか?」
「いや、前に話してたんだよな、緑風で有名な卵の店のこと。その店のギフトセットだな。プリンとカスタードケーキとメレンゲの焼き菓子、マヨネーズにチキンブイヨンか。それからゆで卵10個」
「えー! いいなー!」
「俺に言われても」
「って言うか塩見さんて甘いもの食べるんですか? プリンとかケーキとかってあんまりイメージにないですけど」
「自分じゃあんま買わないけど普通に食うし好きだぞ」
「えー、そうだったんですねー」
塩見さんの主食が卵なのは会社の人だったらみんな知ってることだけど、まさかそれを聞いてたなっちがこうしてわざわざ緑風のお店でギフトセットを買って贈ってくれるとはビックリだよね。だけど、なっちも卵好きだし、違いがわかるだろう塩見さんに地元の味を食べてほしかったのかな。
「何せ、お礼を言わないとな。千景、お前から送ってくれるか」
「はい、いいですよー。何て送ればいいですか?」
「いや、カメラ立ち上げてくれ。動画で送った方が俺の言葉で伝わるだろ」
「あ、はい。カメラですね。はい、準備オッケーです」
「コホン。キューくれ」
「はい。3、2、1」
「菜月、確かに受け取ったぞ。わざわざサンキュ。これからありがたく食わしてもらうな。また何かあったら気軽に声かけてくれ。それから、良かったら俺とも一緒にツミツミやろうぜ。いい返事待ってる。それじゃあまた」
「はいオッケーです」
「で、今のを送っといてくれ」
「はーい。……送りましたー」
「っつーことだから、もしツミツミに関していい返事がもらえたら俺のLINEアイツに教えといてくれ」
「わかりました。なっちはどんどん最高スコア更新してますからね。俺なんかもうとっくの昔に抜かされちゃってますよ」
「おっ、そいつは楽しみだ」
……と、朝ご飯が途中だったことを思い出す。もう結構冷めちゃったかなあ。でも、会社で少しの間会っただけなのに、こうしてなっちと塩見さんの関係がいい感じに続いてるのはいいなあって思う。俺もそういう出会いみたいなものがいつかあるかなあ。それもこれも人の縁かな。
end.
++++
何気に菜月さん、バイトしてた分お土産だのバレンタインだので散らしたんじゃないか? あればあるだけ使ってしまう性質があるからなあ……
オミちーという義兄弟未遂コンビが好きだというのは今更なので、自らの需要を満たしていくスタイル。塩見さんの動画撮るちーちゃんかわいいやんけ
一方そのころ豊葦では、追いコン終わりでオール明けの菜野圭あたりがやいやいやってるんじゃないかと思うの。オール明けなのに丼屋で無駄に長居するヤツ~
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「おーい、そっちもういいかー!?」
「はーい、オッケーでーす!」
「そしたら今日はもういいぞー! お疲れさーん!」
「お疲れさまでーす!」
今日も今日とて向西倉庫には荷物がどんどんどんどん運び込まれてくる。これは今度の春夏の製品で、去年の年末くらいからずーっと大量に入ってきてる。それがこれからどんどんどんどん出荷されるのに忙しくなってくるってワケ。こうして土曜日も出勤続き。言っても俺は学生バイトだから、社員さんはもっと大変なんだろうけど。
「ふー、今日も大量だな」
「ホントですよね。塩見さん、まだしばらく続くんですかね」
「少しずつ少なくなってるけど、もうしばらくはこんな感じだろうな」
「よーし、働くぞー」
「そうか、千景お前、大学が春休みに入ったのか」
「そうですね。なのでいつでも入れます」
「そりゃ頼もしい」
宮本主任や所長はまだもう少し作業をしているようだけど、俺のようなバイトや塩見さんのような普通の社員さんはこれで解散。今の時間は朝の9時半。荷下ろしだけの出勤だと、7時半から始まって今くらいの時間に終わる。早起きの結果、1日を有効活用できる気がして実は嫌いじゃない。
「9時半ならまだたまご園は朝食メニューの時間帯だな。俺は飯でも行くかな」
「あっ、塩見さん、俺も一緒にいいですか? お腹空いちゃって」
「そしたら俺の車に乗ってくか」
「お願いします」
――というワケで、塩見さん行きつけの卵農園併設のお店へ。こないだ朝霞たちと一緒にオムライスを食べに来たお店で、ここは時間帯によってメニューがいろいろ違ってたりする。朝なら朝食メニューだし、昼は親子丼とかがある。で、夜はオムライスがメイン。俺は親子丼が一番好きだなあ。
朝食メニューはよくある和食の朝ご飯か洋食の朝ご飯が選べる。和食だと卵焼きと温泉玉子(5個まで)が、洋食だとスクランブルエッグとゆで卵(5個まで)が卵を使ったメニューで、和洋共通なのが目玉焼き。他は鮭とかベーコン、ごはんかパンかっていうそれらしい付け合わせがあるような感じ。俺は和食を、塩見さんは洋食を注文。
「いただきまーす」
「飯は逃げねえんだ、落ち着いて食えよ」
「もー、塩見さんまで兄さんみたいなこと言うじゃないですかー」
「今はいいにしても、いつまでもその食い方してたら将来喉に食いもん詰まらせて死ぬんじゃねえかっつって心配してたぞ千晴君」
「えっ、もうそんな心配されてるんですか俺」
「千晴君はお前の親代わりなんだ。弟っつーより実質子供だ。心配にもなるんだろ」
「じゃあ、そういうところから気をつけて行かないとですね」
兄さんからはいつまで経っても子供扱いされるなあと思ってたけど、よく考えたら実際親代わりになってくれてたんだし小さいところが気になって心配にもなるのかもしれない。細かいことで心配をかけてるうちは俺もまだまだ子供なんだと思う。まずはご飯の食べ方から少しずつ直していこう。よく噛んで。朝霞のイメージで。もぐもぐ。
「そうだ塩見さん、忘れる前にちょっと用事を済ませたいんですけどいいですか?」
「用事?」
「はい。えっと、こないだバイトに来てくれてたなっちのことは覚えてますか? 女の子の」
「ああ、菜月だろ。覚えてるぞ」
「そのなっちからですね、塩見さんにって預かってるものがありまして」
「俺に?」
昨日、実家から帰ってきたっていうなっちから呼び出されて言付かった物がある。塩見さんに用事があるようだったけど、さすがに本人の連絡先は知らないし恐れ多いから俺にということで。そして明日(今日)バイトだし塩見さんに渡せるよーとそれを預かってるんだ。
割れ物だからくれぐれも扱いには気をつけてくれと聞いていたし、家では冷蔵庫に入れてくれとも。きっと食べ物関係なんだろうけど、何だろうね。ちなみに、そのお使いを頼まれてくれたからという理由で俺もなっちから緑風土産のお煎餅をいただいたので、それは兄さんとお店のみんなと美味しくいただく予定。
「これなんですけど。どうぞ」
「サンキュ。……あー、そういうことか」
「えっ、何だったんですか?」
「いや、前に話してたんだよな、緑風で有名な卵の店のこと。その店のギフトセットだな。プリンとカスタードケーキとメレンゲの焼き菓子、マヨネーズにチキンブイヨンか。それからゆで卵10個」
「えー! いいなー!」
「俺に言われても」
「って言うか塩見さんて甘いもの食べるんですか? プリンとかケーキとかってあんまりイメージにないですけど」
「自分じゃあんま買わないけど普通に食うし好きだぞ」
「えー、そうだったんですねー」
塩見さんの主食が卵なのは会社の人だったらみんな知ってることだけど、まさかそれを聞いてたなっちがこうしてわざわざ緑風のお店でギフトセットを買って贈ってくれるとはビックリだよね。だけど、なっちも卵好きだし、違いがわかるだろう塩見さんに地元の味を食べてほしかったのかな。
「何せ、お礼を言わないとな。千景、お前から送ってくれるか」
「はい、いいですよー。何て送ればいいですか?」
「いや、カメラ立ち上げてくれ。動画で送った方が俺の言葉で伝わるだろ」
「あ、はい。カメラですね。はい、準備オッケーです」
「コホン。キューくれ」
「はい。3、2、1」
「菜月、確かに受け取ったぞ。わざわざサンキュ。これからありがたく食わしてもらうな。また何かあったら気軽に声かけてくれ。それから、良かったら俺とも一緒にツミツミやろうぜ。いい返事待ってる。それじゃあまた」
「はいオッケーです」
「で、今のを送っといてくれ」
「はーい。……送りましたー」
「っつーことだから、もしツミツミに関していい返事がもらえたら俺のLINEアイツに教えといてくれ」
「わかりました。なっちはどんどん最高スコア更新してますからね。俺なんかもうとっくの昔に抜かされちゃってますよ」
「おっ、そいつは楽しみだ」
……と、朝ご飯が途中だったことを思い出す。もう結構冷めちゃったかなあ。でも、会社で少しの間会っただけなのに、こうしてなっちと塩見さんの関係がいい感じに続いてるのはいいなあって思う。俺もそういう出会いみたいなものがいつかあるかなあ。それもこれも人の縁かな。
end.
++++
何気に菜月さん、バイトしてた分お土産だのバレンタインだので散らしたんじゃないか? あればあるだけ使ってしまう性質があるからなあ……
オミちーという義兄弟未遂コンビが好きだというのは今更なので、自らの需要を満たしていくスタイル。塩見さんの動画撮るちーちゃんかわいいやんけ
一方そのころ豊葦では、追いコン終わりでオール明けの菜野圭あたりがやいやいやってるんじゃないかと思うの。オール明けなのに丼屋で無駄に長居するヤツ~
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