2019(04)

■時代の違和感

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「対策委員です」
「……やっぱ違和感ハンパないわ」
「委員長ー! 早く帰ってきてー!」
「いやいやいや、ちょっと待て!? 満場一致で議長が進行をやれということになったのでは?」

 ――というワケで、久々に対策委員の会議が行われている。各大学のテストも終わり、そろそろ春が来るということで、春の番組制作会に向けてそろそろ本腰を入れて動いていきましょうと。春の番組制作会というのは、平たく言うとファンフェスに向けたダブルトークの練習会だ。
 で、今日はゼミ合宿に行っているとかで果林とタカティがいないので、議事進行は議長の俺が担当することになった。そもそも、本来会議の進行は議長の俺がやるべきなんだけども、諸般の事情でこれまでずっとその役割を果林が担ってきた。その結果、いざ俺が進行すると違和感しかないと言われるというな。
 諸般の事情、と言うか悪質とまで言われた遅刻癖な。会議開始時刻にいないことの多い議長よりは、安定的にいる委員長に進行を任せましょうとなるのは至極当然のことで……結果、今期の議長は「会議には期待しないからいざというときに決めてくれればいい」という方針です。

「そんなに果林がいいなら果林のいる日に会議をすればよかったんじゃないか」
「それだと他のメンバーが何かしら都合が悪いってんで今日になったんでしょうよ。緑ヶ丘なら1、2年合わせて4人いるから1人2人いなくたってどうとでもなるって」
「そーよ。俺じゃ緑ヶ丘の代表としては信用ならないか野坂」
「そうとは言ってない」

 さて、本題だ。春の番組制作会というのは先述の通り、5月にある(はずの)ファンタジックフェスタに向けたダブルトークの練習会としての性質が強い。今の2年生はこないだの5月にやったメンバーが多いけど、1年生にとっては初めてのダブルトーク、そして一般の人に向けた番組になる。
 というワケで、いざ本番を迎える前に少しでも経験を積んでおこうという会だ。この会には講師のような物は置かないんだけれども、やらないよりはやった方がダブルトークの感覚はつかめるし、今後の課題も洗い出せるだろう。定例会にも、対策委員は仕事してます(だから金よこせ)というアピールをする必要がある。

「ちなみに、去年は機材補償費と引き替えに班決めのクジを引いて、それで集まった班で番組を作るという感じだった。俺は今年もその形式でいいんじゃないかなと思う」
「うん。アタシもそれでいいと思うよ。今回の参加対象は1、2年だし、特段誰と誰がNGって話も今のところないっしょ」
「クジの結果、同じ大学の子ばっかり固まったらどうする?」
「それはそうとして受け入れてもらう?」
「それか、適当に入れ替わるか。そういうのは極力対策委員が動く感じにすればいいんじゃないかな」

 班の決め方や、番組のテーマの決め方など、考えるべきことはいろいろある。この制作会は夏合宿などと違って事前に番組を作ってくる形式ではなくその場で結成した班で即興番組を作ってその日のうちに発表会が開かれる。だから、なるべくならサクッと決めるところは決めてタイムロスを減らしたい。
 たとえば、班にしてもクジでサクッと。案外うだうだと揉めがちなトークテーマもこちらがクジを配り歩いて指定することにした。番組の構成はOP、M1、T1、M2、EDくらいが基本で、アレンジはしてもいいけどトータルタイムは12分から15分に納めることなんかをルールとして決めた。

「ちょっと、夏の後くらいから考えてたことがあるんだけど聞いてもらっていいか。特にミキサー陣」
「ん?」
「どした?」
「例によってこの制作会でも同録を録るかどうかを考えたときに、果たしてMDへの録音は時代に即しているのかという問題はあるじゃんな」

 インターフェイスの活動では、未だにMDが前線で動いている。MDストックと呼ばれる音楽ライブラリにしてもそうだし、MMPの場合は収録した昼放送もMDに記録していて、食堂の機材にポータブルMDプレイヤーを接続している。だけど、正直今日日MDなんか街でもそう見かけない。
 こと夏合宿などではミキサーにiPodだのスマホだのといった機器を繋ぐなというようなことを言われるのだけど、それは完全に悪なのかとも思う。もちろん違法にダウンロードしてきたものはダメだし、音質の問題や、スマホの場合は通知問題があるのは重々承知しているけど、時代に合わせて柔軟に対応していくことも必要だと思う。

「あー、そーね?」
「つかぶっちゃけ今時MDなんか渡されてもどーしようもなくない?」
「そうなんだよ。だったら、インターフェイスの機材群にMP3なりなんなりっていう音声ファイルで記録できるツールも必要なんじゃないかって思って」
「その方が録音もコピーも圧倒的に早いしMD代もかからんわな」
「なんならMDデッキ1台空くから番組の自由度も高まる」
「でもそのツールに対する初期投資は必要じゃないの? どーすんの、対策委員が勝手に言ってたってお上がうんって言わなきゃどーにもなんないじゃん。ただでさえ極貧なのにさ」
「そこでだ。この番組制作会をその実験の機会にしようと思ってる。Lにはまだ話してないけど、それは近いうちに話をしようかと」
「だったらそれこそ果林が帰ってきてからもっかい対策の会議開けばいいんじゃね? 佐藤ゼミのラジオって確かパソコンとかでMP3形式で録音してネットで配信してたし、アイツならノウハウあるだろ」
「あー、どっちにしても委員長待ちか」

 雪山に缶詰になっているという委員長の帰還が待たれる。と言うか、俺も進行役は慣れないので早く果林には帰ってきてほしい。慣れないことはするモンじゃない。

「じゃーさ、ボクもう1コ大事な問題思い出したんやけど言っていい?」
「ヒロだしイマイチ信用ならないけど、言ってみろ」
「何やのノサカのクセに。まーえーわ。もしさ、アナウンサーが奇数になったらどーするん? ボクイヤやよピントーク」


end.


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対策委員です。春の番組制作会に向けて動き出しましたが昨日のお話の通り果林とタカちゃんはお休みです。
で、ノサカが進行をしたみたものの違和感バリバリだった様子。と言うか今回は集合時間に間に合ったの? だとしたら奇跡だが
今回はヒロのピントーク問題よりもMD問題の方を大きく取り上げました。L率いる新生定例会と対策委員の連携は果たしてどうなる。

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