2019(04)
■平々凡々なモチーフ
++++
「美奈、オレは何を見せられているんだ」
「……もう少しだけ、付き合ってあげて……」
今日は、私とリン、それからロイとあずさという4人でそれぞれの趣味の店巡りをするという会が開かれている。どうしてそんなことになったのかはよくわからないけれど、最初にベティさんの店で出会った時も、趣味の話で盛り上がったから…? なのかもしれない……。
それぞれが興味のある店ということで、あずさは調理道具専門店、ロイは個人経営の古本屋を紹介してくれた。調理道具専門店は、さすがにテレビでよく紹介される東都の店ほどではないけれど、星港にもこんな店があるんだと私は感動した。あずさはそこで、春に向けて桜柄のローラーを買っていた。これでケーキに模様を描けるそう。
ロイが紹介してくれた古本屋は、本当に絵に描いたような古本屋。所狭しと本やCD、レコードなんかが置かれていて、どこに何があるのかも全く把握出来ない。チェーンの古本屋では価値がないと判断されて処分されるような作品も、ここに来れば見つかることがあるそう。リンはこの店で絶版のCDを3枚ほど購入していたし、私も古い画集を1冊買った。
「かわいいなあ、悩むなあ。でもスカートなんて柄じゃないよなあ」
「いいんじゃないか、スカートも。トップスがいつも通り白のきれいめでも、春らしい明るい色のスカートを1枚合わせるだけで雰囲気が変わるだろ。ほら、この黄色なんかいいと思うけど」
「あ~…! スカート買ってみる!?」
「このスカートだったら、こういう、ちょっとヒールが高めの靴なんかを合わせると脚が長く見えてスタイルもよく見えるんじゃないのか」
「そうだよねえ、そうだよねえ! えっ、でもあたし普段ぺたんこの靴ばっかりだけど大丈夫かなあヒールなんか履いて」
「そこまでは責任持てないけど」
リンが次に行く店を紹介してくれようとしていたときのこと。ふと店先のディスプレーに並んでいたスカートにあずさの足が止まった。春らしい色のスカート。あずさは普段パンツスタイルがメインだけど、ふんわりしたシルエットがあずさにはよく似合いそう。
ほしいなあ、どうしようかなあとあずさが悩んでいると、それを見ていたロイがあずさのコーディネートを始めてしまった。いつも着ている服の感じから考えるとこのスカートは何がどうで、これをこう合わせるならこういう風にするといい、という風に。どうやらロイはファッションの分野も好きらしいということがわかった。
「で、バチッと決めるならジャケット、柔らかくしたいならカーディガンみたいな感じで羽織を変えるとだな。この網みニットなんかいいんじゃないか?」
「はっ…! カーディガンだと朝霞クンとお揃いになるのでは!?」
「それは勝手にしてくれ」
「伏見、それで結局買うのか買わんのか」
「ひいっ! お待たせしてごめんなさい!」
「気にしないで……リンは、服を悩まないから……」
リンからすれば、服を買いたいからそのお店に入るのであって、入ってすぐお目当ての物を買ってしまう。だから試着を繰り返してはどうしようと悩むことに理解が及ばない。日々の服装を考えるのが面倒で同じ黒のタートルネックとグレーのチェック柄のパンツを何枚も揃えているというのだから。
「美奈ちゃん、どうかなあ」
「とても良く、似合っている……」
「どうしよう…! 朝霞クンのコーディネートがあたしより上手なんですけど!?」
「……ロイも確かに上手いけど、あずさのコーディネートも、悪くはないかと……」
「違うの! かわいい服とか柄とか本当は大好きなんだけど、上手に組み合わせられないから白メインのパンツスタイルに逃げてるんだって!」
「服など、清潔であればそれでいいのでは」
「リンは、少し黙って。……確かに、好きと、似合う物は違う……だけど、あずさは、かわいい服も、柄もよく似合う……挑戦すればいい……」
「でも、あたし美奈ちゃんみたくスラッとしてないし、きれいじゃないし。胸も小さいしちんちくりんだし」
「そう自虐するなよ」
「おい伏見、人と比べてどうなる。お前が好きなようにすればいいだけの話だろう。お前はちんちくりんと言うよりは可も不可もない中肉中背だ。太っても痩せてもいないし背が高くも低くもない。何の特徴もないが体型の点で言えば選べない物はない。よほど贅沢だと思うがな」
確かに、リンの言うことには一理ある。あずさは本当に平均中の平均というスタイルをしている。身長体重だけではなく、足の大きさや胸の大きさにしても。ごくごく平均的ということは、それだけ着られる服の選択肢が増えるということ。大きいサイズ、小さいサイズに特化したブランドもあるけれど、それでも平均には敵わない。
「なるほど、中肉中背の強みか。そしたら、朝霞クンのコーディネートで上から下まで買っちゃおうかな」
「マジかよ。それはそれで責任重大じゃねーか」
「……ロイ、スタイリストの仕事を調べたことは…?」
「いや、全然ないない」
「それにしては、小慣れている気が……」
「山口のファッションセンスが壊滅的でさ、アイツのコーディネートなんかはたまにしてやってたことがあるんだよ。アイツのセンスでステージに立たれるとMCが悪目立ちするし」
「……プロデューサーとしての、仕事の一環…?」
「的な。あっでも、こないだクリスマスにアウトレット行った時なんかも俺に服選んでほしいっつってコーディネートしてやったかな。アイツもそれ上から下まで丸ごと買ってた」
「出た! 山口洋平! 朝霞クン山口クンとお出かけしてたの!?」
「いや、お前の誘いを断ったのは悪かったって。ちゃんとお土産買ってっただろ」
「そうだけど!」
「いいから服を買うなら会計してこい。リン君待たせてんだぞ」
「あっそうだごめんなさーい」
この件をあずさ視点で見てみると、好きな人に服を選んでもらっているというシチュエーションになる。それも、普段は着ない甘いスタイルのコーディネートで。こういうスタイルでもあずさは行けるというロイからの太鼓判のようなもの。……それは、私があずさでも全部買ってしまうかも。私がリンにコーディネートをしてもら……やめよう、絶対にない。逆の方が、あるかもしれない。
「……ロイ。あずさは、アニをライバル視している…?」
「それはわかんないけど、ちょっと怖いとは言ってたんだよな。絡むタイミングが良くなくて苦手意識が残ってるって感じかな。山口は俺を守るために伏見に冷たく当たらざるを得なかったことがあって。一応フォローはしたんだけど、俺からアイツの名前が出るとこう、警戒感が出ると言うか。2人が直接絡むことはそうないけど、やっぱ友達がそういう風に思われてんのはツラいトコがある」
「そう……」
「はい! お待たせしました! さあリンさんどうぞ!」
「それでは、本題に戻っていいか」
end.
++++
久々にリン美奈の我々は何を見せられているのだシリーズです。前は鍋とかだったね。あとちょっとした痴話喧嘩。2年前とかかしら。
やまよだけに飽き足らず、女子のコーディネートにまで手を出してしまった朝霞Pである。何を目指してるんでしょうか朝霞Pは。
そして「黙れ」と美奈に制されるリン様である。リン様の感覚が一般とは少しずれていると楽しいんだな。情報センターではすっかり良心だけどな!
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「美奈、オレは何を見せられているんだ」
「……もう少しだけ、付き合ってあげて……」
今日は、私とリン、それからロイとあずさという4人でそれぞれの趣味の店巡りをするという会が開かれている。どうしてそんなことになったのかはよくわからないけれど、最初にベティさんの店で出会った時も、趣味の話で盛り上がったから…? なのかもしれない……。
それぞれが興味のある店ということで、あずさは調理道具専門店、ロイは個人経営の古本屋を紹介してくれた。調理道具専門店は、さすがにテレビでよく紹介される東都の店ほどではないけれど、星港にもこんな店があるんだと私は感動した。あずさはそこで、春に向けて桜柄のローラーを買っていた。これでケーキに模様を描けるそう。
ロイが紹介してくれた古本屋は、本当に絵に描いたような古本屋。所狭しと本やCD、レコードなんかが置かれていて、どこに何があるのかも全く把握出来ない。チェーンの古本屋では価値がないと判断されて処分されるような作品も、ここに来れば見つかることがあるそう。リンはこの店で絶版のCDを3枚ほど購入していたし、私も古い画集を1冊買った。
「かわいいなあ、悩むなあ。でもスカートなんて柄じゃないよなあ」
「いいんじゃないか、スカートも。トップスがいつも通り白のきれいめでも、春らしい明るい色のスカートを1枚合わせるだけで雰囲気が変わるだろ。ほら、この黄色なんかいいと思うけど」
「あ~…! スカート買ってみる!?」
「このスカートだったら、こういう、ちょっとヒールが高めの靴なんかを合わせると脚が長く見えてスタイルもよく見えるんじゃないのか」
「そうだよねえ、そうだよねえ! えっ、でもあたし普段ぺたんこの靴ばっかりだけど大丈夫かなあヒールなんか履いて」
「そこまでは責任持てないけど」
リンが次に行く店を紹介してくれようとしていたときのこと。ふと店先のディスプレーに並んでいたスカートにあずさの足が止まった。春らしい色のスカート。あずさは普段パンツスタイルがメインだけど、ふんわりしたシルエットがあずさにはよく似合いそう。
ほしいなあ、どうしようかなあとあずさが悩んでいると、それを見ていたロイがあずさのコーディネートを始めてしまった。いつも着ている服の感じから考えるとこのスカートは何がどうで、これをこう合わせるならこういう風にするといい、という風に。どうやらロイはファッションの分野も好きらしいということがわかった。
「で、バチッと決めるならジャケット、柔らかくしたいならカーディガンみたいな感じで羽織を変えるとだな。この網みニットなんかいいんじゃないか?」
「はっ…! カーディガンだと朝霞クンとお揃いになるのでは!?」
「それは勝手にしてくれ」
「伏見、それで結局買うのか買わんのか」
「ひいっ! お待たせしてごめんなさい!」
「気にしないで……リンは、服を悩まないから……」
リンからすれば、服を買いたいからそのお店に入るのであって、入ってすぐお目当ての物を買ってしまう。だから試着を繰り返してはどうしようと悩むことに理解が及ばない。日々の服装を考えるのが面倒で同じ黒のタートルネックとグレーのチェック柄のパンツを何枚も揃えているというのだから。
「美奈ちゃん、どうかなあ」
「とても良く、似合っている……」
「どうしよう…! 朝霞クンのコーディネートがあたしより上手なんですけど!?」
「……ロイも確かに上手いけど、あずさのコーディネートも、悪くはないかと……」
「違うの! かわいい服とか柄とか本当は大好きなんだけど、上手に組み合わせられないから白メインのパンツスタイルに逃げてるんだって!」
「服など、清潔であればそれでいいのでは」
「リンは、少し黙って。……確かに、好きと、似合う物は違う……だけど、あずさは、かわいい服も、柄もよく似合う……挑戦すればいい……」
「でも、あたし美奈ちゃんみたくスラッとしてないし、きれいじゃないし。胸も小さいしちんちくりんだし」
「そう自虐するなよ」
「おい伏見、人と比べてどうなる。お前が好きなようにすればいいだけの話だろう。お前はちんちくりんと言うよりは可も不可もない中肉中背だ。太っても痩せてもいないし背が高くも低くもない。何の特徴もないが体型の点で言えば選べない物はない。よほど贅沢だと思うがな」
確かに、リンの言うことには一理ある。あずさは本当に平均中の平均というスタイルをしている。身長体重だけではなく、足の大きさや胸の大きさにしても。ごくごく平均的ということは、それだけ着られる服の選択肢が増えるということ。大きいサイズ、小さいサイズに特化したブランドもあるけれど、それでも平均には敵わない。
「なるほど、中肉中背の強みか。そしたら、朝霞クンのコーディネートで上から下まで買っちゃおうかな」
「マジかよ。それはそれで責任重大じゃねーか」
「……ロイ、スタイリストの仕事を調べたことは…?」
「いや、全然ないない」
「それにしては、小慣れている気が……」
「山口のファッションセンスが壊滅的でさ、アイツのコーディネートなんかはたまにしてやってたことがあるんだよ。アイツのセンスでステージに立たれるとMCが悪目立ちするし」
「……プロデューサーとしての、仕事の一環…?」
「的な。あっでも、こないだクリスマスにアウトレット行った時なんかも俺に服選んでほしいっつってコーディネートしてやったかな。アイツもそれ上から下まで丸ごと買ってた」
「出た! 山口洋平! 朝霞クン山口クンとお出かけしてたの!?」
「いや、お前の誘いを断ったのは悪かったって。ちゃんとお土産買ってっただろ」
「そうだけど!」
「いいから服を買うなら会計してこい。リン君待たせてんだぞ」
「あっそうだごめんなさーい」
この件をあずさ視点で見てみると、好きな人に服を選んでもらっているというシチュエーションになる。それも、普段は着ない甘いスタイルのコーディネートで。こういうスタイルでもあずさは行けるというロイからの太鼓判のようなもの。……それは、私があずさでも全部買ってしまうかも。私がリンにコーディネートをしてもら……やめよう、絶対にない。逆の方が、あるかもしれない。
「……ロイ。あずさは、アニをライバル視している…?」
「それはわかんないけど、ちょっと怖いとは言ってたんだよな。絡むタイミングが良くなくて苦手意識が残ってるって感じかな。山口は俺を守るために伏見に冷たく当たらざるを得なかったことがあって。一応フォローはしたんだけど、俺からアイツの名前が出るとこう、警戒感が出ると言うか。2人が直接絡むことはそうないけど、やっぱ友達がそういう風に思われてんのはツラいトコがある」
「そう……」
「はい! お待たせしました! さあリンさんどうぞ!」
「それでは、本題に戻っていいか」
end.
++++
久々にリン美奈の我々は何を見せられているのだシリーズです。前は鍋とかだったね。あとちょっとした痴話喧嘩。2年前とかかしら。
やまよだけに飽き足らず、女子のコーディネートにまで手を出してしまった朝霞Pである。何を目指してるんでしょうか朝霞Pは。
そして「黙れ」と美奈に制されるリン様である。リン様の感覚が一般とは少しずれていると楽しいんだな。情報センターではすっかり良心だけどな!
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