2019(04)

■最終回ではじめまして

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 今日はインターフェイスの3年生だけで開催される飲み会だ。俺は普段こうしたインターフェイスの行事に参加する方じゃないけど、こういうのに声がかかったのも久し振りだし、こういう会が開催出来るのもきっとこれが最後だろうから誰でもウェルカムな会でありたいという幹事の意向を酌んで参加してみることにした。
 すると、実際俺のイメージにあるインターフェイスの会とは少し違う顔もちらほらとある。尤も、俺もその中の一人なのだけど。普通に考えれば緑ヶ丘とイコールで結ばれるのは高崎とカズというイメージだろうから、岡崎とかユノと言われても誰だっけとなるのが当たり前だろう。

「えー、何この席順ウケる! 全然思い出せない子ばっか!」
「言っとくけど、自分もその思い出せない子の1人だからな」
「ひどっ! じゃあ時計回りで自己紹介する? アタシは青女のヒメだよー」
「テレビで見たことあるから一方的には知ってるよ。俺は緑ヶ丘のユノ。岡崎由乃。はい、向かい」
「はい。星ヶ丘の朝霞薫。DJネームはロイ。一応前定例会」
「はーい、星大のロンこと坂井千尋! で、おヒメさんの本名は?」
「ヒメはヒメなの! ヒメって覚えてね」

 この中では定例会の朝霞君が一番インターフェイスへの参加度が高いだろうか。坂井さんに関しては確かファンフェスの頃に高崎が何か言ってたかな、同じ班だったとかで。ヒメに関しては深夜のローカル番組でチラッと出てるのを見た。話を聞くに、駆け出しのタレントらしい。
 さて、言ってしまえば微妙なメンバーで一体どうなるのか。こういう微妙なメンバーが固まってしまったということは、他の席はメジャーどころのメンバーが固まって前回の続きから話が始まっているのだろう。ここは自己紹介から始まるレベルだ。

「気を悪くしたらゴメンだけど、岡崎君て、薄暗いバーの片隅にいそう」
「そういう薄暗い場所は実際好きだよ」
「えっ、ユノってさ、サングラスすっぴん隠しってワケじゃないでしょ? 素顔見たいんだけど」

 はい、出た。初対面あるある。生まれ持った遺伝子の異常でかけている色付き眼鏡の説明から始まるんだ。視界が白飛びして眩しく見えるっていう症状があるんだけど、それをそれを抑えるための遮光眼鏡。サングラスと間違えられることは数知れず。一応視覚障害者だ。

「これは遮光眼鏡。俺は生まれつき遺伝子に異常があって、裸眼じゃ日常生活を送るのが難しいんだよ」
「えっ、そうなのゴメン! でも素顔は見たいかな、雰囲気がイケメンだから」
「そこは雰囲気イケメンのままにしておきたいかな。緑ヶ丘では胡散臭いキャラでやらせてもらってるから」
「えーざんねーん」
「ユノその切り返し面白いなあ! えっ、って言うか目が見えないの?」
「見えるよ。視力はそれなりに悪いけど、それは普通の人と同じくらい」
「俺視力0.1あるかないかだけど」
「そこまで悪くないよ」
「えっ、ロイ大丈夫かー」
「コンタクト外すと全然見えないし眠くなるんだよな。坂井さんは? 視力。メガネだけど」
「私は0.6くらいだよ」
「それくらいだと必要な時しかメガネかけない人もいるよね」
「あー、いるね。ヒメは? 視力」
「悪くないけどカラコンはいれるよ。ほらこれ、かわいいっしょ」

 そう言ってヒメは淡い栗色のカラーコンタクトを入れている目をガッツリ見せて来る。俺たちはそれを覗き込んで、おーとかほーとかと声を上げる。ヒメはバービー人形とかリカちゃん人形とか、ああいう類の人形をイメージして自分を磨き上げているという。

「でもねー、コンタクトってお金かかるよね! 2週間とか1ヶ月とかあるけどまだ使えるのにもう換えるのって! だから期限は無視するよね。倍くらいなら全然平気」
「やー、メガネはその心配なくていいよー?」
「ヒメ、コンタクトのケアはちゃんとした方がいいよ。それ、普通に目の病気になる」
「すみませんでした」
「朝霞もコンタクトのケアサボる方か」
「今はそうでもないけど、ステージの台本書いてた頃は毎日つけっぱだったし交換もすっ飛ばしてた」
「それはよくない」

 俺がその手のことの注意を始めると説教じみるとはイクからよくダメ出しをされる。如何せんこんな目をしているから、軽く言っているつもりでもガチっぽくなってしまうんだそうだ。だけどそれを抜きにしてもコンタクトレンズは医療用機器だからな。

「ユノってさ、目があんま良くない分他の感覚が研ぎ澄まされてたりすんの? ほら、視覚を封じると聴覚とか指先の感覚が鋭くなるって言うじゃんかー」
「ああ、耳はちょっといいかもしれないね。人がいるとか、電車が来るとかそういうのは大体耳で。指先はね、まだちょっと。点字の練習はしてるけど、まだ慣れないから本当に疲れる。左の人差し指でスライドさせて読むんだけど、水平に手を動かすのがまず難しいんだよ」
「点字って左手で読むものなの?」
「読み書きと同時にやるときは、右利きなら左手で読むって。だから左利きなら右手なんじゃないかな。でも読みやすい方で読んだらいいみたい」
「じゃあ俺は右か。缶ビールの上の「おさけです」から始めるか」
「はっ。ユノと組めば目の見えない子向けの虫図鑑が出せる? 虫ちゃんの良さを広く布教出来るんじゃない!?」
「アタシのファンブックも出来る!?」
「俺と組んでそれが実現出来るかはともかく、触る絵本とかは既にあるよ」
「あ、俺も見たことある。動物の質感を再現してあって、視覚障害の有無に関係なく普通に面白いんだよな」
「俺はちょっとそのジャンルは疎いけど、小説とかそういうのは借りて読んだりっていうのもあるよ」
「えっ、小説もあるんだ」
「あるよ。古典から最新まで、いろいろ。ライトノベルなんかもあるし」
「岡崎君て本好きなの? 俺、読書好きなんだけど、どんなの読むの?」

 知らないメンバーばかりでも、何だかんだ話は盛り上がっている。俺の目の話をした後に気まずくなることも多々あったけど、このメンバーは良くも悪くもそれをスルーして自分の野望やら興味やらの話ばかりをして楽しんでいるんだ。こうまで気遣われないと逆に気が楽でやりやすい。
 今知り合ったメンバーとは今後話すこともそうないだろうけど、これはこれで悪くないかな。前定例会の朝霞はともかく、他のメンバーはあまりそこまでインターフェイスにずっぷりじゃないから、表面をなぞる程度の当たり障りのなさが後腐れのない感じで。

「ねえ、ちょっと誰あれ。高崎と菜月の間に人がいるんですけど!?」
「高崎と菜月の間?」
「あ、大石だ」
「ああ、ホントだねえ、ともちんだね」
「ちょっとあの子と菜月の席順入れ替えて来る」
「……何だ?」
「そう言えば高崎が言ってたな、青女には過激派がいるって。あれのことか」


end.


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IF3年会のお話ですが、本人たちも言ってますが思い出せない子たちの集まりになりました。
こういう微妙なメンバーが集まる卓は、どう話を始めようかっていう駆け引きから始まると思いきや、朝霞Pだのヒメだのがいるのでそんな心配はいらなかった
そして眼鏡の件に触れられたときのユノパイセンの返しよ。胡散臭いキャラでやってるから雰囲気イケメンのままでいさせろってw

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