2019(04)

■お散歩でダブルミッション

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「さーてタカちゃん、早いトコ買い物してこの後に備えないとね!」
「そうですね」

 今日はタカちゃんを引き連れてゼミ合宿の物資調達大会。佐藤ゼミの卒論発表合宿というのが来週に2泊3日であって、それが殺人事件でも起きそうなレベルの雪山のコテージで行われるんだよね。そんな場所に閉じこめられるワケだから、食料調達は別にアタシじゃなくても必須なワケ。
 ――というのも本当だけど、この買い物にはもうひとつ別の目的がある。それは、この後行われるMBCCの無制限飲みの準備時間を稼ぐこと。何を隠そう今日はタカちゃんの誕生日。この後タカちゃんの部屋で飲み会が開かれるのです。部屋にはエージが留守番をしてくれている。
 アタシもエージも仕掛け人。無制限飲みがあるだろうなっていうのはタカちゃんも察してるかもしれないけど、準備の行程は隠させてもらおうってワケ。アタシとタカちゃんが出かけてる間に、エージが留守番してる部屋に参加者が合流、準備して、帰ってきた頃にはパーティー開始! 的な高ピー先輩の作戦。
 このミッションで重大な役割があるのは部屋の掃除から始める留守番のエージ、おいしいご飯をたっぷり用意してくれるいっちー先輩、それからタカちゃんを連れ回して時間を稼ぐアタシの3人。まあ、ゼミ合宿の買い物も本当に必要で大事なことだから、時間を稼ぐのは余裕かな。店のハシゴもするだろうし。

「本当に合宿の食糧事情はそこまで逼迫するんですか? 果林先輩に足りないのはわかりますけど、一般的な男子でも足りないって本当ですか」
「これは本当に本当。アタシは自分の食べる量をわかってたから前情報なしでも非常食を持ってて助かったけど、みんなひもじい思いしてたからね。売店はあるけどおみやげのお菓子くらいで主食がないからさ」
「それで、非常食なんですね」
「そういうことです」
「それで、どういうのを持って行ったらいいんですかね」
「部屋に湯沸かしポットはあるから、お湯で食べられる物がおすすめかな。それから甘いもの。お菓子とかだね」
「なるほど」

 最初に向かうのは登山用品店。こんなところで何を見るんだと思うかもしれないけど、登山用アイテムの中に結構いいご飯があったりする。山登りしてる中でもコーヒー淹れたり料理をしたりっていうグッズもあるくらいだからね。お湯で戻して食べるご飯も結構いろいろ。
 ここではまず様子見。1軒目だし、品揃えをチラ見程度に。他にもいろいろ回る予定だし、最終的にここが良さそうだったら戻ってこようかっていう口実にする。とにかく無制限飲みの準備時間を稼がなきゃいけないから、いろいろ歩き回ることが大事。それに、歩き疲れて帰ってきた後のビールが楽しみだからね。

「そう言えば、さっきの登山の店で見て思い出したんですけど、確かスキーが出来るって言ってましたよね」
「うん、自由時間にね。レンタル料かかるけど。タカちゃんスキーやるの?」
「そうですね、出来るならやりたいですね」
「へー、タカちゃんてスキー出来るんだ」
「スキーは好きですね。こっちに来るまでは毎年行ってましたし。レンタル料っていくらでしたっけ」
「3000円だね。バイトの成果は出た?」
「そうですね、3000円なら大丈夫かなとは思える程度には」

 朝霞P先輩からの紹介でタカちゃんが始めた吊り札付けのバイトは、昨日で全7回の出勤が終わったらしい。時給1000円で実働7時間。計49000円。ちょっと何か引かれたとしてもゼミ合宿くらいならどうにかなる収入にはなっただろうね。ただ、給料日はまだ先だから、今は耐える段階だとか。
 その会社の社員さんにオムライスを食べに連れて行ってもらった話なんかを楽しそうにしてる様子を見たら、お姉さん嬉しくて嬉しくて涙がちょちょ切れそうですよ。あの人見知りのタカちゃんが、先輩たちばっかりのところに混じってバイト先の社員さんとも楽しくお喋りしてるとか。

「バイト楽しかった?」
「楽しかったですけど、こう、腕力と言うか、自分は男としては力が弱いなと思いました。筋トレでもした方がいいんですかね」
「ありゃりゃ。どうした」
「いえ、俺と朝霞先輩が持ち上げられなかった荷物を、大石先輩は発泡スチロールみたいにひょいひょいと台車に積んでて」
「あー、ちーちゃん先輩と比べちゃダメだよタカちゃん」
「やっぱりそうなんですね」
「確かに日頃から体は動かした方がいいかもしれないけど、それは比べる相手が悪いですよねー。あっ、筋トレしたいならブラックニッカの空き瓶に水入れてダンベル代わりにする? 2キロくらいにならない?」
「ああ、それもありですね」
「っておーい、本気にしないの」

 次のお店に向かって歩きながら、タカちゃんの悩み(?)なんかをちょいちょい。アタシは今でも日頃から簡単な筋トレをしてるし、そっち方面の話だったら相談に乗ってあげられるかな。持ち上げられなかったのがどんな荷物かはわからないけど、ちーちゃん先輩と比べちゃダメ。ああ見えてIF随一のパワーの持ち主だからね。

「こう、奥村先輩からの視線が痛くて」
「それはなっち先輩が華奢な人よりがっちりした人の方が好きっていう、単純な好みの問題。いっちー先輩タイプよりは高ピー先輩タイプが好き的な? ちーちゃん先輩なんかドストライクだから」
「なるほど、わかりやすい例えですね」
「アタシはタカちゃんのお箸持つ手なんか結構好きだからね」
「それは誉められてるんですか」
「誉めてる誉めてる。正しいお箸の持ち方が出来てるってことよ?」

 ――とか何とか話してるうちに次の建物に到着。ここはフロアごとにいろいろ見て回れるからたくさん時間を使えるし、カフェもあるから疲れたねーって言って休むことも出来る。何なら本題の買い物も、無制限飲みの買い物も出来て言うことなし。ここからが本番。帰る頃には両手が荷物でいっぱいになってるし、いいトレーニングにならないかな。


end.


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タカりんが買い物に行こうと歩きながらしゃべってるだけの話になってしまった……かわいすぎてお喋りが止まらないのが悪い
今年はたまたまTKG誕と買い物の日がぶつかったので同時進行で無制限飲みの準備をしているようです。着々と計画は進んでいたようだ
どうやらTKG、ちーちゃんのパワーに圧倒されたり菜月さんからの厳しい目をいただいて筋トレを考え始めた様子。ところで家事も結構なトレーニングになるってご存じ?

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