2019(04)

■チョロチョロチョロのチータ君

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 ゲーム実況グループSDXがUSDXに名前を変えて少し経った。グループのロゴやらその他の素材なんかもすっかり揃って少しずつUSDXとしての活動にも慣れてきたように思う。バネことリンが加入してゲームをやってても歯応えが増したって言うか。つかアクションやらせても戦略ゲーやらせても、パズルでも強いって反則じゃね? ソルだってここまでじゃないぞ。
 で、今日はUSDX21歳組が集合していろいろ話し合うことになっている。とは言えUSDXのことだけじゃなくて自分たちのやっている音楽について喋る気マンマンでもある。俺とスガはCONTINUE、そしてリンはブルースプリングっていうバンドをやっている。リンのバンドの方は開店休業状態らしいけど、俺がフルメンバー版を見てないのにそれは許されない。

「おーい、おせーぞリン」
「オレは時間通りに来ている。お前たちが早いのだろう」
「それでリン君、今日この話し合いを見たいっていう人が来るんだっけ」
「あっそーだ! そいつはどーしたんだよ」
「一応、この場でお前たちにもう一度了承を得ようと思ってな。すぐそこまで来てはいる」

 何でも、リンのオフ友とかいう奴がゲーム実況者の生態みたいなものを見てみたいとかで、この話し合いを見学したいと言ってきたらしい。今時実況者なんかそんな珍しいモンでもないと思うけど、それでも身近にいるかと言えばわかんないし、公にはしてないだろうから会える実況者を見つけるのはそこまで簡単じゃないのかもしれない。
 リンによればそいつはとにかく人に対する興味や好奇心が強い奴で、初対面だろうといつの間にか懐に入り込まれていろいろなことを喋らされるんだとか。それが自分の知ったことでも知らないことでもお構いなし。リンの言うことが本当なら、そいつは好きなことを気持ちよく語らせてくれる聞き上手タイプだと見た。人を立てるのが上手いのか?

「まあ、俺は呼んでもらって全然平気だし。なあ、カン」
「ダメなことはないけどなんかこう、素性的な情報をこっちにもちょっと欲しいかなとは」
「素性?」
「歳とかさ」
「歳はオレたちとタメだ。なんなら星ヶ丘の3年だと言っていたが」
「マジかよ。まさか知り合いじゃねーよな?」
「言って星ヶ丘もそこそこ規模のある大学だから、そうそうピンポイントで当たることもないと思いたいけど」
「奴はド文系だ。学科の知り合いではないだろう」
「あっなら多分平気だ。俺の友達大体理系だし」
「では呼んで来よう」

 リンが席を立って、残された俺とスガの間には妙な空気。別に呼んでいいとは言ったものの、正直ろくでもないヤツだったらどうしようとかちょっとした不安はある。星ヶ丘の3年ってことは、今後学内で会わないとも限らないし。身バレ云々のことに関して言えばリンのオフ友だって言うからリンがちゃんとやってくれてるとは思うけど。

「カン、落ち着け。そわそわしすぎだ」
「そわそわもするだろーよ。見世物にされるワケだし」
「見られるのなんか今更じゃないか」
「いや、ライブとかはそーゆーモンだからいいけど、これはオフじゃん言うなら。裏側っつーか。チータのキャラとは反するだろ、こんなクソ真面目な話し合いとかそわそわしてるとか」
「あ、リン君戻ってきたかな」
「あっ、ホントだ」
「待たせたな。こいつがその――」

 と、紹介されようとした顔を見て、それから向こうも俺たちの顔を見て「あ」と声が揃った。理系じゃないから知り合いじゃない可能性が高いなんて余裕ぶっこいてたけど、見事にそこを突いてきた。リンが連れてきたのはあの朝霞で、事情を分かってないのは星大生のリンだけだ。だけどリンはそれを意に介する様子もなく、知り合いなら自己紹介などの手間が省けていいなんて言う始末。

「いや、つかお前かよ」
「俺だってまさか知ってる奴らだとは思ってなかった」

 正直、朝霞に対するイメージがいいか悪いかと聞かれると、あんまよくなかったりする。茉莉奈がよくキャンキャンと愚痴っているのを聞いているからっていうのもちょっと。あと、ステージやってるときとそうじゃないときのキャラが違いすぎるって話だ。洋平はよく3年間コイツとやれてたなっていう風にも思う。台本書いてると寝る間も惜しまないとか、とにかく変人だ。
 邪魔はしないし見てるだけだから、自分のことは空気だと思ってくれと奴は言う。だけど強すぎる眼力が気になって仕方がない。どうやらそれはスガも同じだったようで、何を思ったかスガは見学者の朝霞にも意見を求め始めた。スガは謎に行われた放送部の班長鍋とかで顔を合わせてるから、ステージ以外の朝霞のキャラなんかも知ってるのかもしれない。話の分かる奴だって評価なのかな。

「朝霞、USDXで使ってる曲のいくつかはカンが作曲から編曲までやってて」
「マジか! カッコいい曲だと思ってたんだよ」
「それほどでも~! で、どの曲がよかったとかある?」
「カン、がっつくな」
「そうだな、印象に残ってるのは「ソルの大逆襲」シリーズの戦闘曲っぽいのと、ワイプになってた村づくりのほのぼのした感じの曲かな。あのシリーズはあんまマイクラを知らなくても面白く見れたし曲も場面場面にマッチしてて」
「そうだろそうだろ~! 他にはなんかある? 曲以外にも俺の活躍についてでもいいけど。ちなみに俺はチータな!」
「活躍? お前がか」
「いつもソルさんにチョロイってザコ扱いされてるのに、活躍?」
「うるせー! ぶっ飛ばすぞ!」
「俺はお前のそのうるせーっつって周りにケンカを売っていくスタイルが凄く好きで、それっていうのもあのグループが割とみんな淡々としてるって言うか、キャラ立ちはしてるけど感情の起伏がそんなにないメンバーが多いだろ。ムードメーカーとかお調子者をベースにしつつもナニクソっつってキレ散らかして感情のメリハリを付けて、それをゲームで魅せたりオチを付けられるっていうのがUSDXの動画における重要な役割かと」
「朝霞~! そんな風に俺を見てくれるのはお前だけだ~! 心の友よ~!」
「チョロっ」
「いや、エゴサしてもここまで褒めてくれる人ってそうそういねーからさ」
「つかお前の心の友って菅野じゃないのか?」
「今からお前も心の友だ! 仲良くしようぜ! 俺の曲を好いてくれてるんならコミフェで出した音源もあげるから聞いてくれ!」
「おっ、それは普通に嬉しい。ありがとな」

 チョロいの上等だ。褒められることに飢えてんだよこちとら。褒められて伸びる俺だからな。褒められたからだけど、朝霞への見方はちょっと変わるよな。まあ、口が裂けても茉莉奈の前では言えないけど。

「カタン動画も見たけど、弱いなら弱いなりにゲームを面白くしようとしてるのはよくわかった」
「弱いって言うなよ! お前やれんのか!? 難しいんだぞカタンって」
「お、やるか? 俺の部屋に行けばカタンはあるぞ」
「えっ、原作?」
「原作。俺はマイクラは持ってないからな。むしろ原作しか出来ないぞ」
「えーと……朝霞ってカタンガチ勢?」
「言っておくが、朝霞はカタンに限らずボードゲームガチ勢だ。奴の部屋はボードゲームが散乱している」
「っしゃオラやってやるよ! スガもリンもまとめてかかって来い! ほら、行くぞ朝霞!」


end.


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USDX21歳理系組の打ち合わせに朝霞Pが結構な眼力でお邪魔する話はちょこちょこやってますがカンD視点は始めてかも。
褒められることに飢えてるカンDは褒められるとめっちゃチョロいぞ! よかったな褒めてくれる人がいて。でもマリンには言えませんね!
って言うか朝霞P、今から3人遊びに来ても大丈夫なお部屋なんですか!? これは最悪リン様がオカン化するぞ……ゆーてリン様も登場時からキャラ結構変わったな

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