2019(04)
■天変地異の木曜日
++++
「いやー、ホントに焦ったよね。ありがとタカちゃん」
「いえ。たまたま気付いてよかったです」
木曜2限のテストの後、果林先輩と一緒に学食でご飯を食べている。木曜2限は同じ「ポップミュージックの社会学」という越川さんの授業を履修していて、その流れで。とは言え、授業をやっていたときから毎週そうやって一緒に昼食をとっていたわけではなく、今日は本当にたまたまが起こってこういう機会となっている。
テストを終えて教室を出ようとしたら、黒板の前に学生証の忘れ物が置いてあった。テストを受けるときは、学生証を机の上に置かなきゃいけない決まりになっている。顔写真入りの身分証明書だから、替え玉防止とか、出席を取るとかそういう意味合いがあるのだろうか。試験監督の人が見て回っている印象だ。
試験開始から30分が経過すると退室が出来るという規則がある。この時点で、多分テストを受けていた人の3分の1くらいが教室から出ていくんじゃないかな。俺は論述系のテストだと遅筆っていうのもあって時間ギリギリになったんだけど。で、忘れてあった学生証をチラッと見ると、その顔写真に見覚えがありましたね。
「もうホント、タカちゃんから連絡もらわなかったら無銭飲食になっちゃうところだったよ」
「果林先輩の食べる量で無銭飲食だと、割と普通に通報案件ですもんね」
「ホントにそれ」
緑大の学生証にはキャッシュレス決済に対応するプリペイド機能があって、学食や本屋、購買、それからスポーツ用品店などなど学内の施設で使うことが出来る。利用額10円につき0.1ポイントが加算される仕組みで、果林先輩は食べる量が量だから、なかなかのポイント長者だし、日頃から学生証には結構な額がチャージされている。
学生証を忘れていますよと果林先輩に連絡をしたら、ビュッと飛んで戻ってきて。足の速さはさすが短距離の元インハイ選手ですよね。ちょうどお昼にしようとしていたそうで、無事に学生証を回収して改めて学食へ行く流れとなった。テスト期間中は人が多いけど、テストを早く終わって出ていく人たちもいるから案外人の入りがばらけてるような気がする。
「うーす。お前ら、相席いいか」
「あっ、高ピー先輩おはようございまーす。どうぞどうぞ」
「おはようございます」
「あれっ、って言うか高ピー先輩が木曜日に大学に来てるとか何気に天変地異じゃないですか?」
「うるせえ。さすがにテスト期間は来る。っつーか、木曜さえ乗り越えりゃ勝ったも同然だ」
高崎先輩は朝に弱いし寝ることが何よりの幸せだとよく言っているけれど、授業には真面目に出ているし、単位もよほど取りこぼしたりはしていないそうだ。だけど、2、3、4限と履修コマのある木曜日だけは何故か起きられなくて、14時40分から始まる4限に寝坊で遅刻するとかもザラらしい。
果林先輩によれば、高崎先輩は8号館のロビーで寝ている姿をよく目撃するらしい。ロビーで寝ていて寝坊、ということもあるのだろうか。何にせよ、木曜日の日中に学内で高崎先輩と会うということはかなりのレアケースのようだ。だけど、寝坊で授業に出られないことのある俺はあまり人のことを言えなかった。
「相変わらずバカみてえに食うなお前は」
「アタシさっき学生証教室に忘れちゃってめっちゃ走りましたよね。その分余計におなか空いちゃって」
「お前の学生証って飯食うために大金入れてるだろ」
「入れてますね」
「パクられなくてよかったな」
「タカちゃんが忘れてるって連絡してくれたんですよ」
「同じテストだったのか」
「越川のポプ社ですね」
「ああ、あれか。好きな音楽についてただ書き連ねるだけの論述式テスト。テストってよりプロモーションだな」
ソースカツ丼を口に運びながら、やってることが毎年変わらないなと高崎先輩は去年の今頃を懐かしむ。テストの内容自体は前々から教えてもらっていたんだけど、やっぱり文章を書くのは苦手で時間がかかる。
「高ピー先輩って学生証にお金入れてます?」
「最低限な。まあ、3000円、4000円くらいか。大体毎週使う金額は決まってるけど、たまにこう、保健センターに行ったりとかすると残高が狂うんだよな」
「えっ、保健センターもキャッシュレスで行けるんですか」
「ああ、行けるぞ。ポイントも入るし。俺の場合、熱出たとか風邪っぽいってなったらまず保健センターだな。ドラッグストアとか病院より近いしな」
「ムギツーだったらそうなりますよね」
先輩たちの話を聞いていると、俺も学生証に少しはお金をチャージしておいた方がいいのかなと思ったりもする。どうせあんまり使わないだろうからって入れてないんだよね。だけど、よくよく考えたら教科書販売にも使えるし。ポイントは1ポイント1円から使えるし、ちょこちょこ使えるんじゃないかと。
「俺も学生証にお金をチャージした方がいいんですかね」
「それは個人の自由だろ」
「アタシは入れていいと思うけど、そもそもタカちゃんの場合、入れるお金があるのかっていう問題が」
「今は一応バイトしてますし」
「でも、それって合宿費用のためじゃん。なくなるよね?」
「おい果林」
「はいはい?」
「まさか高木がバイトをしてるってのか」
「あっ、そうなんですよ、朝霞P先輩からの紹介で」
「俺が木曜に学内にいることよりそっちの方が天変地異じゃねえか」
end.
++++
テスト期間のMBCC社学組のお話です。社学組っていう割にゴティ先輩いないけど、この3人とゴティ先輩はまたちょっと傾向が違うのよね
というワケでタカりんがただただご飯を食べてるだけの話かと思いきや高崎まで出て来てちょっとしたあるある話です。
学生証の機能って知らない間に結構進化しててビックリ。緑ヶ丘大学は当然ナノスパ開始当初よりは進んでるはず! マンモス校設定だし。
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「いやー、ホントに焦ったよね。ありがとタカちゃん」
「いえ。たまたま気付いてよかったです」
木曜2限のテストの後、果林先輩と一緒に学食でご飯を食べている。木曜2限は同じ「ポップミュージックの社会学」という越川さんの授業を履修していて、その流れで。とは言え、授業をやっていたときから毎週そうやって一緒に昼食をとっていたわけではなく、今日は本当にたまたまが起こってこういう機会となっている。
テストを終えて教室を出ようとしたら、黒板の前に学生証の忘れ物が置いてあった。テストを受けるときは、学生証を机の上に置かなきゃいけない決まりになっている。顔写真入りの身分証明書だから、替え玉防止とか、出席を取るとかそういう意味合いがあるのだろうか。試験監督の人が見て回っている印象だ。
試験開始から30分が経過すると退室が出来るという規則がある。この時点で、多分テストを受けていた人の3分の1くらいが教室から出ていくんじゃないかな。俺は論述系のテストだと遅筆っていうのもあって時間ギリギリになったんだけど。で、忘れてあった学生証をチラッと見ると、その顔写真に見覚えがありましたね。
「もうホント、タカちゃんから連絡もらわなかったら無銭飲食になっちゃうところだったよ」
「果林先輩の食べる量で無銭飲食だと、割と普通に通報案件ですもんね」
「ホントにそれ」
緑大の学生証にはキャッシュレス決済に対応するプリペイド機能があって、学食や本屋、購買、それからスポーツ用品店などなど学内の施設で使うことが出来る。利用額10円につき0.1ポイントが加算される仕組みで、果林先輩は食べる量が量だから、なかなかのポイント長者だし、日頃から学生証には結構な額がチャージされている。
学生証を忘れていますよと果林先輩に連絡をしたら、ビュッと飛んで戻ってきて。足の速さはさすが短距離の元インハイ選手ですよね。ちょうどお昼にしようとしていたそうで、無事に学生証を回収して改めて学食へ行く流れとなった。テスト期間中は人が多いけど、テストを早く終わって出ていく人たちもいるから案外人の入りがばらけてるような気がする。
「うーす。お前ら、相席いいか」
「あっ、高ピー先輩おはようございまーす。どうぞどうぞ」
「おはようございます」
「あれっ、って言うか高ピー先輩が木曜日に大学に来てるとか何気に天変地異じゃないですか?」
「うるせえ。さすがにテスト期間は来る。っつーか、木曜さえ乗り越えりゃ勝ったも同然だ」
高崎先輩は朝に弱いし寝ることが何よりの幸せだとよく言っているけれど、授業には真面目に出ているし、単位もよほど取りこぼしたりはしていないそうだ。だけど、2、3、4限と履修コマのある木曜日だけは何故か起きられなくて、14時40分から始まる4限に寝坊で遅刻するとかもザラらしい。
果林先輩によれば、高崎先輩は8号館のロビーで寝ている姿をよく目撃するらしい。ロビーで寝ていて寝坊、ということもあるのだろうか。何にせよ、木曜日の日中に学内で高崎先輩と会うということはかなりのレアケースのようだ。だけど、寝坊で授業に出られないことのある俺はあまり人のことを言えなかった。
「相変わらずバカみてえに食うなお前は」
「アタシさっき学生証教室に忘れちゃってめっちゃ走りましたよね。その分余計におなか空いちゃって」
「お前の学生証って飯食うために大金入れてるだろ」
「入れてますね」
「パクられなくてよかったな」
「タカちゃんが忘れてるって連絡してくれたんですよ」
「同じテストだったのか」
「越川のポプ社ですね」
「ああ、あれか。好きな音楽についてただ書き連ねるだけの論述式テスト。テストってよりプロモーションだな」
ソースカツ丼を口に運びながら、やってることが毎年変わらないなと高崎先輩は去年の今頃を懐かしむ。テストの内容自体は前々から教えてもらっていたんだけど、やっぱり文章を書くのは苦手で時間がかかる。
「高ピー先輩って学生証にお金入れてます?」
「最低限な。まあ、3000円、4000円くらいか。大体毎週使う金額は決まってるけど、たまにこう、保健センターに行ったりとかすると残高が狂うんだよな」
「えっ、保健センターもキャッシュレスで行けるんですか」
「ああ、行けるぞ。ポイントも入るし。俺の場合、熱出たとか風邪っぽいってなったらまず保健センターだな。ドラッグストアとか病院より近いしな」
「ムギツーだったらそうなりますよね」
先輩たちの話を聞いていると、俺も学生証に少しはお金をチャージしておいた方がいいのかなと思ったりもする。どうせあんまり使わないだろうからって入れてないんだよね。だけど、よくよく考えたら教科書販売にも使えるし。ポイントは1ポイント1円から使えるし、ちょこちょこ使えるんじゃないかと。
「俺も学生証にお金をチャージした方がいいんですかね」
「それは個人の自由だろ」
「アタシは入れていいと思うけど、そもそもタカちゃんの場合、入れるお金があるのかっていう問題が」
「今は一応バイトしてますし」
「でも、それって合宿費用のためじゃん。なくなるよね?」
「おい果林」
「はいはい?」
「まさか高木がバイトをしてるってのか」
「あっ、そうなんですよ、朝霞P先輩からの紹介で」
「俺が木曜に学内にいることよりそっちの方が天変地異じゃねえか」
end.
++++
テスト期間のMBCC社学組のお話です。社学組っていう割にゴティ先輩いないけど、この3人とゴティ先輩はまたちょっと傾向が違うのよね
というワケでタカりんがただただご飯を食べてるだけの話かと思いきや高崎まで出て来てちょっとしたあるある話です。
学生証の機能って知らない間に結構進化しててビックリ。緑ヶ丘大学は当然ナノスパ開始当初よりは進んでるはず! マンモス校設定だし。