2019(04)
■チョコレートの誘い
++++
「あっ、危ない!」
「ちょっと! 直、また崩れて来た! もう、しっかり持って!」
「持ってるよ!」
サークル室にやって来たKちゃんと直クンが珍しくバタバタしてるなと思ったら、直クンは前が見えなくなるくらいの小箱を抱えている。無造作に積み上げられた綺麗な小箱が時々崩れそうになるのをKちゃんが押さえたり、実際に転がってしまった物を拾い上げたりしている。
これは去年の今頃にも見られた風景で、直クンが抱えている小箱の中身はチョコレート。直クンはその中性的な外見からファンが多い。学祭の時だって直クン目当てにたくさんのお客さんがABCの喫茶をリピートしてくれてた。で、そういうファンの子たちがちょっと早めのバレンタインということで直クンにチョコを贈ってるってワケ。
「はー、やっと着いた」
「ったくもう。直、アンタこうなること予測して袋の準備くらいしといてよ」
「準備してたら期待してたみたいじゃない。それもどうかと思うよ」
「それじゃあ受け取らないようにするとか何かしなさい」
「せっかくボクにって準備してくれたのに、受け取らないのも申し訳ないよ」
「それで主食がチョコになるんでしょ? 沙都子が嘆くよ、ただでさえうたちゃんの食が偏っててって悩んでるのに」
机の上にバラバラと雪崩れ込んで来たチョコレートたちに、その凄まじさを感じる。きっと直クンの周りは人だかりで凄いことになってたんだろうな。アタシはサークル室で悠々自適に過ごしていたけど、Kちゃんが本当に疲れた顔をしてる。
この時期のKちゃんは直クンのマネージャーのように見える。事務所通してくださいとか、撮影はご遠慮くださいとか、そういう捌きをやってそう。アタシの勝手なイメージだけどね。だけど、山のようになっているチョコの箱を1つ1つ紙袋に整理して詰めてあげてるところがマネージャーだと思う。
なんなら、直クンのお世話をしてるKちゃんに対するファンがついてもおかしくないと思うんだけど。Kちゃんだって先の執事・メイド喫茶では執事さんとして活躍してくれてたんだけど、パンツスタイルがバシッと似合うクールな女性って感じで直クンとは別のカッコよさがあったよね。
「Kちゃん、大変そうだね」
「直は昔からこうなんでもう慣れっこですよ」
「そっか、2人、中学から一緒だもんね。昔からこうだったんだ」
「でも、やっぱり大学にもなると自分で働き出すからチョコのグレードがすごいすごい」
「この大量のチョコを直クンは全部食べるんでしょ?」
「食べますよ。ボクのために用意してくれたんですから。だから運動も始めますよ。さすがにチョコばっかり食べてたら太っちゃうんで」
「ヒビキがいたら「アタシに分けてくれればいいのに!」って言ってるね」
「間違いないですね」
だけど、バレンタインか。如何せんアタシは縁遠いと言うか。友チョコとか、自分用にちょっと買ったりはあるけど、男の子とか好きな子にあげるっていうのはほとんどやらないな。バイト先ではそういうのをやらない風習になってるから。でも、ああいう売り場を見るのは楽しいよね。
「紗希先輩、鳴ってますよ」
「あれっ、石川クン? はいもしもし」
『もしもし。福島さん、今いい?』
「うん。どうしたの?」
『IF3年会の連絡。幹事は山口なんだけど、前対策メンバーへの連絡は何故か俺がやることになってて』
「あ、そうなんだ。ありがとう」
『細かいことはまた山口が文書化した物を回してくれるそうだけど、とにかく電話で確実にその人と話してって言うからとりあえず電話で。発信履歴スクショして送れとか言いやがるし』
「電話なのは山口クンなりに意図があるのかな」
『メールとかLINEだけよりも相手と直接話す分印象に残りやすいとかそういうアレ? とにかく、3年会は2月8日だって』
「わかったよ」
そう言えば学祭のときだったかな、山口クンがIF3年会やろうって言ってたの。それで本当にやるから凄いよね、山口クン。今の2年生たちはすごく仲が良くていつも一緒に遊んだりしてるっていう印象があるけど、3年生はそういうのがほとんどないから。それこそ山口クンが会を開こうって言わない限り。
『話は変わるけど、青女近くのテラスあるでしょ』
「うん。プリズムテラス」
『あそこで次の土日かな? チョコレートフェスタがあるんだよ』
「そういうイベント?」
『そう。エリア外の有名店とかが出張で店を出すんだよ。それで、もし良ければ一緒に行かない?』
「そう言えば石川クン、チョコレート好きだったね。わかったよ、行こう。2人いた方がシェア出来るもんね」
『ありがとう、感謝します。ちょっと、こんなこと頼めるのは福島さんしかいなくて』
「あれっ、菜月ちゃんとか高崎クンとか、甘いもの好きだけど」
『俺もちょっと思って3年会の連絡ついでに聞いてみたけど、奥村さんはその日バイトなんだって。あのガラスのハートもバイトだっつってて。美奈は甘いのがダメだからそもそも論外だし。あ、チョコレートフェスタについての詳細はこの後すぐ送ります』
「了解です」
『では、よろしくお願いします。それじゃあまた』
「はーい、お疲れさまでーす」
そして意識がサークル室に戻って来ると、チョコレートの小箱で溢れ返っていた机の上がKちゃんによってすっかり片付けられてきれいになっていた。紙袋の中はそれこそ直クンが1人チョコレートフェスタをやれるような感じ。でも、あれだけあったチョコをよくもまあ紙袋3個にまとめたなあ。
「紗希先輩、石川先輩にチョコレートあげるんですか?」
「違う違う。今度プリズムテラスであるチョコレートフェスタのお誘い。石川クンチョコレート好きだから」
「へえ、そうなんですね」
「で、一緒に行ってシェアしながらたくさんの種類を買えたら楽しいよねっていう目的かな」
「なんか、そうやって一緒に楽しむバレンタインもいいなって思いますよね」
「直、アンタのファンの子たちと、アタシと沙都子の友チョコじゃ不服?」
「そういうことじゃないよ」
「うふふ。直クンもあの子を誘ってみたらいいんじゃない?」
「そっ、そういうことでもないですっ!」
end.
++++
久々に青女のバレンタイン話をやろうとしたら、昔の要素を拾うとやっぱりこうなる。直クンの紙袋。
直クンのマネージャーをやっている啓子さんにも固定ファンがついていそうだという紗希ちゃんの見解である
そして今年は思い出したかのようにIF3年会の話がちょこちょこ出ています。日付まで具体的に出てるけど、やるの?
.
++++
「あっ、危ない!」
「ちょっと! 直、また崩れて来た! もう、しっかり持って!」
「持ってるよ!」
サークル室にやって来たKちゃんと直クンが珍しくバタバタしてるなと思ったら、直クンは前が見えなくなるくらいの小箱を抱えている。無造作に積み上げられた綺麗な小箱が時々崩れそうになるのをKちゃんが押さえたり、実際に転がってしまった物を拾い上げたりしている。
これは去年の今頃にも見られた風景で、直クンが抱えている小箱の中身はチョコレート。直クンはその中性的な外見からファンが多い。学祭の時だって直クン目当てにたくさんのお客さんがABCの喫茶をリピートしてくれてた。で、そういうファンの子たちがちょっと早めのバレンタインということで直クンにチョコを贈ってるってワケ。
「はー、やっと着いた」
「ったくもう。直、アンタこうなること予測して袋の準備くらいしといてよ」
「準備してたら期待してたみたいじゃない。それもどうかと思うよ」
「それじゃあ受け取らないようにするとか何かしなさい」
「せっかくボクにって準備してくれたのに、受け取らないのも申し訳ないよ」
「それで主食がチョコになるんでしょ? 沙都子が嘆くよ、ただでさえうたちゃんの食が偏っててって悩んでるのに」
机の上にバラバラと雪崩れ込んで来たチョコレートたちに、その凄まじさを感じる。きっと直クンの周りは人だかりで凄いことになってたんだろうな。アタシはサークル室で悠々自適に過ごしていたけど、Kちゃんが本当に疲れた顔をしてる。
この時期のKちゃんは直クンのマネージャーのように見える。事務所通してくださいとか、撮影はご遠慮くださいとか、そういう捌きをやってそう。アタシの勝手なイメージだけどね。だけど、山のようになっているチョコの箱を1つ1つ紙袋に整理して詰めてあげてるところがマネージャーだと思う。
なんなら、直クンのお世話をしてるKちゃんに対するファンがついてもおかしくないと思うんだけど。Kちゃんだって先の執事・メイド喫茶では執事さんとして活躍してくれてたんだけど、パンツスタイルがバシッと似合うクールな女性って感じで直クンとは別のカッコよさがあったよね。
「Kちゃん、大変そうだね」
「直は昔からこうなんでもう慣れっこですよ」
「そっか、2人、中学から一緒だもんね。昔からこうだったんだ」
「でも、やっぱり大学にもなると自分で働き出すからチョコのグレードがすごいすごい」
「この大量のチョコを直クンは全部食べるんでしょ?」
「食べますよ。ボクのために用意してくれたんですから。だから運動も始めますよ。さすがにチョコばっかり食べてたら太っちゃうんで」
「ヒビキがいたら「アタシに分けてくれればいいのに!」って言ってるね」
「間違いないですね」
だけど、バレンタインか。如何せんアタシは縁遠いと言うか。友チョコとか、自分用にちょっと買ったりはあるけど、男の子とか好きな子にあげるっていうのはほとんどやらないな。バイト先ではそういうのをやらない風習になってるから。でも、ああいう売り場を見るのは楽しいよね。
「紗希先輩、鳴ってますよ」
「あれっ、石川クン? はいもしもし」
『もしもし。福島さん、今いい?』
「うん。どうしたの?」
『IF3年会の連絡。幹事は山口なんだけど、前対策メンバーへの連絡は何故か俺がやることになってて』
「あ、そうなんだ。ありがとう」
『細かいことはまた山口が文書化した物を回してくれるそうだけど、とにかく電話で確実にその人と話してって言うからとりあえず電話で。発信履歴スクショして送れとか言いやがるし』
「電話なのは山口クンなりに意図があるのかな」
『メールとかLINEだけよりも相手と直接話す分印象に残りやすいとかそういうアレ? とにかく、3年会は2月8日だって』
「わかったよ」
そう言えば学祭のときだったかな、山口クンがIF3年会やろうって言ってたの。それで本当にやるから凄いよね、山口クン。今の2年生たちはすごく仲が良くていつも一緒に遊んだりしてるっていう印象があるけど、3年生はそういうのがほとんどないから。それこそ山口クンが会を開こうって言わない限り。
『話は変わるけど、青女近くのテラスあるでしょ』
「うん。プリズムテラス」
『あそこで次の土日かな? チョコレートフェスタがあるんだよ』
「そういうイベント?」
『そう。エリア外の有名店とかが出張で店を出すんだよ。それで、もし良ければ一緒に行かない?』
「そう言えば石川クン、チョコレート好きだったね。わかったよ、行こう。2人いた方がシェア出来るもんね」
『ありがとう、感謝します。ちょっと、こんなこと頼めるのは福島さんしかいなくて』
「あれっ、菜月ちゃんとか高崎クンとか、甘いもの好きだけど」
『俺もちょっと思って3年会の連絡ついでに聞いてみたけど、奥村さんはその日バイトなんだって。あのガラスのハートもバイトだっつってて。美奈は甘いのがダメだからそもそも論外だし。あ、チョコレートフェスタについての詳細はこの後すぐ送ります』
「了解です」
『では、よろしくお願いします。それじゃあまた』
「はーい、お疲れさまでーす」
そして意識がサークル室に戻って来ると、チョコレートの小箱で溢れ返っていた机の上がKちゃんによってすっかり片付けられてきれいになっていた。紙袋の中はそれこそ直クンが1人チョコレートフェスタをやれるような感じ。でも、あれだけあったチョコをよくもまあ紙袋3個にまとめたなあ。
「紗希先輩、石川先輩にチョコレートあげるんですか?」
「違う違う。今度プリズムテラスであるチョコレートフェスタのお誘い。石川クンチョコレート好きだから」
「へえ、そうなんですね」
「で、一緒に行ってシェアしながらたくさんの種類を買えたら楽しいよねっていう目的かな」
「なんか、そうやって一緒に楽しむバレンタインもいいなって思いますよね」
「直、アンタのファンの子たちと、アタシと沙都子の友チョコじゃ不服?」
「そういうことじゃないよ」
「うふふ。直クンもあの子を誘ってみたらいいんじゃない?」
「そっ、そういうことでもないですっ!」
end.
++++
久々に青女のバレンタイン話をやろうとしたら、昔の要素を拾うとやっぱりこうなる。直クンの紙袋。
直クンのマネージャーをやっている啓子さんにも固定ファンがついていそうだという紗希ちゃんの見解である
そして今年は思い出したかのようにIF3年会の話がちょこちょこ出ています。日付まで具体的に出てるけど、やるの?
.