2019(04)
■What's the rush?
++++
大変なコトにやりヤしたから全員集合するよーにと律から招集がかかり、MMP緊急会議が開催されることとなった。徒歩15分のサークル室まで行くのは面倒だということで会議自体は学食の片隅で。2年4人が集まり、それじャあ始めヤすと開会宣言とともに本題へと入っていく。何がどう大変なことになったのか、事情を知らない俺たちはただそわそわするばかりだ。
「して愚民ども、本題スわ」
「愚民どもて。まあ、強く否定はしないが」
「グミン?」
「愚かな民と書くんですよ、ヒロさん。土田さんは私たち3人をろくでもないヤローどもと言っているんです」
「ボクはともかく、ノサカとこーたは実際ロクでもないやろ」
「ほーん、そんなことを言うのか、ヒロ」
「なんやの、ノサカのクセに」
「ヒロ、この時期の野坂にケンカ売るようなことはしない方がいースよ。自分でテスト対策が出来るっつーンなら話は別スけど」
「お前なんて留年してしまえ」
「それはアカン」
「それはそうと、本題の方をお願いしますよ」
「ソーでした」
ついうっかり話が脱線しがちなのはMMPの伝統芸能と言ってもいいだろう。脱線は別に俺たちに限ったことではなく、先輩方も話の本題からどんどんそれて話題が飛躍しまくっていたように思う。で、それはそうとして律から呼び出された本題だ。こうやってわざわざ集まるということは、メールだのLINEだのでは済まない事情があるからだろうし。
だけど、こうやってわざわざ呼び出される事柄に覚えはない。定例会からのお知らせなら奈々発だろうし、この現場に奈々がいないとおかしい。対策委員関係のことならこうやって愚民どもを呼び出すのは俺だ。ちなみに対策委員関係の行事は春の番組制作会までないからしばらくは音沙汰がない。それに向けた会議もみんなのテストが終わってからという風にはなっている。
「えー、本題スね。それがこれスわ」
そう言って律が差し出してきたのは、MMPの書記ノートだ。書記ノートには、サークルで話し合われた大事な議事録や、イベントの記録などが記されている。俺は「まだ読める字をしている」という理由で前の書記だったから、このノートのことも大体はわかっている。けど、今ここでこれが出てくる理由だ。
「このページすね」
「はっ」
律の示したページには、俺の字ではっきりと「4年生追いコンについて」と書かれている。日付を見ると、ちょうど1年前の今頃になるだろうか。ただ、今頃とは言ってももうちょっと早い週のうちにメンバーは招集され、話し合いが行われていたのだと見て取れる。俺たちは初動がまず遅れてしまっているのだ。
4年生追いコンというのはその名の通り、4年生を追い出すための飲み会だ。MMPでは2月に4年生追いコン、3月に3年生追いコンと卒業式の日にもう1度4年生を含めて飲み会をやるのがこれまでの主流となっている。さて、今年の4年生の先輩方のお顔を思い浮かべると、初動が遅れてしまっているという事実が圧倒的な圧、それから恐怖として俺たちを煽ってくるのだ。
「えー、っつーワケで今の今までこの行事の存在を忘れていた自分らは愚民と蔑まれても否定することは許されねーワケでして、愚民は愚民なりに来る追いコンに向けてやれることを頑張っていきヤしょー」
「おー……」
俺たち3人の「おー」という声もまた力ない返事だったワケだが。何が恐ろしいって、ぶっちゃけ麻里さんだ。それから、麻里さんに対する粗相がないか目を光らせる圭斗先輩もかなり怖い。そりゃあ、あの圭斗先輩も恐れる麻里さんだから、後のところはお察しいただきたいところ。村井さんはまだ、こう、話せばわかってくれそうな雰囲気もちょっと。
「で、店だの4年生の都合だのは自分が押さえときヤしたんで、これは2月14日金曜日に決定してヤす」
「おおー、さす律!」
「土田さんには足を向けて寝られませんねえ」
「ここで解決しときたい問題が他にいくつかありヤす。まず1つめが、参加費問題スね。一応店のコースは飲み放付き3500円にしてあるンすけど、毎年の記録を見てる感じだと、4年生は基本的に負担なしなんスわ」
「ですよね。1年から3年までの参加費を多くとって賄うんですよね」
「夏合宿形式で費用を集めるワケだな」
「その辺の計算をこーたに頼みヤす。それからもう1つ。3年生の予定スね」
「3年生の?」
「言って向島の外の人たちスから、全員こっちにいない可能性もありヤす」
「あー、そうか!」
「で、3年生の予定を野坂に押さえてもらいヤす。追いコンは4年生優先なンで、いないとは思いヤすけどうだうだ言うような人がいれば無視でオッケーす」
3年生の予定を押さえるという重大な仕事を任され、俺はド緊張の中に放り込まれた気分だ。律が言うには、4年生追いコンに関して言えば圭斗先輩と菜月先輩の予定は心配していないそうだ。それと言うのも、圭斗先輩に関して言えばお察しの事情がある。それから、菜月先輩は律に「追いコンの話ってまだ?」と聞いてきた張本人なんだそうだ。さすが菜月先輩じゃないか!
まあ、言ってしまえば三井先輩だ。それでも一応人並みの常識を持ち合わせているとは思いたいけど、そう思いたいという時点で普段からはそう思っていないということで……正直三井先輩と一般常識という言葉の取り合わせに違和感しかないワケで。あと、今の4年生と三井先輩の関係もある。それでもまあ、一応は? 追いコンには普通に参加するとは思うけど、正直わかんねーやあの人のことは。
「っつーコトなンで野坂、こーた、後は頼みヤす。自分は卒コンに向けて動きヤす」
「律、頼む……」
「ええ、お願いします」
「あれっ、りっちゃん、ボクの仕事は?」
「や、ヒロはガチ留年の危機なンで、勉学に励んでくーださい」
end.
++++
毎度お馴染み愚民たちが慌てふためく回です。例によってりっちゃんから招集がかかっています
一応第9代MMPの会計は一応ヒロなのですが、2年生たちは既にお金のことなら神崎に、というムードになっている様子。本人たちもそう。
圭斗さんがお麻里様を恐れているのも今更な話なので、4年生関連イベントは何が何でもスケジュールを合わせてくれるはずという絶大なる信頼である
.
++++
大変なコトにやりヤしたから全員集合するよーにと律から招集がかかり、MMP緊急会議が開催されることとなった。徒歩15分のサークル室まで行くのは面倒だということで会議自体は学食の片隅で。2年4人が集まり、それじャあ始めヤすと開会宣言とともに本題へと入っていく。何がどう大変なことになったのか、事情を知らない俺たちはただそわそわするばかりだ。
「して愚民ども、本題スわ」
「愚民どもて。まあ、強く否定はしないが」
「グミン?」
「愚かな民と書くんですよ、ヒロさん。土田さんは私たち3人をろくでもないヤローどもと言っているんです」
「ボクはともかく、ノサカとこーたは実際ロクでもないやろ」
「ほーん、そんなことを言うのか、ヒロ」
「なんやの、ノサカのクセに」
「ヒロ、この時期の野坂にケンカ売るようなことはしない方がいースよ。自分でテスト対策が出来るっつーンなら話は別スけど」
「お前なんて留年してしまえ」
「それはアカン」
「それはそうと、本題の方をお願いしますよ」
「ソーでした」
ついうっかり話が脱線しがちなのはMMPの伝統芸能と言ってもいいだろう。脱線は別に俺たちに限ったことではなく、先輩方も話の本題からどんどんそれて話題が飛躍しまくっていたように思う。で、それはそうとして律から呼び出された本題だ。こうやってわざわざ集まるということは、メールだのLINEだのでは済まない事情があるからだろうし。
だけど、こうやってわざわざ呼び出される事柄に覚えはない。定例会からのお知らせなら奈々発だろうし、この現場に奈々がいないとおかしい。対策委員関係のことならこうやって愚民どもを呼び出すのは俺だ。ちなみに対策委員関係の行事は春の番組制作会までないからしばらくは音沙汰がない。それに向けた会議もみんなのテストが終わってからという風にはなっている。
「えー、本題スね。それがこれスわ」
そう言って律が差し出してきたのは、MMPの書記ノートだ。書記ノートには、サークルで話し合われた大事な議事録や、イベントの記録などが記されている。俺は「まだ読める字をしている」という理由で前の書記だったから、このノートのことも大体はわかっている。けど、今ここでこれが出てくる理由だ。
「このページすね」
「はっ」
律の示したページには、俺の字ではっきりと「4年生追いコンについて」と書かれている。日付を見ると、ちょうど1年前の今頃になるだろうか。ただ、今頃とは言ってももうちょっと早い週のうちにメンバーは招集され、話し合いが行われていたのだと見て取れる。俺たちは初動がまず遅れてしまっているのだ。
4年生追いコンというのはその名の通り、4年生を追い出すための飲み会だ。MMPでは2月に4年生追いコン、3月に3年生追いコンと卒業式の日にもう1度4年生を含めて飲み会をやるのがこれまでの主流となっている。さて、今年の4年生の先輩方のお顔を思い浮かべると、初動が遅れてしまっているという事実が圧倒的な圧、それから恐怖として俺たちを煽ってくるのだ。
「えー、っつーワケで今の今までこの行事の存在を忘れていた自分らは愚民と蔑まれても否定することは許されねーワケでして、愚民は愚民なりに来る追いコンに向けてやれることを頑張っていきヤしょー」
「おー……」
俺たち3人の「おー」という声もまた力ない返事だったワケだが。何が恐ろしいって、ぶっちゃけ麻里さんだ。それから、麻里さんに対する粗相がないか目を光らせる圭斗先輩もかなり怖い。そりゃあ、あの圭斗先輩も恐れる麻里さんだから、後のところはお察しいただきたいところ。村井さんはまだ、こう、話せばわかってくれそうな雰囲気もちょっと。
「で、店だの4年生の都合だのは自分が押さえときヤしたんで、これは2月14日金曜日に決定してヤす」
「おおー、さす律!」
「土田さんには足を向けて寝られませんねえ」
「ここで解決しときたい問題が他にいくつかありヤす。まず1つめが、参加費問題スね。一応店のコースは飲み放付き3500円にしてあるンすけど、毎年の記録を見てる感じだと、4年生は基本的に負担なしなんスわ」
「ですよね。1年から3年までの参加費を多くとって賄うんですよね」
「夏合宿形式で費用を集めるワケだな」
「その辺の計算をこーたに頼みヤす。それからもう1つ。3年生の予定スね」
「3年生の?」
「言って向島の外の人たちスから、全員こっちにいない可能性もありヤす」
「あー、そうか!」
「で、3年生の予定を野坂に押さえてもらいヤす。追いコンは4年生優先なンで、いないとは思いヤすけどうだうだ言うような人がいれば無視でオッケーす」
3年生の予定を押さえるという重大な仕事を任され、俺はド緊張の中に放り込まれた気分だ。律が言うには、4年生追いコンに関して言えば圭斗先輩と菜月先輩の予定は心配していないそうだ。それと言うのも、圭斗先輩に関して言えばお察しの事情がある。それから、菜月先輩は律に「追いコンの話ってまだ?」と聞いてきた張本人なんだそうだ。さすが菜月先輩じゃないか!
まあ、言ってしまえば三井先輩だ。それでも一応人並みの常識を持ち合わせているとは思いたいけど、そう思いたいという時点で普段からはそう思っていないということで……正直三井先輩と一般常識という言葉の取り合わせに違和感しかないワケで。あと、今の4年生と三井先輩の関係もある。それでもまあ、一応は? 追いコンには普通に参加するとは思うけど、正直わかんねーやあの人のことは。
「っつーコトなンで野坂、こーた、後は頼みヤす。自分は卒コンに向けて動きヤす」
「律、頼む……」
「ええ、お願いします」
「あれっ、りっちゃん、ボクの仕事は?」
「や、ヒロはガチ留年の危機なンで、勉学に励んでくーださい」
end.
++++
毎度お馴染み愚民たちが慌てふためく回です。例によってりっちゃんから招集がかかっています
一応第9代MMPの会計は一応ヒロなのですが、2年生たちは既にお金のことなら神崎に、というムードになっている様子。本人たちもそう。
圭斗さんがお麻里様を恐れているのも今更な話なので、4年生関連イベントは何が何でもスケジュールを合わせてくれるはずという絶大なる信頼である
.