2018
■その程度のロスならば
++++
「すごい! 野坂が遅刻しないで来た!」
「そりゃ前回「次遅刻したら全員分のドリンク奢れ」とか言われたら電車で座りませんでしたよね」
対策委員の会議に遅刻せずに参加できたのは何回目だろうか。ただ、議長の俺が遅刻しなかったからと言って会議の進行を俺に戻すというワケではなく、そこは引き続き委員長の果林にお願いすることになっている。
さて、6月9日に設定した初心者講習会だ。各大学に配布した参加申し込み書が戻ってきた。参加を希望する1年生の名前とパートを書く欄があるだけの簡単な物だけど、これで各大学の大まかな人数がわかるし、また新たな情報交換が始まるのだ。
「は~、やっぱ星ヶ丘は圧倒的人数だな」
「対策委員の行事にはちょこちょこ出て来るみたいだな。まあ、ウチの連中はまだパートなんか全然決まってないし、パート比の参考にはなんないけど」
「って言うか向島ヤバくない? 1年生1人しか出てこないじゃん」
「そうなんだよな。ゲッティング☆ガールプロジェクトの代償だ」
――などと話していると、階段から見え隠れする影が。ちらっ、ちらっとあからさまにこっちを窺っていて、これはアレだな、触れられるのを待ってるなとさすがの俺でもわかるレベルの構ってちゃん。
「ノサカ、ナニアレ」
「しっ。ヒロ、触れない方がいい」
「――って気付いてるんじゃん野坂~! 大学から付いてきてたのにも気付いてたんでしょ~!? ひどいな~!」
「うわっ」
会議の場にドリンクを持って乱入してきたのは、三井先輩だ。と言うか、大学から付いてきてたってマジか。全然気付かなかった。もちろん、他校の面々は何だ何だと突然の乱入に戸惑いを隠せていない様子。
しかも、偶然会ったとかじゃなくて俺のことを大学から尾行してきていたと。最初から会議に乱入するつもりで俺を尾行していたとするなら非常に性質が悪い。だけど、三井先輩が対策委員の会議に顔を出す理由などないはずだけど。
「三井先輩、何の用事ですか?」
「そう、聞いて! 初心者講習会の講師が決まったよ! すっごい人だよ~、当日驚くよ~。プロでバリバリやってる人でね、みんなも絶対知ってる人だし1年生の子も喜ぶよ」
ノリノリで喋っている三井先輩の様子に苛立ちを募らせているのはつばめ。そんなことにも気付かず三井先輩はいかにその人が素晴らしいか、プロの人から指導を受けられることが素晴らしいかの演説を続けている。
「三井サン、講習会の講師が決まったって、誰発?」
「誰発って?」
「って言うか、アタシらはアタシらで講師候補の人らに頼んでんだけど。どっからプロなんか出てきてんの」
「それは僕じゃないとそんなこと出来るはずないじゃない」
「頼んでねー……で、その人がすごいってどのくらいすごいの? 経歴は? すごいって言うならやってる番組とか、アタシらを納得させるだけの資料出してよ」
「当日その人が来てからのお楽しみだって~」
「普通に講習内容とかの打ち合わせも出来ないじゃん」
「そういうのは僕が中継するって」
「めんどくさいからアンタこれ以上関わらないでくれる? はい、さいならー」
つばめが若干喧嘩腰なのはよろしくないけれど、言っていることには全面的に賛同する。まず、その人が何者なのか教えてもらえないことにははいそうですかと信用も出来ないし、打ち合わせが出来ないんじゃ講習会にならない。
「ちょっとつばちゃん、それは先輩に対する態度としてはどうなの」
「アタシ、年が上ってだけの理由で先輩面して上から押さえつけようとしてくる無能は敬わない主義だから」
「ちょっ、つばめ! これ以上はやめとけ」
「止めんな野坂」
「三井先輩も、講習会に関してはお気持ちだけありがたく受け取りますので、これ以上はどうか俺たちに任せてもらえませんか」
「でもさ~」
きっとこれ以上は堂々巡りだろう。三井先輩の気持ちは有り難いけど正直急にプロの講師とか何とか言われても困る。しかも、MMPあるあるだけど完全に三井先輩がドヤってるところがロクでもないことが起こる気しかしない。
相変わらずつばめは殺気立っているし、このままだと今日は会議にならない。他の面々も、不安や怒りといったいろんな感情がごちゃ混ぜになっているように見える。どうする。こんな時に議長の判断が試されている。果林と目を合わせ、次の行動を即座に決める。
「こんな状態じゃもう会議にならないし、今日はもう解散しましょう。果林、それでいいよな」
「えっ、野坂解散すんの!? せっかくアンタ遅刻しないで来たのに」
「しょうがない。このままだと水掛け論で無駄に消耗するだけだ。そういうことですので、三井先輩、遠いところをありがとうございました。はい、かいさーん」
「うーん、そっかー。解散だったら野坂、せっかくだしご飯でも食べよー」
「わかりました。どこへ行きます? この辺りの店を調べますね」
「そういうコトならアタシらは帰ろ帰ろー。つばめ、ご飯いこー」
席を立った果林と再び目を合わせ、次の行動を示し合わせる。店を調べるフリをして、啓子さんに果林について行くようメッセージを。啓子さんに伝われば、全員を何とかしてくれるだろう。
元々対策委員は俺がいなくてもある程度機能する。自分の遅刻癖が役に立ったと言うのはおかしいけど、これも遅刻癖があったからこそだろう。果林、後はお前に託した。いつも通り、俺のいない会議を進めてくれ。あと、決まったことは後で教えて下さい!
end.
++++
今年もこの季節がやってきました。対策委員の会議に三井サンが乱入です。頑張れノサカ!
ちょっと前にはつばちゃんがこんな機転を利かせていたと思うのですが、今年度はその役割をノサカに担ってもらったよ!
きっと最後らへんの果林は終始棒読みだったんだろうなあw しかし、ノサカが遅刻しないで来たのに解散は確かに勿体ない
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「すごい! 野坂が遅刻しないで来た!」
「そりゃ前回「次遅刻したら全員分のドリンク奢れ」とか言われたら電車で座りませんでしたよね」
対策委員の会議に遅刻せずに参加できたのは何回目だろうか。ただ、議長の俺が遅刻しなかったからと言って会議の進行を俺に戻すというワケではなく、そこは引き続き委員長の果林にお願いすることになっている。
さて、6月9日に設定した初心者講習会だ。各大学に配布した参加申し込み書が戻ってきた。参加を希望する1年生の名前とパートを書く欄があるだけの簡単な物だけど、これで各大学の大まかな人数がわかるし、また新たな情報交換が始まるのだ。
「は~、やっぱ星ヶ丘は圧倒的人数だな」
「対策委員の行事にはちょこちょこ出て来るみたいだな。まあ、ウチの連中はまだパートなんか全然決まってないし、パート比の参考にはなんないけど」
「って言うか向島ヤバくない? 1年生1人しか出てこないじゃん」
「そうなんだよな。ゲッティング☆ガールプロジェクトの代償だ」
――などと話していると、階段から見え隠れする影が。ちらっ、ちらっとあからさまにこっちを窺っていて、これはアレだな、触れられるのを待ってるなとさすがの俺でもわかるレベルの構ってちゃん。
「ノサカ、ナニアレ」
「しっ。ヒロ、触れない方がいい」
「――って気付いてるんじゃん野坂~! 大学から付いてきてたのにも気付いてたんでしょ~!? ひどいな~!」
「うわっ」
会議の場にドリンクを持って乱入してきたのは、三井先輩だ。と言うか、大学から付いてきてたってマジか。全然気付かなかった。もちろん、他校の面々は何だ何だと突然の乱入に戸惑いを隠せていない様子。
しかも、偶然会ったとかじゃなくて俺のことを大学から尾行してきていたと。最初から会議に乱入するつもりで俺を尾行していたとするなら非常に性質が悪い。だけど、三井先輩が対策委員の会議に顔を出す理由などないはずだけど。
「三井先輩、何の用事ですか?」
「そう、聞いて! 初心者講習会の講師が決まったよ! すっごい人だよ~、当日驚くよ~。プロでバリバリやってる人でね、みんなも絶対知ってる人だし1年生の子も喜ぶよ」
ノリノリで喋っている三井先輩の様子に苛立ちを募らせているのはつばめ。そんなことにも気付かず三井先輩はいかにその人が素晴らしいか、プロの人から指導を受けられることが素晴らしいかの演説を続けている。
「三井サン、講習会の講師が決まったって、誰発?」
「誰発って?」
「って言うか、アタシらはアタシらで講師候補の人らに頼んでんだけど。どっからプロなんか出てきてんの」
「それは僕じゃないとそんなこと出来るはずないじゃない」
「頼んでねー……で、その人がすごいってどのくらいすごいの? 経歴は? すごいって言うならやってる番組とか、アタシらを納得させるだけの資料出してよ」
「当日その人が来てからのお楽しみだって~」
「普通に講習内容とかの打ち合わせも出来ないじゃん」
「そういうのは僕が中継するって」
「めんどくさいからアンタこれ以上関わらないでくれる? はい、さいならー」
つばめが若干喧嘩腰なのはよろしくないけれど、言っていることには全面的に賛同する。まず、その人が何者なのか教えてもらえないことにははいそうですかと信用も出来ないし、打ち合わせが出来ないんじゃ講習会にならない。
「ちょっとつばちゃん、それは先輩に対する態度としてはどうなの」
「アタシ、年が上ってだけの理由で先輩面して上から押さえつけようとしてくる無能は敬わない主義だから」
「ちょっ、つばめ! これ以上はやめとけ」
「止めんな野坂」
「三井先輩も、講習会に関してはお気持ちだけありがたく受け取りますので、これ以上はどうか俺たちに任せてもらえませんか」
「でもさ~」
きっとこれ以上は堂々巡りだろう。三井先輩の気持ちは有り難いけど正直急にプロの講師とか何とか言われても困る。しかも、MMPあるあるだけど完全に三井先輩がドヤってるところがロクでもないことが起こる気しかしない。
相変わらずつばめは殺気立っているし、このままだと今日は会議にならない。他の面々も、不安や怒りといったいろんな感情がごちゃ混ぜになっているように見える。どうする。こんな時に議長の判断が試されている。果林と目を合わせ、次の行動を即座に決める。
「こんな状態じゃもう会議にならないし、今日はもう解散しましょう。果林、それでいいよな」
「えっ、野坂解散すんの!? せっかくアンタ遅刻しないで来たのに」
「しょうがない。このままだと水掛け論で無駄に消耗するだけだ。そういうことですので、三井先輩、遠いところをありがとうございました。はい、かいさーん」
「うーん、そっかー。解散だったら野坂、せっかくだしご飯でも食べよー」
「わかりました。どこへ行きます? この辺りの店を調べますね」
「そういうコトならアタシらは帰ろ帰ろー。つばめ、ご飯いこー」
席を立った果林と再び目を合わせ、次の行動を示し合わせる。店を調べるフリをして、啓子さんに果林について行くようメッセージを。啓子さんに伝われば、全員を何とかしてくれるだろう。
元々対策委員は俺がいなくてもある程度機能する。自分の遅刻癖が役に立ったと言うのはおかしいけど、これも遅刻癖があったからこそだろう。果林、後はお前に託した。いつも通り、俺のいない会議を進めてくれ。あと、決まったことは後で教えて下さい!
end.
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今年もこの季節がやってきました。対策委員の会議に三井サンが乱入です。頑張れノサカ!
ちょっと前にはつばちゃんがこんな機転を利かせていたと思うのですが、今年度はその役割をノサカに担ってもらったよ!
きっと最後らへんの果林は終始棒読みだったんだろうなあw しかし、ノサカが遅刻しないで来たのに解散は確かに勿体ない
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