2019(04)

■混沌の空間で遊ぼう!

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「あんまり片付いてないけど、どうぞ上がって」
「では、邪魔するぞ。……本当に片付いてないな。前も思ったが、お前は整理整頓が苦手なのか」
「あんまり得意な方ではないかな。でも、俺は何がどこにあるか完璧に把握してるから」

 今日は、以前バーで知り合った朝霞の部屋で趣味の話をすることになっている。この朝霞というのは人がどういう生活をしているとか、どういう人生を送ってきて今に至るのかということに対する興味が非常に強い男で、オレも初対面の挨拶をした瞬間から懐に入り込まれて現在に至る。
 朝霞がダテに多くの人間の話を聞いていないなと思うのは、その相手が興味の持つ話題に対する知識もある程度あり、それでいて相手にそれを語らせたくなる話術があるという点においてだ。実際、オレと朝霞が意気投合したのも映画や映画音楽に関する話題がきっかけだった。それはもう気持ちよく語らせてもらったものだ。
 オレの抱くイメージでは、オタクは好きな物に対する知識や探求心が著しく強く、それを語らせると止まらなくなるという性質がある。しかし、それを誰にでもわかるように話すスキルを誰しもが備えているワケではなく、いきなり深いところまで突っ込んで行って引かれるというオチが待つ。
 オレも好きなことを話して「お前が何を言っているのかわからない」と言われることが多々あったが、無遠慮に好きなことを好きなように話せる相手というのは心のハードルがやや下がるのだろうか。いや、音楽の話を好き勝手に出来るからと言って春山さんに対する警戒は怠ってはいけないのだが。

「お前はわかっているかもしれんが、これは汚すぎる」
「友達にも言われるんだって、お前はもうちょっと部屋の片付けをした方がいいって。予め言ってもらえればちょっとは片付けられるんだけど、急だと本当に足の踏み場もないみたくて」
「3日前からお前の部屋に行くことになっていたはずだが」
「片付けてこれです」
「下手すぎにも程がある」

 如何せん物が増え続ける部屋で、家主も片付け下手となればその8畳間が惨状となるのは目に見えている。狭くて暗いところが好きだと根暗のようなことを言うが、所謂陰キャではないのだから人というのはわからんものだ。
 さて、本題は趣味の話だ。一応物を取り払ってあるこたつテーブルの上にノートパソコンをセットし、何の話からでも始められるようにする。オレの趣味と言える趣味と言えば、まあ、ピアノとゲームだろうか。どちらかと言えばピアノの話の方が終わりどころは見つかるだろう。

「――という感じで現在に至っているのだが」
「へえ、独学でここまでやれてるんだね。って言うか、独学だからこその良さとかもあるのかな、リン君の味と言うか。それで、留守番の暇潰しがピアノの他にゲームも加わっていったんだね」
「そういうことになるな」

 ピアノの話は学祭で行ったブルースプリングのライブ映像を流しながら、幼少の頃に父親の弾いていたそれを真似しながら始めたことや、両親が共働きで留守が多かったことから暇潰しのように弾いていたことなんかを語った。好きな曲や自分で書いた曲などについても話し終えた頃にちょうどライブ映像が終わった。

「やっぱり、作曲って聞くと本当に難しそうだし、ただただ凄い」
「お前は文字書きなのだろう。お前が文字でやっているそれを音でやっているだけだ。何が違うということはない」
「いやいやいや、全っ然違うと思うよ」
「さて、ゲームの話に移るか。しかし腹が減ったな」
「悪いけど、今うち卵とごはんしかないよ。出来て精々卵かけごはんくらいで。卵なら30個あるんだけど」

 初対面の日に、酔い潰れたこの男をここまで送り届けたときにも思ったが、この部屋には食糧らしい食糧がほとんど備蓄されていないようだ。台所を覗くと、卵の専門店で買ったようなそれが本当に30個ほど置いてある。あの部屋を見た後だと何もない台所がただただ綺麗すぎる。
 卵かけごはんが2人分、それから炒り卵。それを食いながら次の話を始める。ゲームの話は何をどこから話せばいいやらわからないから、今のことから話していくことにした。据え置き機でのプレーも続けているが、最近ではゲーム実況グループに加入したということもありPCゲームをやる機会も格段に増えている。

「最近ではPCでのマインクラフトをやる機会が増えているな」
「あー、聞いたことはあるな、マインクラフト。あの、何かファミコンみたいな絵のヤツ」
「ドット絵調と言いたいのだな」
「そうそう、そんな感じ」
「マインクラフトは得てして汎用性が高くてな。ユーザーがMODやプラグインなどを作って拡張することも出来るし、PvPにテーブルゲーム、その他諸々の遊び方があるな」
「テーブルゲームもあるんだ」
「カタンなどもあるぞ」
「マジで!?」
「厭に食いついてきたな」
「俺、テーブルゲームとかボードゲームが好きでさ、それこそそれで育って来てるんだよ。カタンも好きでさ。えー、ちょっと興味出たな、マインクラフト」
「楽しみ方が自由なのが特徴のひとつだからな。サバイバルをするも良し、建築をするも良し、整地するも良しで。アイディア次第で何でも出来るのがいいところだ」
「でもさ、俺の場合アイディアは浮かんでもそれをこう、システムとしてプログラムする? みたいなことは出来ないワケじゃん」
「それは、出来る奴に言って実装させればいいだけのことだ」

 先日、USDXの打ち合わせで新企画をやろうという話になったのだが、まさにそこで企画のアイディアに関して連中はぎゃあぎゃあと喧嘩を始めたのだ。システム自体はスガノやキョージュが実装することが出来る。しかし、アイディアがないと。新参者のオレは様子見していたのだが、需要と供給ということをここに見る。

「オレは最近ゲーム実況グループに参加し始めたのだが、そこの連中がまあアイディアが浮かばないだの何だのとぎゃあぎゃあ――」
「ゲーム実況!?」
「何だ、また食い付きが凄いが」
「あ、ゴメン。その存在は知ってても周りにやってる人がいなくてさ。えっ、ぜひその話も聞きたいんだけど! って言うかやってるのを見たい!」
「しかしお前は本当にわかりやすい奴だな。あからさまに目の色が変わったではないか」
「よく言われる」
「それなら、実況をやっている現場ではないが、後日、一部メンバーと話す機会があるからそこに来るといい。話はオレがつけておく」
「ありがとうございます…!」

 そして、奴はウキウキした様子で物が溢れかえった棚らしき山の中からカタンのゲーム板を掘り出した。2人カタンにはそれ用のルールがあるんだよ、と言いながら。カタンは先日USDXの生配信でマイクラ版をやったが、原作プレイは初めてだ。ここは、次にUSDXでやることを見据えて戦略なども教授願おうか。

「とりあえず、始める前に食べたの片付けようか。長くなると思うし」
「ああ、そうするか」


end.


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初期の朝霞P、それこそ14年度の頃は整理整頓が得意なキャラとして売ってたのにどうしてこうなった……すっかり汚部屋である。
さて、朝霞Pの部屋でリン様が趣味の話をし出すといよいよ完全体USDXまで秒読みという感じですね。しかしスガカンのケンカは目に浮かぶようである
USDXカタン、ソルさん以外がいたとすると、プロ氏とコンちゃんは強いとしても、この2人どっちが強いんだろう。レイ君加入したら三つ巴カタンが見たい

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