2019(04)

■チーム温玉の一点集中

++++

 昨日から大石がバイトをしている向西倉庫で吊り札付けのバイトが始まった。製品に付けられた吊り札に不備があるということで、その吊り札を取り換えるという作業と、とあるカラーの製品に関しては付属品の紐が付いていないということでそれを付けるという作業もある。
 今日からはなっちと緑ヶ丘の1年生である高木君も一緒に働くことになっている。高木君は1年生だし、なっちは学科の都合で授業が多いとかで、昨日は来ていなかったんだ。大石の車で会社まで送ってもらって、作業小屋に入ると人材派遣の主婦さんのグループと学生グループに分けられた。

「――という感じの作業だな。この仕事の責任者は俺だけど、俺は他の仕事もあってこの部屋にずっといることは出来ねえから千景に常駐してもらう。何かあったら千景に言ってくれ。連絡を受け次第対処する。それから、仕事の流れについては朝霞が昨日やってるから大体わかってる。相談しながらでいいから午前中くらいで慣れてくれ」
「わかりました」
「それじゃあ始めようかー。俺がこのローラーレーンの上に作業するケースを出していくから、みんなはケースの中から製品を出して作業してください。終わったらまたケースに戻して梱包してもらえばそれを俺がまたパレットに戻していくから」
「朝霞、どんな風にやればいいんだ?」
「えっと、流れ作業でやったらいいかなって。ケースから製品を出してセロテープと古い吊り札を切る人、新しい吊り札を付ける人、テープで留め直してケースに戻す人って」
「どう担当しましょうか」
「高木君、器用だそうだし吊り札付けやろっか」
「えっ、俺ですか」
「で、なっちは一番後ろの工程を頼む。昨日やってた感じだと先頭が一番力要るような感じだし俺がやるよ」

 吊り札はグラシン紙の上に外向きに付けることだとか、気を付けることを少し確認して早速作業に入った。高木君は噂通り器用に吊り札を付けて行くし、なっちはセロテープの切り貼りの仕方をやりながら開発して、効率的な仕事の仕方を探している。負けじと俺も。
 3人でやると1人でやるよりもずっと早いのを感じているし、同じ作業ばかりやってるからどんどん慣れてどんどんスピードも上がっている。みんなテンポよく、リズムに乗って黙々と仕事をしているのがとても心地いい。
 俺はケースから製品を取り出して空ケースをなっちにパスし、製品を包むビニール袋のセロテープと古い吊り札を切っている。作業の終わったケースはその場所に置いておけば大石が処理してくれるけど、作業を始めるケースは自分でレーンから下ろす必要がある。そこまで重くない製品とはいえ俺がやるべきかなと。

「はい、休憩でーす」
「ふー……はー、もうそんな経った?」
「休憩は10時に15分とお昼に1時間。それから3時に15分あるよ。食堂に戻って何か飲んだらいいよ。みんな集中してたし喉乾いてない?」
「確かに、ちょっと喉が渇いたな」
「でもみんな凄いねー。想像以上に手が早くてびっくりしてるよ」
「たまたま集まったのがこういうのが得意なメンバーだったんだろ。うー、さむっ」

 食堂では事務所に席がある社員以外のパートさんやアルバイト、それから人材派遣の人間が休憩している。自販機には飲み物を求める列が出来ていて、列に並ぶだけでもそこそこ時間がかかりそうだ。昨日もこんな感じだったから、俺はスーパーで飲み物を買って来ていた。

「高木と朝霞が近所なのは知ってるけど、どういうあれがあったんだ? あ、チョコよかったら」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「俺がスーパーでバイト中にたまたま会って声かけたって感じ。高木君が返事する前に一緒にいた果林とエージがやらせますって」
「エージのことは良く知らないけど、果林はお前の食糧事情を本当に嘆いてるもんな」
「来月、ゼミ合宿というのがあって、それにお金が要るんです。何か、山奥のコテージのようなセミナーハウスで、参加費が15000円かかって」
「へえ、そういうのがあるんだな。緑ヶ丘の施設は凄いんだろうなあ」
「写真を見た感じではリゾート地でしたね」
「なっちはどういう事情でバイトを」
「単純に金欠っていう。春は追いコンに卒コンにって出ていく機会が増えるからな」

 そうこう話しているうちに休憩の15分が過ぎ、また作業に戻って行く。またテンポよく作業を。資材が無くなりそうになれば大石に声を掛けてそれのある場所を教えてもらいながら。なっちの脇には完成したケースがどんどん積み重なって行った。
 大石が俺らと反対側にいる人材の主婦さん側の卓を助けているうちにケースが積み重なっていたものだから、奴は完成したそれを見て驚いていたようだし、作業する物を補充しなきゃとまたパレットからケースを下ろしていく。積んだり下ろしたりを繰り返すのは手作業よりずっと大変だろう。

「塩見さーん、次のパレットお願いしまーす」
「了解」

 集中していると、だんだん言葉がなくてもみんなと意思疎通が取れて来るようになってきた。午前のうちに慣れろという塩見さんからの指示は守れそうだ。午前は慣れて、午後からはもっとペースを上げて行けということだろう。
 塩見さんの運転するフォークリフトで新しいパレットが運ばれてきて、先に作業していたパレットが引き上げられていった。新たにパレットが来ると、大石は俺たちが作業しやすいようにケースに封をするテープをカッターで切ってレーンに乗せてくれる。

「皆さーん、このカラーはこのパレットで最後ですよー。頑張りましょう」
「はーい」

 このCBというカラーは昨日からやっていたから今日の早々に終わりを迎えることになる。大石によれば一番終わりがないのはK……つまりブラック。他の色はそれなりに終わりの見える色だし、そうやってカラーの切り替えがあるとメリハリがついて中だるみしにくいらしい。
 そしてキーンコーンとチャイムが鳴り、12時になっていた。もうそれだけ時間が経っていたらしい。作業をしていると腹が減ったとかそういうことをあんまり感じなかったんだけど、終わった瞬間力が抜けて腹のことを思い出す。

「さ、ご飯食べよー。みんなご飯持って来てる?」
「ああ、バッチリ」
「デザートも忘れないぞ」
「なっち、万全だね」
「甘いものは大事じゃないか」


end.


++++

お馴染みのバイトですが、働いてる現場からお送りする機会はあまりなかったかな
菜月さんがチョコをみんなに差し入れてるのがチーム温玉の結束と言う感じで良いですね。そうか、チーム温玉か
そして1日先輩、経験者の朝霞Pがチーム温玉を仕切って仕事をしているのがなかなか良いですね

.
16/85ページ