2019(04)
■人と人とのつながり方は
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お金がないって言う割に、朝霞クンは最近よく西海まで来てるような気がする。朝霞クンの友達が言うには、飲み屋には人がいて、それぞれのドラマがあるんだって。いかにも朝霞クンの好きそうな話だと思う。ハルちゃんのお店はバーだから、居酒屋とは少し違う。そういうのを見るのも楽しみなんだそうだ。
朝霞クンがプチメゾンに来てるのはそういう人の観察だけじゃなくて、ハルちゃんの作るごはんが美味しいからだって。コンビニやスーパーのお総菜とも、普通の外食で食べる料理とも違う家庭料理。本当に家で食べるご飯みたくて交通費のことを忘れちゃうんだって。
「最近ここによく来てるから、いつも行ってた店の方に全然行けてないんだよな」
「あ、交通費問題?」
「それな」
「あらカオルちゃん、それ、いつも行ってたお店の人が寂しがってるわよ」
「でも、明日行く予定なんで大丈夫です」
「明日行くのって玄?」
「ああ。原点回帰だ」
朝霞クンがいつも行ってるのは、朝霞クンの部屋から近い玄っていう鶏料理の居酒屋さん。焼き鳥とかが美味しいって。友達の山口クンがバイトしてて、顔パスみたいな割引をしてもらえてるんだって。飲むだけじゃなくて、日頃から晩ご飯をよく食べに行ってるとは聞いたことがある。
山口クンは、悪い人ではないんだろうけどちょっと怖いなっていう印象がある。彼の何を知ってるワケではないんだけどね。学祭の日、向島のあの人に追いかけ回されて朝霞クンと、一緒にいた彼に助けを求めたら「他を当たって」って言われちゃって。結局その場は朝霞クンの一喝で収まったけど、彼の目が怖かった。
その件については朝霞クンからフォローがあった。放送部では何かトラブルがあると何かと因縁を付けて自分の所為にされてしまうと。山口クンはステージ前に集中していた自分からトラブルの種を遠ざけるためにああいう対応をしてしまったけど、ああさせてしまった自分に原因があるからって謝ってくれて。
朝霞クンのための行動だったと考えれば、気持ちはわかる。それでなくても大学祭は放送部にとって最後のステージ。それをああいう形で邪魔されれば誰だって怒る。朝霞クンと同じ班の人ってことは朝霞クンがどれだけステージに懸けてるかも知ってるし、一緒にいろんなことを乗り越えてきてるはずだから。
「やっぱり、山口クンはちょっとまだ怖いなあ」
「悪い奴じゃないんだけどな」
「あたしが気負いしちゃってる。朝霞クンに迷惑をかけまくる悪い女、朝霞クンに近付くなって思われてそう」
「それはお前、悪い風に考えすぎだろ。何ならペア研究のこととかも話したけど、学祭まで伏見に迷惑かけた分取り返せって叱られたぞ。お前からペンを取ったら何が残るっつって」
「あはは、ホントだね」
「いや、納得すんなよ。まだ何かあるだろ」
――なんて話してると、カランコロンとドアベルが鳴り、ハルちゃんがいらっしゃーいと出迎える。やってきてたのは美奈ちゃん。美奈ちゃんは、ここで知り合った同い年の星大の子。ちーと同じサークルの友達で、FMにしうみでバイトしてるからハルちゃんとも仲良し。美奈ちゃんはちょうど空いていたあたしの隣の席に座った。一緒に来た髪の長い男の人は、その奥の席に。
「美奈ちゃん美奈ちゃん…!」
「……?」
「彼氏ですか…!」
「……彼氏は、いないと……」
「あずさ。あんまり根掘り葉掘り聞くモンじゃないわよ」
「うう、ごめーん」
「……ロイ…?」
「おっ、ミーナ。久し振り」
美奈ちゃんが呼んだ、ロイという耳馴染みのない名前に反応したのは、朝霞クン。そして朝霞クンの方も、美奈ちゃんをミーナと、愛称で呼んでいる。えっ、この2人、そんなに深い関係があるの!?
「えっ!? ちょっと、そこ知り合いなの!?」
「……サークルの、関係で……」
「大石から聞いたことないか? インターフェイスっつって、いろんな大学の放送系団体が集まって交流してるんだけど、そこで知り合ったんだ。まあ、言って俺もミーナも皆勤レベルじゃないから、それこそ大石繋がりって言った方が正しいかもしれないけどな」
「ああ、ちーの繋がりなら納得~」
「美奈、知り合いか」
「……女の子が、ベティさんの幼馴染みの、あずさ……私とは、ここで……」
「伏見あずさです」
「……男の子が、サークルの関係で知り合った、朝霞君……だった、よね…?」
「ああ、合ってる。朝霞薫。星ヶ丘大学人間学部の3年」
「オレは林原雄介だ。星大理工の応用化学科3年だ」
簡単に自己紹介を済ませて朝霞クンの顔を見ると、うずうずしてるなっていうのがわかる。多分人間大好き朝霞クンの発作じゃないかな、新しく人と知り合うといろんなことをお喋りしたくなるっていうの。4人横並びの端から端に向けて喋るのも大変だろうから、席を入れ替わりますよね。
「応用化学科ってどういうことやるの?」
「人の生活を豊かにする新しい物質の研究・開発を行うのがメインだ。基本は化学実験だが、プログラムも扱う」
「へー、化学実験とプログラムって、イメージ的に全然違う感じがするけどどっちも扱うって凄いね」
「人間学部は名称が厭に曖昧だが、どういう学問を」
「人間の社会生活に関することがメインで、社会学とか心理学とか、そういうものを併せて考えていく、みたいな? 「人間とは何か」的な? 俺は卒論のフィールドワークを口実にいろんな人に話を聞かせてもらってるんだけど、いろんな人がいるなって思うよ」
「……リン、何か食べる…?」
「軽くつまむか。美奈、適当に頼んでおいてくれ」
「林原君、リン君っていうんだね」
「よくある愛称だ」
「あっ、よかったら俺のミックスナッツもつまんで。このカシューナッツがさ、美味しいんだよ」
「ではもらおうか。しかしお前はよく喋る男だな」
「ゴメン、うるさかった?」
「いや、構わん。ただ、あからさまに目の前の人間に興味があります、もっといろいろ聞きたいというオーラはどうにかならんか」
男の子……と言うか朝霞クンが自分のお喋りに夢中になってるけど、やっぱりねって感じ。初対面でここまでガンガン行けないからね大体の人って。どれだけコミュニケーションが得意な人でももうちょっとやんわり攻めていくと思うけどなあ。友達の友達だからって踏み込み方が雑かも。気付いたら朝霞クンと美奈ちゃんも席替わってたし。
「ごめんね、せっかく2人で来てたのに朝霞クンが」
「……ロイは、こういう人だから……」
「美奈ちゃんにもこうやってガンガン?」
「私には、そこまででも……多分、一応、人は見ている…?」
「えー? そう見えないなあ。うわー、映画の話になってる。長くなりそう」
「リンは、映画音楽に造詣がある……問題ない……」
「もっと長くなるヤツー!」
「私としては、リンが生き生きして趣味の話をしている光景は、貴重……ロイには、感謝……」
「なるほど、そういう見方もあるか。朝霞クンと同じレベルで趣味の話が出来る人のおかげであたしから矛先がズレる! リンさんには、感謝…!」
「あら、気付けば女子会ね」
「これは、これで……」
end.
++++
「このカシューナッツがさ、美味しいんだよ」というのが「お前、酒はイケる口か?」くらいテッパンのヤツになってますね。プチメゾンでの出会い編。
なんやかんやリン様もオタク気質だし、好きなことの話をしたり聞いたりするのは好きなので互いに出会いだった様子。さて、USDX完全体への準備は整いつつあるぞ
ふしみん、そこはかとなくクレイジーサイコナントカやまよの空気を感じ取っているらしい。ちょっとした苦手意識があるみたいです。
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お金がないって言う割に、朝霞クンは最近よく西海まで来てるような気がする。朝霞クンの友達が言うには、飲み屋には人がいて、それぞれのドラマがあるんだって。いかにも朝霞クンの好きそうな話だと思う。ハルちゃんのお店はバーだから、居酒屋とは少し違う。そういうのを見るのも楽しみなんだそうだ。
朝霞クンがプチメゾンに来てるのはそういう人の観察だけじゃなくて、ハルちゃんの作るごはんが美味しいからだって。コンビニやスーパーのお総菜とも、普通の外食で食べる料理とも違う家庭料理。本当に家で食べるご飯みたくて交通費のことを忘れちゃうんだって。
「最近ここによく来てるから、いつも行ってた店の方に全然行けてないんだよな」
「あ、交通費問題?」
「それな」
「あらカオルちゃん、それ、いつも行ってたお店の人が寂しがってるわよ」
「でも、明日行く予定なんで大丈夫です」
「明日行くのって玄?」
「ああ。原点回帰だ」
朝霞クンがいつも行ってるのは、朝霞クンの部屋から近い玄っていう鶏料理の居酒屋さん。焼き鳥とかが美味しいって。友達の山口クンがバイトしてて、顔パスみたいな割引をしてもらえてるんだって。飲むだけじゃなくて、日頃から晩ご飯をよく食べに行ってるとは聞いたことがある。
山口クンは、悪い人ではないんだろうけどちょっと怖いなっていう印象がある。彼の何を知ってるワケではないんだけどね。学祭の日、向島のあの人に追いかけ回されて朝霞クンと、一緒にいた彼に助けを求めたら「他を当たって」って言われちゃって。結局その場は朝霞クンの一喝で収まったけど、彼の目が怖かった。
その件については朝霞クンからフォローがあった。放送部では何かトラブルがあると何かと因縁を付けて自分の所為にされてしまうと。山口クンはステージ前に集中していた自分からトラブルの種を遠ざけるためにああいう対応をしてしまったけど、ああさせてしまった自分に原因があるからって謝ってくれて。
朝霞クンのための行動だったと考えれば、気持ちはわかる。それでなくても大学祭は放送部にとって最後のステージ。それをああいう形で邪魔されれば誰だって怒る。朝霞クンと同じ班の人ってことは朝霞クンがどれだけステージに懸けてるかも知ってるし、一緒にいろんなことを乗り越えてきてるはずだから。
「やっぱり、山口クンはちょっとまだ怖いなあ」
「悪い奴じゃないんだけどな」
「あたしが気負いしちゃってる。朝霞クンに迷惑をかけまくる悪い女、朝霞クンに近付くなって思われてそう」
「それはお前、悪い風に考えすぎだろ。何ならペア研究のこととかも話したけど、学祭まで伏見に迷惑かけた分取り返せって叱られたぞ。お前からペンを取ったら何が残るっつって」
「あはは、ホントだね」
「いや、納得すんなよ。まだ何かあるだろ」
――なんて話してると、カランコロンとドアベルが鳴り、ハルちゃんがいらっしゃーいと出迎える。やってきてたのは美奈ちゃん。美奈ちゃんは、ここで知り合った同い年の星大の子。ちーと同じサークルの友達で、FMにしうみでバイトしてるからハルちゃんとも仲良し。美奈ちゃんはちょうど空いていたあたしの隣の席に座った。一緒に来た髪の長い男の人は、その奥の席に。
「美奈ちゃん美奈ちゃん…!」
「……?」
「彼氏ですか…!」
「……彼氏は、いないと……」
「あずさ。あんまり根掘り葉掘り聞くモンじゃないわよ」
「うう、ごめーん」
「……ロイ…?」
「おっ、ミーナ。久し振り」
美奈ちゃんが呼んだ、ロイという耳馴染みのない名前に反応したのは、朝霞クン。そして朝霞クンの方も、美奈ちゃんをミーナと、愛称で呼んでいる。えっ、この2人、そんなに深い関係があるの!?
「えっ!? ちょっと、そこ知り合いなの!?」
「……サークルの、関係で……」
「大石から聞いたことないか? インターフェイスっつって、いろんな大学の放送系団体が集まって交流してるんだけど、そこで知り合ったんだ。まあ、言って俺もミーナも皆勤レベルじゃないから、それこそ大石繋がりって言った方が正しいかもしれないけどな」
「ああ、ちーの繋がりなら納得~」
「美奈、知り合いか」
「……女の子が、ベティさんの幼馴染みの、あずさ……私とは、ここで……」
「伏見あずさです」
「……男の子が、サークルの関係で知り合った、朝霞君……だった、よね…?」
「ああ、合ってる。朝霞薫。星ヶ丘大学人間学部の3年」
「オレは林原雄介だ。星大理工の応用化学科3年だ」
簡単に自己紹介を済ませて朝霞クンの顔を見ると、うずうずしてるなっていうのがわかる。多分人間大好き朝霞クンの発作じゃないかな、新しく人と知り合うといろんなことをお喋りしたくなるっていうの。4人横並びの端から端に向けて喋るのも大変だろうから、席を入れ替わりますよね。
「応用化学科ってどういうことやるの?」
「人の生活を豊かにする新しい物質の研究・開発を行うのがメインだ。基本は化学実験だが、プログラムも扱う」
「へー、化学実験とプログラムって、イメージ的に全然違う感じがするけどどっちも扱うって凄いね」
「人間学部は名称が厭に曖昧だが、どういう学問を」
「人間の社会生活に関することがメインで、社会学とか心理学とか、そういうものを併せて考えていく、みたいな? 「人間とは何か」的な? 俺は卒論のフィールドワークを口実にいろんな人に話を聞かせてもらってるんだけど、いろんな人がいるなって思うよ」
「……リン、何か食べる…?」
「軽くつまむか。美奈、適当に頼んでおいてくれ」
「林原君、リン君っていうんだね」
「よくある愛称だ」
「あっ、よかったら俺のミックスナッツもつまんで。このカシューナッツがさ、美味しいんだよ」
「ではもらおうか。しかしお前はよく喋る男だな」
「ゴメン、うるさかった?」
「いや、構わん。ただ、あからさまに目の前の人間に興味があります、もっといろいろ聞きたいというオーラはどうにかならんか」
男の子……と言うか朝霞クンが自分のお喋りに夢中になってるけど、やっぱりねって感じ。初対面でここまでガンガン行けないからね大体の人って。どれだけコミュニケーションが得意な人でももうちょっとやんわり攻めていくと思うけどなあ。友達の友達だからって踏み込み方が雑かも。気付いたら朝霞クンと美奈ちゃんも席替わってたし。
「ごめんね、せっかく2人で来てたのに朝霞クンが」
「……ロイは、こういう人だから……」
「美奈ちゃんにもこうやってガンガン?」
「私には、そこまででも……多分、一応、人は見ている…?」
「えー? そう見えないなあ。うわー、映画の話になってる。長くなりそう」
「リンは、映画音楽に造詣がある……問題ない……」
「もっと長くなるヤツー!」
「私としては、リンが生き生きして趣味の話をしている光景は、貴重……ロイには、感謝……」
「なるほど、そういう見方もあるか。朝霞クンと同じレベルで趣味の話が出来る人のおかげであたしから矛先がズレる! リンさんには、感謝…!」
「あら、気付けば女子会ね」
「これは、これで……」
end.
++++
「このカシューナッツがさ、美味しいんだよ」というのが「お前、酒はイケる口か?」くらいテッパンのヤツになってますね。プチメゾンでの出会い編。
なんやかんやリン様もオタク気質だし、好きなことの話をしたり聞いたりするのは好きなので互いに出会いだった様子。さて、USDX完全体への準備は整いつつあるぞ
ふしみん、そこはかとなくクレイジーサイコナントカやまよの空気を感じ取っているらしい。ちょっとした苦手意識があるみたいです。
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