2018
■ストレートなメッセージ
++++
放送部に入ってひと月ほど。宇部さんの後についてプロデューサーや部活のことを勉強する日々。今は班長会議の最中で、それが終わるのを会議室前のロビーで待っている。同じ用事なのか、カンノもいる。
カンノは菅野さんを待ちながら、備え付けられた机の上に紙を広げて何やら作業を始めた。隣のソファからでもうっすらと見えるし、音楽は学校の授業でしかやってない私でも、それが楽譜だということがわかる。
ただ、その楽譜は所々白い。そして、時折カンノは鉛筆でその白い楽譜の上にコツ、コツとメモをしているように見える。見ているつもりはなかったけど、思った以上にじっと見ていたことに気付いたのは、カンノに声をかけられてから。
「気になるのか?」
「べっ、別に気になってなんかないですよ! 自意識過剰じゃないです?」
「そんなにガン見しといてか。ま、いいけど」
机の上で指が動く。まるでそこに鍵盤があるかのように。そしてリズムを取りながら、鉛筆でメモをしていく。バレない程度に少しずつ、見やすいようにじりじりと近付いていく。
「……何か近付いてんけど?」
「気の所為ですよ」
「あっそう」
こないだのファンフェスで宇部さんからも説明はあったけど、カンノは既存の曲を弾くだけじゃなく自分でも作曲をするらしい。私の周りには、そういう芸術に関わってる人は実苑くらいだし、実苑は立体造形だから。作曲に関しては、プロじゃないのにそういうことをする人もいるんだって。
私がじいっと作業の光景を眺めていても、カンノはそれに対していちゃもんを付けてこなくなった。自分の作業に集中しているのかもしれない。私もそれに何を言うでもなく、ただただその様子を見ていた。私は楽譜なんて読めないけど、白かった楽譜が埋まっていくのが楽しい。
「ふー……。よーし、仮曲出来た」
「どんな曲です? ステージに使うですか?」
「いや、これはステージ用じゃなくてバンドの方」
「何だ、聞けないですか」
「バンドのライブに来れば聞けるけど」
「そこまでじゃないですよ」
「あっそ」
ファンフェスでアコーディオンを弾いていたときのようにまた次のステージで聞けるのかなって思ってたから、バンド用だって答えが返ってきてちょっとがっかり。バンドには興味ないし。
すると、カンノは今さっきまでカリカリと物を書いていた楽譜の紙を右手に持って、反対の左手でソファをポンポンとやって私に自分の隣に座るよう促す。言われるままに隣に座ると、始まるメロディー。
「ふんふーん、ふふふんふん」
「まさか、自分で歌うですか」
「どんな曲だって聞くから。キーボードないし、こうするしかないだろ」
「止めて悪かったですよ。続き、精々歌うがいいですよ」
まだ仮の段階だというその曲がちゃんと出来上がるとどうなるのか全然想像出来ないし、カンノが今楽譜のどこを走っているのかもわからない。だけど、カンノが歌うだけでも楽しい曲なんだろうなという雰囲気は伝わる。
「――っていう感じ。これを後からキーボードで仮音源録ってバンドで編曲しつつって感じ」
「編曲も自分でやるですか」
「みんなでやることの方が多いけど、俺が単独でやることもある」
「正直、カンノは菅野さんのおまけだと思ってたですよ」
「ぐっ…! よく言われるけど失礼だな」
「でも、宇部さんからカンノはああ見えて意外に真面目だとは聞いてたですよ」
「で、実際はどう見えたんだよ」
「他は知らないですけど音楽に対しては真面目。ファンフェスは、見てて正直アコーディオンにワクワクしてましたですよ。ステージより気になってプロデューサーの勉強どころじゃなかったから、責任取れですよ」
「……俺、その言葉だけで頑張れるわ」
そう言ったカンノは今まで見たどのカンノよりも落ち着いたトーンだった。私の言葉を噛みしめるようにひとつこくりと頷いて、もう一度「うん、頑張ろう」と。
「えっ、どうしたですか急に神妙になって。気持ち悪っ」
「いや、ステージでは基本他の人を映えさせるためのバックバンドだし、バンドでもやっぱフロントマンの方が目立つんだわ。スガは俺がいるから成り立ってるって言ってくれるけど、感想って結構届きにくくて。だから、今のお前の言葉が最高に嬉しい。ありがとう」
「ちょっ、やめろくださいですよ! 音楽に関しては正直に言っただけでこないだ私をちびっ子って言ったの以外に頭なんて下げられる覚えはないですよ!」
「あ、それは根に持ってたのな」
「自分もチビなのにおまいうですよ」
「あー、何か、ゴメンな」
「しょうがないから寿さし屋のサンデーで許してやるですよ」
「じゃあ、明日の昼でいい?」
「いいですよ」
連絡先を交換して、明日の昼はサンデーをごちそうしてもらうついでに一緒に食べる約束をした。そうこうしている間に班長会議が終わったらしく、部屋の中から班長たちがわらわらと出てくる。並んで座ったまま、互いの班長をおーいと呼べば。
「菅野、私は幻覚を見ているのかしら」
「いや、現実……じゃないか? 何にせよ、仲良くなったならいいじゃないか」
「……そうね」
end.
++++
今年はここが熱いようです。カンDとマリン。今後2人がどのようにして関係を深めるとか、どのようにして残念なことになるのかを……ねw
やってることに関する感想を直にもらえてカンDは嬉しかった様子。マリンはその辺結構思ったように言う子なんだなあ
で、こないだまでぎゃあぎゃあ言い合ってた連中がいきなり仲良くなってんだから班長たちは拍子抜けですわね
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放送部に入ってひと月ほど。宇部さんの後についてプロデューサーや部活のことを勉強する日々。今は班長会議の最中で、それが終わるのを会議室前のロビーで待っている。同じ用事なのか、カンノもいる。
カンノは菅野さんを待ちながら、備え付けられた机の上に紙を広げて何やら作業を始めた。隣のソファからでもうっすらと見えるし、音楽は学校の授業でしかやってない私でも、それが楽譜だということがわかる。
ただ、その楽譜は所々白い。そして、時折カンノは鉛筆でその白い楽譜の上にコツ、コツとメモをしているように見える。見ているつもりはなかったけど、思った以上にじっと見ていたことに気付いたのは、カンノに声をかけられてから。
「気になるのか?」
「べっ、別に気になってなんかないですよ! 自意識過剰じゃないです?」
「そんなにガン見しといてか。ま、いいけど」
机の上で指が動く。まるでそこに鍵盤があるかのように。そしてリズムを取りながら、鉛筆でメモをしていく。バレない程度に少しずつ、見やすいようにじりじりと近付いていく。
「……何か近付いてんけど?」
「気の所為ですよ」
「あっそう」
こないだのファンフェスで宇部さんからも説明はあったけど、カンノは既存の曲を弾くだけじゃなく自分でも作曲をするらしい。私の周りには、そういう芸術に関わってる人は実苑くらいだし、実苑は立体造形だから。作曲に関しては、プロじゃないのにそういうことをする人もいるんだって。
私がじいっと作業の光景を眺めていても、カンノはそれに対していちゃもんを付けてこなくなった。自分の作業に集中しているのかもしれない。私もそれに何を言うでもなく、ただただその様子を見ていた。私は楽譜なんて読めないけど、白かった楽譜が埋まっていくのが楽しい。
「ふー……。よーし、仮曲出来た」
「どんな曲です? ステージに使うですか?」
「いや、これはステージ用じゃなくてバンドの方」
「何だ、聞けないですか」
「バンドのライブに来れば聞けるけど」
「そこまでじゃないですよ」
「あっそ」
ファンフェスでアコーディオンを弾いていたときのようにまた次のステージで聞けるのかなって思ってたから、バンド用だって答えが返ってきてちょっとがっかり。バンドには興味ないし。
すると、カンノは今さっきまでカリカリと物を書いていた楽譜の紙を右手に持って、反対の左手でソファをポンポンとやって私に自分の隣に座るよう促す。言われるままに隣に座ると、始まるメロディー。
「ふんふーん、ふふふんふん」
「まさか、自分で歌うですか」
「どんな曲だって聞くから。キーボードないし、こうするしかないだろ」
「止めて悪かったですよ。続き、精々歌うがいいですよ」
まだ仮の段階だというその曲がちゃんと出来上がるとどうなるのか全然想像出来ないし、カンノが今楽譜のどこを走っているのかもわからない。だけど、カンノが歌うだけでも楽しい曲なんだろうなという雰囲気は伝わる。
「――っていう感じ。これを後からキーボードで仮音源録ってバンドで編曲しつつって感じ」
「編曲も自分でやるですか」
「みんなでやることの方が多いけど、俺が単独でやることもある」
「正直、カンノは菅野さんのおまけだと思ってたですよ」
「ぐっ…! よく言われるけど失礼だな」
「でも、宇部さんからカンノはああ見えて意外に真面目だとは聞いてたですよ」
「で、実際はどう見えたんだよ」
「他は知らないですけど音楽に対しては真面目。ファンフェスは、見てて正直アコーディオンにワクワクしてましたですよ。ステージより気になってプロデューサーの勉強どころじゃなかったから、責任取れですよ」
「……俺、その言葉だけで頑張れるわ」
そう言ったカンノは今まで見たどのカンノよりも落ち着いたトーンだった。私の言葉を噛みしめるようにひとつこくりと頷いて、もう一度「うん、頑張ろう」と。
「えっ、どうしたですか急に神妙になって。気持ち悪っ」
「いや、ステージでは基本他の人を映えさせるためのバックバンドだし、バンドでもやっぱフロントマンの方が目立つんだわ。スガは俺がいるから成り立ってるって言ってくれるけど、感想って結構届きにくくて。だから、今のお前の言葉が最高に嬉しい。ありがとう」
「ちょっ、やめろくださいですよ! 音楽に関しては正直に言っただけでこないだ私をちびっ子って言ったの以外に頭なんて下げられる覚えはないですよ!」
「あ、それは根に持ってたのな」
「自分もチビなのにおまいうですよ」
「あー、何か、ゴメンな」
「しょうがないから寿さし屋のサンデーで許してやるですよ」
「じゃあ、明日の昼でいい?」
「いいですよ」
連絡先を交換して、明日の昼はサンデーをごちそうしてもらうついでに一緒に食べる約束をした。そうこうしている間に班長会議が終わったらしく、部屋の中から班長たちがわらわらと出てくる。並んで座ったまま、互いの班長をおーいと呼べば。
「菅野、私は幻覚を見ているのかしら」
「いや、現実……じゃないか? 何にせよ、仲良くなったならいいじゃないか」
「……そうね」
end.
++++
今年はここが熱いようです。カンDとマリン。今後2人がどのようにして関係を深めるとか、どのようにして残念なことになるのかを……ねw
やってることに関する感想を直にもらえてカンDは嬉しかった様子。マリンはその辺結構思ったように言う子なんだなあ
で、こないだまでぎゃあぎゃあ言い合ってた連中がいきなり仲良くなってんだから班長たちは拍子抜けですわね
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