2019(04)
■春休みに必要なもの
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佐藤ゼミでは最低でも月に1回、水曜日の4、5限目に合同ゼミという括りのゼミが開講されている。基本は2年生なら木曜3限、3年生は木曜4限、4年生が火曜4限という風に開かれているんだけど、学年をごった煮にして交流や学習のために行われるものだそうだ。
来年からゼミに所属することになった1年生がこの合同ゼミに呼ばれプリントが回されてくる。見出しを見れば「卒論発表合宿のお知らせ」とある。確か果林先輩が、そんな行事があるって言ってたのをチラッと聞いた気がする。
「えー、2月第2週の水木金で合宿だからね。参加費は2月7日までにそこに書いてある口座に振り込むか、私に直接渡しに来てね。1、2年生は全員参加で、3年生も出来れば来て欲しいけど、よっぽど都合が合わないなら仕方ないね。4年生は、私が卒論を発表していいと判断した人間を厳選して参加させるからね」
――という話を聞きながら、書類に目を通す。日時、場所、そこまでの行き方なんかが書かれている。2泊3日のタイムテーブルなんかも。そして問題の参加費だ。俺の目が間違いじゃなければ1万5千円と書かれている。
大学のセミナーハウスに行くそうなんだけど、プリントと一緒に配られたパンフレットを見る限り、結構豪華なコテージという印象だ。晩ご飯はフランス料理のフルコースだとか。そんなのいいから安くならないかなあと心底思う。卒論発表の為に出かける必要性もよくわからない。
だけども、これが1年生から4年生までが揃う唯一の機会ということで、先生はとても気合が入っているような感じ。卒論発表の他にも学年ごとに社会学的な学習を踏まえたアクティビティなんかを企画しなければならないらしい。さすがに1年生はいいらしいけど。
そんなこんなで、合宿に関する簡単な説明を受けてこの日の合同ゼミは解散になった。だけど、いざ合宿と言われても何をどうしたらいいやら。そうなると、俺が頼れるのはこの人しかいないワケで。
「合宿に必要なもの? 非常食一択でしょ」
「非常食、ですか?」
聞く相手が正しかったのか間違っていたのか、それとも質問の仕方が悪かったのか。果林先輩を捕まえて学食に来たのは良かったけど、まさかの……いや、ある意味期待を外さない返答に「ですよねー」と納得。
俺と一緒に果林先輩を囲んでいる鵠さんも、それはどうなんだと少し首を傾げている様子。ただ、合宿経験者だからセミナーハウス周辺のことも知っているはず。もしかすると、果林先輩の四次元胃袋を抜きにしても非常食が必要になってくる環境なのかもしれない。
「あっ、タカちゃん疑ってるでしょ」
「そんなことはないですけど」
「まず、セミナーハウスは大型バスじゃ行けない雪山にあるんだよ。後でしおり見てみて、途中でマイクロバスに乗り換えるって書いてるから。言っちゃえば陸の孤島。そんなトコでふらっと買い物に行けるようなお店もないからね」
「まあ、そうですね」
「あと、これがミソなんだけど、晩ご飯のフランス料理ね。これが、ちっとも食べた気がしない代物でさ。夜におなか空かせてたのはアタシだけじゃなかったんだよ。平均的な男の子なら大体足りない。それでなくてもタカちゃん偏食でしょ? フランス料理がまともに食べれる保証がないからこそ非常食は大事。和食が恋しくなるから」
「そう言われると、そんな気がしてきました」
「じゃあ、俺なんか絶対無理じゃん?」
「うん、悪いこと言わないから体育会系も非常食持ってったらいいよ。部屋に湯沸しポットはあるからお湯は使いたい放題だよ」
非常食を用意しなければならないということは、その分だけさらに費用がかさむということだ。資料を見ていると、途中のサービスエリアに立ち寄ったり、スキーをする人はレンタル費用が必要ですと書かれている。出かける必要性が疑問だったけど、スキーが出来るのは魅力的だと思う。
「ただ、問題がお金なんですよね」
「タカちゃん、それはバイトですよ」
「高木お前、バイトやってないのか」
「一人暮らしに慣れたら始めようと思ってたんだよ」
「鵠さんて学食でバイトしてるよね。昼休みに丼売ってるのよく見る」
「そっすね。原付買う前に、徒歩圏内だしまかないあるしいいじゃんと思って」
「社割もあるもんね」
「そうすね。大体学食で食ってるんで全然自炊しないっす」
「ほらタカちゃん、せっかく星港市内に住んでるんだから適当にパパッと始めれば良かったんだって」
そう言われても、接客なんかは絶対出来る気がしないし、体力勝負みたいな仕事も出来そうにない。出来れば一人で黙々出来る感じの仕事があればいいんだけど、そういうのになると大体パートとかの募集になってしまって条件が合わない。
バイトをしようとは思っている。光熱費をギリギリまで削りながら生活するにもそろそろ限界があるし、もしこのゼミ合宿みたいな突発的な支出があると耐えられない。実際、合宿参加費の1万5千円と雑費をどう捻出するかが大きな問題になっている。
「いきなり働く度胸がなければ派遣に登録して単発で働くとかでもいいんじゃない?」
「1回きりだったら後腐れもないし、いいんじゃん?」
「うーん、見てみるだけ見てみたらいいのかな」
「4000円でも5000円でもあれば全然違ってくるはずだからね」
「そうですねえ」
「あっそうだタカちゃん、お金がかかってくるのはゼミ合宿だけじゃなくて、MBCCでもこれから追いコンとかで店飲みが増えてくるからね。そういうのにも備えておかないと」
「そういうのもあるんですね」
「例年追いコンはグレード高いから、1年生も相応の額を取られることを覚悟した方がいい。うん、やっぱり収入を得ないと」
「あー……そうか、追いコンっていう概念か。GREENsでもあるのかな」
「なかなかしんどいですね」
end.
++++
まあ、MBCCの追いコンはミスコンの稼ぎでちょっと補助が出るんですけどね!! GREENsは知らん
というワケで、佐藤ゼミの合宿のお知らせでした。タカちゃんが果林に話を聞きに行くのはあっただろうけど、鵠さんがいるのは今年度っぽさかなあ
そしてTKGのバイト問題が始まるのであった。果たしてTKGは労働に手を染めてしまうのか!
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佐藤ゼミでは最低でも月に1回、水曜日の4、5限目に合同ゼミという括りのゼミが開講されている。基本は2年生なら木曜3限、3年生は木曜4限、4年生が火曜4限という風に開かれているんだけど、学年をごった煮にして交流や学習のために行われるものだそうだ。
来年からゼミに所属することになった1年生がこの合同ゼミに呼ばれプリントが回されてくる。見出しを見れば「卒論発表合宿のお知らせ」とある。確か果林先輩が、そんな行事があるって言ってたのをチラッと聞いた気がする。
「えー、2月第2週の水木金で合宿だからね。参加費は2月7日までにそこに書いてある口座に振り込むか、私に直接渡しに来てね。1、2年生は全員参加で、3年生も出来れば来て欲しいけど、よっぽど都合が合わないなら仕方ないね。4年生は、私が卒論を発表していいと判断した人間を厳選して参加させるからね」
――という話を聞きながら、書類に目を通す。日時、場所、そこまでの行き方なんかが書かれている。2泊3日のタイムテーブルなんかも。そして問題の参加費だ。俺の目が間違いじゃなければ1万5千円と書かれている。
大学のセミナーハウスに行くそうなんだけど、プリントと一緒に配られたパンフレットを見る限り、結構豪華なコテージという印象だ。晩ご飯はフランス料理のフルコースだとか。そんなのいいから安くならないかなあと心底思う。卒論発表の為に出かける必要性もよくわからない。
だけども、これが1年生から4年生までが揃う唯一の機会ということで、先生はとても気合が入っているような感じ。卒論発表の他にも学年ごとに社会学的な学習を踏まえたアクティビティなんかを企画しなければならないらしい。さすがに1年生はいいらしいけど。
そんなこんなで、合宿に関する簡単な説明を受けてこの日の合同ゼミは解散になった。だけど、いざ合宿と言われても何をどうしたらいいやら。そうなると、俺が頼れるのはこの人しかいないワケで。
「合宿に必要なもの? 非常食一択でしょ」
「非常食、ですか?」
聞く相手が正しかったのか間違っていたのか、それとも質問の仕方が悪かったのか。果林先輩を捕まえて学食に来たのは良かったけど、まさかの……いや、ある意味期待を外さない返答に「ですよねー」と納得。
俺と一緒に果林先輩を囲んでいる鵠さんも、それはどうなんだと少し首を傾げている様子。ただ、合宿経験者だからセミナーハウス周辺のことも知っているはず。もしかすると、果林先輩の四次元胃袋を抜きにしても非常食が必要になってくる環境なのかもしれない。
「あっ、タカちゃん疑ってるでしょ」
「そんなことはないですけど」
「まず、セミナーハウスは大型バスじゃ行けない雪山にあるんだよ。後でしおり見てみて、途中でマイクロバスに乗り換えるって書いてるから。言っちゃえば陸の孤島。そんなトコでふらっと買い物に行けるようなお店もないからね」
「まあ、そうですね」
「あと、これがミソなんだけど、晩ご飯のフランス料理ね。これが、ちっとも食べた気がしない代物でさ。夜におなか空かせてたのはアタシだけじゃなかったんだよ。平均的な男の子なら大体足りない。それでなくてもタカちゃん偏食でしょ? フランス料理がまともに食べれる保証がないからこそ非常食は大事。和食が恋しくなるから」
「そう言われると、そんな気がしてきました」
「じゃあ、俺なんか絶対無理じゃん?」
「うん、悪いこと言わないから体育会系も非常食持ってったらいいよ。部屋に湯沸しポットはあるからお湯は使いたい放題だよ」
非常食を用意しなければならないということは、その分だけさらに費用がかさむということだ。資料を見ていると、途中のサービスエリアに立ち寄ったり、スキーをする人はレンタル費用が必要ですと書かれている。出かける必要性が疑問だったけど、スキーが出来るのは魅力的だと思う。
「ただ、問題がお金なんですよね」
「タカちゃん、それはバイトですよ」
「高木お前、バイトやってないのか」
「一人暮らしに慣れたら始めようと思ってたんだよ」
「鵠さんて学食でバイトしてるよね。昼休みに丼売ってるのよく見る」
「そっすね。原付買う前に、徒歩圏内だしまかないあるしいいじゃんと思って」
「社割もあるもんね」
「そうすね。大体学食で食ってるんで全然自炊しないっす」
「ほらタカちゃん、せっかく星港市内に住んでるんだから適当にパパッと始めれば良かったんだって」
そう言われても、接客なんかは絶対出来る気がしないし、体力勝負みたいな仕事も出来そうにない。出来れば一人で黙々出来る感じの仕事があればいいんだけど、そういうのになると大体パートとかの募集になってしまって条件が合わない。
バイトをしようとは思っている。光熱費をギリギリまで削りながら生活するにもそろそろ限界があるし、もしこのゼミ合宿みたいな突発的な支出があると耐えられない。実際、合宿参加費の1万5千円と雑費をどう捻出するかが大きな問題になっている。
「いきなり働く度胸がなければ派遣に登録して単発で働くとかでもいいんじゃない?」
「1回きりだったら後腐れもないし、いいんじゃん?」
「うーん、見てみるだけ見てみたらいいのかな」
「4000円でも5000円でもあれば全然違ってくるはずだからね」
「そうですねえ」
「あっそうだタカちゃん、お金がかかってくるのはゼミ合宿だけじゃなくて、MBCCでもこれから追いコンとかで店飲みが増えてくるからね。そういうのにも備えておかないと」
「そういうのもあるんですね」
「例年追いコンはグレード高いから、1年生も相応の額を取られることを覚悟した方がいい。うん、やっぱり収入を得ないと」
「あー……そうか、追いコンっていう概念か。GREENsでもあるのかな」
「なかなかしんどいですね」
end.
++++
まあ、MBCCの追いコンはミスコンの稼ぎでちょっと補助が出るんですけどね!! GREENsは知らん
というワケで、佐藤ゼミの合宿のお知らせでした。タカちゃんが果林に話を聞きに行くのはあっただろうけど、鵠さんがいるのは今年度っぽさかなあ
そしてTKGのバイト問題が始まるのであった。果たしてTKGは労働に手を染めてしまうのか!
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