2019(04)
■Canteen capacity
++++
1月に入り、今年度のサークル活動が本当に終わってしまったのだと感じるのは、先輩方とお会いする機会がガクンと少なくなったことだろう。圭斗先輩は理系だからまだワンチャンあるけど、文系の菜月先輩とはよほどのことがない限り学内で会うことはない。
それというのも、情報科学部の講義は大体が情報棟と呼ばれる建物の中で完結してしまう。一般教養の講義では情報棟の外に出ることもあるけど、学科固有科目などで履修表がびっちり埋まってしまっている中で、一般教養の講義を入れる隙間などほとんどない。
そして、だんだんとテストが近付いているなという風にも感じている。向島大学ではちょうど2月第1週にテストが始まるんだけど、授業の方では課題提出ラッシュが始まっていたり、講義内容の方もこれまでの詰めに入っているように思う。
「そーゆーワケやからノサカ、ベンキョーするんに付き合ってよ」
ヤなこったと返事が出来ればどれだけ良いやら。ヒロとの付き合いも2年弱になるけど、だんだんとコイツのやり口がわかってきた。まず、まともに授業に出てないし、出ていてもまともに受けてないから内容をさっぱり理解していない。当然課題も溜まるしテスト前になって焦ることになる。
情報科学部の性質上パソコンのある自習室で勉強をするのが一番いいはずなのだけど、奴が指定した場所は学食だ。いや、そんなところでプリントを広げても、全く意味がないとまでは言わないけれど、出来ることには限度がある。そう言えば、ごはん食べたいんよと奴は言う。
確かに、腹が減っては勉強に身が入らないというのは俺も痛いほど理解できるので、と言うか俺も腹が減っていたからそれにはついて行ってやることにして、適当な席に陣取る。ただ、テスト前の学食はいやに混む。今まで出てきていなかった奴らが出てくるようになるからだと聞いたことがある。
「もー、なんでこんなに人多いの」
「お前みたいな奴が大量に復帰してきてるからだろ。それに学食を使うのは学部を問わない。だから俺は勉強するなら情報棟でって言ったんだ」
「でもおなか空いたんはノサカもやろ」
「購買で買い出しをして情報棟に籠もるって手段もあったぞ」
「知らん」
人でごった返す食堂にはある種の絶望感がある。この中にいる奴らの何割が純粋に飯だけ食いに来ているのか。学食で勉強をしようと考えている奴の数次第では飯を食うこともままならなくなるのは間違いない。飯時に座席を占拠すんなと強く思う。
「座れる気がしない」
「何でこんなに人おんの」
「だから、お前のような奴が大量復帰してるからだと何度言えば」
「あっ、あそこ空いたよ!」
「ちょっと待てヒロ!」
空席を見つけるや否や、絶対そこに滑り込むんだと言わんばかりの勢いで駆けて行きやがる。いや、待てと。ふきんを持ってくるとかいろいろあるだろう。飯を食いにも来てるけど、一応勉強をしたいと言うのなら机の上は拭いておかなければ。プリントなんかにシミを付けでもしたら大変だ。
「座れたよ」
「それはいいけど、ほら、机めっちゃ汚いじゃんか」
「ノサカここキレイにしてよ」
「俺も汚いところにプリントとか広げたくないからふきん持って来たけどさ」
「じゃ拭いて」
「ったく」
何かを買いに行くにしても、二人同時に立ってしまうと席を取られてしまうだろうし、荷物を置いて立てるご時世でもない。どちらかが席の番をして、どちらかが飯を買って来る方がいいだろう。ここで問題となるのは2人分を一度に買って来るのか、交代で行くのか。
「ノサカ何食べるん?」
「何食べようかな。って言うか今何あるんだ?」
「じゃボクきつねうどん食べたいから買って来て。席見張っとくし」
「パシりかよ」
「ノサカ食べたい物決まっとらんのやからどっちにしてもカウンターの前で悩むやろ? ボクきつねうどんで決まっとるもん」
「それはそうかもしれないけど、お前の何が面倒って、きつねうどんが食べたいって言ってても、持って帰ってくる頃にはやっぱイヤとか平気で言うだろ」
「今日は言わんよ。うどん食べたい気分やから」
「言ったな。文句言ったら何も助けないし何も教えないからな」
――というワケで、財布だけ持って買い出しへ。ヒロはきつねうどんだけど、俺は何を食べようか。とりあえず普通に食いたいから無難に丼物とかにしたらいいかな。うん、親子丼にしようか。ヒロのうどんが無ければ味噌汁でもつけたんだけど。トレーに乗せるスペースがない。
よーし、うどんと親子丼確保。あとは席に帰るだけ……と思った時のことだった。あの立ち姿は間違いない。と言うか俺が間違えるはずもない。菜月先輩が、丼の乗ったトレーを持ってきょろきょろとしていらっしゃる。何という幸運! ……じゃない。これはもしかして、席を探していらっしゃるのか?
「菜月先輩。おはようございます」
「あ。ノサカじゃないか。おはよう」
「どうされたんですか?」
「席が見つからないんだ。どいつもこいつも勉強するのに教科書とか広げてるから空く気配がないじゃないか」
「それでしたら、俺たちの席にいかがですか?」
「いや、お前も学部の友達とかと一緒なんだろう? さすがにそんなところに突っ込んでいく勇気はないぞ」
「いえ、俺はヒロと一緒でして。ヒロは席の番をしているところです」
「ああ、そうだったのか。それじゃあ、そのうどんと親子丼はお前が1人で食べるわけではなかったんだな」
「うどんはヒロのですね」
「そしたら、お言葉に甘えて相席させてもらおうかな」
菜月先輩の持っているトレーには、安定の塩ラーメンだ。菜月先輩が学食でこれ以外の物を召し上がっているのを見たことがない。そしてヒロの待つ席へ。やっぱきつねうどんイヤなんやけど、などと言われないことを祈ろう。
「ヒロ、うどんだぞ」
「ちゃんときつねうどんにした!?」
「ちゃんときつねうどんだ」
「ヒロ、お邪魔するぞ」
「わ。菜月先輩やないですか。どーしたんですか」
「席が見つからないんだ」
「ノサカがゆーには、普段サボっとる人が復帰してくるから学食が混むらしーですよ」
end.
++++
菜月さんも普段サボってる復帰組だけど、それを言うと3年になってからはあんまりサボってないって反論しそうですね
多分14年度とかの話に影響された学食での話ですけど、ヒロがヒロらしくて非常に良い。いかにわがままに出来るかですね
うどんと親子丼くらいならノサカは1人でも食べれるけど一応はヒロのパシリ。果林だったら1人で食べてる。
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1月に入り、今年度のサークル活動が本当に終わってしまったのだと感じるのは、先輩方とお会いする機会がガクンと少なくなったことだろう。圭斗先輩は理系だからまだワンチャンあるけど、文系の菜月先輩とはよほどのことがない限り学内で会うことはない。
それというのも、情報科学部の講義は大体が情報棟と呼ばれる建物の中で完結してしまう。一般教養の講義では情報棟の外に出ることもあるけど、学科固有科目などで履修表がびっちり埋まってしまっている中で、一般教養の講義を入れる隙間などほとんどない。
そして、だんだんとテストが近付いているなという風にも感じている。向島大学ではちょうど2月第1週にテストが始まるんだけど、授業の方では課題提出ラッシュが始まっていたり、講義内容の方もこれまでの詰めに入っているように思う。
「そーゆーワケやからノサカ、ベンキョーするんに付き合ってよ」
ヤなこったと返事が出来ればどれだけ良いやら。ヒロとの付き合いも2年弱になるけど、だんだんとコイツのやり口がわかってきた。まず、まともに授業に出てないし、出ていてもまともに受けてないから内容をさっぱり理解していない。当然課題も溜まるしテスト前になって焦ることになる。
情報科学部の性質上パソコンのある自習室で勉強をするのが一番いいはずなのだけど、奴が指定した場所は学食だ。いや、そんなところでプリントを広げても、全く意味がないとまでは言わないけれど、出来ることには限度がある。そう言えば、ごはん食べたいんよと奴は言う。
確かに、腹が減っては勉強に身が入らないというのは俺も痛いほど理解できるので、と言うか俺も腹が減っていたからそれにはついて行ってやることにして、適当な席に陣取る。ただ、テスト前の学食はいやに混む。今まで出てきていなかった奴らが出てくるようになるからだと聞いたことがある。
「もー、なんでこんなに人多いの」
「お前みたいな奴が大量に復帰してきてるからだろ。それに学食を使うのは学部を問わない。だから俺は勉強するなら情報棟でって言ったんだ」
「でもおなか空いたんはノサカもやろ」
「購買で買い出しをして情報棟に籠もるって手段もあったぞ」
「知らん」
人でごった返す食堂にはある種の絶望感がある。この中にいる奴らの何割が純粋に飯だけ食いに来ているのか。学食で勉強をしようと考えている奴の数次第では飯を食うこともままならなくなるのは間違いない。飯時に座席を占拠すんなと強く思う。
「座れる気がしない」
「何でこんなに人おんの」
「だから、お前のような奴が大量復帰してるからだと何度言えば」
「あっ、あそこ空いたよ!」
「ちょっと待てヒロ!」
空席を見つけるや否や、絶対そこに滑り込むんだと言わんばかりの勢いで駆けて行きやがる。いや、待てと。ふきんを持ってくるとかいろいろあるだろう。飯を食いにも来てるけど、一応勉強をしたいと言うのなら机の上は拭いておかなければ。プリントなんかにシミを付けでもしたら大変だ。
「座れたよ」
「それはいいけど、ほら、机めっちゃ汚いじゃんか」
「ノサカここキレイにしてよ」
「俺も汚いところにプリントとか広げたくないからふきん持って来たけどさ」
「じゃ拭いて」
「ったく」
何かを買いに行くにしても、二人同時に立ってしまうと席を取られてしまうだろうし、荷物を置いて立てるご時世でもない。どちらかが席の番をして、どちらかが飯を買って来る方がいいだろう。ここで問題となるのは2人分を一度に買って来るのか、交代で行くのか。
「ノサカ何食べるん?」
「何食べようかな。って言うか今何あるんだ?」
「じゃボクきつねうどん食べたいから買って来て。席見張っとくし」
「パシりかよ」
「ノサカ食べたい物決まっとらんのやからどっちにしてもカウンターの前で悩むやろ? ボクきつねうどんで決まっとるもん」
「それはそうかもしれないけど、お前の何が面倒って、きつねうどんが食べたいって言ってても、持って帰ってくる頃にはやっぱイヤとか平気で言うだろ」
「今日は言わんよ。うどん食べたい気分やから」
「言ったな。文句言ったら何も助けないし何も教えないからな」
――というワケで、財布だけ持って買い出しへ。ヒロはきつねうどんだけど、俺は何を食べようか。とりあえず普通に食いたいから無難に丼物とかにしたらいいかな。うん、親子丼にしようか。ヒロのうどんが無ければ味噌汁でもつけたんだけど。トレーに乗せるスペースがない。
よーし、うどんと親子丼確保。あとは席に帰るだけ……と思った時のことだった。あの立ち姿は間違いない。と言うか俺が間違えるはずもない。菜月先輩が、丼の乗ったトレーを持ってきょろきょろとしていらっしゃる。何という幸運! ……じゃない。これはもしかして、席を探していらっしゃるのか?
「菜月先輩。おはようございます」
「あ。ノサカじゃないか。おはよう」
「どうされたんですか?」
「席が見つからないんだ。どいつもこいつも勉強するのに教科書とか広げてるから空く気配がないじゃないか」
「それでしたら、俺たちの席にいかがですか?」
「いや、お前も学部の友達とかと一緒なんだろう? さすがにそんなところに突っ込んでいく勇気はないぞ」
「いえ、俺はヒロと一緒でして。ヒロは席の番をしているところです」
「ああ、そうだったのか。それじゃあ、そのうどんと親子丼はお前が1人で食べるわけではなかったんだな」
「うどんはヒロのですね」
「そしたら、お言葉に甘えて相席させてもらおうかな」
菜月先輩の持っているトレーには、安定の塩ラーメンだ。菜月先輩が学食でこれ以外の物を召し上がっているのを見たことがない。そしてヒロの待つ席へ。やっぱきつねうどんイヤなんやけど、などと言われないことを祈ろう。
「ヒロ、うどんだぞ」
「ちゃんときつねうどんにした!?」
「ちゃんときつねうどんだ」
「ヒロ、お邪魔するぞ」
「わ。菜月先輩やないですか。どーしたんですか」
「席が見つからないんだ」
「ノサカがゆーには、普段サボっとる人が復帰してくるから学食が混むらしーですよ」
end.
++++
菜月さんも普段サボってる復帰組だけど、それを言うと3年になってからはあんまりサボってないって反論しそうですね
多分14年度とかの話に影響された学食での話ですけど、ヒロがヒロらしくて非常に良い。いかにわがままに出来るかですね
うどんと親子丼くらいならノサカは1人でも食べれるけど一応はヒロのパシリ。果林だったら1人で食べてる。
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