2019(04)

■天と地がひっくり返っても

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「自由だあああ!」
「野坂さん、お疲れ様でした」

 成人式を終え、委員会のナントカとかその他諸々の用事を全てやっつけた後の開放感が凄まじい。やることを一通り終えたんだから家でぐだぐだすればいいんだろうけど、家に帰るなりスーツを脱ぎ捨ていつもの服に着替えたらすぐさま玄関先で待機だよ。
 こーたが迎えに来てくれるというので、ファミレスで2人打ち上げをやることになったんだ。家でぐだぐだするのもいいけど、やっぱりこの行事に関する鬱憤は今日のうちに吐き出して終わりにしたい。成人式実行委員として活動していた期間にはそこそこいろんなことがあったからな。

「ところで野坂さん、成人式実行委員としての活動はもう終わりですか?」
「何か、役持ちの人はまだ何かやることがあるっぽいけど、俺みたいなヒラ委員はもう終わりじゃないかな」
「私から見れば野坂さんは対策委員の議長としてのイメージが強いので、ヒラ委員というのも変な感じですね」
「本来なら対策委員だってヒラでいいくらいだぞ」
「さ、注文しましょうか。何を食べましょう」

 対策委員の議長どうこうとこーたは言うけど、俺は悪質な遅刻癖のおかげで議長らしい仕事はほとんどしていない。名前だけが議長だったという感じだ。たまには勢いで議長の職権を濫用していたように思うけど、それでも定例会程じゃないとは高崎先輩が仰っていた。

「はー……うめー…!」
「仕事終わりの一杯というヤツですね」
「ドリバーのカルピスだけどな。いや、でも、これで実行委員とはおさらばだ。嬉しすぎる」
「この活動の終わりが相当嬉しいということが本当に分かりますよ」
「でも、厄介なのがこの後も絆を育もうとする奴らでさ」
「ああ……前々から成人式実行委員の馴れ合いは肌に合わないと言ってましたもんね。ところで、やたら野坂さんをデートに誘って来てたという女性はどうしたんです?」
「相変わらずだよ。しかも、何か周りがそれとなく演出しようとしてる感がバリバリ伝わって来てさ。もーしんどい」
「モテる男は辛いですねえ」
「元々可も不可もないし何とも思ってないのに、それをゴリ押しされると疎ましくなってくるっていうな」

 何かそういう風に示し合わされてたんだろうな、会議の場では元々地区ごとに決まっていた座席も気付けば俺の隣がその女子になっていた。それに、仕事の割り振りにしたってペアでやってねっていうようなことが多くなったり。
 俺にとって菜月先輩以外の女子は所詮カボチャかジャガイモでしかないので大した差がわからないし余程のことが無ければ興味も持てない。だけど、そんな俺の事情なんか周りは知ったこっちゃないので、その女子との2人の状況というのを作られてしまっている。

「あっ! こーた!」
「ああ、やっちゃん! こっちですよ」
「野坂君もお疲れー」
「えっ、小林君! 何で? ヤバい、スーツ姿が目映い…!」
「たまたまさっきやっちゃんから連絡が入ったので、合流しますかと聞いたら飛んで来たみたいですよ」
「俺も成人式終わりでさー。こっちの成人式で今度吹部で集まるかーみたいな話になって、そしたら俺こーたに連絡するよって流れで現在に至る」
「仮にも青浪高校の吹奏楽部なのに青浪の外の方が多いんですよねえ、吹部の同期は」
「そうそう! でも部長も高校も青浪だし、みんな青浪に行きたいっぽいよ。さすがに外出てる奴らはムリっつってたけどさ」
「本当ですか? 人数と日程さえ教えていただければ適当に手配しましょうか」
「おお~っ、さすが部長!」
「いつの話をしてるんですか」

 何気にこういうところでまとめて引っ張ってくれるからこーたは頼れるんだよな。MMPのことでも割と俺は律とこーたに任せとけば間違いないんじゃねっつって案外何もしてないし。会計じゃないのに金のことはこーたに聞けって感じになってるもんな。何故会計をヒロにした。ガチで先輩方がご乱心だったとしか思えない謎人事だ。

「ちょっとお手洗いへ。野坂さん、まだあの女性の話は終わってませんからね!」
「はいはい」
「あー……野坂君、何か成人式実行委員会だったって言ってたね。こーたから聞いたけど、何か女の子からモテてるって」
「モテてはない。やたら遊びに誘われたりしてたってだけで」
「その子、野坂君のことが好きなのかな」
「ちょっと、こーたには黙っといて欲しいんだけどさ」

 実は、昨日実行委員の会議の後にその女子に引き留められて、何かと思えば俺のことが好きだから付き合って欲しいという内容の話をされた。当然丁重にお断りをさせてもらったワケだけれども、昨日の今日で周りは俺とその女子のムードを作ろうと躍起になっていたんだ。どういう話になってるのかと。

「えっ! 野坂君告られたの!? でも、何て断ったの?」
「気持ちはありがたいけど、好きな人がいるからって。想いを伝えるのにはめちゃくちゃ度胸が要るのは俺にもわかるし、俺なんかをそういう風に思ってくれるのはありがたいけどさ。うん。でも、やっぱり」

 俺の好きな人は天地がひっくり返っても菜月先輩しか考えられないので、他の人からの想いはありがとうございますと聞くだけ聞いて、ごめんなさいをするしか選択肢がない。いや、でも俺も菜月先輩に言うべきことを言ってしまわないとなあとは常々思ってはいる。

「野坂君の好きな人って、尊敬してるっていうサークルの先輩? あの、ピンクのマンションの」
「うん。そうだよ」
「……だからずっと土曜日NGだったんだね。その先輩と番組収録してるって言ってたもんね」
「土曜日NGは先輩と一緒だからっていうだけの理由でもないんだけど。えっ、てか俺そんなにわかりやすい?」
「わかりやすい。先輩の話してる時だけ顔が違う」
「あっ、こーたにはガチで黙っといて。俺の一生のお願い」
「1コ俺のお願い聞いてくれたら黙っててあげる」
「うん、出来る範囲で。で、何?」
「そろそろ君付けをやめてほしい! 結構仲良くなってきてるし、こうさ、野坂君と呼びタメし合える間柄になっていきたいなー……って」
「ナ、ナンダッテー!?」

 小林君と呼びタメし合える間柄だって…!? 願ったり叶ったり! ――っとっと、小林“君”はダメなんだよな。でも何て呼ぼう? 同学年の男は名前で呼ぶことが多いけど、恥ずかしすぎて下の名前でなんて呼べないぞ。

「は~、ただいま戻りましたよ。……って、やっちゃん、野坂さんはどうしたんです? 真っ赤な顔をして」
「こーた……小林君が俺に「君付けをやめてほしい」って……俺は、俺はどう呼べばいいんだ…! 下の名前で呼ぶのが恥ずかしすぎるんだが!?」
「あ~、野坂さんは基本ファーストネーム派ですもんね。ちなみにやっちゃんの名前は泰弘ですよ」
「名前全部呼ぶのが恥ずかしかったら、野坂君お母さんからフミって呼ばれてたし、名前の下を取ってヒロって呼ぶ? あだ名の決め方お揃いで」
「ないわ」
「野坂さん、急に現実に返りすぎです。お手本のようなスンッ……でしたよ」
「だったら上を取ってヤスだわ。あーもうどちゃくそカッコよくて明るく優しい小林君をヒロとかいう悪魔と同じ呼び方なんか出来るはずがない! あーマジクソ、ヒロとかいう畜生がそろそろ俺にノートと課題の解法を集りに来るぞ! 人に対する感謝の気持ちが微塵たりともないんだアイツは!」
「……こーた、もしかして俺地雷踏んだ?」
「はい。テスト前にその名前は地雷です」


end.


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今年は成人式のノサカイジリはなしで、純粋にお疲れ様会からスタートです。また来年以降派手にやってやろう
ノサ神の今年度らしい要素と言えばコバヤスですが、コバヤスってどこに住んでるんだろうな。神崎と同じ高校だから少し近そうだけど。
で、テスト前に出してはいけない名前ってヤツですね。留年がかかってるからめっちゃ集られるだろうけどがんばれ

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