2019(04)
■駆け込み仕事マッチング
++++
「ハルちゃーん、来たよー」
「いらっしゃいあずさ。あらっ、まさかの男連れ!?」
「もー、ハルちゃん知ってるクセに」
「そうね。カオルちゃんお久し振り。元気してた?」
「はい。ご無沙汰してます」
伏見と約束していた通り、ベティさんの店にやってきた。連休前の金曜日ということで、たるい授業を乗り切った開放感もあり酒を飲むにはとても良い。まあ、西海まで来るのが財布的に結構な痛手ではあるんだけど、その辺は気合です。
「そうだあずさ、今日はちーがいないから、あんまり調子に乗って飲み過ぎないこと」
「あれっ、ちーどうしたの?」
「バイト先の新年会ですって。さ、2人とも何飲む?」
「あたしモスコミュール」
「俺はシャンディガフで」
とは言え、伏見とは大学でも会ってるからここで話すこともその延長のような感じだ。ゼミのペア研究がどうしたとか、映研の脚本がどうしたとか。そんな話題ばかり振っていたら、仕返しと言わんばかりに伏見は俺にテストの話を振って来た。
春学期はレポートの講義しかとってなかったけど、秋学期は普通にテストの講義も履修している。大学祭の前あたりの記憶が著しく欠けているし、俺の思考パターンなら授業にはきっと出ていなかったんだろう。今のうちにノートの確認をしておかなくては。
「朝霞クン何かつまむ? ごはん的なものとかでも」
「いや、俺今金欠でさ、ガチで酒以外のモンを頼む余裕がねーんだよ」
「えっ。それはそれでどうなの。何でそんなにお金ないの? 映画見過ぎた?」
「クリスマスから年始にかけて使い過ぎた」
「お年玉は?」
「うちは二十歳までの制度だ」
「そっか。その辺は家によりけりだよね」
「例年1月はバイトもあんま入れないしガチで節制しなきゃ死ぬ」
「ええー……朝霞クン、うちにまだちーのジャガイモあるし、また何か作って持ってく?」
「マジか!? めっちゃ助かります! 伏見お前女神か何かか!? この恩はペンで返すから!」
「そこまで飢えてるの!?」
そんな俺を見かねたのか、ベティさんが「アタシ持ちよ」とガッツリ系のメニューを出してくれたのが申し訳なさしかない。貴重な食事の機会なのでありがたくいただきます。つか「この恩はペンで返す」って。よくわからない事態になると意味わかんないこと言いだすな。
すると、カランコロンとドアベルが鳴り、ベティさんが「おかえりなさーい」と声を投げる。その先にいたのはバイト先の新年会だと聞いていた大石だ。えっ、新年会が終わるレベルの時間になってんのか?
「ちー、新年会終わったの?」
「うん。あっ、あずさ。それに朝霞も。どうしたの?」
「まあ、たまにはな」
「兄さん、塩見さんも一緒に来てるんだ」
「あら、そうなの?」
大石が陣取ったカウンター席の隣にやってきたのは、何かすごい派手な男の人。背がデカいのと、グレーかシルバーっぽい髪に、じゃらじゃらつけられたピアスの威圧感が凄い。顔は物凄い男前。一言で言うと、大石の知り合いっぽくはない。
「あれっ、朝霞見たことないご飯食べてるね。兄さん、俺もこれ食べたい」
「アンタ新年会で食べて来たんじゃないの?」
「会社の新年会だといろいろ気を遣わなきゃいけないでしょ? 満足はしてないよ」
「その調子だと、拓馬も満足してなさそうね。待ってなさい、今作るから。拓馬、アンタも食べるでしょ?」
「いただきます」
「男の子って本当によく食べるよねえ。でも朝霞クン、ご飯食べられなくなるくらいお金ないならすぐ入れる単発の仕事した方がいいよ。派遣だったらその日にお金もらえる仕事とかもあるでしょ?」
「会社に頼めば給料日を無視出来るらしいけど、そういうことしてる奴の信用ってぶっちゃけあんまりな。1・2年のときにテストが近いからって理由でこの時期の仕事断りまくってたツケが今来てんな。ガチで仕事と金がねえ」
「朝霞、仕事探してるの?」
「ああ。金と仕事の依頼がねーんだよ」
「朝霞、うちの会社で働かない? ……ってことですよね、塩見さん」
「だな。俺はコイツがバイトしてる向西倉庫の社員、塩見拓馬だ」
「あ、朝霞薫です」
塩見さんはスッと大石と席を変わり、俺と隣り合う。何だ何だ、何が始まるんだと思えば、次に彼が発したのは「短期の仕事をしてくれる人材を探している」という会社の事情だった。いや、でもこうして間近に見るとますます塩見さんが普通の会社員には見えない。
話によれば、倉庫に入庫してきた製品の吊り札に不備があったらしく、その製品が在庫に計上されて出荷が始まるまでに吊り札を付け替えなければならないということだそうだ。その作業に人手が必要らしいんだけど、人材会社だけで人をかき集めるには限界があるから人脈でも何とかしてみよう、ということ。
「時給は1000円で、9時から5時半までで実働7時間。午前だけとか午後だけとかでも対応出来る。車通勤可。飯は自分で用意してくれ。飲み物の自販機はある」
「さすがに星港の東部からだとチャリンコじゃ厳しいよなあ。いい話だけど西海だと交通費がネックなんだよな~…!」
「交通費は出るぞ」
「えっ、本当ですか。上限は」
「月1万まで」
「それか朝霞、俺が送迎するって手もあるよ。朝霞の家の近くだったら俺も土地勘あるし、朝霞以外にも人を見つけたらあの辺を起点にすることも出来るから」
「あの、塩見さん。その仕事やりたいんですけど如何せん今酒入ってるんで、細かい条件を覚えてられる自信がなくて」
「そしたら条件は改めて送るし、LINEとか」
「はい、お願いします」
ふー、何とか仕事にありつけるぞ。距離が不安だけど交通費を捨てて大石に送迎してもらえばその問題はクリア出来そうだしな。倉庫自体は寒いそうだけど作業するのは暖房のある小屋らしいからその点でも安心だし。うん、日給7000円ならまあまあだぞ。
「あっ、朝霞の人脈で誰かこの仕事出来そうな人に声かけてみてくれないかなあ」
「本当に人脈でどうにかしようとしてんだな」
「最近ウチの会社、派遣会社から来た奴に痛い目遭わされ続けてんだよな。なら少しでも信用出来そうな人間を連れて来たいっていうな」
「あはは……そういうことだから朝霞、頼むよ」
end.
++++
朝霞Pのお仕事から、チーム温玉やらUSDXやらいろいろなところに繋がって行くんですね、多分
こちらも冬の人脈形成には欠かせないアルバイトのお話ですし、これがあるからTKGがゼミ合宿にお小遣いを持って行けるぞ!
――となると、早いトコTKGがスーパーに買い物に行かなきゃいけないのね、果林とエイジ連れて
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「ハルちゃーん、来たよー」
「いらっしゃいあずさ。あらっ、まさかの男連れ!?」
「もー、ハルちゃん知ってるクセに」
「そうね。カオルちゃんお久し振り。元気してた?」
「はい。ご無沙汰してます」
伏見と約束していた通り、ベティさんの店にやってきた。連休前の金曜日ということで、たるい授業を乗り切った開放感もあり酒を飲むにはとても良い。まあ、西海まで来るのが財布的に結構な痛手ではあるんだけど、その辺は気合です。
「そうだあずさ、今日はちーがいないから、あんまり調子に乗って飲み過ぎないこと」
「あれっ、ちーどうしたの?」
「バイト先の新年会ですって。さ、2人とも何飲む?」
「あたしモスコミュール」
「俺はシャンディガフで」
とは言え、伏見とは大学でも会ってるからここで話すこともその延長のような感じだ。ゼミのペア研究がどうしたとか、映研の脚本がどうしたとか。そんな話題ばかり振っていたら、仕返しと言わんばかりに伏見は俺にテストの話を振って来た。
春学期はレポートの講義しかとってなかったけど、秋学期は普通にテストの講義も履修している。大学祭の前あたりの記憶が著しく欠けているし、俺の思考パターンなら授業にはきっと出ていなかったんだろう。今のうちにノートの確認をしておかなくては。
「朝霞クン何かつまむ? ごはん的なものとかでも」
「いや、俺今金欠でさ、ガチで酒以外のモンを頼む余裕がねーんだよ」
「えっ。それはそれでどうなの。何でそんなにお金ないの? 映画見過ぎた?」
「クリスマスから年始にかけて使い過ぎた」
「お年玉は?」
「うちは二十歳までの制度だ」
「そっか。その辺は家によりけりだよね」
「例年1月はバイトもあんま入れないしガチで節制しなきゃ死ぬ」
「ええー……朝霞クン、うちにまだちーのジャガイモあるし、また何か作って持ってく?」
「マジか!? めっちゃ助かります! 伏見お前女神か何かか!? この恩はペンで返すから!」
「そこまで飢えてるの!?」
そんな俺を見かねたのか、ベティさんが「アタシ持ちよ」とガッツリ系のメニューを出してくれたのが申し訳なさしかない。貴重な食事の機会なのでありがたくいただきます。つか「この恩はペンで返す」って。よくわからない事態になると意味わかんないこと言いだすな。
すると、カランコロンとドアベルが鳴り、ベティさんが「おかえりなさーい」と声を投げる。その先にいたのはバイト先の新年会だと聞いていた大石だ。えっ、新年会が終わるレベルの時間になってんのか?
「ちー、新年会終わったの?」
「うん。あっ、あずさ。それに朝霞も。どうしたの?」
「まあ、たまにはな」
「兄さん、塩見さんも一緒に来てるんだ」
「あら、そうなの?」
大石が陣取ったカウンター席の隣にやってきたのは、何かすごい派手な男の人。背がデカいのと、グレーかシルバーっぽい髪に、じゃらじゃらつけられたピアスの威圧感が凄い。顔は物凄い男前。一言で言うと、大石の知り合いっぽくはない。
「あれっ、朝霞見たことないご飯食べてるね。兄さん、俺もこれ食べたい」
「アンタ新年会で食べて来たんじゃないの?」
「会社の新年会だといろいろ気を遣わなきゃいけないでしょ? 満足はしてないよ」
「その調子だと、拓馬も満足してなさそうね。待ってなさい、今作るから。拓馬、アンタも食べるでしょ?」
「いただきます」
「男の子って本当によく食べるよねえ。でも朝霞クン、ご飯食べられなくなるくらいお金ないならすぐ入れる単発の仕事した方がいいよ。派遣だったらその日にお金もらえる仕事とかもあるでしょ?」
「会社に頼めば給料日を無視出来るらしいけど、そういうことしてる奴の信用ってぶっちゃけあんまりな。1・2年のときにテストが近いからって理由でこの時期の仕事断りまくってたツケが今来てんな。ガチで仕事と金がねえ」
「朝霞、仕事探してるの?」
「ああ。金と仕事の依頼がねーんだよ」
「朝霞、うちの会社で働かない? ……ってことですよね、塩見さん」
「だな。俺はコイツがバイトしてる向西倉庫の社員、塩見拓馬だ」
「あ、朝霞薫です」
塩見さんはスッと大石と席を変わり、俺と隣り合う。何だ何だ、何が始まるんだと思えば、次に彼が発したのは「短期の仕事をしてくれる人材を探している」という会社の事情だった。いや、でもこうして間近に見るとますます塩見さんが普通の会社員には見えない。
話によれば、倉庫に入庫してきた製品の吊り札に不備があったらしく、その製品が在庫に計上されて出荷が始まるまでに吊り札を付け替えなければならないということだそうだ。その作業に人手が必要らしいんだけど、人材会社だけで人をかき集めるには限界があるから人脈でも何とかしてみよう、ということ。
「時給は1000円で、9時から5時半までで実働7時間。午前だけとか午後だけとかでも対応出来る。車通勤可。飯は自分で用意してくれ。飲み物の自販機はある」
「さすがに星港の東部からだとチャリンコじゃ厳しいよなあ。いい話だけど西海だと交通費がネックなんだよな~…!」
「交通費は出るぞ」
「えっ、本当ですか。上限は」
「月1万まで」
「それか朝霞、俺が送迎するって手もあるよ。朝霞の家の近くだったら俺も土地勘あるし、朝霞以外にも人を見つけたらあの辺を起点にすることも出来るから」
「あの、塩見さん。その仕事やりたいんですけど如何せん今酒入ってるんで、細かい条件を覚えてられる自信がなくて」
「そしたら条件は改めて送るし、LINEとか」
「はい、お願いします」
ふー、何とか仕事にありつけるぞ。距離が不安だけど交通費を捨てて大石に送迎してもらえばその問題はクリア出来そうだしな。倉庫自体は寒いそうだけど作業するのは暖房のある小屋らしいからその点でも安心だし。うん、日給7000円ならまあまあだぞ。
「あっ、朝霞の人脈で誰かこの仕事出来そうな人に声かけてみてくれないかなあ」
「本当に人脈でどうにかしようとしてんだな」
「最近ウチの会社、派遣会社から来た奴に痛い目遭わされ続けてんだよな。なら少しでも信用出来そうな人間を連れて来たいっていうな」
「あはは……そういうことだから朝霞、頼むよ」
end.
++++
朝霞Pのお仕事から、チーム温玉やらUSDXやらいろいろなところに繋がって行くんですね、多分
こちらも冬の人脈形成には欠かせないアルバイトのお話ですし、これがあるからTKGがゼミ合宿にお小遣いを持って行けるぞ!
――となると、早いトコTKGがスーパーに買い物に行かなきゃいけないのね、果林とエイジ連れて
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