2019(03)

■戦いは人の立つ場所

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「これが実家の方で行ったイベントのパンフレットだろ、これが映像ファイル入れたデバイスな。こっちがイベントの主催者さんに話聞いたヤツの文字起こし。一応録音したヤツとか写真もこのデバイスに入れてるから。それから、これはまた別のイベントの――」

 冬休みに入る前、朝霞クンはいきり立っていた。ペア研究の課題レポートのことについて確認をとろうとしたら「資料集めは任せとけ!」と。結果山積みになっているのは目を通すだけで何日もかかりそうなほどの資料たち。確かに朝霞クンは五官で稼ぐ人ではある。だけど、さすがにこれは引く。
 1年間を通して行うペア研究は、どれだけ二人で協力出来るかがカギになる。先生曰く、自分で選んだワケじゃないテーマを、自分以外の人の視点も含めてどう調理するかをやってみなさいって。だけど、部活でバリバリやってた頃の朝霞クンは非協力的と言うのがピッタリだった。
 何に措いても部活優先で、ペア研究のことなんか本当にノータッチ。夏の中間発表だってあたしがほとんど1人でやってたし。それで朝霞クンもそこそこの成績をいただいてしまったってお詫びの菓子折りはもらったけど、それは部活を引退するまでよろしくお願いしますっていうご挨拶でもあった。
 だけど! 部活を引退して最初の長い休みで何これ!? 舞台とかイベントとかに関わる人に関する研究っていうテーマでさ、あたしたちにとって身近なテーマだからやりやすいねーって言ってた割にあたしは文献頼みだったことを、短期集中のフィールドワークでこれだけ生きた資料持ってくる!?

「集めた資料の内訳は以上です」
「すごすぎ。何をどうしたらこれだけ集まるの…?」
「何をどうしたらって。実際に現場に足を運んで、人に声かけて話しただけだぞ」
「そう簡単に言うけどさあ!」
「ああでも、好奇心が強いとかフットワークが軽いとはよく言われるから、短い時間でたくさん動けてたのかもしれないな」

 休みだからと言って朝霞クンが1日ごろごろしてるイメージは確かにない。丸1日映画を見るとかはあっても、それはそれで次に書く何かのためのインプットっていうイメージだ。年末年始の帰省では、ほとんど外に出歩いて資料を集めてたって。朝霞クンは遊び歩いてただけって言うけど、やることもやってくれてるからねえ。

「あたし、お正月はずっと家でのんびりしてたよ」
「初詣に行ったりしてないのか」
「あっ、さすがに初詣は行ったよ。うちの家族と行ったのと、ちーとハルちゃんと行ったのと」
「お前と大石って、ちょっとそこまでってレベルの近所だろ?」
「そうだね。スープが冷めない距離」
「そんな近所だったら同じ神社に2回行くみたいなことか?」
「ううん、うちの初詣は西海ではここっていう大きな神社に行って露店で食べ歩いたり遊んだりするんだけど、大石家の初詣は近所の神社でのお参りなんだよ」
「へえ、そうなのか。じゃあお前が2回行くのも間違ってないな」
「えっ、そうなの?」
「土地神とかの概念もあるだろ。まず近所の神さんにお参りして、それからデカいトコに行って、みたいな初詣の仕方もあるそうだから」
「へー、全然知らずに毎年そうしてたや」

 朝霞クンは地元の友達と大きなところに初詣に行ったんだって。階段が100段くらいあってインドア派には辛かったって。そして朝霞クンはその神社で買ってきたっていうお守りの包みをあたしに手渡してくれる。今回のお土産は美味しいものじゃなくて悪いけどって。そんなの、気持ちだけで嬉しいのに物質になってるって凄いじゃん。
 ちなみに、朝霞クンがくれたのは技芸のお守り。映像作品を広義に芸術と解釈してそのお守りを買ってきてくれたんだって。ほら、やっぱり部活に関係するんだよ。朝霞クン、完全にあたしのこと映研の脚本家とかクリエイターとしか見てないもんなあ。まあ、見てくれてるだけまだマシだと思いたい。でもね。

「恋愛成就のお守りがよかったんですけど」
「そんなモン自分でどうにかしろ」
「はい! すみませんでした!」
「大体、恋愛成就のお守りなんかデカいトコ行けば絶対あるだろ。初詣で買わなかったのか」
「家族と一緒に来てるのにそんなの恥ずかしくて買えないじゃん! まあ、大石家の初詣についてったときに買ったけど」
「買ったんじゃねーか」
「ハルちゃんがヒドいんだよ。なんかね、あたしってわかりやすいらしくってさ。今まで何気なくしてた話で今好きな人のことも何となくわかられちゃっててね。恋愛成就のお守り買うときに、神様にお願いしてもその人の力に負けそうねって! 酷くない!? 神頼みしても無駄って! 叶わないって!」
「それはお前、意味がちげーだろ」
「なにぃ」
「その話を聞く限り、神の力を跳ね返すくらい鈍いとかフラグ折りまくるとかっていう空気読めない奴なんだろ、お前が今好きなのって。だから、それこそ神に頼るよりお前が力尽くでそいつを無理矢理にでも振り向かせろって意味だろ。必要なのは興味関心をお前に引く腕っ節だ。結局のところ、人の想いなんだから」

 どの口が言うんだか。
 本当に鈍いし、フラグは折りまくるし、空気は読めない。だけど神様の力を跳ね返すくらい強くって、集中してるときは本当に鬼だし。短気だし怖いけど、優しくってキラキラしてて、何かもう理屈は知らないけどとにかく好きって感じで! 朝霞クン本人が言う攻略法が多分正しいんだろうな。力尽くで振り向かせろっていう。

「そういや、ベティさんもご無沙汰だな」
「そしたら、今度一緒にお店行く?」
「ああ、ぜひ。でも年末金使いすぎたから節約しないとな。西海って何気に交通費が痛いんだよ」


end.


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朝霞Pとふしみんです。お守りの件も恒例になりつつありますが、大石家は初詣もちゃんとやってるおうちなのね。ふしみんが行ってる神社は多分美奈が巫女さんしてる。
そう言えば、年末にお金を使いすぎたPに金策の話を持ってくる人がいないと冬の話が始まらないのである。チーム温玉よ。
っていうかぶっちゃけ朝霞Pなんか扱いはチョロいモンで、高崎といち氏のそれとほぼ同じでオッケーなんですね。ふしみん、胃袋を掴む方が断然早いのに。

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