2019(03)
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「今日は村井おじちゃんのお誕生日ですねー! みんな、何をプレゼントしてくれるのかなー?」
「帰れ」
「圭斗テメー! それが先輩に対する態度かー! つかここは俺ン家だー!」
「じゃあ料理とお酒は撤収して、菜月さんの部屋か僕の部屋に移動しますか?」
「そうしよ圭斗さん」
「スンマセンっした!」
――と、いつもの件で始まったのは、MMP3・4年の新年会ですね。僕はここに照準を定めて熱燗の練習をしたり、料理を用意したりするのに忙しかったよね。MMPのおでん大会も、定例会のおでん大会も、あれもそれもこれも全部この日のための練習と言っても過言ではなかった。
お麻里様がいらっしゃる以上粗相は許されないからね。村井おじちゃんは割とどうでもいいんだけども、お麻里様の機嫌を損ねてはいけない。なので僕はホストとしていろいろ手を回していたんだね。料理の用意はもちろん、お酒の準備も。新年会は大体日本酒かな、とか。
「でも、新年会やるっつって今日になったのって俺の誕生日だからだろ実際」
「マーさんの誕生日は実際口実だよね」
「ま、飲めりゃなんでもいいけどな実際」
「それね」
「プレゼントがあればもっと嬉しいんだけどなー?」
「アタシの時マーさん何かくれた?」
「スンマセンっした」
「僕は村井さんにプレゼントをする義理もないですしね」
「ンだとこの野郎。まあ、ないとは思うけど菜月はー……」
「うちはとびっきりのヤツがありますよ」
「ほら見ろ! 菜月はお前みたいな悪魔とは違うんだ! 天使だぞ!」
そう言って菜月さんはカバンの中から綺麗にデザインされた茶封筒を取り出した。ご丁寧にもクラフトシールで封がされている。見た感じ、それこそ本当に茶封筒に入るレベルの薄い物かな? 大きさは大体A4くらい。それを見た村井サンはそわそわして、何かな何かなと楽しみにしてるんだ。
村井サンは僕と麻里さんを悪魔だ何だと言うけれど、菜月さんがただ人にプレゼントをあげるだなんて考えにくい。ただ人からプレゼントをぶんどるならともかく。茶封筒の中身がわからないからまだ何とも言えないのだけど、菜月さんが小悪魔なのは周知の事実じゃないか。
「菜月、それ何?」
「とびっきりのヤツです」
「どれぐらいとびっきり?」
「村井サンならきっとうちにケーキをごちそうしたくなるレベルのヤツです」
「なんだよ、こえーよ」
「まあ、実際ケーキをごちそうしていただくかどうかは村井おじちゃんにおまかせしますんで、とりあえずこれをどうぞ」
「ありがとね~。中身は何かなー」
茶封筒の中からは、3枚ほどのクリアファイルが出てきた。それぞれ中にはそれなりの量の紙が入っている。まさかとは思うけど、これは本当にまさかなのでは。そのまさかの内容をうっすら察した僕と麻里さんは少し引いてしまっている。一方、菜月さんはと言えば、ケーキをごちそうしてもらえるかなとわくわくしている様子。
「菜月様、これはもしや」
「村井おじちゃんが欲しがってた3教科分のノートとプリントの詰め合わせですね。全コマ分揃ってます」
「喜んでケーキをごちそうさせていただきますううう! 菜月、今度“黒猫の小路”行くか! テイクアウトのクッキーもつけちゃうぞ! 交通費だっておじちゃんに任せなよ!」
「やったー!」
「これに近い光景をサークル室でよく見ますね」
「マーさん……ドン引きだわ……」
「うるせー! 何とでも言えー!」
就職はいいトコにバチーンと決まった村井のおじちゃんだったけど、卒業出来るかの方が遙かに大きな問題だった。如何せん4年生にもなって単位が限りなくギリギリで、菜月さんに縋っているという時点でその程度はお察し。卒論だってついこないだまでゼロ文字だったという話すらある。
とにかく単位取得が死活問題のおじちゃんなので、その手助けをしてもらえるとあればケーキくらいは喜んでご馳走しちゃうワケですね。そんな状況や心情を利用して自分の財力じゃ食べられないような美味しいケーキと焼き菓子をゲットしてしまう菜月さんの強かさだよ。何をどう叩けばいい物が出てくるかを完全に理解してるね。
「財布と言えば、最近三井って春が来てるの?」
「麻里さん、三井の話はせっかくケーキの権利を得てウキウキの菜月さんがげんなりしてしまうので」
「えっ、何かあった?」
「端的に言えば、星大に遊びに行った先で出会った女の子に運命を感じたそうなんですが、それがりっちゃんの双子のお姉さんだったらしく。彼女のバイト先が学内の情報センターだったということでしばらく出待ちをしていたそうなんですね。2、3週間くらいですかね」
「しばらくって、何週間とかいうレベルの出待ちかよ!」
「情報センターのスタッフさんが困り果てて学生課に訴えたり、三井の取説を求めて美奈つてに菜月さんに救援要請を求めてきたりと本当にいろいろありまして」
「何やってんだアイツはホントに」
ここのところの三井のやらかしの話は誰にしても同じようにドン引きするので、やっぱり一般的には「ない」という感覚で間違いないだろう。と言うか、他校の学習支援施設の前で出待ちし続けるとか意味がわからない。たまたま通報されなかったけど、一歩間違えば警察案件じゃないか。
「で、りっちゃんの姉さんとはどうなったの?」
「食事に行った店でピアノを弾いていた人に新たな運命を感じてからはそれっきりですね。ちなみに、そのピアニストというのが男だったそうですけど」
「だーっはっはっはっは!」
「えー……いろいろ引くわー」
「何かもう、その件でいろいろ振り回されて疲れました」
「菜月ドンマイ」
「菜月さんドンマイ。角煮食べな」
「まあ、言って菜月さんはこの件で三井からどんだけぶんどったか」
「ナンノコトカナー」
「村井サン、菜月さんは天使とは程遠いですよ。財布を叩かせれば一級品です」
「卒業の手助けしてくれるから天使だし…!」
「三井のMも村井のMもドMのMだねえ」
「お麻里様、マサフミのMというのもあります。きっと野坂も菜月さんから搾取されて」
「してませんー! さすがに後輩からは――……いや、待てよ。プレゼントはポーケットーを叩けば財布がひっとっつーのうちに入らないよな?」
「入らないけど凶悪な歌だな!? ん? 菜月さん、野坂からプレゼントをもらったのかな? いつかなー、何かなー?」
「12月は菜月さんの誕生日にクリスマスに、機会はいろいろあるよ。さあさあ菜月さん、飲もうか。圭斗さん、菜月さんに熱燗用意してあげて」
「了解しました」
お麻里様のMはMurd……もといMarvelousのMなので僕は熱燗を作ってくるよ! 菜月さんが先輩方にご満足いただけるよう実家で調達してくれた日本酒たちだよ! もし菜月さんが吐かなかったときのことも考えて、野坂をどう吐かせるか考えた方がよさそうだね。なんだ、三井なんかよりこっちの方が断然熱いじゃないか。
end.
++++
毎度おなじみ村井おじちゃんの誕生会もとい新年会ですが、村井おじちゃんは例によって卒業がギリギリなのであった。菜月さんにも縋るよ!
菜月さんは利用できるものはとことん使い倒すけど、村井おじちゃんに関しては購買でおやつでももらえたらなってくらいの気持ちだったのでまさかここまでとは、的な。
善意もあるけどポケットを叩けばビスケットがひとつ、と同じノリで財布を歌う凶悪さも持ち合わせる天使である。
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「今日は村井おじちゃんのお誕生日ですねー! みんな、何をプレゼントしてくれるのかなー?」
「帰れ」
「圭斗テメー! それが先輩に対する態度かー! つかここは俺ン家だー!」
「じゃあ料理とお酒は撤収して、菜月さんの部屋か僕の部屋に移動しますか?」
「そうしよ圭斗さん」
「スンマセンっした!」
――と、いつもの件で始まったのは、MMP3・4年の新年会ですね。僕はここに照準を定めて熱燗の練習をしたり、料理を用意したりするのに忙しかったよね。MMPのおでん大会も、定例会のおでん大会も、あれもそれもこれも全部この日のための練習と言っても過言ではなかった。
お麻里様がいらっしゃる以上粗相は許されないからね。村井おじちゃんは割とどうでもいいんだけども、お麻里様の機嫌を損ねてはいけない。なので僕はホストとしていろいろ手を回していたんだね。料理の用意はもちろん、お酒の準備も。新年会は大体日本酒かな、とか。
「でも、新年会やるっつって今日になったのって俺の誕生日だからだろ実際」
「マーさんの誕生日は実際口実だよね」
「ま、飲めりゃなんでもいいけどな実際」
「それね」
「プレゼントがあればもっと嬉しいんだけどなー?」
「アタシの時マーさん何かくれた?」
「スンマセンっした」
「僕は村井さんにプレゼントをする義理もないですしね」
「ンだとこの野郎。まあ、ないとは思うけど菜月はー……」
「うちはとびっきりのヤツがありますよ」
「ほら見ろ! 菜月はお前みたいな悪魔とは違うんだ! 天使だぞ!」
そう言って菜月さんはカバンの中から綺麗にデザインされた茶封筒を取り出した。ご丁寧にもクラフトシールで封がされている。見た感じ、それこそ本当に茶封筒に入るレベルの薄い物かな? 大きさは大体A4くらい。それを見た村井サンはそわそわして、何かな何かなと楽しみにしてるんだ。
村井サンは僕と麻里さんを悪魔だ何だと言うけれど、菜月さんがただ人にプレゼントをあげるだなんて考えにくい。ただ人からプレゼントをぶんどるならともかく。茶封筒の中身がわからないからまだ何とも言えないのだけど、菜月さんが小悪魔なのは周知の事実じゃないか。
「菜月、それ何?」
「とびっきりのヤツです」
「どれぐらいとびっきり?」
「村井サンならきっとうちにケーキをごちそうしたくなるレベルのヤツです」
「なんだよ、こえーよ」
「まあ、実際ケーキをごちそうしていただくかどうかは村井おじちゃんにおまかせしますんで、とりあえずこれをどうぞ」
「ありがとね~。中身は何かなー」
茶封筒の中からは、3枚ほどのクリアファイルが出てきた。それぞれ中にはそれなりの量の紙が入っている。まさかとは思うけど、これは本当にまさかなのでは。そのまさかの内容をうっすら察した僕と麻里さんは少し引いてしまっている。一方、菜月さんはと言えば、ケーキをごちそうしてもらえるかなとわくわくしている様子。
「菜月様、これはもしや」
「村井おじちゃんが欲しがってた3教科分のノートとプリントの詰め合わせですね。全コマ分揃ってます」
「喜んでケーキをごちそうさせていただきますううう! 菜月、今度“黒猫の小路”行くか! テイクアウトのクッキーもつけちゃうぞ! 交通費だっておじちゃんに任せなよ!」
「やったー!」
「これに近い光景をサークル室でよく見ますね」
「マーさん……ドン引きだわ……」
「うるせー! 何とでも言えー!」
就職はいいトコにバチーンと決まった村井のおじちゃんだったけど、卒業出来るかの方が遙かに大きな問題だった。如何せん4年生にもなって単位が限りなくギリギリで、菜月さんに縋っているという時点でその程度はお察し。卒論だってついこないだまでゼロ文字だったという話すらある。
とにかく単位取得が死活問題のおじちゃんなので、その手助けをしてもらえるとあればケーキくらいは喜んでご馳走しちゃうワケですね。そんな状況や心情を利用して自分の財力じゃ食べられないような美味しいケーキと焼き菓子をゲットしてしまう菜月さんの強かさだよ。何をどう叩けばいい物が出てくるかを完全に理解してるね。
「財布と言えば、最近三井って春が来てるの?」
「麻里さん、三井の話はせっかくケーキの権利を得てウキウキの菜月さんがげんなりしてしまうので」
「えっ、何かあった?」
「端的に言えば、星大に遊びに行った先で出会った女の子に運命を感じたそうなんですが、それがりっちゃんの双子のお姉さんだったらしく。彼女のバイト先が学内の情報センターだったということでしばらく出待ちをしていたそうなんですね。2、3週間くらいですかね」
「しばらくって、何週間とかいうレベルの出待ちかよ!」
「情報センターのスタッフさんが困り果てて学生課に訴えたり、三井の取説を求めて美奈つてに菜月さんに救援要請を求めてきたりと本当にいろいろありまして」
「何やってんだアイツはホントに」
ここのところの三井のやらかしの話は誰にしても同じようにドン引きするので、やっぱり一般的には「ない」という感覚で間違いないだろう。と言うか、他校の学習支援施設の前で出待ちし続けるとか意味がわからない。たまたま通報されなかったけど、一歩間違えば警察案件じゃないか。
「で、りっちゃんの姉さんとはどうなったの?」
「食事に行った店でピアノを弾いていた人に新たな運命を感じてからはそれっきりですね。ちなみに、そのピアニストというのが男だったそうですけど」
「だーっはっはっはっは!」
「えー……いろいろ引くわー」
「何かもう、その件でいろいろ振り回されて疲れました」
「菜月ドンマイ」
「菜月さんドンマイ。角煮食べな」
「まあ、言って菜月さんはこの件で三井からどんだけぶんどったか」
「ナンノコトカナー」
「村井サン、菜月さんは天使とは程遠いですよ。財布を叩かせれば一級品です」
「卒業の手助けしてくれるから天使だし…!」
「三井のMも村井のMもドMのMだねえ」
「お麻里様、マサフミのMというのもあります。きっと野坂も菜月さんから搾取されて」
「してませんー! さすがに後輩からは――……いや、待てよ。プレゼントはポーケットーを叩けば財布がひっとっつーのうちに入らないよな?」
「入らないけど凶悪な歌だな!? ん? 菜月さん、野坂からプレゼントをもらったのかな? いつかなー、何かなー?」
「12月は菜月さんの誕生日にクリスマスに、機会はいろいろあるよ。さあさあ菜月さん、飲もうか。圭斗さん、菜月さんに熱燗用意してあげて」
「了解しました」
お麻里様のMはMurd……もといMarvelousのMなので僕は熱燗を作ってくるよ! 菜月さんが先輩方にご満足いただけるよう実家で調達してくれた日本酒たちだよ! もし菜月さんが吐かなかったときのことも考えて、野坂をどう吐かせるか考えた方がよさそうだね。なんだ、三井なんかよりこっちの方が断然熱いじゃないか。
end.
++++
毎度おなじみ村井おじちゃんの誕生会もとい新年会ですが、村井おじちゃんは例によって卒業がギリギリなのであった。菜月さんにも縋るよ!
菜月さんは利用できるものはとことん使い倒すけど、村井おじちゃんに関しては購買でおやつでももらえたらなってくらいの気持ちだったのでまさかここまでとは、的な。
善意もあるけどポケットを叩けばビスケットがひとつ、と同じノリで財布を歌う凶悪さも持ち合わせる天使である。
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