2019(03)

■新年初パワハラの現場

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「皆さん! あけまして! おめでとうございまーすSDXでーす!」
「いよっ! 新年! めでたい!」

 さて、豊葦市内某所……と言うかプロさんのお宅に集合して始まったのはゲーム実況グループSDXの新年会だ。忘年会が中止になったということで、改めて新年会の様子を生配信ということで、それはもう。ええ、わちゃわちゃですよ。
 ガチ新年会ということで食べ物やお酒なんかも用意してあるし、実際にゲームも出来たらいいよねっていうことでそっちの用意も済んでいる。実際に出来るかどうかは措いといて。何気にSDX4人揃うのが久し振りだったりする。年末の音楽祭の練習とかで忙しかったし。
 実際、忘年会が中止になったのも青山さん主催のシャッフルバンド音楽祭に俺とカンが出ることになったからだった。現地に行ってみてビックリしたのが、ソルさんこと塩見さんもそのライブの参加者だったこと。現地では初対面の体で振る舞ってたけど、内心ちょっと焦った。

「ね。せっかく年末に忘年会やろうと思ってたのに、3人ともライブでお休みしますーって。は!? めっちゃ準備してたのに! 意味わかんなくない!?」
「いや、新年会やってんだから良くないか」
「そーだそーだ」
「そのおかげで僕がさ、大して上手くもないバイオリンで第九をやるっていう恥配信をやることになってさ!」
「お前が勝手にやったんだろ」
「そーだそーだ」
「コンちゃ~ん! ソルとチータがイジメる~!」
「忘年会をキャンセルしたのは申し訳なく思ってますけど、バイオリンに関してはプロさんがノリでやったことなので責任は負えないとだけ」

 画面では視聴者さんからのコメントがずらずらと流れていく。プロさんかわいそうとか、ソルさんの言う通りだとか、いろいろ。俺の今の発言に対しては「真っ当で草」など普通過ぎておもんな、的なコメントが流れている。

「そうだプロ、年始に個人で録画して軽く編集した映像あんだけど、これバックにやるか?」
「えっ、何録画したの?」
「ソル~、知ってんだぞ、年始のツミツミが軽く荒れてたそうじゃねーか」
「えー!? ツミツミ映像!?」
「サムネに声だけよりは動きがあっていいと思ったんだけどな」
「じゃあ、せっかくだし流そうか。映像の方の音は絞り気味で、っと」
「それじゃ、ソルもコンもあけおめことよろー、かんぱーい!」
「乾杯」
「ちょっと! また僕のことハブる! チータ! 怒るよ!」

 まあ、新年会なのでこんなしょうもないノリでも許されてほしいところだ。忘年会から続くプロハブの流れだ。そして背景はデフォルトでセットしていたサムネイル画像から、ソルさんが収録したツミツミの映像に変わる。

「それで、みんな年末年始はどうしてたの? ライブ以外で。ソルから」
「俺は知り合いの家に呼ばれて飯食ったり、今日はこの前に焼肉食って来た」
「えっ、ソルを家に呼んでご飯を振る舞う知り合い…!?」
「食糧庫が壊滅しそう」
「せっかくなら働いてて欲しかった」
「何だお前ら、特にチータ」
「いや、そこはお前、社畜を貫いてて欲しくね?」

 ――と言うと、コメントの方ではソルさんお疲れ様ですというコメントと投げ銭がチャリーンチャリーンと投げられるのだ。それはもう怖いくらいに。投げ銭は動画撮影環境の向上などに使われている。

「はい、次チータ」
「実は年末のライブの前に個人で作った音源をコミフェで出してて」
「大晦日のチータは本当に分単位で動いてた」
「あっ、コメントでも気になるってコメント出てるよ。その中にSDXの曲は入ってますかって」
「SDXの曲は1曲も入れてないっすね。本当にチータじゃない俺個人の名義でやってることだから。SDXのために作った曲もそこそこ溜まってるから音源化出来るっちゃ出来るけど。まあ、何にせよ大晦日が一番バタバタしてて、年が明けてからは曲作ったり初詣行ったりって感じ?」
「はい、コンちゃん」
「俺も年末のライブの後は初詣に行ったり、新年の挨拶があったり」
「彼女の家にな」
「チータ」

 ちなみに「ついでだから今データ渡しとくね」とSDX関係の絵を描いてくれているきららからサムネイル用の画像データをもらったのもこの日のこと。一応お互いにちゃんと仕事用の窓口から連絡は取ってます。

「でも、本当にそれくらいで。今日がSDX初め的な。この後はライブで会った人と一緒にゲームすることになってるくらいで、後はもう特に予定はないかな」
「コンちゃ~ん、そしたら動画編集しようか! 年末忙しいって言うから、僕が! 編集してたんだよ~?」
「はい、すみません、やらせていただきます」
「パワハラだー!」
「コン、労基に訴えていいぞ」
「ソルさんが労基とか言うとシャレにならないんで」

 でも、年末の動画はほとんどプロさんが編集してくれてたのは本当に助かってたし、俺も忙しさがちょっと落ち着いてきたから編集の方にも少しずつ戻って行きたいとは思っている。労基に訴えるのはまた別の機会に。
 そう、例の音楽祭で出会ったリン君というピアニストとゲームの話で意気投合したんだ。俺とカンと、今度3人でゲームをする約束になっている。ゲーム音楽も通っているそうだし、実際のゲームの腕前のほどはどうだろう。SDXの活動とはそれるけど、これも楽しみだ。

「すごいぞコン! めっちゃ後押しされてる!」
「おっ、すげえな。コン頑張れ、パワハラに負けるなって」
「やーめーてー! 貴重な動画編集者を奪わないで! ソルとチータが編集してくれるの!?」
「それはちょっと」
「俺は曲作んなきゃいけないしー」
「ほら! コンちゃんいないと動画更新頻度落ちるよ! コンちゃんが働かないと新しいことも出来ないの! 僕が留年し続けるのも限界があるの!」
「……プロ、新年会なのにそんなガチ過ぎる話はなしにしねえか?」
「誰がさせてんの」
「あの、ちゃんと働くんで。安心してくださいプロさん」
「コンちゃ~ん! いい子~!」
「でも、テスト期間はちょっとお休みをください」


end.


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久々にSDXです。新年会が開かれているのですが、プロ氏のパワハラが横行している様子。
チータことカンD、何気にナノスパ屈指のワーカホリックとかハードワーカーなのかもしれない。ったくどいつもこいつも。
で、プロ氏は今までにどれだけモラトリアムを伸ばし続けているのか? キョージュの謎のひとつですね

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