2018
■selfish birthday
++++
「圭斗」
「ん?」
「話がある」
「どうしたんだい」
「ここじゃちょっと」
――と、呼び出されたのはサークル棟3階ロビー。僕たちMMPの部屋があるのは2階で、1階や2階には他のサークル室もある。かつて宿泊棟だった3階は、今では滅多に人の立ち入ることのない場所となっていた。足を踏み入れるのは、こうしてちょっとした話をするときくらいだ。
「それで、話って?」
「三井が誕生日を猛烈にアピり出した」
「……面倒なことになってきたね。それで、アイツの誕生日は何日の何曜日なんだい?」
「25日の金曜日だ」
「今週末じゃないか」
僕たちの同期に三井という男がいる。コイツの思考回路はとても僕には理解が出来ないし、そもそも分かり合おうとも思っていない。それはそうとして、MMPというのは人の誕生日に無頓着なサークルであるとは言っておかなければならない。
例えば緑ヶ丘や青女では誰の誕生日だからと酒を飲んだりパーティーを開いたりと盛大なお祝いがあるそうだ。だけどMMPではパーティーどころかおめでとうの一言すらあるかないかが基本だね。
そんな中で三井は人の誕生日を調べ上げ、その当日または前後にサプライズと称してプレゼントを渡したりしてくる。その贈り物は基本需要や趣味を外していてもらった人が処理に困るし、何が面倒って、三井はそれに見返りを求めている。
「自己満足だけで終わってくれる方がまだいいんだけどな」
「うちなんて授業中もアピられて迷惑を被ってるんだぞ」
「ん、菜月はまだ授業にちゃんと出てたのかい」
「6月2週くらいに絶対やらかすからな。貯金を作っとかなきゃいけない」
「ああ、例のヤツだね」
「それはそうとして、どうする」
余談だけど、菜月と三井は同じ社会学部で選択しているコースも同じだから履修が結構被っている。どちらも出席率は高くないようだけど、たまに顔を合わせたときは三井が菜月の隣に陣取って筆談で会話をしながら授業を受けたりもするそうだ。
こうして、僕と菜月の緊急会議が始まった。三井の誕生パーティーという風に銘打って、どうにかして適当に誤魔化そうというのが目的。そして、苦しみは僕たちだけが抱えるのではなく、皆で分かち合おうという……あまりいい方向性ではないのはわかっているよ。
「とりあえず、うちは生クリームでべったべたのケーキを作ろうと思う」
「それは自分の趣味じゃないのかい?」
「だからだ。アイツは人の誕生日に何かするのだって、人を祝うよりも相手のリアクションを見て自分が楽しみたいだけだ。だから目には目をってことで自己中心的かつ自己満足返しをする。アイツは生クリームが好きじゃないからな」
「ラブ&ピースはいいにしても、それでアイツは満足するかい?」
「適当な御託を並べればアイツごとき誤魔化せる」
「さすが菜月さん。その辺はお任せするよ」
「圭斗には会場提供と2年生以下への通知、それから予算の計算を頼みたい。アイツの相手やらモノはうちが準備する」
「わかったよ」
我ながら、素晴らしいコンビネーションだと思うね。1年生の時は彼女とここまで息の合った連係が出来るようになるとは思わなかったけれど、月日が流れてみれば、サークルでの彼女は頼れる相棒だ。定例会議長としての視点で見れば神様です。
会議の結果、25日のサークル終了後に僕の部屋でカレーパーティーを開催することに決まった。カレーは僕と菜月さんがそれぞれ作り、ケーキは菜月がハートフルなヤツを作ってくれることに。問題は、菜月基準のケーキを問題なく食べられそうなのが野坂しかいないということだ。
「三井の誕プレシリーズは本当に何なんだろうな、趣味を疑うよ」
「圭斗何もらってたっけ」
「僕はセクシートランプだね。絵柄が女性の裸体で、指を挿れる穴が」
「そういう話はムラマリさんがいる時で頼む」
「失礼」
そう言えば菜月は猥談に対応出来なかった。そういうのは村井おじちゃんとお麻里様がいらっしゃるときにしよう。
「あとはあれだ、カンザキが激辛ドリンクみたいなのでリアクション芸させられてたりとか、ノサカが下着をもらっててドン引きしてた覚えがある」
「激辛ドリンクはともかく、下着はね」
「いや、激辛も拷問だぞ。カンザキは辛いのダメだし。それを知っててやってるのが性質悪い」
「生クリームが嫌いな奴に生クリームでべったりのケーキを出そうとしてる人が良く言う」
「うちだから出来るんだ」
「ご尤も」
かくして、会議は無事に閉幕。来たる金曜日に向けて僕たちは誕生日のサプライズパーティーを装いながら、当事者以外の全員を巻き込んでお茶を濁し、かつ華麗に仕返しを決めて行くスタイルを貫くことに。
「誕生日はともかく菜月には総額ウン万円も貢いでいるのに三井もかわいそうだね」
「貢がせてるとか、人聞きの悪いことを言うな」
end.
++++
菜月さんと圭斗さんの間で緊急会議が開かれていたようです。しかし菜月さんは授業中も大変なようですね……
そう言えばそろそろアレの季節ですね。それをわかっているからこそ菜月さんも貯金を作ろうと授業には真面目に出ているようです
ところで菜月さんがこれまでに三井サンからごちそうになったりしたものや何とかをただつらつらと羅列するお話もやりたいです
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「圭斗」
「ん?」
「話がある」
「どうしたんだい」
「ここじゃちょっと」
――と、呼び出されたのはサークル棟3階ロビー。僕たちMMPの部屋があるのは2階で、1階や2階には他のサークル室もある。かつて宿泊棟だった3階は、今では滅多に人の立ち入ることのない場所となっていた。足を踏み入れるのは、こうしてちょっとした話をするときくらいだ。
「それで、話って?」
「三井が誕生日を猛烈にアピり出した」
「……面倒なことになってきたね。それで、アイツの誕生日は何日の何曜日なんだい?」
「25日の金曜日だ」
「今週末じゃないか」
僕たちの同期に三井という男がいる。コイツの思考回路はとても僕には理解が出来ないし、そもそも分かり合おうとも思っていない。それはそうとして、MMPというのは人の誕生日に無頓着なサークルであるとは言っておかなければならない。
例えば緑ヶ丘や青女では誰の誕生日だからと酒を飲んだりパーティーを開いたりと盛大なお祝いがあるそうだ。だけどMMPではパーティーどころかおめでとうの一言すらあるかないかが基本だね。
そんな中で三井は人の誕生日を調べ上げ、その当日または前後にサプライズと称してプレゼントを渡したりしてくる。その贈り物は基本需要や趣味を外していてもらった人が処理に困るし、何が面倒って、三井はそれに見返りを求めている。
「自己満足だけで終わってくれる方がまだいいんだけどな」
「うちなんて授業中もアピられて迷惑を被ってるんだぞ」
「ん、菜月はまだ授業にちゃんと出てたのかい」
「6月2週くらいに絶対やらかすからな。貯金を作っとかなきゃいけない」
「ああ、例のヤツだね」
「それはそうとして、どうする」
余談だけど、菜月と三井は同じ社会学部で選択しているコースも同じだから履修が結構被っている。どちらも出席率は高くないようだけど、たまに顔を合わせたときは三井が菜月の隣に陣取って筆談で会話をしながら授業を受けたりもするそうだ。
こうして、僕と菜月の緊急会議が始まった。三井の誕生パーティーという風に銘打って、どうにかして適当に誤魔化そうというのが目的。そして、苦しみは僕たちだけが抱えるのではなく、皆で分かち合おうという……あまりいい方向性ではないのはわかっているよ。
「とりあえず、うちは生クリームでべったべたのケーキを作ろうと思う」
「それは自分の趣味じゃないのかい?」
「だからだ。アイツは人の誕生日に何かするのだって、人を祝うよりも相手のリアクションを見て自分が楽しみたいだけだ。だから目には目をってことで自己中心的かつ自己満足返しをする。アイツは生クリームが好きじゃないからな」
「ラブ&ピースはいいにしても、それでアイツは満足するかい?」
「適当な御託を並べればアイツごとき誤魔化せる」
「さすが菜月さん。その辺はお任せするよ」
「圭斗には会場提供と2年生以下への通知、それから予算の計算を頼みたい。アイツの相手やらモノはうちが準備する」
「わかったよ」
我ながら、素晴らしいコンビネーションだと思うね。1年生の時は彼女とここまで息の合った連係が出来るようになるとは思わなかったけれど、月日が流れてみれば、サークルでの彼女は頼れる相棒だ。定例会議長としての視点で見れば神様です。
会議の結果、25日のサークル終了後に僕の部屋でカレーパーティーを開催することに決まった。カレーは僕と菜月さんがそれぞれ作り、ケーキは菜月がハートフルなヤツを作ってくれることに。問題は、菜月基準のケーキを問題なく食べられそうなのが野坂しかいないということだ。
「三井の誕プレシリーズは本当に何なんだろうな、趣味を疑うよ」
「圭斗何もらってたっけ」
「僕はセクシートランプだね。絵柄が女性の裸体で、指を挿れる穴が」
「そういう話はムラマリさんがいる時で頼む」
「失礼」
そう言えば菜月は猥談に対応出来なかった。そういうのは村井おじちゃんとお麻里様がいらっしゃるときにしよう。
「あとはあれだ、カンザキが激辛ドリンクみたいなのでリアクション芸させられてたりとか、ノサカが下着をもらっててドン引きしてた覚えがある」
「激辛ドリンクはともかく、下着はね」
「いや、激辛も拷問だぞ。カンザキは辛いのダメだし。それを知っててやってるのが性質悪い」
「生クリームが嫌いな奴に生クリームでべったりのケーキを出そうとしてる人が良く言う」
「うちだから出来るんだ」
「ご尤も」
かくして、会議は無事に閉幕。来たる金曜日に向けて僕たちは誕生日のサプライズパーティーを装いながら、当事者以外の全員を巻き込んでお茶を濁し、かつ華麗に仕返しを決めて行くスタイルを貫くことに。
「誕生日はともかく菜月には総額ウン万円も貢いでいるのに三井もかわいそうだね」
「貢がせてるとか、人聞きの悪いことを言うな」
end.
++++
菜月さんと圭斗さんの間で緊急会議が開かれていたようです。しかし菜月さんは授業中も大変なようですね……
そう言えばそろそろアレの季節ですね。それをわかっているからこそ菜月さんも貯金を作ろうと授業には真面目に出ているようです
ところで菜月さんがこれまでに三井サンからごちそうになったりしたものや何とかをただつらつらと羅列するお話もやりたいです
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