2018
■不動の姿勢で
++++
「あー……」
「慧梨夏ちゃん、大丈夫?」
「ちょっと足がしんどい感じです」
「足首?」
「そうですね。今日は大人しくしてます」
「うん、そうしたらいいよ」
体育館のステージに腰掛けて、慧梨夏サンはぐるぐると足首を回す。その表情はあまり芳しくない。こんな様子の慧梨夏サンに心当たりがあるのは伊東サンで、慧梨夏サンにボールだけ渡してそのまま座っているように促した。
大学からバスケを初めた三浦は、サークルの度に慧梨夏サンからバスケの基礎を教えてもらっている。三浦は「今日は何をするんですかー」とぴょんぴょん飛び跳ねていて、コイツはいつも通り元気だなあと。
「さっちゃんゴメンね、うちの調子が良くなくて今日はあんまり動けないからさ」
「えっ、どーしたんですか」
「うちね、足首のケガがクセになってて、日によっては痛くて走れなかったりもするんだよ」
「えー! そうだったんですかー!」
「慧梨夏サン足に爆弾持ってたんすね」
「そうなんだよー」
確かに、よく思い返してみると慧梨夏サンはバッシュをはく前に足首用のかなり頑丈なサポーターを巻いていたように思う。プラスチックの骨なんかがあったりもして、サポーターと言うよりプロテクターにも見える。
とにかく、そんな理由で慧梨夏サンのコンディションが良くない。そうなれば、誰が三浦の相手をすることになるのかと。……まあ、慧梨夏サンに完全にロックオンされてるのには気付いてないフリをしてたいじゃん?
「く~げっち~、さっちゃんの相手してあげてくれないかな~」
「うわっ、マジすか」
「鵠沼クーン、お願いしまーす」
「で、何したらいいんすか」
「ボールハンドリングとドリブルメニュー、パスメニュー、ピボットまでとりあえず」
「意外にいろいろやってんすね」
慧梨夏サンも座って出来る範囲のことと監督をしつつ、パスや何かの相手が要ることには俺がしっかりと付き合う。慧梨夏サンの教え方がいいのか三浦の飲み込みが早いのか、これらの基礎メニューは思った以上に様になっていた。初心者っぽくはあるけど、ひと月前に始めたとは思えない。
時折、「指先意識ー!」とか「腰落としてー!」などと慧梨夏サンの声が飛ぶ。慧梨夏サンはその気になればミニバスの指導者とかにもなれるんじゃないかと思う。ここが小学校であるだけに、そういう想像は簡単だ。
「ひゃー!」
「あっ、悪い三浦」
バウンドパスの練習に入ったときのこと。三浦から来たパスを返したつもりが、ボールは構える三浦の手の下を勢いよくすり抜けていく。原因は、俺がバウンドさせる位置を見誤ったこと。要は反射角やら何やらの関係だ。
当然、初心者相手の練習では経験者がある程度気を遣ってやらないといけない。それに、パスを出すだけではなくて受けてからの動きなんかも慧梨夏サンのメニューには当然入っていて、思わぬところにボールが飛んで来れば慣れない三浦では対応が出来なくなる。
「鵠っち、初心者用メニューだからってちょっと気抜いてる?」
「気は抜いてないっすけど、確かに細かいことの意識はあんまりしなくなってたっすよね」
「改めて気を付けてね。さっちゃーん、試合中とかで走りながらだったらパスコースが乱れることもあるからねー」
「はーい!」
「どっこいせ。鵠っち、さっちゃん、ステージの上」
「はーい」
「うす」
「それじゃあ、三角形になるように座ろっか」
3人で三角形になるように座れば、そこから始めるのはパスやシュートのフォロースルーの練習。座りながらでも出来るから、ここからは慧梨夏サンも参加する。どうやら三浦にとっても初めてやることだったらしく、何が始まるんだときゃっきゃしている。
「鵠っち、指先が雑」
「うす」
「慧梨夏サン足だいじょーぶなんですか?」
「走るとちょっと痛いけど、大丈夫だよ」
「足痛くても練習できることはあるんですね!」
「三浦、この人足使わなくてもスリー届くからな」
「えー! どうやるんすか! 怪力なんすか!」
「バネと手首と指先だよね」
これから梅雨に入るし、低気圧でこんな日も増えるかもねえと慧梨夏サンは来たる梅雨を憂いつつ、基礎をみっちりやるのはケガをしないためでもあるんだよーと三浦に説く。俺は爆弾らしい爆弾を持ってないけど、ケガ持ちの人は大変だなと思う。
「慧梨夏サン足痛くなったら雨降るとかってわかるんですか!?」
「んー、うちはわかんないけど、カズは足痛くて雨降りそうってわかることもあるよ」
「えっ、かれぴっぴさん雨雲レーダー付きっすか!」
「何か洗濯するのに役立ててるみたい」
end.
++++
さとちゃんの誕生日云々ぬフラグを立てておきながら、実際にはGREENsです。日曜日はそうなりがち。
慧梨夏は足首に爆弾持ちです。ザムストなんかをしてる感じだけど、今年もさっちゃんがザムストに興味を持って自爆するのだろうか……
何やかんやさっちゃんに付き合ってあげてる鵠さんがやっぱりゼミがどうこうってなる前から保護者属性だなあ
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「あー……」
「慧梨夏ちゃん、大丈夫?」
「ちょっと足がしんどい感じです」
「足首?」
「そうですね。今日は大人しくしてます」
「うん、そうしたらいいよ」
体育館のステージに腰掛けて、慧梨夏サンはぐるぐると足首を回す。その表情はあまり芳しくない。こんな様子の慧梨夏サンに心当たりがあるのは伊東サンで、慧梨夏サンにボールだけ渡してそのまま座っているように促した。
大学からバスケを初めた三浦は、サークルの度に慧梨夏サンからバスケの基礎を教えてもらっている。三浦は「今日は何をするんですかー」とぴょんぴょん飛び跳ねていて、コイツはいつも通り元気だなあと。
「さっちゃんゴメンね、うちの調子が良くなくて今日はあんまり動けないからさ」
「えっ、どーしたんですか」
「うちね、足首のケガがクセになってて、日によっては痛くて走れなかったりもするんだよ」
「えー! そうだったんですかー!」
「慧梨夏サン足に爆弾持ってたんすね」
「そうなんだよー」
確かに、よく思い返してみると慧梨夏サンはバッシュをはく前に足首用のかなり頑丈なサポーターを巻いていたように思う。プラスチックの骨なんかがあったりもして、サポーターと言うよりプロテクターにも見える。
とにかく、そんな理由で慧梨夏サンのコンディションが良くない。そうなれば、誰が三浦の相手をすることになるのかと。……まあ、慧梨夏サンに完全にロックオンされてるのには気付いてないフリをしてたいじゃん?
「く~げっち~、さっちゃんの相手してあげてくれないかな~」
「うわっ、マジすか」
「鵠沼クーン、お願いしまーす」
「で、何したらいいんすか」
「ボールハンドリングとドリブルメニュー、パスメニュー、ピボットまでとりあえず」
「意外にいろいろやってんすね」
慧梨夏サンも座って出来る範囲のことと監督をしつつ、パスや何かの相手が要ることには俺がしっかりと付き合う。慧梨夏サンの教え方がいいのか三浦の飲み込みが早いのか、これらの基礎メニューは思った以上に様になっていた。初心者っぽくはあるけど、ひと月前に始めたとは思えない。
時折、「指先意識ー!」とか「腰落としてー!」などと慧梨夏サンの声が飛ぶ。慧梨夏サンはその気になればミニバスの指導者とかにもなれるんじゃないかと思う。ここが小学校であるだけに、そういう想像は簡単だ。
「ひゃー!」
「あっ、悪い三浦」
バウンドパスの練習に入ったときのこと。三浦から来たパスを返したつもりが、ボールは構える三浦の手の下を勢いよくすり抜けていく。原因は、俺がバウンドさせる位置を見誤ったこと。要は反射角やら何やらの関係だ。
当然、初心者相手の練習では経験者がある程度気を遣ってやらないといけない。それに、パスを出すだけではなくて受けてからの動きなんかも慧梨夏サンのメニューには当然入っていて、思わぬところにボールが飛んで来れば慣れない三浦では対応が出来なくなる。
「鵠っち、初心者用メニューだからってちょっと気抜いてる?」
「気は抜いてないっすけど、確かに細かいことの意識はあんまりしなくなってたっすよね」
「改めて気を付けてね。さっちゃーん、試合中とかで走りながらだったらパスコースが乱れることもあるからねー」
「はーい!」
「どっこいせ。鵠っち、さっちゃん、ステージの上」
「はーい」
「うす」
「それじゃあ、三角形になるように座ろっか」
3人で三角形になるように座れば、そこから始めるのはパスやシュートのフォロースルーの練習。座りながらでも出来るから、ここからは慧梨夏サンも参加する。どうやら三浦にとっても初めてやることだったらしく、何が始まるんだときゃっきゃしている。
「鵠っち、指先が雑」
「うす」
「慧梨夏サン足だいじょーぶなんですか?」
「走るとちょっと痛いけど、大丈夫だよ」
「足痛くても練習できることはあるんですね!」
「三浦、この人足使わなくてもスリー届くからな」
「えー! どうやるんすか! 怪力なんすか!」
「バネと手首と指先だよね」
これから梅雨に入るし、低気圧でこんな日も増えるかもねえと慧梨夏サンは来たる梅雨を憂いつつ、基礎をみっちりやるのはケガをしないためでもあるんだよーと三浦に説く。俺は爆弾らしい爆弾を持ってないけど、ケガ持ちの人は大変だなと思う。
「慧梨夏サン足痛くなったら雨降るとかってわかるんですか!?」
「んー、うちはわかんないけど、カズは足痛くて雨降りそうってわかることもあるよ」
「えっ、かれぴっぴさん雨雲レーダー付きっすか!」
「何か洗濯するのに役立ててるみたい」
end.
++++
さとちゃんの誕生日云々ぬフラグを立てておきながら、実際にはGREENsです。日曜日はそうなりがち。
慧梨夏は足首に爆弾持ちです。ザムストなんかをしてる感じだけど、今年もさっちゃんがザムストに興味を持って自爆するのだろうか……
何やかんやさっちゃんに付き合ってあげてる鵠さんがやっぱりゼミがどうこうってなる前から保護者属性だなあ
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