2018
■不可逆リカバリー
公式学年+1年
++++
「果林先輩、ビール貸してもらえますか」
「えっ、タカちゃんビール飲めないでしょ? ってそれ以前に2年生お酒禁止だよね? ヒゲにバレたらアタシが」
「あ、いえ、飲むわけではなく」
佐藤ゼミでは恒例になっている初夏のバーベキュー行事。これは佐藤ゼミの2、3、4年がみんな集まって親交を深めようというイベントだ。さすがに4年生は就活の都合もあるから参加は任意らしいけど、2・3年はみんないる。
今日は買い出しから肉の争奪戦までいろいろあって、そろそろ鉄板の上で焼きそばを焼こうぜという段階に来ていた。まあ、俺たちは酒に予算を割けない分食い物が豊富でぶっちゃけ食い切れてない。
この焼きそばに計画段階から気合いを入れていたのが高木だ。ソースはオタフクじゃないと許せないだの具は何がいいだのと、もはや焼きそば奉行とも言えるこだわりっぷり。で、焼く段階に来て何かが足りないと席を立ったのだ。
「鵠さん、3年生からビールもらってきた」
「ん? 何すんだそれ」
「俺に任せといて」
言うが早いか、高木は肉やそばたちが乗る鉄板の上に缶ビールをぶちまけ始めた。俺はもちろん止めるよな。お前何やってんだ、気でも狂ったかと。だけど高木は至って冷静沈着。これも必要な行程だからと。
「いや、つか俺酒一滴も飲めないじゃん!? 焼きそば食える気がしなくなってきた」
「アルコールは焼いてるうちに飛ぶから大丈夫だよ」
「本当かよ」
「鵠さん、去年の大学祭でMBCCの焼きそばって食べた?」
「ああ、食った。あれはマジで美味かったじゃんな」
「その焼きそばを作る感じでやってるから俺に任せて」
MBCCの焼きそばと言えば、去年の学祭では売り上げ・ブースの人気共に圧倒的トップでブース賞を取ったガチなヤツだ。俺も毎日食う程には美味かったし、何より100円でこれかよっていうコスパ。
その焼きそばを作る感じでやっていると言われれば、じゃあ高木に任せてみるかと。同時に、高木の焼きそばに対する異様なまでの自信はここから来ていたのかとちょっと納得した。MBCCの名前はラジオ以外でも通用するのか。
「2年生の焼きそばも分けてもらっちゃおうかな」
「あ、果林先輩」
「つか実際みんな結構腹いっぱいっつってるんで、千葉ちゃんに加勢してもらえれば助かるっす」
麺の焼ける音につられてきたのか、箸と器を持って千葉ちゃんがやってきた。最早このバーベキュー場にいる大多数が食うことを一段落している中、千葉ちゃんは延々と食い続けている。
学食でバイトをしてるからやたら食う女子がいるとは知ってたけど、それが千葉ちゃんだったらしい。3年生の網はもちろん食い尽くされているし、じゃあ食材余らせてる2年のところに行ってみようかというところだろうか。
「網奉行は鵠さんだったけど、焼きそばはタカちゃんが仕切ってるんだね」
「高木が異様にこだわるんで。それに、去年学祭で作ってたって言うんで任せてみても大丈夫かなと」
「あれっ、タカちゃん去年学祭でほとんど調理やってなくない? 1日目は番組集中してたし2日目以降は売り子メインだったし」
「千葉ちゃん、マジすか」
「2日目以降は緑大準ミスターの焼く焼きそばって売ってたから」
千葉ちゃんの証言では、MBCCの焼きそばで実際に使っていたのはビールじゃなくてちゃんとした料理酒だし、高木がやるように缶ビール1本をまるまるぶちまけるんじゃなくてきっちり計量していたそうだ。
よほどのことをしない限り失敗はないだろうけど、その話を聞くと少し不安になってくる。ソースはオタフクじゃないと認められないという主張は去年から一貫しているようだけど、途端に煙が暗雲に見えてくる。
「レシピの開発や試作は俺もやってますし……大丈夫じゃないかなーって。焼きそばは普段から作ってますし……」
「最近はエージが作ってるよね?」
「ま、まあ、ソースをかければ味は整います」
「タカちゃん、ビール以外に何かした? 味付けとか」
「味付けはまだです」
「じゃあまだイケる。鵠さん頑張って」
「えっ、俺が頑張るんすか!? 千葉ちゃんが何かしてくれるとか」
「だって2年生の網だし」
「ええー……」
結局、俺は高木がこれ以上やらかさないかと心配で忙しくしていたし、屋根の外で遊んでいる奴に焼きそばが焼けるぞと号令をかける。千葉ちゃんは鉄板の空いたスペースの上ででウインナーを焼いて食っている。そのうち高木まで箸と器を持ってスタンバイを始めるのだ。
「鵠さん頑張って」
「いや、お前はあんだけ言ってたんだから最後まで責任持てよ」
「ソースかけるのだけ頑張るから」
「バカじゃん!? なあ」
end.
++++
焼きそばと言うかソースにこだわりを見せるTKGと幹事・鵠さんとの戦いです。やりたい放題じゃねーかTKGめ
そう言えばMBCCの焼きそばは何かすごかったらしいけど、タカちゃんは女装で売り子をしていたので確かに調理にはあまり携わってなかったですね
そして最終的に調理すら放棄するTKGであった……鵠さんもっと怒っていい
.
公式学年+1年
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「果林先輩、ビール貸してもらえますか」
「えっ、タカちゃんビール飲めないでしょ? ってそれ以前に2年生お酒禁止だよね? ヒゲにバレたらアタシが」
「あ、いえ、飲むわけではなく」
佐藤ゼミでは恒例になっている初夏のバーベキュー行事。これは佐藤ゼミの2、3、4年がみんな集まって親交を深めようというイベントだ。さすがに4年生は就活の都合もあるから参加は任意らしいけど、2・3年はみんないる。
今日は買い出しから肉の争奪戦までいろいろあって、そろそろ鉄板の上で焼きそばを焼こうぜという段階に来ていた。まあ、俺たちは酒に予算を割けない分食い物が豊富でぶっちゃけ食い切れてない。
この焼きそばに計画段階から気合いを入れていたのが高木だ。ソースはオタフクじゃないと許せないだの具は何がいいだのと、もはや焼きそば奉行とも言えるこだわりっぷり。で、焼く段階に来て何かが足りないと席を立ったのだ。
「鵠さん、3年生からビールもらってきた」
「ん? 何すんだそれ」
「俺に任せといて」
言うが早いか、高木は肉やそばたちが乗る鉄板の上に缶ビールをぶちまけ始めた。俺はもちろん止めるよな。お前何やってんだ、気でも狂ったかと。だけど高木は至って冷静沈着。これも必要な行程だからと。
「いや、つか俺酒一滴も飲めないじゃん!? 焼きそば食える気がしなくなってきた」
「アルコールは焼いてるうちに飛ぶから大丈夫だよ」
「本当かよ」
「鵠さん、去年の大学祭でMBCCの焼きそばって食べた?」
「ああ、食った。あれはマジで美味かったじゃんな」
「その焼きそばを作る感じでやってるから俺に任せて」
MBCCの焼きそばと言えば、去年の学祭では売り上げ・ブースの人気共に圧倒的トップでブース賞を取ったガチなヤツだ。俺も毎日食う程には美味かったし、何より100円でこれかよっていうコスパ。
その焼きそばを作る感じでやっていると言われれば、じゃあ高木に任せてみるかと。同時に、高木の焼きそばに対する異様なまでの自信はここから来ていたのかとちょっと納得した。MBCCの名前はラジオ以外でも通用するのか。
「2年生の焼きそばも分けてもらっちゃおうかな」
「あ、果林先輩」
「つか実際みんな結構腹いっぱいっつってるんで、千葉ちゃんに加勢してもらえれば助かるっす」
麺の焼ける音につられてきたのか、箸と器を持って千葉ちゃんがやってきた。最早このバーベキュー場にいる大多数が食うことを一段落している中、千葉ちゃんは延々と食い続けている。
学食でバイトをしてるからやたら食う女子がいるとは知ってたけど、それが千葉ちゃんだったらしい。3年生の網はもちろん食い尽くされているし、じゃあ食材余らせてる2年のところに行ってみようかというところだろうか。
「網奉行は鵠さんだったけど、焼きそばはタカちゃんが仕切ってるんだね」
「高木が異様にこだわるんで。それに、去年学祭で作ってたって言うんで任せてみても大丈夫かなと」
「あれっ、タカちゃん去年学祭でほとんど調理やってなくない? 1日目は番組集中してたし2日目以降は売り子メインだったし」
「千葉ちゃん、マジすか」
「2日目以降は緑大準ミスターの焼く焼きそばって売ってたから」
千葉ちゃんの証言では、MBCCの焼きそばで実際に使っていたのはビールじゃなくてちゃんとした料理酒だし、高木がやるように缶ビール1本をまるまるぶちまけるんじゃなくてきっちり計量していたそうだ。
よほどのことをしない限り失敗はないだろうけど、その話を聞くと少し不安になってくる。ソースはオタフクじゃないと認められないという主張は去年から一貫しているようだけど、途端に煙が暗雲に見えてくる。
「レシピの開発や試作は俺もやってますし……大丈夫じゃないかなーって。焼きそばは普段から作ってますし……」
「最近はエージが作ってるよね?」
「ま、まあ、ソースをかければ味は整います」
「タカちゃん、ビール以外に何かした? 味付けとか」
「味付けはまだです」
「じゃあまだイケる。鵠さん頑張って」
「えっ、俺が頑張るんすか!? 千葉ちゃんが何かしてくれるとか」
「だって2年生の網だし」
「ええー……」
結局、俺は高木がこれ以上やらかさないかと心配で忙しくしていたし、屋根の外で遊んでいる奴に焼きそばが焼けるぞと号令をかける。千葉ちゃんは鉄板の空いたスペースの上ででウインナーを焼いて食っている。そのうち高木まで箸と器を持ってスタンバイを始めるのだ。
「鵠さん頑張って」
「いや、お前はあんだけ言ってたんだから最後まで責任持てよ」
「ソースかけるのだけ頑張るから」
「バカじゃん!? なあ」
end.
++++
焼きそばと言うかソースにこだわりを見せるTKGと幹事・鵠さんとの戦いです。やりたい放題じゃねーかTKGめ
そう言えばMBCCの焼きそばは何かすごかったらしいけど、タカちゃんは女装で売り子をしていたので確かに調理にはあまり携わってなかったですね
そして最終的に調理すら放棄するTKGであった……鵠さんもっと怒っていい
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