2017(02)

■きらめいた夏のときめき

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 今日は5班の班練習。対策委員での各班の報告では、インフォメーションとリク番練習をやってるところが多々あるという話で盛り上がった。そこで5班も他の班の真似っ子をして、インフォとリクエストの練習を。何てったって日がない。
 ウチの班には、初心者講習会に出ていないマリンとあやめがいる。この2人にいかに分かりやすく伝えるかという練習はこないだMMPの夏季特別活動日にやらせてもらった。
 そして、班練習の日になって気付く。いくら理屈を伝えても、実際に見せないことには伝わらない。MMPの活動日には菜月先輩にお願いしていたアナウンサー役。今日は誰にお願いするかと言えば。

「お願いします、今度こそ圭斗先輩の出番です!」
「お願いします!」
「ますー」

 玉座に鎮座するその人に、ただただ頭を下げるお仕事。俺とマリンとあやめが一列に並んで、お願いしますと頼み続ける。圭斗先輩は向舞祭以後ぐったりした様子で生気が失われているのだけど、ここは粘り強くお願いするしかない。

「アナウンサーならつっちゃんもいるだろう? 僕は見ているよ」
「確かに俊もいますが、ここはやはり圭斗先輩の方がよろしいかと」
「緑ヶ丘のアナウンサーとぐだぐだな僕とでは比べ物にならないだろう」
「そこはやはり3年生の経験をですね……」

 つっちゃんこと津島俊(つしま・しゅん)。緑ヶ丘の2年アナだ。ただ、毎回しっかりサークルに出て来ているレギュラーメンバーというワケではないし、技術面でも緑ヶ丘の2年と言えばと思い起こして顔が出て来る3人よりは特徴が挙げにくいと言うか。
 だからというワケではないし、バテてるだとかぐだぐだだと言ってもやはり圭斗先輩がこれまで培って来られた経験は確かなんだ。仮にもスキー場DJにも行かれたお方である事実には変わりなく。
 そもそも、圭斗先輩がどのような番組をされるアナウンサーなのかということは俺とアオ以外の班員には謎のままなのだ。それと言うのも、番組の見本は昼放送の収録をそのまま見せたから、みんなの印象は菜月先輩のそれのままで。

「何かこう、僕のテンションを上げてくれないと」
「お茶なんて飲んで余裕ぶっこいてやがってますです」
「です」
「圭斗先輩は貢物で動くような方ではないし……どうしよう。マリン、何かある? 一発ギャグとか」
「ないですよ! って言うかテンション上げろとかムチャ振りもいいトコですよ!」
「あやめ、何かある?」
「賭けならできます」

 そう言って、あやめはカバンの中からタブレットを取り出して、それを圭斗先輩の前に翳す。俺たちからは何が表示されているのか全く見えないけれど、それを見た瞬間圭斗先輩は飲んでいたお茶を噴き出しそうになっている。何があった。
 圭斗先輩は必ずしも笑いの閾値が低いというワケではない。これはきっとあやめが見せたものが一気に閾値を超えてきたということなのだろう。そうでなければ「賭け」という表現にもならないはずだ。

「あやめの特ダネに免じて、少しだけやろうかな」
「ありがとうございます! ミキサーは俺が責任を持って務めさせていただきます! ……ところであやめ、何を見せたんだ?」
「これ以上言うと被写体の人に怒られるんです」
「これは確かに怒られるだろうね。僕的にはごちそうさまでしたという気持ちでいっぱいだけど。夏のときめきを表現したいい写真だね」

 圭斗先輩がアナウンサー席に着かれて、ミキサーがやることはまずゲインの調整。しかしまあ、夏バテ中の圭斗先輩の声はか細く、ゲインは余裕でマックスですよねー。

「圭斗先輩、声はこれ以上大きくなりませんか」
「声を出すにも体力が要るのはわかるかい?」
「ええ、それはわかりますが」
「僕はもう体力がないんだよ」
「ですが、やると仰ったからにはせめて1セットだけでもお願いします」


end.


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最近は諏訪姉妹が揃う話がなかなかないので誰かの後ろについて「ですー」などとあやめに言わせる機会もないのですが、班ではマリンの後ろについて喋ってます。
何かもう……圭斗さんて定例会議長ではあるんだけど3年クジとしては実はハズレの部類に入るんじゃないかと思い始めてきた。
ちなみにあやめが賭けで圭斗さんに見せた写真は海でのヤツ。一応言わないということも覚えたようだけど……圭斗さんには筒抜けてしまったワケで。こっしーさん生きて

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