2017(02)

■なんちゃって化学メシ

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 盆休みも明け、大学も人がいないながらに人が戻り始めた頃。オレも休み前までと同じようにゼミ室を拠点とした生活に戻っていた。もちろん、情報センターにいる時間もそれなりに長い。春山さんが実家に帰ったからだ。
 春山さんの帰省中はセンターのバイトリーダー業務がオレに引き継がれる。とは言え、こんな時期に情報センターになど来る学生は疎らだし、下手すれば1日中事務所で待機して終わることもある。
 それはそうと、バイトを中抜けして戻って来たゼミ室だ。朝イチではいなかったと思うが、現在時刻は正午過ぎ。美奈がやってきていたようだ。ソファの前の長机にはエコバッグ。買い物をしてきたのだろう。

「……リン。バイト…?」
「ああ。3時まで休憩をしに戻って来た」
「ご飯は…?」
「これからだ」

 何か手軽に食える物はないか。しかし、カップ麺にもそろそろ飽きが来た頃だ。洋食屋のバイトの方ではパンをよく食べていたから、白い飯があれば一番いいのだが。
 すると、目に飛び込んで来たのは電子レンジで加熱するタイプのレトルト飯。発芽玄米ご飯が3パック。まだ名前は書かれていない。岡本ゼミ冷蔵庫の掟に則れば、無記名の食糧を取られても文句は言えない。

「美奈、これは」
「……私が、買ってきた物……名前は、まだ書いてない……」
「1つ200円でどうだ」
「卵2個とセットで、250円……」
「よし、買おう」

 しかし、言われるがままに卵をセットで買ってしまったが、この卵をどうするか。そのままレンジで温めた飯の上にかければいいのか。いや、すると1個余る。面倒だからそのまま飲むか。いや、あまり気分の良い物でもない。

「目玉焼きか」
「……リンが、料理を…!?」
「む。そこまで驚かんでもよかろう」
「……つい。でも、驚く……」

 オレが料理をしているところを見たいと言って、美奈はこの昼飯作りに一切手出しをしないらしい。いつもなら美奈に何かしらの調理を任せていたところだが、さてどうする。
 目玉焼きを作るところまでは決まっている。早速、適当な鍋に薄く油を敷き、その上に卵を割り入れる。するとどうだ。鍋の中には大なり中なり卵の殻。

「菜箸を使って……」
「この、煩わしい。滑って取れんではないか」
「……そこを、頑張って……」
「ああ、黄身も割れた。予定変更だ。炒り卵にしてやる」

 入り込んだ卵の殻は比較的大きかったこともあって手で取り除き、急いで持ち直した菜箸で鍋の中の卵をぐるぐるとかき混ぜる。炒り卵の作り方はこれでいいだろう。

「リン、味付けは…?」
「ん?」
「今は、目玉焼きベースのまま……このままだと、味が……」
「ええい、これでよかろう」

 ちょうど目に入るところにあったうま味調味料をこれでもかとかける。熱で固まりかける卵の上にさらさらと降り注ぎ、すぐに溶けて馴染む。本来炒り卵は塩などである程度味をつけてから炒るそうだが、今回は致し方ない。

「まあ、食えんことはなかろう」
「見た目は、普通……」

 同時進行で温めていたレトルト飯の上に炒り卵を乗せ、それを食らう。うん、可も不可もない。美奈が「擬似卵かけごはん風に」と言って差し出してくれた醤油をかければ、また違う味。
 うま味調味料と言うだけあって、プレーンの部分もまあ食える味にはなっている。最終兵器と言うか何と言うか、オレが自分の判断で下手なことをするよりも間違いはなかった気がする。そこは自賛しておこう。

「……リンは、目玉焼きの黄身は何派…?」
「オレはしっかり焼いた固い黄身を好む」
「そう……」


end.


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炒り卵を作るリン様の話がやりたくなったというだけのヤツです。唐突にリン美奈。
リン様はあまり料理が得意な方ではないと思うけど、カレーを作る話では結構頑張ってるし、全くできなくはないけどレア度は高そう。
うま味調味料は悪なのか、それなら人工甘味料はどうしたという話をやりたかったのに炒り卵で終わった

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