2017(02)

■華麗なる復活劇の裏には

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「松岡圭斗、復活!」

 向舞祭当日、定例会メンバーはまず自分たちが落ち合って現場入りすることにしていた。それまでの練習で完全に死んでいた圭斗が心配されたけど、落ち合うなりこうだ。復活と上げた声は、それまでの屍からは想像もできないハリとボリューム。

「類義語だろうけど、復活と言うか蘇生って感じだな」
「見た目がまだ痛々しいもん、ご飯食べて来た?」
「ふっ……朝霞君、大石君、何とでも言うといいよ。一度死んで蘇った僕は過去の僕より強化されているよ」

 カオルとちーちゃんが呆れるのも仕方ない。これまでの練習で、俺たちはまともに動けていた圭斗の姿を見ていないのだ。練習が出来ているのかいないのかもぶっちゃけ微妙。だけどどうだ、根拠のない自信に満ち溢れる立ち姿。これでこそ圭斗だぜ!

「こないだの休みで体力が戻った感じか」
「ところがどっこい、先日はムラマリさんに引きずられて海に行く羽目になってね」
「う、うわー、死ぬヤツだ!」
「俺は泳げば元気になるなあ」
「それはそうと、越谷さんと水鈴さんがデートをしていたよ」
「それは見たかった。越谷さん何も言ってくれないし!」
「って言うか圭斗は昨日も死んでたじゃん。あっ、圭斗鳥サブレ鞄の中に入れといたんだけど食べた?」
「あの鳥サブレは僕の復活への贄となったんだよ」
「贄?」

 昨日の練習の後、このまま家に帰ると本格的にマズイと思った圭斗は、ある人と約束を取り付けたらしい。俺が渡した鳥サブレと引き替えに、その人から圭斗の復活に繋がる何かをいただいたとか。

「それがこれだね」
「リポDか。圭斗はリポD派か」
「圭斗、エナジードリンク的なものに頼るのはあんまりよろしくないと思うけど」
「ん、1日2日ならこれに賭けるのも間違いじゃないだろう? どこかのPみたく常用しなければいい」
「おい、それは俺のことか」
「今も当たり前のように持ってるのにそれはどうなの朝霞」
「で、誰と会ってきたの?」
「菜月さんだよ」

 どうやら、盆明けで夏合宿のために帰ってきたなっちさんと晩ご飯を食べてきたらしい。このまま一人で部屋に帰ると何もせずにただただ死んだようにボーッとしてしまうだけだと思った圭斗は、起死回生の賭けに出たのだ。
 なっちさんと一緒に食べたのはラーメン。それはもう夏らしく激辛。その上に辛み増し調味料とニンニクチップをこれでもかとぶちまけるなっちさんに引きずられて圭斗も辛みとニンニクを増したそうだ。
 それまでは普通に食事をすることもままならなかった圭斗だけど、なっちさんに引きずられるように食事をとることに成功。チャーシュー丼に温玉がうまー、とはなっちさんの言葉。ちーちゃんとカオルも美味しそうだなーと羨む目。

「それで、部屋まで彼女を送り届けたときにね。鳥サブレとリポD2本を交換したんだよ。元手はかかってないそうだから快く分けてくれたよ」
「なっち様々じゃないか」
「今日はカロリーメイトゼリーを2つほど飲んで来ただけだけど、まだ元気だよ」
「圭斗、ゼリー系のもので済ますのはあんまりよろしくないってば」
「ん、どこかのPみたくそれで一定期間過ごすわけじゃないから問題ないよ」
「圭斗、お前さては台本書いてるときに飯を食ってる時間がどれだけもったいないか知らないな?」
「ゴーストライターを用意するくらいだもん、知らないと思うなあ」
「それもそうか」
「大石君のマジレスが胸に響くね」

 それはそうとして、本番当日にコンディションを持ってくるところはさすがだし、根拠はないけど何とかしてくれるんじゃないかって思えてくる。何なんだろうな、でも圭斗を見てるとそんな気がしてくるから怖い。

「月曜日からを多少捨ててでも今日と明日に懸けているということだよ。ご理解いただきたいね」
「圭斗、その気持ちは痛いほどよくわかるぞ! 俺も丸の池の時は」
「ん、そろそろ現場に行こうか?」

 こうして圭斗を先頭に、俺たちの向舞祭が始まろうとしている。今日はまた暑くなることが予想されているし、現場は気温以上の熱気に包まれるだろう。俺たちは向舞祭のスタッフとして、全力でイベントに向き合うのが仕事だ。
 終わってからのことなんて知ったこっちゃない、とは言うけれど……圭斗は夏合宿にも出るんだから向舞祭が終わって死んでる期間は短いに越したことないんじゃないかなあ、なんて余計なことを思ったりもして。いいか、人の事だし本人に任せよう。


end.


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ひょっとして、圭斗さんと朝霞Pって互いに「俺はコイツよりはヤバくない」とでも思っているのではなかろうか
というワケで向舞祭当日、死んでいた圭斗さんが復活しました。と言うかほぼ毎年誰かの食事の仕方参考にしようとして失敗してたのにここにきてまさかの伏兵菜月さん……
ちーあさの圭斗さんイジリが楽しくなってきたところで定例会が頻繁に集まることもなくなるのね。夏の終わりが近付いているよ!

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