2017(02)

■ぶちぎる余韻

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「はー……せっかく人がフェス終わりでいい気分に浸ってたのに」
「そんなこと言わないでよ芹ちゃ~ん、ねっ」
「どうしてお前が北辰にいるんだ、和泉」
「俺もフェスに来てたんだよ。ついでに旅行して、芹ちゃんに会いたいなーって。ご両親に挨拶した方がいいかな、芹ちゃんに似た可愛いお孫さんを作りますって」
「帰れ」

 和泉がフェスにいるのはまあわかる。軽音でバンド組んでるような奴だし、今は大学も夏休み。フェスで遠征するためにバイトを休んでいてもおかしくないし、私でもよっぽど目当てのフェスならそうする。
 それがどうした。実家の近くにいると画像付きで送ってこられた時には夏なのに背筋が凍るかと思ったなど。いや、フェスのために北辰にいるだけならいいんだ。どうして実家の近くの、それも私の行きつけの喫茶店にいるのかと。

「芹ちゃんの好きそうな場所がわかりやすすぎるんだよ。おしゃれなカフェと言うよりは、昔ながらっぽい喫茶店の方が好きでしょ」
「まあな。タバコも吸えて、Wi-Fiが飛んでて長居できて」
「実家近くに何があるって情報があれば芹ちゃんの行きそうな場所くらいはわかるよね。芹ちゃん地元での武勇伝よく語ってくれるし」

 私の向かいでにへらにへらと気持ちの悪い笑みを浮かべる和泉の顔を見ていると無性に腹が立つ。顔面ど真ん中にワンパン食らわしてやってもいいかなー、むしろやるべきだよなー的な。
 この青山和泉とかいう男は私のストーカー、とはちょっと違うな。悪友? 悪友でいいか、そんなような奴だ。周りに煽られて付き合ってみた時期もあるけど、別に付き合っててもなくても何も変わんなくね、という結論に達して関係を解消した。
 付き合っててもなくても何も変わんないので和泉はこのように私の顔を見ては私に似た可愛い娘を作るんだーと気色悪いことを言っているし、私は私で性欲が高まったときに都合良く使ったりしている。
 一応同じ学部学科で同じゼミだけあって興味対象は少し似通っているし、音楽についてもメインジャンルは違えど意気投合した。まあ、その結果の同フェス参戦なんだろうけども。和泉なら私が毎年このフェスにいるって知ってるはずだし。

「でもさ、北辰はやっぱ向島に比べて寒いね! 長袖でも全然平気じゃん」
「向島が暑すぎるんだ」
「まあね。それは否定しない。最北端のエリアと比べちゃいけないよね」
「ところで和泉。私は今、猛烈なバンドやりたい欲に満ち溢れている」
「急だね?」
「ほら、フェスの後で高揚してるから」
「なるほどね。でも、芹ちゃんがバンドなんて、当てはあるの?」
「ない」
「だろうね」

 基本的にはクズだけど、音楽の話をするならやっぱり和泉だ。私が語っても引かないし。バンドをやるにしても方向性の違いってヤツ? それで離散すること数知れず。私はどうやら人を選ぶらしく。知らねーけど。
 それに基本気紛れだ。バンドを組んだからと言って責任をもって長期間やっていられるかと言えば、そうでもない。ちょっとやりたいだけのときもある。酒飲んでジャムジャムやるのの何が悪いんだよぉー!

「――というワケで和泉、私と組め」
「一応俺、軽音のバンドもあるんですけど」
「へーきへーき。軽音は惰性になってきてんだろ? 私と組めば少しは刺激的なバンドライフを送らせてやるぞ!」
「それは魅力的。そうなんだよ、実はちょっとマンネリしてきてたから演劇部の音楽監修を始めたの。劇中歌とかって響き、良くない?」
「良い」
「でしょ? 芹ちゃん映画音楽とかも好きだしいざとなったらアドバイスもらおうかなーって思ってたんだよ」
「お前が引き受けたんだからお前が責任持てよ」
「確かに。あっ、それはそうと。芹ちゃんと組むのはいいけど俺たちドラムとベースじゃん」
「あー、コードなー……まあ、なるようになるだろ!」
「うん、知ってた!」

 私と同等に音楽を語れてコード進行の出来る奴、となると……よし、奴にも何だかんだ弱点はある。シフトで脅そう。バイトリーダーナメんな。

「芹ちゃん、この後繁華街案内してよ。せっかくだし飲みたいな」
「おっ、いいな。言っとくけど私の庭だぞ」
「じゃあ今日は便器抱いてマーライオンにならないようにねー」


end.


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秋学期と言えばブルースプリング、ということでちょんと布石。青山さんがついに北辰の地にたどり着いてしまったのであった。不思議じゃない。
バンドがどうしたって話が主なので今回の青山さんはナノスパ比で至って普通かなという感じ。本領発揮されたらサイトに置けんくなるわこの人
さて……今頃リン様はちょっと悪い予感を覚えていたりくしゃみを飛ばしていたりするんやろなというヤツです。Aの字が並ぶ不穏な紙が突きつけられるんやろなあ

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