2017(02)

■お嫁さまの晩ご飯

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 盆は基本的に実家に帰ってるんだけど、所詮俺の実家は同じエリア内。呼ばれて飛び出ててジャジャジャジャーン。慧梨夏からの指示通り、ご飯を作る準備をして慧梨夏の部屋に上がりましたよね、合鍵使って。そしたら。

「カーズー、ただいまー!」
「お邪魔しまーす」
「……あの、慧梨夏。……どちら様?」
「うちのオン友のアヤちゃん。コスプレイヤーの玉置アヤって言ったらその界隈では有名人で」
「俺はその界隈の人間じゃないからな」
「こんにちはー、玉置アヤこと綾瀬香菜子ですー。たまちゃんにはいつもお世話になってますー」
「あ、えーと慧梨夏の彼氏の伊東一徳です」

 ――とまあ、慧梨夏がオンでの友達を引き連れて帰ってきましたよね。それもすっげー美人。手には戦利品の数々。そう、この2人が行っていた先はこの国最大の同人誌即売会、通称コミフェ。最近じゃニュースでも取り上げられてますよね。
 2人は小説(と少しの漫画)にコスプレと、活動形態が違うのに何故か意気投合して現在に至っている。アヤさんは慧梨夏のサークルの売り子などもやってくれているらしく。俺には何のことだかさっぱりということにしておいてもらわないと生きて返せませんね!
 で、コミフェから帰って戦利品の消化や互いの戦況報告をするのに部屋に帰ったものの、美味しいご飯も食べたいなあと召集されたのが俺というワケだ。ちなみにコミフェ中は東都に住んでる慧梨夏の姉ちゃんの部屋に居候していたそうだ。

「はいカズお土産」
「行ったのが東都なのに鳥サブレって。いや、好きだけど。ありがとう」
「前乗りついでに聖地巡礼したんだよ。量食べれなかったら友達に配ってもいいし」
「その辺必要量以上用意するのはGREENsっぽいと言うか」

 もらった鳥サブレをかじりつつ、議題はこれから作る夕飯について。慧梨夏しかいないとばかり思ってたから適当な材料しか買ってきていない。お客さんがいるならそのように言っといてくれればもう少し張り切ったのに。
 お察しかと思いますが、短い実家暮らしの間にも張り合いをなくしてしまってるんですね。京子さんのご飯も美味しいけど、いざ作らなくてよくなるとだらけちまうって言うか。最近は部屋のフローリングに寝そべって張り付いてる生活だし。

「あの、アヤさんはこれが好きとか食べたいとかってありますか? もしあればそのように作りますけど」
「ねえたまちゃん彼氏さん本当に主婦! 嫁!」
「旦那候補がなかなかもらってくれないのよー。それはそうと、アヤちゃん好きなものリクエストしてあげて。多分今なら何でもやってくれるから」
「えっと……それじゃあ、オムライスが食べたいです」
「わかった。作ってくるし、慧梨夏の相手をお願いします」

 オムライスかー。オムライスは作るってより食う専門なんだよなー。それもこれも浅浦のオムライスが美味すぎるのが悪い。とは言え俺も作れないワケじゃない。あーでも、オムライスやるならサラダとスープは必須だな。
 あ、オムライスって一言で言ってもいろいろあるよな。それで外しても申し訳ないし、一応その辺も聞いといてみようか。卵とかご飯とか、ソースもいろいろ。俺の思うオムライスがアヤさんには外れかもしれないし。慧梨夏はいいにしても。

「あの、アヤさんちょっといいですか?」
「はーい」
「オムライスのご飯は普通のチキンライスで大丈夫ですか?」
「普通じゃないチキンライスもあるんですか?」
「えっと、バターライスとかガーリックライスとか」
「チキンライスしか知らないので大丈夫です」
「えっと、卵はタンポポか薄焼きで巻くのかは」
「タンポポが好きです」
「ソースはどうしましょう。普通のケチャップとか、デミグラスソースとか」
「デミで食べてみたいです!」
「わかりました」

 聞く物を聞いて台所に戻ると、また嫁とか良妻賢母とかいう縁起でもない単語が聞こえた気がしましたけど、聞かなかったことにしましたよね。そうとなったらさっそくコンソメご飯を炊かないと。
 普通に考えりゃこれだけのために呼び出されて怒るところなんだろうけど、むしろ向舞祭の練習か床に張り付くかっていう生活の中に張り合いをもらってありがたくもある。よく解釈しすぎかな。何だかんだ俺はお嫁様に弱いんですよ。


end.


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今年度2度目とは言え、本領を発揮するのはここからなカナコ。いち氏もいつも通りの働きだぞ!
そして、いち氏とオムライスと言えば浅浦雅弘の存在である。慧梨夏にとっても浅浦クンのオムライスは外食という認識である。
実家でのいち氏はお部屋で冷房も付けずにフローリングの床に張り付いて寝そべっているというだけの怠惰なヤツ

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