2017(02)
■Stars Sheep Sleep
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流星群が近付いているんだなあと思うのは、夜になって菜月先輩から電話がかかってきたときだ。今はお盆で菜月先輩は実家のある緑風エリアに戻っている。今は日付の変わる少し前で、電話は実家の自室から。
菜月先輩という人は星を見ることが好きなのだ。そこまで詳しいかと言われればそうでもないけれど、理科の授業で習った程度の人よりはちょっと知っているという程度。本人曰くライト派とのこと。
流星群が近付くと、菜月先輩はそれを観測しようとする。俺は電話越しで付き合うことが定期イベントと化していた。だからと言って俺が星に詳しくなることはなかったのだけど、流れ星が見えたと言ってはしゃぐ菜月先輩はとても可愛らしい。
『元々観測条件は良くないけど、それにしても天気が微妙すぎる』
「緑風はどのような天気なのでしょう」
『雲が張ってて星が見えない』
「それは流星群の観測には致命的ではないでしょうか」
『最近は変な天気も多いだろ。星港なんてよく水没してるじゃないか』
「ゲリラ豪雨ですね」
『あれなんて結構な短時間で雲がなくなるなんてこともザラだし、もう少し粘ってみようと思って。雨は降ってないんだ』
俺は菜月先輩が最初に言ったように北東の方を向き、雲ひとつない青浪の空を見上げた。星港市の中心を過ぎてしまえば向島エリアは田舎だ。俺の住む青浪市も例外になく。月明かりはあるけれど、星も見える。
向島から見ると山を隔てて(と言うか山浪エリアを挟んで)北に位置する緑風エリアは、向島と比べると雨の日が多いそうだ。弁当忘れても傘忘れるなという言葉もあるとかないとか。現在の緑風エリアは、雨こそ降っていないけれど雲が張っている。それがすぐに流れてくれれば。
俺は母さんの職場が科学館であるという関係で、そこを遊び場にしていたような子供だった。科学的なことには今でもとても興味がある。だけど、天体や星座と言った事柄になると途端に弱くなってしまうのだ。プラネタリウムの寝心地が良すぎるのが悪いと結論づけている。
その話をした時に、菜月先輩は「この偏屈理系男め」とローキックをかましてきた。贅沢者めとさらに追い打ちを。プラネタリウムに行きたいなあという話も常々聞いてきた身としては、寝心地のことを言ってはいけなかったのかもしれない。
『明日の天気は一応曇りのち晴れだし、少し早く雲が晴れないかなあ』
「晴れるまで起きていられるかですね」
『それな。こっちに来て、短期のバイトを始めたんだ』
「そうだったのですか。ちなみに、どんなアルバイトを」
『お盆のオードブルの盛りつけなんだけど。それが朝の6時からなんだ。流星群は見たいけど早く寝ないといけないのもわかってるんだ』
「それでしたら時間を決めた方がよろしいですね。ちょうど日付が変わりましたし、きっかり1時までにしましょう。菜月先輩の明日に支障が出てしまっては元も子もありません」
『わかった』
そうして星を見上げる間にも、菜月先輩はアルバイトの話をしてくれた。それは練り物を主体にした店のオードブルで、揚げ物も多い。はじめの頃は美味しそうだなと思っていたけれど、1日経った頃にはそれを見るのも嫌になっていたこと。
ただ、見るだけで嫌になっていたのは2日目がピーク。今日は3日目だったそうだけど、今では捨てる切れ端の部分をお店の人の許可を得てつまみ食い出来るまでになったことなどを話してくれた。練り物とチーズの組み合わせは最高というのには同意。
自分でも真似できそうな物もあったし、お弁当を作る機会があればやってみたいけどその機会はなかなか、と。言わないけど、個人的には菜月先輩の作るお弁当なんて食べた過ぎて死んでしまいそうだし、一瞬で2人で築く家庭が妄想出来てしまうのでアレ。
「あっ、ひとつ流れた気がします」
『こっちは全然晴れる気配がない。……ふぁ』
「菜月先輩、もしかしておねむでいらっしゃいますか? まだ0時半ですが」
『お前の声を聞いてたら眠くなるのを失念していた』
「ですが、明日の朝もお早いのであれば、このまま喋り続けましょうか。菜月先輩はどうぞ寝落ちしてください」
『なあノサカ』
「いかがいたしましたか」
『そっちに戻ったら、プラネタリウムを見に行くのに付き合ってくれ』
「それが菜月先輩のご希望であれば、喜んで」
それが菜月先輩のご希望であれば、母さんに目撃されてどやこやということは耐えられる…! あとはプラネタリウムのシートで寝てしまわないように訓練するだけだ。
『うー……ねむい……ひつじがー、いっぴきー』
「……羊が2匹、羊が3匹」
むにゃむにゃと、ぐずるような菜月先輩の声は電話越しでだけ聞ける特別な物。流れ星は見られなかったようだけど、それを見越してプラネタリウムの約束を取り付けたんだろうし、今は気持ちよく眠っていただくために羊を数えて。
「羊がにじゅ、……おやすみなさい」
end.
++++
流星群+ナツノサとかいうナノスパのテッパン。ノサカの声でおねむになっちゃう菜月さんという様式美付き。
菜月さんが短期のアルバイトをしているようです。ここで稼いだお金が圭斗さんへのおみや(9月)に繋がるのかしら
そういや科学館に女の子連れとかノサカにとっちゃ自爆にも等しい賭けなんでしたね……果たして生き延びることはできるか
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流星群が近付いているんだなあと思うのは、夜になって菜月先輩から電話がかかってきたときだ。今はお盆で菜月先輩は実家のある緑風エリアに戻っている。今は日付の変わる少し前で、電話は実家の自室から。
菜月先輩という人は星を見ることが好きなのだ。そこまで詳しいかと言われればそうでもないけれど、理科の授業で習った程度の人よりはちょっと知っているという程度。本人曰くライト派とのこと。
流星群が近付くと、菜月先輩はそれを観測しようとする。俺は電話越しで付き合うことが定期イベントと化していた。だからと言って俺が星に詳しくなることはなかったのだけど、流れ星が見えたと言ってはしゃぐ菜月先輩はとても可愛らしい。
『元々観測条件は良くないけど、それにしても天気が微妙すぎる』
「緑風はどのような天気なのでしょう」
『雲が張ってて星が見えない』
「それは流星群の観測には致命的ではないでしょうか」
『最近は変な天気も多いだろ。星港なんてよく水没してるじゃないか』
「ゲリラ豪雨ですね」
『あれなんて結構な短時間で雲がなくなるなんてこともザラだし、もう少し粘ってみようと思って。雨は降ってないんだ』
俺は菜月先輩が最初に言ったように北東の方を向き、雲ひとつない青浪の空を見上げた。星港市の中心を過ぎてしまえば向島エリアは田舎だ。俺の住む青浪市も例外になく。月明かりはあるけれど、星も見える。
向島から見ると山を隔てて(と言うか山浪エリアを挟んで)北に位置する緑風エリアは、向島と比べると雨の日が多いそうだ。弁当忘れても傘忘れるなという言葉もあるとかないとか。現在の緑風エリアは、雨こそ降っていないけれど雲が張っている。それがすぐに流れてくれれば。
俺は母さんの職場が科学館であるという関係で、そこを遊び場にしていたような子供だった。科学的なことには今でもとても興味がある。だけど、天体や星座と言った事柄になると途端に弱くなってしまうのだ。プラネタリウムの寝心地が良すぎるのが悪いと結論づけている。
その話をした時に、菜月先輩は「この偏屈理系男め」とローキックをかましてきた。贅沢者めとさらに追い打ちを。プラネタリウムに行きたいなあという話も常々聞いてきた身としては、寝心地のことを言ってはいけなかったのかもしれない。
『明日の天気は一応曇りのち晴れだし、少し早く雲が晴れないかなあ』
「晴れるまで起きていられるかですね」
『それな。こっちに来て、短期のバイトを始めたんだ』
「そうだったのですか。ちなみに、どんなアルバイトを」
『お盆のオードブルの盛りつけなんだけど。それが朝の6時からなんだ。流星群は見たいけど早く寝ないといけないのもわかってるんだ』
「それでしたら時間を決めた方がよろしいですね。ちょうど日付が変わりましたし、きっかり1時までにしましょう。菜月先輩の明日に支障が出てしまっては元も子もありません」
『わかった』
そうして星を見上げる間にも、菜月先輩はアルバイトの話をしてくれた。それは練り物を主体にした店のオードブルで、揚げ物も多い。はじめの頃は美味しそうだなと思っていたけれど、1日経った頃にはそれを見るのも嫌になっていたこと。
ただ、見るだけで嫌になっていたのは2日目がピーク。今日は3日目だったそうだけど、今では捨てる切れ端の部分をお店の人の許可を得てつまみ食い出来るまでになったことなどを話してくれた。練り物とチーズの組み合わせは最高というのには同意。
自分でも真似できそうな物もあったし、お弁当を作る機会があればやってみたいけどその機会はなかなか、と。言わないけど、個人的には菜月先輩の作るお弁当なんて食べた過ぎて死んでしまいそうだし、一瞬で2人で築く家庭が妄想出来てしまうのでアレ。
「あっ、ひとつ流れた気がします」
『こっちは全然晴れる気配がない。……ふぁ』
「菜月先輩、もしかしておねむでいらっしゃいますか? まだ0時半ですが」
『お前の声を聞いてたら眠くなるのを失念していた』
「ですが、明日の朝もお早いのであれば、このまま喋り続けましょうか。菜月先輩はどうぞ寝落ちしてください」
『なあノサカ』
「いかがいたしましたか」
『そっちに戻ったら、プラネタリウムを見に行くのに付き合ってくれ』
「それが菜月先輩のご希望であれば、喜んで」
それが菜月先輩のご希望であれば、母さんに目撃されてどやこやということは耐えられる…! あとはプラネタリウムのシートで寝てしまわないように訓練するだけだ。
『うー……ねむい……ひつじがー、いっぴきー』
「……羊が2匹、羊が3匹」
むにゃむにゃと、ぐずるような菜月先輩の声は電話越しでだけ聞ける特別な物。流れ星は見られなかったようだけど、それを見越してプラネタリウムの約束を取り付けたんだろうし、今は気持ちよく眠っていただくために羊を数えて。
「羊がにじゅ、……おやすみなさい」
end.
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流星群+ナツノサとかいうナノスパのテッパン。ノサカの声でおねむになっちゃう菜月さんという様式美付き。
菜月さんが短期のアルバイトをしているようです。ここで稼いだお金が圭斗さんへのおみや(9月)に繋がるのかしら
そういや科学館に女の子連れとかノサカにとっちゃ自爆にも等しい賭けなんでしたね……果たして生き延びることはできるか
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