2017(02)
■背中越しの反省会
++++
あれだけ賑やかだったのがまるで夢だったかのように静かになった公園。ヒグラシがカナカナと鳴いている。夕方6時、空はまだ明るい。だけど俺はまだ夢うつつ。
ステージも、その後の班長会議もすべてが終わって、朝霞クンは腰が抜けたようにすとんとベンチに座り込んだまま動かなくなってしまった。よくあるステージ後の気絶にも似た――ううん、今回は意識がある分まだいい。
「朝霞クン、まだ帰らない?」
「ん……帰ろうとは思ってる」
「立てる?」
朝霞クンはこのステージに向けてあらゆる物をなげうってきた。食事の時間も、睡眠時間も。授業の時間もだ。その反動で動けなくなってしまうのかもしれない。傍らには、レッドブルの缶。ステージは1日1時間、それが2日間。
それだけやれたことに対する充実感はある。俺はこれが終わってしまったことでどこかぽっかりとしてしまったような感情があって、余韻や感傷に浸りたいと思う。だけど朝霞クンの心はすでに次に向かっていることも、俺はわかっている。
「朝霞クン、帰ろう」
「ん」
帰ろうとは思っているのに、体の方がついてこないようだ。俺はそんな朝霞クンの前に背を向けてしゃがみ込む。成人男性とは言え今の朝霞クンはそこらの女の子よりちょっと重いくらいだと思うから。
「朝霞クン、乗って」
「いや、さすがにそこまでは」
「雄平さんみたいな安定感はないかもしれないけど。ずっとそこに座ってたら虫に食われちゃうし、日も暮れるよ。帰ろうとは思ってるんでしょ? 一緒に帰ろう」
肩から胸元に朝霞クンの腕がぶら下がってくる。その提案をを受け入れてくれるのだと。小さいよいしょの掛け声と同時に立ち上がる。ここから朝霞クンの部屋までは地下鉄6駅分。さすがにその距離をこの状態で歩くのはキツいから、最寄り駅まで。
背中での朝霞クンはまるでご飯を食べているときのように静かだ。俺が一方的に喋ってるのに対して、たまに「ん」と返事をしてくれる。だけど、時々首筋に朝霞クンの髪がさわさわ触れるから、ぐったりしているみたいだ。
「ねえ朝霞クン。俺たち4人、頑張ったよね」
「ん」
「つばちゃんのケーブル捌きも冴えてたし、何がビックリって、ゲンゴローって本番にすっごく強いんだね!」
「ん」
「ゲンゴローはまだまだ伸びるだろうし、今後が楽しみだね~」
「ん」
「俺、すっごく輝いてたでしょ? ……ねえ、朝霞クン。俺、ステージスターらしく輝いてたでしょ?」
この問いに対して朝霞クンは黙り込んだまま。それをシカトする判断力、つまり元気はある、と。
丸の池公園は地下鉄とJRの駅の目と鼻の先にある。そんなことを話している間に、もう地下鉄の駅の出入り口に着いてしまった。さすがにこの状態で階段を下るのはしんどいから、エレベーターのある出口を選んで。
「朝霞クン、地下鉄入るよ」
「……山口」
「なに?」
「ひと駅、歩かないか」
「もうエレベーター止めちゃったよ。朝霞クン、歩けるの?」
ステージの後遺症とだるさからか、少し掠れたか細い声。俺の肩からだらりと下がっていた両腕が、きゅっと胸元で輪を作る。このまま降りたくないという意志表示なのかな。
「まだもうちょっとしんどいの。でもひと駅歩きたい」
「ん」
「俺ともうちょっとお喋りしてたいんだね~」
「……ん」
「朝霞クンがデレてる! 今朝霞クンの顔見れないのすっごい残念なんだけど。あっ、エレベーターの中鏡あったよね確か! あイタっ。ちょっと朝霞クン、俺の上で暴れないで~。って言うかそれだけ元気なら実は歩けるデショ?」
無駄に止めてしまったエレベーターに背中を向け、地下鉄ひと駅分を歩き出す。元々家まで一緒に行く気ではいるけど、朝霞クンを背負ったまま歩くのがひと駅で済めばいいなあ。
「まあいいか。さ、歩こ~」
「ん」
「ナニ喋ろっか。今回のステージでの俺の活躍とかにする~? ……あの、シカトはやめて、さすがに傷つくよ」
「……調子に乗るなよ、自称ステージスター」
「う~ん、その声で耳元で言われるのも怖すぎるから勘弁してして~」
「ん」
end.
++++
丸の池ステージを無事に(?)駆け抜けた朝霞班。全行程終了後の洋朝です。おんぶしてるのが見たかっただけのヤツ。
ゲンゴローは本番に強いらしい。確かに緊張でひゃーってなるタイプでもなさそうだし、夏合宿の練習でも4班メンバーの厚意で多分ゲンゴローシフトが組まれてたと思うので、それもいい方向に働いたのかな
洋平ちゃんの活躍を素直に認めたくない朝霞Pである。もちろん洋平ちゃんはそれをわかってるんだけどもシカトされるのは嫌なのね。
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あれだけ賑やかだったのがまるで夢だったかのように静かになった公園。ヒグラシがカナカナと鳴いている。夕方6時、空はまだ明るい。だけど俺はまだ夢うつつ。
ステージも、その後の班長会議もすべてが終わって、朝霞クンは腰が抜けたようにすとんとベンチに座り込んだまま動かなくなってしまった。よくあるステージ後の気絶にも似た――ううん、今回は意識がある分まだいい。
「朝霞クン、まだ帰らない?」
「ん……帰ろうとは思ってる」
「立てる?」
朝霞クンはこのステージに向けてあらゆる物をなげうってきた。食事の時間も、睡眠時間も。授業の時間もだ。その反動で動けなくなってしまうのかもしれない。傍らには、レッドブルの缶。ステージは1日1時間、それが2日間。
それだけやれたことに対する充実感はある。俺はこれが終わってしまったことでどこかぽっかりとしてしまったような感情があって、余韻や感傷に浸りたいと思う。だけど朝霞クンの心はすでに次に向かっていることも、俺はわかっている。
「朝霞クン、帰ろう」
「ん」
帰ろうとは思っているのに、体の方がついてこないようだ。俺はそんな朝霞クンの前に背を向けてしゃがみ込む。成人男性とは言え今の朝霞クンはそこらの女の子よりちょっと重いくらいだと思うから。
「朝霞クン、乗って」
「いや、さすがにそこまでは」
「雄平さんみたいな安定感はないかもしれないけど。ずっとそこに座ってたら虫に食われちゃうし、日も暮れるよ。帰ろうとは思ってるんでしょ? 一緒に帰ろう」
肩から胸元に朝霞クンの腕がぶら下がってくる。その提案をを受け入れてくれるのだと。小さいよいしょの掛け声と同時に立ち上がる。ここから朝霞クンの部屋までは地下鉄6駅分。さすがにその距離をこの状態で歩くのはキツいから、最寄り駅まで。
背中での朝霞クンはまるでご飯を食べているときのように静かだ。俺が一方的に喋ってるのに対して、たまに「ん」と返事をしてくれる。だけど、時々首筋に朝霞クンの髪がさわさわ触れるから、ぐったりしているみたいだ。
「ねえ朝霞クン。俺たち4人、頑張ったよね」
「ん」
「つばちゃんのケーブル捌きも冴えてたし、何がビックリって、ゲンゴローって本番にすっごく強いんだね!」
「ん」
「ゲンゴローはまだまだ伸びるだろうし、今後が楽しみだね~」
「ん」
「俺、すっごく輝いてたでしょ? ……ねえ、朝霞クン。俺、ステージスターらしく輝いてたでしょ?」
この問いに対して朝霞クンは黙り込んだまま。それをシカトする判断力、つまり元気はある、と。
丸の池公園は地下鉄とJRの駅の目と鼻の先にある。そんなことを話している間に、もう地下鉄の駅の出入り口に着いてしまった。さすがにこの状態で階段を下るのはしんどいから、エレベーターのある出口を選んで。
「朝霞クン、地下鉄入るよ」
「……山口」
「なに?」
「ひと駅、歩かないか」
「もうエレベーター止めちゃったよ。朝霞クン、歩けるの?」
ステージの後遺症とだるさからか、少し掠れたか細い声。俺の肩からだらりと下がっていた両腕が、きゅっと胸元で輪を作る。このまま降りたくないという意志表示なのかな。
「まだもうちょっとしんどいの。でもひと駅歩きたい」
「ん」
「俺ともうちょっとお喋りしてたいんだね~」
「……ん」
「朝霞クンがデレてる! 今朝霞クンの顔見れないのすっごい残念なんだけど。あっ、エレベーターの中鏡あったよね確か! あイタっ。ちょっと朝霞クン、俺の上で暴れないで~。って言うかそれだけ元気なら実は歩けるデショ?」
無駄に止めてしまったエレベーターに背中を向け、地下鉄ひと駅分を歩き出す。元々家まで一緒に行く気ではいるけど、朝霞クンを背負ったまま歩くのがひと駅で済めばいいなあ。
「まあいいか。さ、歩こ~」
「ん」
「ナニ喋ろっか。今回のステージでの俺の活躍とかにする~? ……あの、シカトはやめて、さすがに傷つくよ」
「……調子に乗るなよ、自称ステージスター」
「う~ん、その声で耳元で言われるのも怖すぎるから勘弁してして~」
「ん」
end.
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丸の池ステージを無事に(?)駆け抜けた朝霞班。全行程終了後の洋朝です。おんぶしてるのが見たかっただけのヤツ。
ゲンゴローは本番に強いらしい。確かに緊張でひゃーってなるタイプでもなさそうだし、夏合宿の練習でも4班メンバーの厚意で多分ゲンゴローシフトが組まれてたと思うので、それもいい方向に働いたのかな
洋平ちゃんの活躍を素直に認めたくない朝霞Pである。もちろん洋平ちゃんはそれをわかってるんだけどもシカトされるのは嫌なのね。
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