2017(02)

■君を見ている

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 壇上では、日高班のステージが行われている真っ最中。ステージに所沢怜央というディレクターの仕事はなく、ひたすら名も無き影として朝霞さんを監視するという仕事を課せられています。
 部長は朝霞さんの存在がとにかく気に食わないようです。ここしばらく朝霞さんの様子を見ていましたが、何がそこまで気に食わないのか俺にはよくわかりません。でも仕事なのでやるだけです。
 朝霞班にも会場警備の仕事が課せられています。部長によれば、朝霞班にステージの準備をする時間を与えないためだとか。とにかく部長は朝霞班を挫きたいようです。俺にはよくわからないのですが。
 日高班のステージをやっている最中は、朝霞班に対する監視も緩くなっています。何故なら人員がステージに割かれるからです。ですが、朝霞さんへの監視だけは緩めるなという指示の下、俺はこうやって張り付いています。
 ステージの上では、俺がいつか切り貼りした覚えのある文言が飛び交っていました。通し練習などいつやっていたのかもわかりませんが、それなりに見られるステージにはなっているようです。
 背後に、人の気配。朝霞さんの動きを追うために、人気のない場所を選んでいるつもりです。ステージの音より蝉の声の方がよく聞こえる場所。……これは、明らかに俺が監視されていますね。

「誰か、いるんですか?」
「不審者の動きを把握して、部員を守るのが俺の仕事」

 この声は……あまり不用意に動くとまた身体を拘束されかねませんね。体格や力では圧倒的に不利だということは昨晩思い知らされていますから。

「心配しなくても、手は出しませんよ」
「何も、物理だけとは限らないよね」

 監視して得た情報を本丸に伝えて襲撃させる、とでも思われているのでしょうか。俺の仕事にさほど意味がないということは俺しか知らないのでしょう。
 すると、俺の背後にある影はぼそぼそと、何かを呟いているようです。振り返ることも出来ないまま、それに耳を傾けて。すると、日高班以外の人が知るはずもない文言で。
 後ろから呪文のように聞こえてくるのはまさに今日高班がやっているステージのセリフ。まるで、この人はこの後起こることも全てわかっていて、それを先回りするように唱えている。

「どうして日高班の台本を?」
「日高班の台本、ね」

 物陰に潜んでいる割には大袈裟な溜め息。わざとでしょうね。

「笑わせないでよ。この本、どこから持って来た? 部長が自分で書いた物じゃないね」
「この本は日高班が」
「書いたということになってるんだよね、対外的には」
「どういう意味でしょう?」
「原本は川口班の台本。違う?」
「何が言いたいのですか」
「これは、2年前に俺がやるはずだった本だよ。それが、こうやって表に出てる。不思議だね」

 つまり、この人には日高班のしていることがわかってしまっているのですね。日高班の台本を先読み出来る理由もわかりました。しかし、“やるはずだった”ということは、実際にはステージ上で披露されていないようですね。

「だからと言ってそれをどうこう言うこともしないけど」
「何故です?」
「2年前だよ。朝霞薫はとうにこのレベルを通り越してる」

 2年前の、朝霞さんがとうに通り過ぎた地点のレベルで満足なら好きにどうぞ。そう言いたげな語り口。今ならもっと高いレベルのことをやれるという自信でしょうか。

「とにかく。この会場には警備がいるって、わかってるよね」
「……また締め上げられたくはありませんから。動きませんよ」
「俺は君を見てる。君がこの“仕事”を続ける限り、どの闇に紛れようとも逃がさない」

 そう言って、その人は行ってしまいました。俺を見る人の気配はなくなったというのに、どこかに視線がまとわりついているような、そんな感じがするんです。
 言うなら、闇の中から出ずる者、ですね。それなのにこの人はステージに立つんですよね。光が強いほど影が濃くなるとは言いますが、逆もまたそうなのでしょうか。
 俺も、自分のやっていることの意味はわかっていませんし、強いてわかっていることがあるとするなら「決していいことではない」というくらいなのですが。きっと、この丸の池ステージが終わってからも俺は見られ続けるんでしょうね。


end.


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レオのターンです。レオはレオで流され続けた結果、また嫌な仕事をさせられているようです。
??さんが、それ以上動くならここでお前を殺すとでも言いそうな雰囲気。実際には動かないのが気持ち悪いと言うか怖いと言うかそんなヤツ
2年前のあの頃話に関しては短編の「壁にもたれて仰ぐ空」参照の事。

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