2019(03)

■ひとつの時代のオフショット

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「集まってみると、凄いメンバーなんだ! 違和感しかないんだ!」
「星羅。合流早々うるさいぞ」
「平気平気~。全員同じこと思ってるし~」

 適当なメンバー呼んでお鍋やるから来てね~と洋平から誘われ、会場として指定されていた朝霞のアパートに行ってみると、そうそうたるメンバーが集まっていた。一言で言えば、星ヶ丘放送部の班長会議に日高がいなくて洋平が混ざっているような感じ。魚里は都合でいないようだけど、その他の班長は皆揃っている。
 俺はIFサッカー部の活動の時に誘われたんだけど、他のメンバーはそれぞれ個別に洋平から声をかけられていたらしい。班長ばかりを狙って集めたのかという問いには、声をかけたのがたまたま班長ばかりだったという答えが返ってきた。台所には大根や白菜といった大量の冬野菜が置かれている。

「それで、またどうしてこんな変なメンバーで鍋大会なんて」
「メグちゃんの学部の友達がね~、野菜が余って食べられないって言って~」
「食べることを考えずに、作りたいからと言って作った野菜に圧迫されて大変なことになっているのよ。ごめんなさいね、こんなことに巻き込んで」
「いや、いいんじゃないか?」
「美味しく食べた方が野菜にとってもいいんだ! 旬の野菜は体が欲しがる栄養がたっぷりなんだ!」

 鍋の参加費は一人1000円で、鍋以外に飲み食いしたい物があれば各自持ち込んでくれというスタンスだそうだ。家主の朝霞や公共交通機関を使う宇部、それから鳴尾浜は朝霞の部屋に泊まるとかで酒を入れるようだ。一方、車を運転する星羅はノンアルで。
 だけど、俺は何を飲もう。何飲みたいを聞かれると即答出来ない。一応どっちにも対応出来るようにはしてあるし、朝霞の部屋からはコンビニもスーパーもそこそこ近い。必要になれば買いに行くつもりだったけど。ソフトドリンクと酒、どっちにしようか。

「泰稚、帰りのことなら心配いらないんだ。ボクが運転するんだ」
「あ、そしたらビールをもらおうかな」
「了解」
「は~い、大根たっぷり鶏団子鍋で~す」
「凄いんだ! みぞれ鍋って言うんだ?」

 洋平が運んできたのは、まるで店で出てくるような鍋。中心には大根おろしの山が築かれていている。これは大根の消費のためだろう。カセットコンロにセットして、小さめの火を入れると、ぐつぐつと美味しそうな音を立て、匂いでも食欲をかき立てる。そうか、洋平が作ってるなら店で見るような鍋にもなるな、居酒屋バイトなんだから。

「おろしもまだまだあるからね~」
「よくそれだけおろしたんだ」
「腕が疲れたでしょう?」
「両利きの使いどころって、こういうトコだと思うんだよね~、でしょでしょ~」
「クソッ、こんな時ばっかり人をいいように使いやがって」
「ああ、朝霞がおろしたのね」
「右手でも左手でも作業効率が落ちないのは凄いんだ! でも、朝霞は両利きなんだ? 左利きだと思ってたんだ!」
「厳密には両利きだな。左メインに使ってるけど」
「珍しいんだ!」

 台所の奥から姿を現した朝霞は、腕まくりをして露わになった腕をかばうようにさすっている。いくら両利きで、片方の腕が疲れたらもう一方にスイッチ出来るといえ大根おろしという重労働はしんどいだろう。

「そしたら朝霞クン、乾杯する?」
「そうだな。宇部、音頭を取ってくれ」
「はあ!? どうして私になるのよ。そこは家主のあなたじゃないの?」
「このメンツならお前だろ」
「どうしてよ、意味が分からないわ」
「俺がやる方がもっと意味がわからないだろ」
「なんか~、このままだったら堂々巡りだし~、間をとってシゲトラ、お願~い」
「よっしゃ! 世界のシゲトラが音頭を取るぜ! はい! みんな1年お疲れさんでした! いろいろあったけど死人が出なくて良かったな! じゃ、来年もよろしくー、かんぱーい!」

 死人が出なくてよかったって。鳴尾浜の音頭には総ツッコミが入ったものの、割と真面目に死人が出てもおかしくなかったのが俺たちの代の放送部だ。それはさておき来年もよろしくということで乾杯をしてグラスを重ね合い、鍋をよそっていただきます。

「泰稚、お野菜いっぱいなんだ!」
「ありがとう」
「菅野お前野菜好きなの?」
「あ、うん。サラダとか結構好きだし、温野菜も結構食べる」
「へー、そーなんだ! 俺は野菜より肉の方が好きだな!」
「まあ、お前の器を見てるとよくわかるよ」
「シゲトラの器はお団子ばっかりなんだ」
「はい、朝霞。熱いから気をつけるのよ」
「宇部、お前なあ。俺は子供じゃねーんだぞ」
「泣く子も黙る猫舌が何を強がってるの」
「ぐっ…! まあ、サンキュ。ふーっ、ふーっ……ぅあっちぃ! 早かったか…!」
「だから言ったじゃない。はい、水よ」
「すんません……」
「宇部Pと朝霞はツーカーなんだ?」
「確かに、阿吽の呼吸と言うか」
「でも、猫舌の朝霞がかわいいんだ!」

 これまで部活で置かれていた立場とかそんな物を関係なしに、こうして同じ鍋をつつくことなんて想像も出来なかった。だけどいざ実現してみると、一種のあっけなさと言うか、こんなもんかって思う。もちろん部を引退したからこそ実現したことだろうけど、現役の時にこんな風に出来ていたらまた少し違っていたかもしれない。

「はい朝霞クン、冷ます用の器」
「悪い山口」
「冷ます用の器?」
「ご覧の通り朝霞クンは猫舌だから、次に食べるのをあらかじめよそっておいて、冷ましとかなきゃ悲惨なことになるでしょ~? それに、朝霞クンって何気に量を食べるからネ。食べるペースのこともあるし。あっ、星羅ちゃん食べてる~?」
「食べてるんだ! ボクは食べるペースがみんなよりちょっとゆっくりなんだ!」
「――ってことらしいから、シゲトラ、あんまりがっつき過ぎないでよ~?」
「何で俺がそんながっつくみたいな扱いにされてんだ!」
「え~? だって、鶏団子ばっかりこんもり盛ってるジャな~い」
「……そりゃお前、野菜よりは肉食べたくね?」
「心配いらないんだ! シゲトラと泰稚でお団子と野菜のバランスは取れると思うんだ!」
「いや、星羅? 俺も団子は食べたいんだけどな…?」
「鶏団子もたくさん用意してるけど、みんなに程良く行き渡るように食べてよね~」

 そう言って洋平はバットに山盛りにされた鶏団子を見せてくれるけど、この団子の山に朝霞が「疲れたな」と大きな溜め息を。もしやこれも朝霞が丸めさせられたのか。

「しかしまあ、明日はクリスマスイブだっつーのに俺は部活の忘年会くらいしか用事がないって! 菅野と星羅は見せつけて来やがるしよー!」
「鳴尾浜、その前に普通に授業だろ。テスト前になって俺に集って来んなよ」
「朝霞様あああ! そこを何とか! とりあえずこれまでのノート明日もらっていい!?」
「は~いダメダメシゲトラ~、朝霞クンは明日朝から俺とお泊まりデートだから向島にはいませ~ん、残念でした~!」
「変な表現すんな山口!」
「ボクたちの上を行くんだ! 泰稚、ボクたちもお泊まりするんだ?」
「星羅、張り合おうとしない」
「知ってるんだ! 泰稚はライブに向けた練習で忙しいんだ!」


end.


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わちゃわちゃ。ただわちゃわちゃの星ヶ丘お鍋回です。やりたかったからやった。後悔はしていない。平和とは戦争と戦争の間を言うのである。
スガセラがただただかわいいし、あさめぐもこの時間軸ではまだ何でもないのに夫婦感が強すぎる件。負けるなやまよ!
……と思ったら最後に割って入ってきたのでさすがです。それもお泊まりデートとかいう表現よ。お前16年度やまよかもしや

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