2019(03)

■料理道の原点

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「よう伏見。こないだのジャガイモのお礼。良かったら食ってくれ」
「わ、みかんだ! えっ、こんなにいっぱいいいの?」
「実家から送ってきたんだ。でももう年末で実家に帰るだろ。絶対ダメになるじゃんな。お前ん家で食い切れなさそうだったら大石にお裾分けするなり何なりしてくれ」
「わー、ありがとう」

 こないだ、ちーがくれたジャガイモを使って朝霞クンにご飯を差し入れたら、ジャガイモがいっぱいあるならジャガイモもあったら嬉しいということだったので、ジャガイモもちーから分けてもらったんだよね。話せば長くなるみたいだけど、星大ではジャガイモを引き取ることが人助けになるところがあるとかないとかって。
 ちーがさらにもらってきたジャガイモを朝霞クンに差し入れ。ジャガイモは結構長い間保存出来るし、たくさんあっても実家に帰ってても大丈夫。洗ってラップにくるんでチンで蒸かし芋に出来るから食べやすいんだよね。朝霞クン、あんまり料理が得意じゃないみたいだし簡単で美味しいのが一番って。

「でも、何でみかん?」
「実家が山羽だからな」
「あっそっか。みかん処! そう言えば前にくれたおみやげもみかんロールだったよね」
「冬だし、やっぱみかん食べたいだろ。こたつにお茶とみかん。最高じゃねーか」
「食べたいねえ。って言うか、みかんって早く食べないと腐っちゃうし、何か出来ればいいんだけどなあ」
「冷凍すればよくないか? 冷凍みかんも普通に美味いだろ」
「そっか。でも、みかんのデザートも考えたいなあ」

 そのまま食べるのも楽だし美味しいけど、やっぱりいろいろアレンジして美味しくしたいなあ。あたしは料理も好きだしお菓子作りも好きだから、いろいろ考えたくなっちゃう。でも、みかんだから、あの薄皮をどうするか考えなきゃね、缶詰みかんみたいにつるつるにするのか、皮も生かすのか。
 重曹を使って煮たら皮はむけるから、そこまで大変じゃないんだけどね。どうしようかな。やろうと思えば割と何でも出来ちゃうかな。ムースかな、コンポートかな、寒天かな。タルトなんかもいいよね。ケーキにしても美味しそう。帰ったらいろいろ調べちゃお。来週のいつまで授業だっけ。

「朝霞クン、みかんで何か作ったら食べてくれる?」
「食べる食べる」
「よーし、張り切って作っちゃうね!」
「でも、本当にすごいな伏見」
「何が?」
「みかんなんかそのまま食うしか考えられないもんな、俺は。それをわざわざ加工するっていう考えが凄い。考えるだけじゃなくて実際にやっちまうもんな。料理は昔からやってたのか?」
「そうだね、昔から。それこそ小学校とかそれくらいから普通にやってたよ。ちーの家におかず持ってったりとか。最初の頃はうちのお母さんが作ったのを持ってくだけだったんだけど、中学校くらいからはあたしが自分で作ってて。あんまりちーがおいしいおいしいって言って食べちゃうから、あたし単純だしもっと美味しいの作んなきゃって思って練習してさ」

 おじさんとおばさんが亡くなってからはハルちゃんが昼夜問わず働くようになったから、ちーも自分でいろいろ出来るようにならなきゃって料理クラブに入って料理の練習をしたりしてたけど、それでも始めてすぐに難しいことは出来ないし。ちーには難しいようなおかずを作ってたな、あたしは。
 それから、体が大きくなってくる頃だから栄養のことも気遣って。それでなくてもちーはいっぱい食べる上に、水泳部だから食べることも体作りの一環で~みたいな感じ。中学生の男の子が自分で組み立てる献立のバランスは、みんながみんなじゃないだろうけどちーのそれは茶色かったなあ。

「大石の存在がお前の料理道の原点か」
「料理道って言えるほど大層なものじゃないけどね」
「でも、少なくとも大石の両親が亡くなる前から続けて今も趣味なら、人生の半分以上続いてるってことだろ。立派にお前の歩んできた道だよ」
「そうかな」
「しかも、お前のそれは自分が生きるためと言うよりは人を思ってやってることだろ。食うことは生きるためには絶対必要で、最悪食えればどんな形でもいいんだよ」
「そうだね。朝霞クンは忙しいとゼリーで済ませちゃうけどね」
「うるせえ。だけど、それをわざわざ手間暇かけて、それも人のために、どうすれば喜んでもらえるかを考えながらやるのはなかなか出来ることじゃない。何かしらの情が必要だ。まあ、なんだ。お前の優しさが表現されてるんだろうな」

 そんな風に考えたことなんかなかったけど、確かにあたしが今21だから、確かに人生の半分以上の期間で料理はしてるんだよね。生きなきゃいけないから必然的にやらざるを得なかったっていうパターンじゃなくて、あたし自身がやりたくて始めた趣味でもあるもんね。

「朝霞クン、あたしみかんで何か作ってくるから! さすがに明日はちょっと厳しいけど、次一緒の授業いつだっけ」
「あ、悪い。俺24、25泊まりで旅行することになってるからさ」
「えー!? イブじゃん! まさかデート!? 彼女!?」
「いや、彼女ではないけど」
「一緒に行くの女の子!? 男の子!? てか授業サボって旅行するの!?」
「普通に男だよ。まあ、そうワケなんで、ちょっと~……いない授業のノートなど、後日助けていただけると。ちなみに23は普通に来ます」
「もー!」


end.


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唐突にみかんです。確か前~に朝霞Pからみかんのお裾分けを受けたであろう人たちサイドの話があったので、お裾分けPサイドを。
ふしみんだったらみかんを使っていろいろ美味しくしてくれるかなあと思いました。お菓子ジャンルだったらいち氏といい勝負よ
で、今年度はかなりサイレントですが洋朝のお出かけの話もしれ~っと進んでたみたいですね。

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